久夛良木氏の語るPS3でのビジネス戦略

後藤氏による久夛良木氏へのインタビュー第2弾公開されています。
ビジネスモデルを変革するためのPS3の価格戦略〜SCEI 久夛良木健氏インタビュー(2) - 後藤弘茂のWeekly海外ニュース
前回のインタビューでは、PS3のハードウェアアーキテクチャについて、久夛良木氏なりのビジョンを語っており、納得できるかどうかは別として、自分なりにPS3の仕組みというか、位置づけを何となく理解できたつもりでした。
しかし、今回のインタビュー、これはめちゃくちゃです。主にPS3のソフト面での話だったのですが、これがもう、いい加減、ハッタリ、嘘、誇張、勘違いのオンパレード。やはりこの人は根っからのハード屋で、それ以外のことを語る能力は無いみたいです。


PS3はロイヤリティフリー?
このインタビューの中で、久夛良木氏はあたかも「PS3はハードウェアでもうける」、という話し方をしています。ロイヤリティでもうけるやり方は古い、という感じです。しかし、この発言はこれまでに漏れ伝わっている話とはずいぶん話が違います。そもそも、PS3の6万、7万円という価格ですら、大きく赤字なんじゃないかと予想されていたわけです。実際に、久夛良木氏自身が「安すぎたかも」とか言っているわけで。この状態でロイヤリティフリーにしたんじゃ、いったいどこで稼ぐのか検討つきません。

まあ、おそらくこの発言はハッタリというか、長期的な理想にすぎないのでしょう。ロイヤリティは依然として存在するでしょうし、PS3自体も初期は赤字。ただ、最終的にPS3が爆発的に売れて普及してしまえば、量産効果、チップの改善などにより超すとが軽減し、利益を生み出せる環境になるのだ、という願望でしょう。これまでよりも付加価値をつけて高い値段設定をする分、コスト削減がすすめばハードの利益は大きくなる、それが久夛良木氏の思惑なんだと思います。

しかし、だったらそうちゃんと口で語らなきゃ。このインタビューに出てる発言だけじゃ、ただ単に矛盾したコメント、妄想にすぎません。とても企業のトップの発言とは思えませんね。


○自分と近いのはApple
さらに問題になりそうな発言が以下のもの。

久夛良木氏】 ジョブズ氏(Steve Jobs氏。CEO, Apple Computer)が、(PS3に)Appleのロゴをつければ、(ユーザーは)2,000 ドルでもいいと言うと思う。でも、PLAYSTATIONブランドでは、それはできない。それが、PLAYSTATIONブランドとAppleブランドの、コンピュータにおける差でしょう。でも、PS3PLAYSTATIONブランドであるがゆえに、PLAYSTATIONとして売れると思う。

あれー、いきなりAppleブランドへの敗北宣言です。仮にもブランド価値で食っているソニー子会社のトップが、こんな発言しちゃっていいんでしょうかね?前は、普通に「PS3は20万円でも売れる」とか言っていたのに、「PSブランドはまだコンピュータとしては価値が弱いから」といって発売前から言い訳しているところは、誠に見苦しい。
その割に、PLAYSTATIONというブランドにやたら自信満々なのも意味不明。「エンターテイメントコンピュータの代名詞がPLAYSTATIONになる」とか。結論ありきでそれに対する手段が不明なのは、単なる妄想ですので。
さらにむかつくのが、節々で「Appleと自分の考えは一緒」みたいな発言をしているところ。

