キーパーソンの発言から見る 3大次世代ゲーム機の現状と展望

縮小されたとはいえ注目度抜群のE3が開催され、ゲーム業界の各種関係者の講演やインタビューなどもここ数日活発に行われています。そんな中、次世代ゲーム機でしのぎを削る3社、任天堂SCEマイクロソフトからいくつか興味深い発言が出ているので、それを取り上げながら各陣営の状況を見ていきたいと思います。

Wiiはすでに黒字化」by 任天堂 岩田氏

まずは好調な任天堂から。PS3が北米で100ドル値下げした件についてインタビューを受けて、岩田聡社長がコメントしています。

ソニーの「PS3」値下げ、影響はほとんどない=任天堂 | Reuters

このインタビューで興味深いのは「Wiiのハードウェア事業がすでに黒字化した」ということですね。元々、Wiiのハード自体GCベースでシュリンクしたものであり、発売前から岩田社長が「若干赤ぐらい」というコメントをしていました。Wiiの場合、追加でのリモコンの売れ行きも好調ですので、量産効果とそのあたりの周辺機器の売り上げが黒字化につながったんでしょうかね?Xbox360PS3が赤字覚悟の戦略で苦しんでいる中、黒字ハードで圧倒的勢いというのは、他の陣営はやってられない感じでしょうね。


他に任天堂関係のコメントというと、宮本茂氏のラウンドテーブルの記事でしょうか。

ITmedia +D Games:今回の「マリオ」では長年の研究成果が結実している――宮本茂氏編

中でも、宮本氏のラウンドテーブルでは注目度の高いWii Fitについて色々質問を受けており、その答えも興味深いですね。WiiバランスボードはE3が初公開ながら、開発自体は医療機関とやっていたと言うこと。やはり、「あるある」問題があった分、あまり根拠のない健康器具を出してもダメだという意識があったんでしょうね。この辺については、以下のエントリで過去に自分の考えを述べています。

わぱのつれづれ日記 - 「あるある捏造問題」がゲームに与える影響について

まあ、ビリーズブートキャンプ大受けしている現状を見ると、科学的根拠とかより何よりもまず「面白い」「話題性があること」が相変わらず一番なのかもしれませんけどね。

「マルチタイトルの画質が悪いのはサードのせい」by SCEA トレットン氏

次は、PS1・PS2と王者に君臨し続けながら、次世代ゲーム機PS3では世界最下位を抜け出せないでいるSCESCEの場合、今までは久夛良木氏が電波発言のトップを切っていましたが、海外の役員クラスも負けず劣らず電波発言をすることで有名でした。今回も、なかなかの電波発言が出ているようです。

まずはSCEアメリカの社長、ジャック・トレットン氏。「PS3の在庫を見つけたら1200ドル進呈」発言で有名な人ですね。PS3のソフト不足と、Xbox360PS3のマルチ販売が横行し、そのタイトルのほとんどがXbox360版の方がグラフィックが綺麗な状況について、以下のような発言をしています。

「もし(マルチタイトルの)ゲームソフトの見栄えがよくないならば、消費者はそのゲームを買おうとはしないでしょう。我々はサードがそうすることを制御は出来ません。」
「言わせてもらうならば、より高いプラットホームでより劣った見た目にしかならないのに、何故わざわざ移植しようとするのでしょう?どうしてそんな無駄遣いをするのでしょうね。」
「ファーストである我々が20パーセントのタイトルを提供している訳ですが、サードがいらないという話ではありません。我々はサードに、最高の開発ポテンシャルを発揮させてあげたいと考えているのです。」

Tretton blames third parties for PS3 software deficiencies // GamesIndustry.biz

元々GPU自体の性能はXbox360の方がPS3よりも上と言われており、PS3はその劣る部分をCELLを作ることで補うことが可能だとされています(参考)。その状態で、サードがXbox360中心にゲームを開発し、PS3には単にポーティングすることで対応するために劣化が生じるようですが、そのサードの姿勢を批判している訳です。

