任天堂、Wiiの一部ストラップを自主回収

週末出荷がある度に即完売を繰り返し好調なWii。ゲーム内容自体もWiiSortsを初めとして実に斬新で新世代を感じさせてくれています。そうしたすばらしいゲーム機であるWiiですが、自分が以前から「Wiiの抱える訴訟リスク」として取り上げているように、全く新しいゲーム機だけに、これまでにないような様々な注意点、危険性などをはらんだゲーム機でもあります。

その中でも、とくに深刻だったのが「ストラップ切断問題」。Wiiリモコンを扱う際に、まずすっぽ抜けないことが重要ではあるのですが、万が一リモコンがすっぽ抜けてもそれがどこかに飛んでいったりしないようにする、いわば命綱の役割をするのがストラップだったのですが、これがちぎれてしまうということがいくつか報告されており、問題視されていたわけです。命綱が命綱としての役割を果たせないのでは、安全保障の根底が崩されてしまいますからね。

これに対して、任天堂がまず最初の大きな対応を取ってきました。それは、Wiiのストラップの自己回収、すなわちリコールでした。

「Wiiリモコン」のストラップについてのお願い

好調な任天堂のトラブルと言うことで、各種マスコミでも大きく取り上げられたようです。

asahi.com:Wii320万台のストラップ自主回収へ 切断の恐れ - ビジネス
任天堂,Wiiのストラップを無償交換 - デジタル家電 - Tech-On!
ITmedia News:Wiiリモコンのストラップ、無償交換 「切れる」と報告受け
任天堂、DS/DS Lite用ACアダプタの一部に過熱の危険。約20万台を無償交換。Wiiリモコン用ストラップも一部交換へ - GAME Watch


以下、これまでに自分が触れてきた内容の振り返りや、任天堂の対応についての分析などをしてみたいと思います。

これまでの経緯の振り返り

この問題について、自分も何度かエントリで取り上げています。元々は、E3後に一度考察した「「任天堂が挑むべき課題」について(6/13)」の中の項目で取り上げていたものですね。当時はストラップ無しでのプレイでの危険性などを考察していましたが、「ストラップそのものが切れてしまう」ということまでには想像ができませんでした。

本格的に問題を意識し始めたのは、米国発売後に実際に報告されたストラップ切断問題を聞いてからでしょうか。「「Wiiの抱える訴訟リスク(11/20)」」で紹介していますが、安全保障の要の強度不足問題だけに、ちょっと深刻だなと感じていました。

その後、結局日本での発売まで、具体的な施策は聞こえてきませんでした。それどころか、Wii発売前日に出た毎日新聞の記事(Wii国内発売前に思わぬ騒動)では、「米国での事件について報告はない、おもしろおかしく投稿されたのでは?」と任天堂広報からコメントが出てしまったので、自分でも「Wiiプレイ時の注意点について(12/1)」というエントリを書いて、発売前にWii使用時の注意を喚起したつもりです。Wii自体のおもしろさ、革新性はWii体験会で味わっていたので、深刻なトラブルが起きてWiiそのものがうまくいかなくなる事態は避けたかった、というもありますね。捏造扱いして見て見ぬふりをすることは、任天堂ファンとしても危ないことだと思いましたので。実際、このあと任天堂に好意的なブログや記者の方でも、ストラップをしっかり着用するような注意書きを書いている方をいろいろ見かけたので、皆冷静に、同じような意識を持っていたということなのでしょう。

その後、事態が動いてきたのは、Wiiのストラップに2種類のバージョンがあることが分かったところです。「2種類の太さがある「Wiiリモコンのストラップ」(12/6)」のエントリで実際に自分の手元のストラップでも写真で検証しています。これを見て、任天堂がストラップ切断の危険性についてすでに認識していること、そしてすでに対策を開始していることを知ったわけです。同時に、大きく公表することなく2種類のストラップが混在していることに疑問を感じ、本来であれば交換などの対応をすべきだと感じたわけです。

そして、実際に徐々に公式にもコメントが出てきていました。「公式にコメントしだした「Wiiリモコンすっぽ抜け問題」(12/7)」で取り上げたように、前回の「おもしろおかしく」は任天堂広報室のコメントでしたが、今度は岩田社長が「調査中」とコメントを変えた形ですね。

自分自身も「Wiiリモコンストラップについて・続報(12/6)」で取り上げていますが、サポートに連絡したら交換ストラップが送付される、というコメントでの報告を受け、自分もサポートに電話で聞いてみた内容を「「細いWiiリモコンストラップ」のサポート対応について(12/9)」で紹介しています。自分の聞いた内容は先に交換用ストラップを送付、その後宅急便などで返送というものでしたね。このときのサポートの対応が実にスムーズで、リコールについても前向きに検討している印象をうけました。

そして、いよいよ12/15に任天堂から公式に細いストラップ交換というアナウンスになったわけです。

具体的な任天堂の施策

今回、任天堂の行う施策は、「細いストラップの回収と太いストラップへの交換」というものです。コストが比較的安くすむ店頭での交換ではなく、自分がサポートで聞いた対応に近い、先に太いストラップを送付、あとで返信用封筒で細いストラップを返送、という形になっています。返送させるというのは、やはり「回収」という意味を強くするためでしょう。ただ、律儀に全員が全員返送してくれるとも思えないのですけどね。返送しない人には、催促したりするんでしょうかね?店頭交換の方が、店さえしっかり対応してくれるなら確実に回収はできそうですけど、そうしたことで小売りに面倒をかけるのは悪いと思ったんでしょうかね?

