一時代の終焉〜SCE久夛良木健氏退陣

PS2で圧倒的な市場支配力を示したプレイステーションワールド。そのPSWを良くも悪くも象徴する人物が、なんと言っても久夛良木健氏でしょう。

ゲーム業界に多大なる影響を与えた人物ですが、昨年12月の人事でSCE社長から会長へと役割を変え(記事)、この度さらに名誉会長ということで、実質の退陣となることになりました。

プレスリリース
SCEI、久夛良木健氏が6月19日付で取締役を退任。平井一夫氏が代表取締役社長兼グループCEOに就任
SCE:久多良木会長が名誉会長に “PSの父”が一線退く−ゲーム:MSN毎日インタラクティブ
ソニー久夛良木健 氏 取締役を退任、SCEI名誉会長へ - Engadget Japanese

正直、自分は久夛良木氏が好きではないのですが、こうして完全に一線を引いてしまい、あの数々の電波発言が聞かれなくなるかと、ちょっと寂しいものがありますね。

以下、簡単にプレイステーションの変遷、久夛良木氏の歴史を振り返ってみたいと思います。

プレイステーションの輝かしい栄光

ファミコンスーパーファミコンで築かれたゲーム業界における任天堂独裁体制。そんな中、高い3D能力と一般人層を引きつけるソフトラインナップで打ち破ったのがPSでした。同時期に出てバーチャハンターで好調だったセガサターンでしたが、「行くぜ!100万台!」や効果的なCM、パラパラッパーやどこでも一緒など、ライト層でも遊べるゲームを多数展開するなど巧みな戦略で支持を伸ばし、最終的にはスクエニ任天堂陣営から奪うことで一気に勝利を確定しました。(メガドラセガサターンと変遷した自分としてはまた歯がゆい思いをしたものですw。)

そして、その好調を引き継いで発進したPS2は、久夛良木氏の舌がもっとも効果的に機能した時。彼の語る、果てしない夢物語が、多くの人に「本当にそうなる」という期待を抱かせ、人気上昇中のDVDの効果もあって、PS2は発売直後に圧倒的な売れ行きを見せました。(そのころには自分は敗北を認めていたのでw、PS2パワプロ7が出てすぐ購入していましたね。)

ケチのつき始めたPSX

さて、そんな負け知らずだった久夛良木氏ですが、ソニー副社長として実権を握れるような立場になったあたりからソニー側のAV要求もかねて製品展開するようになり、徐々におかしくなってきました。ケチの付き初めはPSXでしょうか。
HDD&DVDレコーダーの風雲児!「PSX」 / デジタルARENA
PS2の機能を持ち、当時は10万越えが当たり前だったHDD・DVDレコーダにおいて8万円を切る価格で大容量HDDを搭載し、大きく注目された製品でした。ただ、その分同業他社の対抗意識もすさまじく、PSX発売頃には各社どんどん低価格化、挙げ句の果てには同じソニーからもスゴ録を低価格で発売されて、市場もろともグダグダにさせる原因を作った機種でもありました。

DSとの同時期対決で「負けハード」になったPSP

そして、次にケチがついたのはPSP。据置王者のPS2の流れをくみ、すでに蹴落としていた任天堂の最後の牙城、携帯ゲーム機市場をも奪い去ろうと攻撃をしかけた意欲的なマシンでしたが、今や日本を代表する優秀な経営者である岩田社長の率いる任天堂の猛烈な反撃に遭い返り討ちになりました。序盤の不良騒動の時に飛び出した「それがPSPの仕様だ」が、決定的に久夛良木氏へのマイナス印象を与えてしまったことも大きかったと思います。

こうしたPSPの苦戦で、PSXでケチがつき始めたPSに「負けハード」というレッテルがついてしまったように思います。実際には、PSP自体は本体はよく売れていますし、先日のMHP2がミリオンセラーになるほど、そこまで言うほど負けハードでは無かったりするのですが、同時期に出されて相対評価されてしまうDSがあまりに売れすぎたために、圧倒的に負けてしまっているように映るんですよね。


P.S.
このあたりの苦悩については、ソニー側からもコメントされていたりしますね。

「ソニーはDSを倒せないし、その気もない」―アナリスト - Nintendo iNSIDE

まあ、PSP発売前にSCE佐伯氏が「DSとの棲み分けは考えていない。シェア0%の状態から奪うだけ。50%になるのか80%になるか分からないが」と発言していたので、今更何言っているんだという人も多いでしょうけど。

名言 - 佐伯

逆境の中船出し苦戦するPS3

ソニーブランド」、「勝ち組」というのが大きな追い風となっていたPSとしては、PSXPSPの二つによるイメージ低下は、かなりきついものがあったでしょう。それに加えて、ネットメディア・ブログの普及で「生産出荷台数」などSCEが多用していたはったりのからくりが見破られてしまったことも、少なからず消費者に「だまされた感」を与えてしまったように思います。この手のハッタリは、勝ち組側しか大目に見てもらえないものなんですよね。

こうした要素が、本来圧倒的有利な立場にいた据置機でも状況を変えてしまいました。ただでさえ、DSの大成功で「スペックだけじゃだめ」という風潮が出ていたときに、CellやBDといったスペック至上でソニーのエゴも加わったものを載せ、ゲーム機としては無理のある価格設定をしてPS3を出してしまった訳なんだから、苦戦するのも仕方ないですよね。とはいえ、CellやBDを載せることを決めたときには、ここまでDS旋風が吹き荒れるとはSCEには予想できなかったんでしょうけどね。あと、開発コストがかかりすぎたのも計算外だったのではないでしょうか。

ただ、そんな状態で「安すぎたかも」発言なども火に油を注いでしまった感じはしますね。久夛良木氏の強烈な個性が負の方向に出てしまった例でしょう。ソフトも本体台数もそろっていない状態での急いだ船出も、結果的にマイナスに働いているように思います。

Xbox360ハイデフで大苦戦している状態に、SCEは何か感じることが出来なかったんでしょうかね。「PS3ならブランドあるから売れる」ともし考えていたのなら、それは甘い考えだった、ということでしょう。

久夛良木後」のSCEの戦略はいかに?

もちろん、PS3は苦戦が続いているとはいえ、まだ敗北したわけではありません。だからこそ、この時期にSCEも矢継ぎ早に手を打ってきたのでしょう。サードが様子見している現状では、とにかくファーストであるSCEが頑張るしかありません。現状ではまだまだ手詰まり感があるので、今後はもっと抜本的な方針変換なども見せてくるかも知れませんね。
とはいえ、久夛良木氏は、良くも悪くも強烈なカリスマを持っていた人物でした。彼ほどのリーダーシップを持って、強烈に会社を引っ張っていく力が、後継者にあるかどうか。抜本的対策が打てないようだと、これまでの投資額を回収していくだけの、いわゆる撤退戦に終始してしまう危険性もあります。劣勢を挽回するのか、それともこのまま退いてしまうのか。まずは今年一年がSCEの正念場でしょうね。