ようするに、トレットン氏はXbox360に注力するのではなく、PS3に注力してもっとPS3の力を引き出したゲームを出せ、と言いたいのだとは思いますが、あまりに自分本位な意見ですよね。サードからしてみたら、PS3Xbox360よりもゲームが作りにくく、なおかつハードの販売数も日本を除けばXbox360より劣るものです。その状態でも、サードはまだXbox360の市場も十分でないだけにPS3にも同時期に出しているわけですが、それを「Xbox360より見栄えの劣るもの出すな!」と批難するのは、サードからしてみたら「何様だよ」と言いたくもなりそうです。
PS2絶対王者で、皆が性能や開発環境に文句があってもPS2で作らざるを得なかった状態と、次世代機の状態とは違うわけです。ソフト不足なPS3において、マルチタイトルでも出してくれるだけPS3ユーザーからしてみればありがたいことなのに、ファーストがこんな発言をしてしまっては、「じゃあXbox360だけで出すよ」となりかねないのでは?それを気にして最後の発言でフォローしているつもりなんでしょうけど、相変わらずえらい人なのに軽率な発言ですよね。


他には、SCEヨーロッパのCEO、デービッド・リーブズ氏。この人もまた「ゲームが無くてもPS3は500万台は売れる」の発言で有名な人ですが、PS3値下げに関していろいろ語っています。

ソニー2歩下がる:北米「値下げ」版PS3は今月限り - Engadget Japanese

まあ、ソニー関連の皮肉はEngadgetのittousai氏に任せておくとしてw、興味深いのは北米での60GB値下げを、まるで「在庫処分価格」のように言っていることですね。ヨーロッパのPS3を安くしないことの言い訳のつもりなのかもしれませんが、SCEAトレットン氏はどう思っているんでしょうね。まあ、自分も60GBに対して80GB版が100ドルも高いことに違和感を持っていたのですが、結局値下げとは名ばかりで80GB版に一本化する予定なのだとすれば、ある意味納得できるところもあるんですけどね。

ただ、それ以外の発言はSCE陣営とは思えないほど謙虚ですけどね。任天堂の功績を称えたりと。この辺は、久夛良木氏に変わって社長就任したSCEJの平井氏が謙虚な発言をしていることの影響もあるかもしれません。

SCE 平井一夫新社長インタビュー「久夛良木体制」から変わるもの、変わらないもの - 西田宗千佳のRandomTracking

上記インタビューで、平井氏は久夛良木氏のとんがった発言と比べて、非常に「ゲーム」を尊重した発言を繰り返しており、好印象ですね。初代PSを「オリジナル・プレイステーション」と呼び、そのころのライトユーザーも巻き込んだよいムーブメントの再現を目指している感じです。ただ、そうなるとネックは、あくまで「スーパーコンピュータ」としてデザインされてしまったPS3自体かもしれませんけどね。単なるゲーム機としてみたら、他の2機種よりも高く、グラフィックではXbox360にマルチタイトルで劣り、入力系ではWiiの斬新さにかなわないという状態なので。この方針変換が成功するかどうかは、未知数なところです。

「日本で売れない理由を教えて欲しい」by MS ムーア氏

さて、最後は次世代機として現時点で世界一でありながら、Wiiの猛追を受け、日本では爆死状態を継続しているXbox360。キーパーソンのピーター・ムーア氏がファミ通のインタビューに答えています。先日の不具合報道についても触れていますが、その中で興味深い発言は以下のところでしょうか。

――日本での販売台数がなかなか伸びてきませんが……。
ピーター その理由は私が逆に皆さんに聞きたいくらいです。本体の価格も値ごろで、Xbox LIVEの評価も高い。ハードの魅力を高めるべく、一生懸命努力をしています。マイクロソフトのポジショニングが悪いのか、ゲームファンにマイクロソフトが嫌われているのか……。ただし、もちろん努力は継続していくつもりでいます。幸いにもサードパーティーさんとの関係も良好ですし、『デビル メイクライ 4』や『バイオハザード5』、『ロストオデッセイ』といった期待作も控えている。今後に期待しています。

【マイクロソフト】ピーター・ムーア氏に聞く!「Xbox 360の値下げは考えていない」【動画追加】 - ファミ通.com

要するに、努力しているのに日本でこれほど売れないことの理由が分からない、という事なんでしょうかね。なまじ北米で絶好調で、市場としてはそこまで大きくない日本だけに、こうした人事のような発言が出てしまうんでしょうね。

