Wiiで空戦アクション「スカイ・クロラ(仮)」〜 制作はエースコンバットチーム

WiiSports、WiiFit、マリオ&ソニックと体感操作が受けているWii。一方で、従来のゲームの延長ではスマブラは根強い人気を誇っているものの、マリギャラゼルダなどは本体普及の勢いほどは伸びておらず、まだまだ新規開拓の必要性があるジャンルとなっています。任天堂的にも、元々WiiやDSのコンセプトは「新規顧客を取り込み、従来ゲーム層も増やす」ことを意識しており、実用・知育系での取り込みに合わせて「新規でも手軽にプレイできる従来ゲーム」をいろいろアピールしているところ、という感じでしょうか。

そんな任天堂の取り組みに対し、これまではサードは「PSゲームを単に体感にしただけ」とか「WiiSportsもどき」といった安易な企画に基づくソフトが多かったのですが、これらの売れ行きが振るわないこともあり、サードのWiiソフト開発も岐路に立たされているところです。そんな中、バンナムから、一つ新しいゲームが発表されました。

バンダイナムコ、Wii「スカイ・クロラ(仮)」2008年秋発売。映画「スカイ・クロラ」を題材としたフライトシューティング

開発は「エースコンバット」チーム

まず、興味を惹くのはその開発チーム。どうやら、これまでエースコンバットを制作してきたチームが取り組んでいるようです。バンナムというと、「ファミリースキー」にリッジレーサーチームを投入、ライト向けのソフトながらゲーマーにもなかなか高い評価を受けており、口コミもあってか任天堂ハードのサードソフトには珍しく毎週の売り上げが安定して伸びていく、好調な売れ行きを見せています。今回、Wii向けの飛行機シューティングにエースコンバットチームというバンナムの主力開発チームを投入したというのも、このファミリースキーの例と同様、バンナムの気合いの入れようが現れているという感じですね。

また、これにより噂されていたエースコンバット6のPS3移植やエースコンバット新作の発売は、少なくともしばらくは無くなったと言えるでしょう。このスカイ・クロラは2008年秋の発売ですから、まだ半年ぐらいは開発がかかりそうですからね。その後すぐに移植or新作に取りかかったとしても1年はかかるでしょうから、次のエースコンバットは2009年以降になりそうです。(もっとも、AC6移植を外注等に任せるのならもう少し短期間で出来るかもしれませんが、その場合はクオリティが心配ですね。ただでさえXbox360PS3の移植はハード性質の違いから難しそうなので。)

Wiiでのゲーム作り

PS3Xbox360に比べたらグラフィックなどの点での開発コストは少ないWiiですが、だからといって安易な企画で外注中心に作って大ヒットするほど甘いハードではありません。500万台売れていると言っても、従来のPSゲーマーの人が占める割合はそれほどは多くないことは、Wiiでの従来型ソフトの売れ行きを見ても感じ取れます。

一方で、DS同様確実に「Wiiユーザー」というのは多数存在しているんですよね。せっかく「据置ゲームに無関心」から「据置ゲーム機に触れるようになった」というところまで移行した消費者が多数いるのに、これをそのまま逃すようではゲーム業界の発展は見込めません。バンナム的にも、こうした層を以下に自社の顧客とするかを、真剣に考えているということでしょう。

Wiiのユーザー向けにゲームを作る上では、これまでの顧客とどのような点が違うかを分析する必要。PS2時代に横行した続編ゲーム商法であれば、当然プレイヤーも「何が面白いか」「どうプレイするのか」を知っているわけで、開発する側も比較的創造力は必要としませんでしたが、Wiiの場合は顧客も変わることから、また一から価値観を構築する必要がありますからね。

こうした「新しい顧客」向けのチューニングをやるには、それなりにゲームデザインに精通した人が必要となるでしょう。任天堂宮本茂氏が元々そうしたことに長けた人で、その指導の元で部下の能力も上がっており、ここのチームレベルでもそうした取り組みが行われていることはHPのインタビューなどでも見て取れます。一方、サードでどこまでそういった取り組みが行われているのか、外からではうかがい知ることはできないのですが、今回バンナムリッジレーサーチームに引き続いてエースコンバットチームをWiiの新作ゲームに充ててきたというところを見ると、やはり細かいチューニング・デザインといったところには、社内のコアチームのノウハウに期待するところがあるのではないでしょうか。

映画とのタイアップ〜押井守氏も乗り気?

