新型PS2投入に見る SCEの「三本柱」戦略

PS1、PS2据置ゲーム機で栄華を極めたSCE。しかし、PSXでケチがつき始め、任天堂最後の砦であった携帯ゲーム機市場を奪いに行ったPSPニンテンドーDSに返り討ちに合い、そのDSの異常なまでの盛り上がりを背景に据置ゲーム機までWiiに席巻されるなど、現在は非常に苦しい状態にあります。先日の中間決算の際も、ソニー本体のエレクトロニクスでの利益をゲーム機の赤字で全てはき出してしまうなど、戦略商品という位置づけながら、株主からも強い突き上げを食らっている状態です。

ただ、久夛良木氏が退任した後、SCEAでゲーム中心にならした平井氏が社長就任してからは、かなり思い切った施策がとられているように思います。久夛良木氏が言っていた「ゲーム機じゃない」「スーパーコンピュータ」といった、ある意味ゲーマーを馬鹿にしたような発言とは逆に、平井氏はとにかく「PS3はゲーム機」「オリジナルPS」という言葉を使ってゲーム部分に注力して戦略を打って出ていますよね。

そんなSCEが、先日はPS2互換性を無くした4万円を切る新型PS3を発表、各所で賛否両論様々な論争を呼びましたが、それに対する回答と言うべきか、本日新型PS2の発表がされました。

SCE、プレイステーション 2に軽量/電源内蔵の新モデル
PlayStation.com(Japan) | お知らせ | 「プレイステーション 2」 新デザインで登場 2007年11月22日(木)より(SCPH-90000シリーズ)発売

電源を内蔵しトータルでさらに軽量化〜値段は据え置き

今回発表されたPS2「SCH-90000」の特徴は、これまで外出しだったAC電源を本体に内蔵したこと。これにより、本体の重量は600gから720gへと微増しています。ただ、前のAC電源が250gあったわけで、一応トータルでは130g軽くなっている感じですね。自分はACアダプタなどはラックの裏とかに入れてしまう方なのであまり気にしない方ですが、電源内蔵の方がデザイン的にすっきりするのは確かでしょう。また、持ち運びにも便利ですから、どこか旅行行ったときに持って行く、なんてことも出来るかもしれませんね。(もっとも、DSとPSPがこれだけ売れている昨今では、わざわざ据置ゲーム機を持ち運ぶ必要もないかもしれませんが。電源やTV接続はどうしても有線ですし。)

薄型PS2は、SCH-75000発表当時は鉄拳5などの有名タイトルで、同じPS2なのに動かないという互換性の問題を抱えていました。ただ、SCH-77000以降はPS2主要タイトルは改善されているようです。

PlayStation.com(Japan) | お知らせ | 「プレイステーション 2」(SCPH-75000シリーズ以降のモデル)における「プレイステーション」および「プレイステーション 2」規格ソフトウェアの互換性についてのお知らせ

一方で、値段は意外なことに据え置き。てっきり1万円前後の価格で出してくるかと思ったのですが、値下げはしてきませんでしたね。縦置き用のスタンドも1500円と有料。本体が部品削減による軽量化&電源内蔵でさらに製造コストは削減されているであろうことを考えると、明らかに利益率はよくなっていそうな新型PS2です。

このように、利益率の高いPS2を、この年末商戦にあわせて投入してきたところを見ると、SCEの現在取っている戦略がよく分かってくるように思います。以下では、その部分について自分なりの考察を記すことにします。

PS2PS3PSPの三本柱体制に

まず、先日のPS3からのPS2互換の削除、そして今回のPS2新型投入から分かることは、PS3PS2、各々独立した柱として販売していこうというSCEの意図です。当初、PS3からPS2互換性を取ったのは逆ざやのひどいPS3の製造コストの引き下げが第一目標かと思われましたが、後にSCEAのトレットン氏により、むしろPS3ソフト販売促進が目的であると語られました。

SCEAトレットン氏「PS3からPS2互換機能を取ったのはもっとPS3ソフトを買ってもらうため」 - わぱのつれづれ日記

たしかに、PS3は先期のソニーゲーム事業赤字の最大要因となるほどひどい逆ざや。今回の新型PS3も、まだ完全には逆ざやが解消されていないといった趣旨の発言が大根田氏によってされています。もちろん、4万円を切る戦略的価格づけで本体拡販も狙ってはいるでしょうが、切望しているのはPS3ソフト売上の増加でしょう。本体を逆ざやで売っても商売が成り立つのは、ソフト販売によるライセンス収入があるからな訳で、一番重要なのはソフトを数多く売ることなのですから。

ファミ通の浜村氏が先日開催したセミナーで、以下のような発言をしていました。

プレイステーション3の本当のスゴサを実感するにはハイビジョンテレビの存在が不可欠であり、まずはハイビジョンテレビが家庭に普及するのを待たなければならないからだ。「プレイステーション3が本領を発揮するのは家庭にハイビジョンテレビが行き渡りはじめる2009年から2010年にかけてではないか」(浜村)という。海外ではいまだにプレイステーション2が大人気で、欧米でXbox 360の販売台数が少し落ち始めているという事実も、いま焦ってプレイステーション3を普及させる必要がないという戦略の正当性を後押ししている。
エンターブレインの浜村社長がセミナー“2007年秋季 ゲーム産業の現状と展望”を開催 / ファミ通.com

このあたりの発言は、今見てもつっこみどころ満載な感じはするのですけど、「今焦ってPS3を普及させる必要がないという戦略」という彼の言葉自体は、ある意味SCEの戦略を正しく表現しているのかもしれませんね(彼の考えた理由はさておき)。

