「プレステ3はなぜ失敗したのか?」新書で発売 〜 自分なりの考察も

据置ゲーム機戦争で、日本では2番手につけながら世界的には苦戦しているPS3WiiXbox360もそれぞれ穴はあるので、PS3の敗北が決定したわけではないのですが、やはり前世代のPS2が圧倒的勝者で今回も大本命視されていただけに、「失敗している」という印象がどうしても持たれてしまっていますよね。

すでにPS3の苦戦の理由などは2chやブログなどでもいろいろ語られていますし、自分も何度も取り上げています。また、マスコミの記事としても、ゲーム業界でメシを食っているファミ通などはダイレクトな批判が出来ずできるかぎり擁護の記事が多いですが、日経とかで、特にゲーム宣伝記事などを手がけていない記者とかだと、結構辛辣な批判が出ていたりもします。

PS3失敗というタイトルの本〜著者は多根清史

そんな中、そのものズバリのタイトルの新書が発売されたようです。

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プレステ3はなぜ失敗したのか? (晋遊舎ブラック新書 002)

プレステ3はなぜ失敗したのか? (晋遊舎ブラック新書 002)

まあ、この手の煽りタイトルの本は、状況が不利な側に対してよく出てきますよね。Googleで検索したところでは、やまねこ書店さんのブログで内容に少し触れられてます。

家に帰ってきたら、妻が『プレステ3はなぜ失敗したのか?』(多根清史晋遊舎)を買ってきて読んでいた。
読ませてもらったらこれがまたムチャクチャ面白い。
著者の多根さんは『超クソゲー』で「クソゲーハンター」として活躍していたライターさん。その切れ味鋭く笑いを忘れぬゲーム批評は以前から大好きだったのですけれども、この本ではその分析眼は「ソニー」という企業そのものに及んでいきます。頁ごとに「そうそうそうなんだよね!」&「そうかそうだったのか!」と、首が上下にガクガク。見事な一冊。おすすめです。
やまねこ書店 - やまねこの日記 : 統一感のない読書ですが・・・

やはり、PS3失敗ネタだけで207ページも書くのは無理があるので、様々なソニーネタをからめた内容になっているようですね。著者の多根清史氏のブログもあるようですが、2年前で更新は停止しているようです。

SIZUMA DRIVE

はてなキーワードによれば、『CONTINUE』の編集デスクだった人だったみたいですね。自分は見たことがありませんが、読者にはおなじみな方なのかもしれませんね。

多根清史とは - はてなダイアリー

自分の考える「PS3苦戦の理由」

自分も個人のブログのネタとしてはよく取り上げるのですが、本という形にまでなってしまうと、購入するのにはちょっと抵抗感があります(ネタがネタだけに、かさぶた。さんあたりでとりあげられるかもしれませんが)。ですので、自分がこの本を読んだわけではないですが、以下で『自分なりの』PS3苦戦理由を考察してみたいと思います。(※注意 今回紹介した本の内容とは直接は関係ありません。あくまで自分の考察ですので誤解なさらないようお願いします。

自分の考えるPS3苦戦の理由については、昨日のエントリである程度まとめているつもりです。以下その部分を転載しておきます。

PS3は、圧倒的勝者だったPS2の後継として多大な期待を受けて発売されましたが、CellとBDという新しいテクノロジー、そして久夛良木氏のスーパーコンピュータによるコンピュータエンタテイメントの進化という高い理想を詰め込みすぎた印象があります。ゲーム機として圧勝することが前提のシナリオで、それ以降のソニーの利益につながる技術を載せた感じですよね。

しかし、そのためにコストが上昇、発売や生産の遅れなども生じ、完勝前提だったゲーム分野での立ち位置がすっかり怪しくなってしまいました。ゲームにおける性能競争ではXbox360と、和製ゲームや斬新さではWiiと、両面からの強い攻勢をうけて、当初あった「ゲームでの圧倒的影響力を生かした高性能汎用コンピュータの普及」という大目標以前の問題になってしまった感じなんですよね。

ソニーもE3での価格発表の段階から苦戦の空気を感じ取っていたため、発売前に異例の値下げ、その後も久夛良木氏からソフト重視の平井氏に社長交代と、一気にゲーム機よりの戦略にシフトさせました。しかし、元々が高度なコンピュータエンターテイメントを目指してとがった製品設計だったため、汎用的グラフィック性能や開発しやすさではXbox360に苦戦、価格面ではWiiに完敗という、なんとも中途半端な状態になっているんですよね。

わぱのつれづれ日記 - マルチ展開も視野?!〜 FF13はクロスプラットホーム対応エンジン上で開発

結局、久夛良木氏が昔から抱えていた「コンピュータエンタテイメント」の概念に対して、PS1とPS2の成功体験により過剰に舵を切りすぎたという感じでしょうか。スーパーコンピュータの分野で目がなかなか芽が出なかった久夛良木氏のビジョンがプレイステーションというゲーム機という形で大成功、PS2ではソニー的なDVDも加えることでこれも大成功しました。これにより、ただのゲーム機ではなく、久夛良木氏のスーパーコンピュータ思想、そしてソニーデジタル家電思想をより成功させる材料として、PS3が使われてしまった感じですよね。特に、PS2では苦戦するソニー本体を支えるほどの大成功を生んだだけに、より一層「ゲーム以外」へのシフトが強まってしまった感じはします。このあたりは、新清士氏のコラムでも書かれていますよね

