好調さと課題の浮かび上がる任天堂決算報告

先日の久夛良木氏退任で衝撃の走ったゲーム業界ですが、一方で過去最高の業績を納めている任天堂の決算報告も行われました。

任天堂株式会社、平成19年3月期決算説明会を開催
ITmedia +D Games:ニンテンドーDSによる業界の“パラダイムシフト”が起きている――任天堂決算説明会 (1/3)
決算報告書

岩田社長からの報告部分は、以下のページでスライド付き動画を見ることもできます。

http://www.irwebcasting.com/070427/14/e661ac7967/main/index_hi.htm

以下、上記の岩田社長発表や質疑応答の記事について触れながらコメントしてみたいと思います。

常識外れの好調が続く業績

業績についての説明は、正直桁外れ、常識外のレベルで、聞いていてもピンと来ないぐらいの好調っぷりですね。DS関連は度重なる業績予測の修正を行ったのにもかかわらず、年明けの需要低下時期でも好調さが失われなかったために予想を上回る実績になっています。これまで売り上げが年末商戦に偏っていたのが、既発ソフトのリピート出荷が好調なことで、年間を通して非常にフラットな営業利益になっているのが印象深いです。

Wiiは本体は目標600万台に届かず。これは、年度末出荷予定だった本体が間に合わなかったことが影響している模様。ソフトの売り上げは予想を大幅に上回っていますが、これは「予測には本体同梱ソフトを入れていなかったが、実績にはいれた」ということなので、単純に欧米で同梱しているWiiSportsの分のようです。

変化を続ける世界のゲーム人口

岩田社長の発表では毎度おなじみのゲーム人口拡大も、実を結んできたことを大きくアピールしています。欧州で脳トレで初めて購入した人が増え、その中の80%は次のゲームも買うとクラブニンテンドーで答えていること。買うかも、を含めると実に97%となるようです。
欧州では、他にも脳トレの伸び方、nintendogsの売れ行きなどが非常に大きいのも特徴的ですね。2005年間ソフト売り上げでは任天堂プラットホームソフトはほとんど無かったのに、ここ最近急激に伸びを見せているところも面白いです。もっともPSが強かった市場を、徐々に奪いつつある感じですね。もっともPSが強かったイギリスでも任天堂のソフトのランクインが増え始め、元々任天堂の強かったフランスでも、日本のような拡大の仕方を見せています。
あとは、Wiiもとくに北米での受けがいいようですね。「最強のパーティゲーム」と岩田社長が友人から聞いたとのことですが、たしかに家の広く、パーティをしょっちゅう行う北米の方に非常にマッチしたマシンなのかもしれませんね。

具体的に示されたWiiのネット接続率

あまりネット接続率が高くないのではと思われていたWii。その数字が今回の決算報告で紹介されています。ネット接続率は約40%。本体が約584万台売っていることからすると、233万台ぐらいはネットにつないでいることになりますね。そして、バーチャルコンソールでの有償ダウンロードも全世界で330万ダウンロード。ネットにつないでいる台数にたいして1台あたり約1.4本は有償ソフトを購入していることになります。
これは、メチャクチャすごい、と言えるほどの率では無いかもしれませんが、Wii無線LANしか搭載せず、有線LANが有料であること、そしてWiiのターゲットとなる広い年齢層ではネット接続関係の設定が難しいことなどを考慮すると、かなり頑張っている数字じゃないかと思いますね。

しばらく続くWiiのゲーム不足

さて、上記までは主に岩田社長の発表を元に見てきたわけですが、今回も質疑応答がかなり充実していた模様で、なかなか興味深い話が多数行われています。GAMEWatchの記事の後半と、ITmediaの記事の3ページ目が詳しいですね。

ITmedia +D Games:ニンテンドーDSによる業界の“パラダイムシフト”が起きている――任天堂決算説明会 (3/3)

つっこみの内容としては、結構鋭い内容もでていますね。まず上げられるのはWiiのソフト不足。「Wiiの軸となるソフトが出ていないのでは?」という質問されています。たしかに春はGCからの移植のスーパーペーパーマリオ、DSからの移植に近いやわらかあたま塾程度で、これといったタイトルがありません。まだWiiSportsが強力なキラーとして存在しているとはいえ、ちょっと厳しい状態ではあります。