上記で述べた一連の流れを見ていると、任天堂自身裏では安全対策を考えてはいたが、それを上回る勢いで事故が起き始め、対応が若干後手に回った印象があります。体験会でストラップ着用を強制したり、マニュアルでイラスト付き警告を載せたりと、工夫はみられるんですよね。ただ、基本的にそれら対策は「ストラップが切れないこと」を前提としていた感じがするので、ストラップの強度そのものをどこまで保障するかで、多少判断がゆれたところがあったのでしょう。任天堂的には、最初は0.6mmで十分だと思っており、実際によほどの勢いですっぽ抜けない限りは大丈夫なのでしょうから。ただ、おもちゃであり、いろいろな人が触れる以上、過剰すぎるほどのスペックを維持しておかなかったのは、やはり失策だったように思います。

特に、最初に毎日新聞に出た「おもしろおかしく投稿」という発言は非常にまずかった感じです。この発言は岩田社長自らが発した発言ではなく広報の発言ではあるのですが、「音が聞こえない程度であれば、問題ないと思う人もいる」と失言してしまったのもSCE広報でしたからね。広報のコメントであっても、マスコミに出てしまえばそれは「会社のコメント」になってしまうわけです。記事を載せるマスコミ側にも多少恣意的なものもあるのでしょうから、どの会社の広報もできる限り揚げ足を取られないような慎重なコメントを出すように注意した方がいいでしょうね。もしくは、マスコミに書かれる前に公式発表をしてしまうのがよいでしょう。マスコミにしか出ない場合、一般の人は真実よりもマスコミの書くことを鵜呑みしてしまいますので。

あと、公式ページをよく読めば分かりますが、基本的に「より安心して使ってもらうため」に交換するのであって、強度不足などを一方的に認めたわけではありません。ただ、これはこれで実は重要ではあるのですよね。とくに海外などは、「謝った方が負け」という文化が昔からあります。海外法人が強きのコメントが出がちなのはそうした文化の違いもあるかと思います。日本はどっちかというと「謝ったもの勝ち」の文化ですからね。今は日本の記事もすぐに翻訳されて海外で報じられてしまいますし、必要以上に非を認めることもそれはそれでまずい企業としての対応な訳です。そうした意味でも、今回の対応は任天堂として「現時点では精一杯の対応」という印象がしますね。

Wiiの販売戦略へも影響

今回のWiiストラップ交換は、単に交換作業だけでも数億円かかるものですが、その販売戦略自体にも影響を与えてしまうようです。

任天堂岩田聡社長は同日、産経新聞の取材に対し、「利用者に迷惑をかけおわびしたい」と謝罪。さらに、「利用者に正しい遊び方を知ってもらうことが必要」とし、現行のテレビコマーシャルを中止して、「軽く振るだけで遊べる」ことなどを説明するものに切り替える意向を明らかにした。海外でも順次、CMを変える。別売りリモコンの出荷も最長1カ月停止する。
Wiiは「軽く振って」 任天堂社長が不具合を謝罪|エンタメ|カルチャー|Sankei WEB

上記にあるように、この年末商戦の時期に、CM内容を「Wiiリモコンの使い方」に差し替える模様です。ちょうど、松下が暖房機回収のアナウンスを年末商戦のDIGAなどのCMをすべて差し替えて行ったのと似てはいますね。ただ、おそらくこのWiiの場合はWii体験会で繰り返し流されていた映像のように、ストラップの付け方やリモコンの振り方などを実演して見せる形式になると予想します。そうした意味では、完全にはCM効果は失わないものになるとは思いますね。完全に謝罪にしてしまった方がいいのかもしれませんが、基本的に松下の一発ネタで、その後のパロマとかが同じことやっても冷笑されただけですからね。

そのほか、CM以外でも出荷に対してもストラップ差し替えの影響が出てくるようです。上記産経の記事で別売りリモコンが最長一ヶ月停止される、というのもおそらく、混在しているストラップをいったんすべて太い方に差し替える作業のためでしょう。また、本体の方も同様に太いものばかりにするつもりなのか、本体出荷もいったん白紙になったと下記ブログで紹介されてますね。
平成18年12月15日|ゲームの裏話

任天堂の対応には一定の評価

年末商戦の本番である12月後半を前にリコール対応したことは、現時点では最大限の対応だとは思います。理想的には、発売前にストラップを強化しておくべきでしたし、せめて北米発売で報告が起きた段階で対応をすべきでした。そこを逃した時点で、対応は遅れたしまったと言わざるをえません。ただ、ここまで大量に発売してしまうと、普通はもう引っ込みが付かないところです。回収などの影響も無視できないレベルですしね。