久多良木氏退任では解決できない「成功体験」の恐ろしさ デジタル家電&エンタメ-新清士のゲームスクランブル:IT-PLUS

こうして過去の成功体験からより「ゲーム以外」に比重を高めて開発したために、任天堂やMSの攻勢で足下をすくわれている感じです。久夛良木氏に「ゲーム機じゃない」、「ゲームはトリガーにすぎない」とかPS2以降度々言われたら、PS2ユーザーの中にもむかつく人が出ても当然でしょう。

もっとも、PS2を発売してすぐPS3は開発し始めたでしょうし、あの当時に自分たちの圧勝のシナリオ以外を想像しろという方が難しいかもしれませんが。よりAVへのシフトを見せたPSXでの空振りのところで、PS3についても見直しができていればよかったんでしょうけどね。携帯ゲーム機市場をも奪いに行って返り討ちにあったPSPの段階では、時期的にすでに修正不能だった感じもしますので。

PS3の今後の戦略についての展望

現在は平井氏に社長が代わりに、逆に極端にPS1的アプローチに戻そうとしていますが、その割にはPS3にはゲーム機以外の贅肉が多く、割高になっているのがネックな感じです。せめてPS3販売前の昨年E3ぐらいで平井氏が社長になっていれば、すこしは違ったのかもしれないんですけどね。すでにPS3は船出してしまった以上、ゲーム機として売るには、ゲーム機以外の機能によるコスト上昇分を上回るだけの価値を、ゲームで見せなければなりません。それは、相当大変な作業でしょうね。

ともかく、任天堂が今やっているように、マスコミを使ったイメージ戦略ももっと積極的に行う必要があるでしょうね。元々ソニーが得意としている手法なわけですから、そこはなんとか頑張ってほしいところ。Wiiなんて、「広告費も考慮して本体価格を設定」と岩田社長が言っているぐらいですしね。PS3が6万という価格でも逆ざや=赤字で、なかなか値下げ出来ない以上、「6万でも買う価値がある」と思う人を大量に生み出さなければいけないわけですから、相当多方面の消費者を引き込めるだけの魅力アピールが必要な訳です。価格差を埋めるだけの価値観を消費者に与えるには、ここまで劣勢になると正直「演出」をうまくやらないとどうしようもないでしょう。ゲーマー向けにとにかく有力タイトルを確保し、東京ゲームショウで「勝ち組」っぽいイメージを見せるのも一つの手でしょうが、PS2で獲得したゲーマー全部を今から再度集め直すのは相当困難でしょうから、新規客層を獲得していく必要もあるでしょう。

もっとも、稚拙な「だまし」だと、今のネット時代では逆効果になりかねませんけどね。中身もないのに、やらせブログとかで煽っても、さすがに見抜かれてしまいますし。できればPS3の性能を生かした斬新な技術を、インパクトある宣伝であおり立てるという形が理想でしょう。任天堂のタッチペンやモーションセンサーも、技術単独では枯れた技術ですが、「家庭用エンターテイメント」という枠内では十分に「斬新」なものでインパクトがありましたからね。今のところで言えばカメラを使った「PLAYSTATION Eye」がそれにあたるのですが、できればもう2,3個、PS3ならではの技術+ゲームが欲しいところですね。

「あると便利」でなく「ぜひとも欲しい」と思えるアピールを

現状のPS3ではゲーム機としてはXbox360Wiiとの明確な差別化ができておらず、ゲーム以外の部分についてもまだ「あるといろいろできる」程度で、「ぜひともほしい」というところまで行けていないように思います。AV機能に関しては麻倉氏が「20万の価値がある」とか言っており、魅力は発揮できてはいますが、何分この手の価値を見いだしてPS3を買うような層はPS3のビジネスモデルを成り立たせられるほどの数は存在しませんからね。もっとマスなターゲットに売っていかないとPS3としての商売はできないわけで、いかにして客層の拡大と抱え込みを行っていくかが、至上命題となってくるでしょう。

WiiXbox360にも隙はいろいろあると思いますので、その辺をうまくつきながら巻き返すことができるかどうか。とりあえず今年度の戦い方に注目です。


P.S.
作者の多根清史さんのブログが更新されているようです。
SIZUMA DRIVE: 『プレステ3はなぜ失敗したのか』、(ほぼ)増刷決定!
見たことなくてすみませんw。なんか、アマゾンでは最大6位まで行っていたみたいで、すでに品切れになっている模様。ただ、増刷も決まっているみたいですね。思った以上に、こうした批判本でも売れるものなんですね。

あと、かさぶた。さんのところでもこの本がらみでエントリが公開されています。(ネタを無理に押しつけてしまった形になってすみませんでした。)
かさぶた。 やはり1年戦争だった 『プレステ3はなぜ失敗したのか?』