Xbox360の場合、いろいろと魅力的なところはあるとは思うのですが、基本的に出だしからして「PS2の延長」なんですよね。XBOXで標準搭載だったHDDをオプションにし、メモリカードでも動くようにしたり、PS2の続編やジャパニーズRPGをそろえたりと、特に日本の戦略はPS2をそっくり模したものでした。ハード自体もグラフィックを綺麗にし、オンラインゲーム要素を充実するという、まさに従来のゲーム機の延長。こうした、過去の延長の路線は、すでにPS2路線が衰退してきている日本で成功しないのは無理がないことのように思います。
要するに、スタートし地点として考えられるユーザがPS2のコアなゲーマー層で、その中からXBOXブランドなどに抵抗感のない人などに購入者は限られるわけです。WiiやDSのような、全くの新しい層に、あえて欲しいと思わせる要素がないんですよね。かといってPS2ユーザは元々XBOXの失敗具合を見ており、イメージは最悪。「ハイデフ」や「do!do!do!」などの宣伝文句もいまいちピンと来ませんし、出ているゲームもHALOなどの洋ゲーを中心としたFPSアイマスDOAXといったそっち系と、ジャンルの偏りが激しいですしね。この状態でPS2のような爆発的な売れ行きをするわけがないんですけどね。むしろ、ムーア氏には「日本で売れる理由を教えてほしい」というところでしょうか。

まあ、まだゲーム業界が縮小し始めていない北米で、従来の延長で成功している分、なかなかMSには日本で売るような戦略は難しいかもしれませんね。グラフィックやオンラインゲームなどで評判は高いので、そういったことの口コミがどこまで通じるかどうか。マニアな人たちが熱く語っても、一般人は引くだけということもよくありますしね。もうちょっと幅広いジャンルを充実させないと厳しい感じはします。

まとめ 〜 次々世代も見越した戦いへ

以上、3陣営のキーパーソンの発言を取り上げてきましたが、各々の陣営の現状が透けて見えて面白いですね。任天堂は、E3の講演なども聴いてもDSでの成功で自分たちのチャレンジ・方向性に自信をつけ、さらに次へ進もうとする力強さを感じます。SCEは、相変わらず各種関係者の意思統一が取れておらず、また他力本願的な視点が見え隠れします。Xbox360はまだ日本でのマーケティング戦略をはっきりつかめていない感じです。

この状態で年末まで進むとなると、とりあえず任天堂の市場拡大路線がそのまま好結果を生みそうな感じです。そして、既存ゲーマーの奪い合いがPS3Xbox360とで起こるわけですが、世界的にはマルチで高画質なXbox360が有利でしょう。ただし、日本国内ではXbox360に多少サードのソフトが集まってきているとはいえ、まだ年内という視点だとXbox360の致命的なほどの知名度の低さ、知っている人からすれば先代からのイメージの悪さを覆せるほどの状況ではないでしょうね。だからといって、PS3側にも好材料はあまり転がっていないので、HDゲーム機市場ごと今年はWii&DSに圧倒される状況が続きそうな感じです。

あとは、HDゲームソフトがそろってくる思われる来年以降でしょうかね。果たしてWiiを圧倒できるほどのソフトを、質およびジャンル数共にそろえられるかどうか。FPSだけでは日本市場への影響は弱いですからね。とはいえ、海外でFPSばかりでも伸び続けるのだとしたら、日本サードも国内より海外に照準を絞り、FPSなどを出さざる得なくなるでしょう。相対的に日本の据置ゲーム市場はどんどん縮小していき、結局Wii+DS程度しか生き残れない、という可能性もなくはありません。ホリデーシーズンの各陣営の売れ行きが、来年以降にも大きな影響を与えるでしょう。

ゲーム機自体はいつかHDゲーム機に置き換わるのは、必然のことでしょう。あとはそれが本格的に切り替わるのがいつになるか、ということが注目点でしょうか。テレビの場合、業界や国の力で一斉にHDへの移行がはかられましたが、ゲーム業界では任天堂がそこから降りてしまったため、無理矢理のHD移行にたいしての足並みが乱れてしまっています。テレビなどでも、地デジへの強引な切換などでは消費者から批難が残っていますが、ゲーム業界の場合、推進する側の最大手が「いち抜ーけた」状態なので、そりゃなかなかうまくいかないでしょうね。任天堂も当然次はHDゲーム機を出してくるとは思いますが、それまでにMSとSCEはHD市場を築けるかどうかが勝負ですね。2011年ぐらいまでのスパンで見た読みが、プラットホーム陣営、そしてサード陣営に必要になってくるでしょうね。果たしてこの次の世代の主導権を握っているのはどこになりますやら。