ただ、そうしてなし崩し的に問題を先延ばしにしてしまうと、結局はPS2の振動訴訟ではないですが、取り返しの付かないところまでいったところで大損害を受けることになってしまうわけです。今回の対応は、フルアクセルをかけてスタートしてすぐに急ブレーキを踏んだようなものですから、そうした判断を下せること自体は評価できると思います。松下の時は、死亡事故まで起こしながらもその対応で非常に好印象を与えたように、こうした安全に関わる事項は基本的に「損して得取れ」がもっとも基本的な対応であると思われます。

とはいっても、それがなかなかできない会社の方が多いのでしょう。経営的に厳しいところなどだと、隠したくなるところも心境的には分からないでも無いですし。しかし、現在の世の中では不正はとにかく許されません。コンプライアンスは非常に重要な要素になっています。都合の悪い事項でも、できる限り早い情報公開を行うことが必要になるわけで、企業の人間は不用意な発言をマスコミに晒されたりしないよう、末端に至るまでそうした意識を持つ必要があるでしょうね。

さらなる懸念も存在

とはいえ、今回の対応ですべてのリスクが回避されたわけではありません。まず、そもそも今回交換する1mmストラップ自体で、すでに切断の報告が上がっています。それは、やじうまWatchで「信頼できる古参ブロガー」として紹介されたYapppLogsさんの以下のストラップ切断報告です。
YappoLogs: Wiiのリモコンコントローラが飛んだ件
上記記事の時点ではまだリコール前だったのですが、今回のリコールを受けて切断したストラップを調べてみたところ、どうやら1mm版だった模様。
YappoLogs: Wiiリモコンのリコールの件

自分自身、今は「はじめてのWii」付属の1mm版ストラップを使っているのですが、正直相当に丈夫だと感じました。それでも、任天堂サポートの人は「通常のプレイでは大丈夫だが、無理矢理引っ張られたら保障できない」と1mm版についても言っていたので、「絶対に切れない」というものではないのでしょう。実際にYappoLogsさんは切断しちゃっているんですからね。できれば、YappoLogsさんには「1mmでも切断してしまうWiiリモコンの使い方」というものを説明してもらえると、一般ユーザへの注意喚起にもなっていいんですけどね。とはいえ、本来は任天堂自身が調査して報告すべき内容ですが。


一応、細い方のストラップについては、海外で検証された結果をGIGAZINEさんのところで紹介されています。
Wiiリモコンのストラップの強度をテストしてみる - GIGAZINE
この検証によると、20〜30kgぐらいの荷重には耐えそうな感じですね。とはいえ、実際には振ったときの加速度、ピンポイントでかかるストラップへの圧力などが関連するので、ちゃんとした機材を使わなければ分からないデータでしょう。このあたりは、Tech-Onあたりで実験してくれると面白いのですけどね。


現状のストラップホールの大きさの関係から、おそらくこの1mmという太さがギリギリの太さではないかと予想されます。ですので、これ以上太くしようとするとWiiリモコンそのものの改良が必要となり、時間がかかることでしょう。任天堂としても、交換対応してまでまだ切断が頻発するようなら大問題となります。切断しないこと自体を保障できないのであれば、やはり啓蒙活動を相当気合い入れてやる必要が出てくるでしょうね。

今後も継続的なケア・啓蒙活動が重要

ともかく、任天堂は年末商戦前に販売的リスクを冒してでも、将来的なリスクを回避する戦略をとりました。今のWii人気を見る限りでは、CMなどを自粛しても出荷分は売り切ってしまうでしょうが、問題が長引くようだと本格的に販売への影響が出てしまうでしょう。ストラップの件以外にも手首を痛めたりする健康被害、物損などはやはり根本的に存在しますし、「大きく動かした方が楽しいけど危険」というWiiそのものが抱えるジレンマもあったりします。

ゼルダなどは剣を振るのに小さな動きで大丈夫ですが、正直ボタンの代用をしている印象はぬぐえませんので、「安全にWiiらしさを味わえる動き」という落としどころを、ユーザに覚えてもらう必要があるでしょう。自分はWiiSportsで手首を一度痛めて以降(3日ほどで直りましたが)、ある程度セーブした動きにしているのですが、それでもある程度の動きは行っており、WiiSportsそのもののおもしろさは損なわれていません。あまりにリアルと錯覚してしまうと危険ですが、若干冷静に動きを抑制する程度でも、だいぶ危険性は変わってくると思うんですよね。

単に「リモコンは小さく動かして」とアピールするだけではWiiのモーションセンサーのおもしろさが損なわれる部分があるので、任天堂にはそういった「十分楽しめるWii操作法」をCMなどでは啓蒙していただきたいものです。また、今のところあまり触れられていない手首を痛めるなどの事象も、しっかりとウォッチしていき、問題があるようならば早め早めのアナウンスなどをしていただきたいところです。
Wiiという革新的ゲーム機の芽を摘んでしまうことのないよう、Wiiの魅力自体と利用法をどちらもあわせて大きくアピールしていってほしいと思います。