本体製造コストが大きく、ソフト開発もなかなか進んでいないPS3はとりあえず新型PS3で耐え、一方で現在もPS3以上の売り上げで好調に推移し、すでに本体製造コストも十分下がっているPS2で当面の利益を確保する、これが現在のSCEの戦略のように思えます。実際、シャレにならないほどの赤字を抑えるには、これ以外の解もない気はするんですよね。ごく短期間でPS3のソフトを大量にリリースできるわけもないでしょうし、製造コスト削減ももう少しかかるでしょう。一方で赤字幅は減らさなければ行けない訳なので、目先の利益が必要になりますからね。

PSPも軽くなったPSPを投入し、以前よりはだいぶ好調に推移してきています。高利益率の新型PS2に、PS2互換を切り捨てて割り切ったPS3、そして新型PSPと、はっきり色の異なる3つの機種を出すことで、いわゆる「三本柱」の戦略をとってきた形ですよね。もともと「三本柱」というと、任天堂がDSを発表したときに「DSは第三の柱である」として、GCGBA・DSという三本柱構想を示していました。

【任天堂】宮本氏「nintendo DS」と新作『ゼルダ』を語る!/ゲーム情報ポータル:ジーパラドットコム

結果的には現状はシンプルなDS・Wiiの二本柱になっているわけですが、奇しくも今度はSCEの方がPS3PS2PSPという三本柱体制を取ってきた感じがします。

Wii VS PS2」「Xbox360 VS PS3」「DS VS PSP」の全方位抗争に

SCEの三つの機種の立ち位置は、比較的明確です。PS3はHDゲーム対応のハイエンド、PS2はSDゲーム対応でソフトラインナップも豊富なミドルエンド、そしてPSPが携帯ゲーム機としてのローエンドですね。まあ、ミドルとローは価格的には逆になりますが。

この3機種は、それぞれ対抗する機種が定まっている感があります。まず、HDゲーム機としてPS3Xbox360と対決。そして、SDゲーム機としてPS2Wiiに対抗する形です。PSPはそのものズバリ携帯ゲームのDSですね。三本柱各々が、過酷な戦いに望むことになるわけです。

これまではPS3がライトからヘビーまでカバーするゲーム機という印象でしたが、結局そこにBDやCellなども色々載せた結果、ライト向けには高すぎ、ヘビー向けにもゲームが作りにくくてソフトがそろわないと、逆に中途半端な立ち位置になっていました。それが、今回PS3からPS2互換が切り離されたことで、ある意味明確にXbox360にターゲットを絞り、HDゲーム市場を奪いに行く感じになります。世界的にはXbox360が優勢ですが、日本ではブランドイメージもあってPS3が圧勝状態。Xbox360もバリューパックで多少は弾みはつきましたが、11/11のPS3値下げもあるだけに、国内ではまだまだ有利な展開が出来そうですよね。あとは、市場がでかい北米にどう食い込むかが課題ですが。

また、Wiiに対するPS2というのも、自分は非常にいい手のように感じます。実際、日本ではPS2Wiiとのマルチタイトルがいろいろ発売されており、そのほとんどがPS2の圧勝。週間ランキングでもPS2のソフトが上位に食い込むことがありますし、まだまだ現役なんですよね。もっとも、ギャルゲやガンダムなどジャンルに偏りはあり、縮小傾向なのは間違いないですが、PS2からWiiという、SDゲームからSDゲームへの移行というものに抵抗感を持つゲーマーも結構な数いることでしょう。そうしたユーザーをとりあえず逃がさない意味で、PS2にもう少し力を注ぐのは悪くない戦略のように思います。なんと言っても、本体普及率と過去のラインナップの豊富さは桁違いですので。(まあ、結果的にSCE自らがHDゲームへの移行を阻む形になってしまい、Wiiが一部コアゲーマーから受けているような批判をSCEも受けてしまうかもしれませんが。)

あと、DSに対するPSPですが、こちらも「DSで満足できない人向け携帯機」という意味でそれなりに存在感を持ってきたようには思います。PSPぐらいのグラフィックがあれば十分というライトゲーマーもいるでしょうし、中高生では持ち寄ってプレイできることはメリット大きいですからね。今回さらに新色ディープレッドを投入で、話題の提供も積極的ですし。

ITmedia +D Games:PSP新色「ディープ・レッド」数量限定発売

ただ、いかんせんサードがDSにシフトしていて、ラインナップやソフト売上の偏りなどの問題があるのはつらいところではありますが。

全勝か全敗か、過酷な戦いは続く

以上、SCEの戦略について「三本柱」という視点で考察してみましたが、こうした方策が吉と出るか凶と出るかはこれからの各々の直接対決次第ですね。SCEの強みをうまく配分して戦いに望んでいるところはあるとは思いますが、いかんせん相手も強敵揃い。全勝する可能性がある一方で、全敗してしまう可能性すらあります。そうなったら、さすがに終戦になってしまいますからね。

また、今回の戦略によって「PS2PS3」というパスを切ってしまったことも、この先を考えるとなかなか苦しいところです。PS2Wiiの販売を抑えることが出来たとしても、その間にPS3が十分に売上を伸ばしてソフトを充実させなければ、PS2にとどまっていたユーザーをXbox360任天堂のHDゲーム機などに奪われてしまう可能性がありますからね。結局、各々のレンジにおいて、SCEは大敗は許されない状態だと思います。

大胆な戦略、そしてリストラで勝負に打って出たSCE。果たして数年後、ゲーム業界はどうなっていますか。