Wiiでゲームを売るためには、そもそも「顧客が興味を示すもの」をテーマにすることから始める必要があります。今回はそれを映画とのタイアップという形で行うようですね。これが正しいのかどうかは分からないのですが、従来ゲームに関心の薄い人にアピールする手段としては、一つの方法ではあるでしょう。

映画「スカイ・クロラ」は監督が押井守、原作が森博嗣という豪華タッグ。押井守氏は自分は劇場版パトレイバーが印象深いですね。森博嗣氏については、「すべてがFになる」をはじめとする犀川&萌絵シリーズは当時熱中して読んでいました。どちらも、独特のセンスを持つ方ですよね。映画の方もちょっと楽しみです。

押井守氏とエースコンバットチームの加藤氏のインタビューが週刊ファミ通に掲載されており、ウェブ上でも映像として公開されています。

押井 守監督の最新劇場映画『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』がWiiで登場 『スカイ・クロラ(仮題)』【映像インタビューつき】 / ファミ通.com

インタビュー記事や映像を見ていて感じたのは、押井守氏が結構乗り気な感じでゲームについて話していたことですね。「コントローラにボタンが3つ以上あるとだめ」という発言もありましたが、これは自分の親にゲームを差せていたときにも痛感したことです。AとBですら混乱するんですよね。また、操作はヌンチャクを操縦桿に見立ててやるように見えますが、押井氏的には結構うまく操縦できていたようで、これはバンナムの加藤氏の方が手応えを感じていたようですね。

続編偏重主義からの脱却を目指して

今回の、こうしたバンナムの取り組みは、一つは「続編偏重主義からの脱却」というものがあるように思います。このあたりは、鵜之澤氏がインタビューでも述べていますよね。

正直、これまでみんな楽をしてきたと思います。PSからPS2になったときに開発が難しくなったから、多くのメーカーが続編の制作をメーンとしてしまった。続編を作って売れば、売れるという状況が続いていましたからね。それで、考えることをやめてしまった。

 あの時はそれでも良かった。でも、続編というのは本当の意味で“開発している”とは言い難いですよね。それをやりすぎた結果、大きな変化に対して、どう変わるべきかわからないという状況に陥ってしまったんじゃないかな。
『ガンダム』『リッジレーサー』に加わる新作の開発強化 2009年に向けた絵を描くバンダイナムコ【前編】 - 日経トレンディネット

たしかに、PS2時代は固定顧客がどっさりいましたし、消費者も続編を希望し、制作者側も従来の延長で開発できました。双方のニーズがマッチしてビジネスが成り立っていたわけですね。ただ、これは逆に言えば「閉じた空間」を生んでしまっていたようにも思います。PS3Xbox360というHDゲーム機では開発費の高騰に対して対象ユーザー数は減るという矛盾が生まれてしまい、固定顧客だけを相手にする続編ビジネスは破綻しかけています。少なくとも、続編であっても新規顧客を獲得しないことにはペイできないんですよね。

しかし、5とか6とか数字が付いているタイトルを新規顧客が手軽に手を出せるかというと、それもなかなか難しいでしょう。FFのようにストーリーに関連性のないものならまだいいが、「前作のおなじみキャラが登場!」とかやられると新規は引いてしまうところがありますよね。数字が小さいうちはまだ「前作が大ヒット」という文句で消費者の関心を惹けるとは思いますが、限度があると思います。映画でも、4以上の数字が付いているタイトルなどごくわずかで、結局、大きな数字があふれているこれまでの状況が特殊だったんですよね。

日本国内において続編で顧客を増やすのが難しいから、最近は海外での展開も意識してマルチ展開などを進めているわけですが、これはこれで文化の違いもありますし、国内固定客を手放す危険もあり、なかなか難しいところもあります。結局のところ、顧客が増えない限りは産業としての発展は無い訳なので、新規顧客をすでに連れてきているWii&DSでさらにゲームを売り込むか、もしくはHDゲーム機で新規顧客を発掘できるようの画期的ソフトを出していく他無いわけです。

長期的な視点でプラスとできるか

おそらく、短期のビジネス的な観点だけならば、エースコンバットチームを続編や移植などに回さず、新規顧客開拓という分野に回すことは一時的にはマイナスになるでしょう。続編商法はなんだかんだ言って健在ですし、全くの新規顧客に新規ゲームを売るよりは、売上が計算しやすいですしね。ただ、上記で述べたように同じ事の繰り返しだけでは、待っているのは緩やかな死。どこかで誰かが一歩踏み出さなければならないわけです。

今回、バンナムは「据置ゲーム機で従来ゲームをやる客層を増やすこと」に積極的な姿勢を見せています。とりあえず、Wiiに向けた投資が、どの程度の成果を上げられるか、ですね。新規客層だけに、まず認知度を上げる努力から徹底する必要があるでしょう。映画の力がどの程度生かせるか、ですね。あとは、口コミで広まるだけのゲームの出来に仕上げられるかどうか。なかなかハードルは高そうです。とはいえ、任天堂だけに任せていても、サードソフトが売れるようになるとは限りませんからね。

また、できればWiiだけでなく、PS3Xbox360でも単なる続編でない、全く新規の斬新なタイトルが国内サードから出てきて欲しいところです。ゲーム産業を失速させないためにも、目先のビジネスだけにこだわるのでなく、業界全体としての層を拡大できるようなキラータイトル開発を期待したいものです。