「面白いのは、Appleジョブズ氏も同じことを言っていたこと。」
Appleのすごかった時期がそうだった。」
「直接ビジョンが近いのはAppleだね」

これ見たら、アップル信者は絶対怒りますよね。おまえと一緒にされたくねぇよ、と。Appleはセンスの良さとそれを自ら体現していくことで、非常にコアなファンを獲得しながらiPodiTMSで一般的にも大ブレイクした訳です。昔のソニーはたしかにそれと似たようなものはありましたが、PSでは正直ハードはパクリ、ソフトは放りっぱなし状態。現在のAppleとは全く違います。むしろ、独創的なアイデアを語り、自らがまず示してみせるというApple的なやりかたを意識し、実際に体現してきたのは任天堂のほうと言えるでしょう。DSLiteとかWiiとかのデザインは露骨にApple的ですし、社長もMac使っていたりしますからね。それなのに、いきなり久夛良木氏が知ったような顔して「俺Appleだから」みたいな顔で話されても、はぁ?って感じです。
この久夛良木氏の勘違い発言を聞いて、自分は思わずあずまんが大王の谷崎ゆかり先生を思い浮かべちゃいましたよ。体育のサッカーの授業に関係ないのにもぐれこみ、いきなり脈絡もなく「あたし中田だから」と言い放つその不遜さ、厚顔無恥さ。それと似たようなものを、久夛良木氏の発言に感じてしまいました。(ちなみにこの話の中では、ゆかり先生はオウンゴールを決めて得意満面になっていたりしますけどw。)

ともかく、コンピュータ開発者としてApple黎明期から見ているからと言って、知ったような顔してAppleと一緒みたく語るな、ってことです。


○ソフトは天才が勝手に作る
そして極めつけは、具体的なソフトについて。もう、これが他力本願と希望的感想のオンパレード。自分たちはハードについてやるのが精一杯だが、ソフトは世の中の天才が勝手に作ってくれるという発想のようです。それが一番現れているのが以下の発言でしょうか。

久夛良木氏】 (プログラミングが)難しいと言われると「よーし」という気になるだろうし、本当に才能があると見えちゃうんだろうね。

なに、この服飾人が裸の王様に言うような発言。「バカには分かりませんよ?」と言えば、世のプログラマーが「いや、自分は分かるよ、うん」と強がって飛びついてくれるとでも思っているのでしょうか?それとも、PS3があまりにすばらしいハードウェアだから、世の中の優秀なプログラマーはみなPS3にとびついてくるとでも思っているのでしょうか?

こうした、自作プログラムの話について、久夛良木氏はすごく引っかかる発言もしています。

久夛良木氏】 PSPが1つの例になる。日本では、任天堂さんのDSの世界が好調で、PSPは中途半端。だけど、アメリカやヨーロッパでは、PSPはコンピュータの世界に入っちゃっているから、草の根で何でも出てくる。

えーと、PSPっていつから自作ソフト解禁されていたんでしたっけ?ファームアップしてそういった穴はつぶしていったんじゃなかっけ?そもそも、PSPで盛り上がっているソフトと言えば、エミュレータとかハックとか自作ゲームです。そういった行為をつぶすために、ファームアップしてそういった行為が出来ないようにしたんじゃなかったんですかね。
何かまるでこの発言は、「エミュでも18禁ゲームでも、ユーザが作る分には自由」「だってコンピュータなんだから」「自分たちが作るわけではないから問題ない」と言っているように見て取れます。そんなアングラな世界まで、一緒にリビングに持ってくる気なんでしょうか、この人は。PS3自体はBD必須にしてコピープロテクトがちがちにしているわりに、他のプラットホームについては全然ケアしていない感じ。内心では、「Wiiバーチャルコンソールなど、PS3ならエミュレータがすぐに出てきて対抗できる」とでも思っているんですかね。そんな状態になってもソフトメーカーには一切お金は入らないので、いい迷惑だと思うのですが。


○まとめ
正直、ビジネス関連、ソフト関連の話は本当にめちゃくちゃでしたね。このインタビューの中で後藤氏が「PCの黎明期に近い」という言葉を使っていますが、それが非常によく当てはまる感じ。
ようするに、久夛良木氏はソニーでの研究者時代に失敗したスーパーコンピュータの夢を、PS2と同じ思考を使ってなんとかかなえようとしているようにしか見えないんですよね。いわば、「過去の失敗例」を「過去の成功パターン」を使って成功させているというか。どこにも「現在」が無いんですよね。自分の理想を、自分のやり方でただ貫いているだけ。男らしいと言えば男らしいですが、失敗から、成功からなにも学ばないという点では愚かなことです。
なまじPS2で大成功してしまったために、こういった久夛良木氏の暴走を止められる人物はだれもいなかったんでしょうね。逆にBDとかネットワーク配信とか、ソニー本社自体がPSに寄りかかっているような状態でしたし。暴走した久夛良木氏を船頭にしてソニーそのものを乗せて出向しようとするPS3という巨艦。その行き着く先はいったいどこなんでしょうかね。