久夛良木氏退任劇の裏側〜本田雅一氏の代弁

昨日の深夜、突如発表された久夛良木氏の退任劇。第一報は各種マスコミが報じましたが、そのほとんどはプレスリリースの内容そのままでした。
それから一夜明けて、徐々に今回の退任の分析めいた文章も出てきましたが、その中でも特に熱い記事が以下のもの。

SCE久夛良木CEO退任がもたらすもの - 本田雅一の「週刊モバイル通信」

今回は、この本田氏の記事についてコメントしてみたいと思います。

ソニー関連は親身になって熱く語るライター:本田雅一

昨晩の騒動を受けて速攻で熱い記事を出してきたのは、本田雅一氏。PCWatchやITmediaなどの主要なメディアで多数の読み応えのある記事を提供することで有名な記者です。

本田雅一の「週刊モバイル通信」バックナンバー
ITmedia AnchorDesk:本田雅一 執筆記事一覧

一方でその取り扱うジャンルの関係か、ソニーに対しては並々ならぬ情熱を抱いているようで、ソニーの立場にたって親身になった熱いコメントを出すことが一部で知られています。

そんな中でも、今回の記事はいつになく感情的な熱い内容ですね。PCWatchという大衆向け・普遍的立場であるメディアにおける記事でありながら、記事の節々からソニーという会社、久夛良木氏への愛情にあふれ、親身になってソニーの心配をしながらコメントしている様は、なかなか壮絶なものがあります。よくぞまあ、ここまでふっきれたものだな、という感じですね。まるで個人ブログの一エントリーのようです。

PS3バッシングへの牽制

まず、これからネットで巻き起こるであろうPS3バッシングへの釘を刺しています。

今回の久夛良木氏退任ニュースに関連して、おそらく次のような記事やネット上での憶測が流れることだろう。

「昨年(2006年)12月人事からの既定路線。ソニーの経営立て直しに関連して、ストリンガー会長があまりに技術に傾倒しすぎて足下の経営を見ずSCE内部でも浮いていた久夛良木氏を切ったのだ。負け規格のPS3もこれでオシマイ。負担の大きい負けゲーム規格を整理する第一ステップ。まずは象徴的な存在である久夛良木氏に詰め腹を切らせた」

自分の昨日の記事も、PS3がもうおしまいとは言ってませんが、退陣は既定路線だろうという論調は同じでしたね。ネットでの反応も、大体似たような感じかと思います。

これに対して本田氏は、「しかし、ソニー久夛良木氏を切ることが、本当にあるのだろうか?」として、久夛良木氏退任がソニー側の意向でないことを、ソニーの代弁者として熱く語っています。『ソニー久夛良木を切った=PS3終了』というレッテルが貼られてしまうのを、全力を持って阻止しようとする意志に満ちあふれています。

ゲーム業界批判による久夛良木氏擁護

しかし「ソニー悪くない!」という主張から「悪いのは勝手にやめた久夛良木氏!」となるかというと、そうでもありません。本田氏の批判の矛先は、ゲーム業界の構造の歪みにまで飛躍していきます。

しかし、その内容は「ゲーム開発に金がかかるようになり、現実ばかり見て『楽しい製品』を作りづらくなった」というもの。そういったゲーム業界の歪みが、久夛良木氏のモチベーションを低下させたのだ、としているわけです。

本田氏的には、久夛良木氏の退任を擁護しているつもりなのかもしれませんが、そもそもそのゲーム開発費用高騰を招いたのは一体誰でしょう?次世代機の中で、もっとも大変なハードを出してしまったのは誰でしょう?そして、そうした問題にいち早く立ち向かい、結果的に成功を収めている任天堂には全く触れず、「ゲーム業界が悪い」という論調で擁護記事を展開する本田氏には、ちょっとあきれてしまうものがありますね。

目利き力のある人間が欠ける事への影響

最後は、ソニー経営陣において久夛良木氏は技術の分かる優秀な人物だったとし、それを惜しむ論調でしめています。たしかに、これはあるかも知れませんね。技術の目利きができて経営にまで関われる人って、これだけ大きい会社だとあまりいないかも知れませんので。ただ、逆を言えば目利きはあるけど無茶な経営方針を立てしまう可能性もあるわけで、そのあたりのバランスは難しいところでしょうね。

ブログでも久夛良木氏に対するコメントを掲載

以上、本田氏のPCWacthの記事を見てきたわけですが、本田氏は別途ITmediaにある自身のブログ形式のサイトでもコメントを出しています。

SCE久夛良木さんがSCE役員を退任 - パースペクティブ・アイ [ITmedia オルタナティブ・ブログ]

「通常の記事では書かない個人的印象を述べる」という書き出しですが、むしろPCWatchの記事よりも客観的に見てる気がするのはきのせいでしょうか。こちらでは、久夛良木氏の人柄のフォローとして、分かりにくいけど実はいいことを言っている、といった内容が語られています。「また、最近ではマスコミを遠ざけていたことも触れられていますね。マスコミがつまらないことばかり聞いてくるというのは、ファミ通の浜村氏も言っていたことですよね。一般マスコミは短絡的な質問、記事が多いというのは自分も思うところで、実際答える側としては、勝手におもしろおかしく加工して使われることに腹立たしく感じていたのでしょう。

特に、敗者の側に立ったときほど、マスコミの追求は厳しい感じはしますね。強きをくじき、弱き大衆が悦に入って支持、というのがどうしてもマスコミ全般の構造的にありますので。任天堂の岩田社長なんかも、敗者側だったGCの時に、自分のコメントが全て悪い方に誇張されて報道され苦しみ、現在のようにマスコミを介してコメントを出すのではなく、自社のサイトで長文のコメント、インタビューを積極的に公開するようにしているわけですしね。浜村氏や久夛良木氏も、今回そういう立場に立たされた、と言うことなんでしょう。

その他の人物の分析記事にも注目

以上、本田氏の記事を見てきましたが、今後出てくるであろう他の人物の分析にも注目があつまるところですね。本田氏が先に釘をさしておいたような「久夛良木氏クビ、PS3終了」という厳しい論調になるのか、それとも各自いろいろひねった論調をしてくるのか。はたして、どうなりますことやら。