これについては岩田社長も認めるところで、「経営者としては春に出したかった」とのこと。ヘルスパックも秋にずれ込んでしまったようです。ただ、こうした物に対して、「中途半端は避ける意味合いもあり、開発の時間をいただいている」との返答をしています。この辺の姿勢が、「任天堂は悠長にかまえすぎでは?」と非難されるところでもあるんでしょうけど、まあやはりDSでこれだけ成功して余裕があるところが、こうした判断を許しているのでしょう。

せっぱ詰まってしまうと、PS3のように発売予定のものを体験版に切り替えて無理矢理出したり、PS2相当の画質のものを単に高解像度化しただけで出すなど、その場しのぎのコマ増やし的な戦略になってしまいますからね。遅れずに開発するのがもっともいいことは当たり前なのですが、それがうまくできなかった場合にどのように判断を下すのか。この辺が経営者の判断にかかっているんでしょうね。とにかく出して刹那的なハード・ソフトの収入を求めるのか、それとも長期的に見て時間はかかっても質の高い物を出すのか。

Wiiについても、現状45タイトルを任天堂が開発中と言うことで、この中の多くが十分な質を持って今後登場してくるのでしょう。問題は、その間にサードが質を重視せずソフトを濫発することですね。サードはどこも経営が苦しいので、どうしても目先の利益に走りがちです。このため、Wii任天堂が質を高めたソフト作りしている間にも、サードがとりあえず作ってみました的なソフトを繰り出す可能性はあるんですよね。そういったソフトを買ったユーザが「Wiiってつまらない」と思って離れてしまうことは、任天堂にとってもきついことでしょう。

そうしたことを考えると、任天堂もそうは悠長に構えていられないとは思うんですけどね。他の陣営に限らず、任天堂自身も質とスピードの両立が課題であると思われます。

意外とシビアな「販売スペース」問題

他にも、販売スペースの問題も結構問題になっているようです。なまじDSは過去の有名タイトルがじわ売れする傾向があるため、新作が出たからと言っても売れ筋旧作の販売スペースをすぐに減らすこともできません。このため、新作が旧作に埋もれてしまい、思わぬ苦戦をすることがあることが、各種ゲーム店員ブログなどでコメントされています。
実際、自分がDSの売り場とか行っても、本当に多種多様のソフトがあるんですよね。この中から、自分が面白いと思うようなソフトを店頭だけで見つけるのはかなり大変な気がします。やはり、新作平積みの中から探すのがメインかと思うのですが、ここから漏れてしまうと売れないとなると、現状のじわ売れラインナップのスペース逼迫が問題になりそうですよね。新作はやはり一定のスペースを確保し、じわ売れタイトルは週替わりで注目ソフト群を変えて展示スペースをダイナミックに変えるなどの対策が必要かも知れませんね。店員が大変そうですが。

空前の大成功を次につなげることが至上命題

以上、ざっと内容に触れてきましたが、他にもいろいろ話されているので、機会があった触れてみたいと思います。とにかく、昨年度は任天堂はこれまでに無いほどの大成功を収めました。しかし、ゲーム人口は広がったとはいえ、これまでのディープなゲーマーと違って、ライトなゲーム層は非常に移ろいやすく、持続するにはかなりの努力が必要でしょう。特に、タチジェネの続編は大苦戦しているものが結構出てきています。ゲーマーは似たようなジャンルでもキャラとストーリーだけ変えれば盲目的に買ってくれるところもあり、ある意味読みやすいですが、ライト層だと二番煎じについての反応は非常にシビアになります。
ニンテンドーDS発売の頃から自分は言っていましたが、任天堂の戦略の肝は「いかに一般層に夢を見させ続けられるか」だと思っています。つまり、「ああ、こんなものか」と冷められてしまってはダメなんですよね。DSでは、矢継ぎ早にいろいろと異なるジャンル、目線のソフトをガンガン出せたので、実際そうした新鮮な感覚を常に消費者にアピールできました。しかし、DSでも実用ジャンルでだんだん使い回しが出てきており、Wiiでも従来の任天堂ゲームの延長が目立ちます。徐々に、新鮮さが失われつつあると思うんですよね。
任天堂の究極の目標は、ライトゲーマーをコアゲーマー化し、従来ゲームのようなものを一般層にもガンガン売っていく、と言うところだと思いますが、まだまだそのレベルには言っていないでしょう。「新鮮で、かつライトユーザーをコア化できるほどはまれるゲーム」という、非常に難しい作品を提供する必要があるわけで、任天堂を含めたゲームメーカーは今後、さらに難しいチャレンジが求められると思います。ゲーム業界が衰退しないよう、開発者の方々には頑張って頂きたい物です。