"高音質"なのに"データ用"なソニー製DVD-R

DVDレコーダなどの普及で、今やすっかり標準の記録メディアとなったDVD-R。そんな中、ソニーから"高音質"をうたうDVD-Rメディアが発表されました。
ソニー、高音質化を図ったデータ用DVD-R「音匠」など - AV Watch
デジタルデータの高音質化ということで、「なんかうさんくさいもの出しているなぁ」というぐらいの印象しかなく、このニュースが出たときはさらっと流していたのですが、AVWatchやITmediaのライターとして有名な小寺信良氏がブログで書かれている以下の記事を見て、認識を改めました。

ソニーが、レーベルコートに音の再現性を高めたという特殊インクを採用したDVDメディアを発売するという。それだけなら、へえ、と眉毛に唾でも塗るところだが、問題はこのメディア、データ用なんである。
コデラ ノブログ: また揉めるようなことを [ITmedia +D Blog]

「データ用」?!高音質をうたっているのに?!

…たしかに、上記のリンクのタイトルには「データ用」と書かれていましたが、”高音質”をうたっていただけに、すっかり録画用メディアだとばかり思っていました。これには、正直びっくりです。

知っている人も多いとは思いますが、DVD-Rにはビデオ録画用とデータ用があり、このビデオ用には私的録音補償金が上乗せされています。詳しくは、以下のHPをご覧ください。

私的録音補償金制度について - 私的録音補償金協会

ただ、実際にはこの私的録音補償金制度自体はちゃんと還元できているかなど有効性に疑問が持たれており、度々議論の対象となっています。また、メディア自体もビデオ用とデータ用で結果的には大差ない価格になっていることもしばしばです。また、データ用とはいえコピーワンスなどの問題を抜きにすれば普通に録画に使えますので。


しかし、だからといって、ソニー自らこの制度を脅かすような行為を堂々とするとは。正直、あきれてしまいました。ソニー自体、ソニーミュージックなど多数のミュージシャン、クリエーターを抱える権利団体のはず。それなのに、自らそうしたクリエーターの権利を脅かすような行為を犯すというのは、一体どういうつもりなんでしょうか?

ちなみに、この「音匠」ブランド自体は、今年6月のニュースで”録画用”のメディアとしてすでに一部発売されています。
ソニー、音質にこだわった録画用DVD-R「音匠」など
音にこだわりぬいたPremium Grade 音匠(おんしょう)「録画用DVD-R」 - ソニーeカタログサイト[Sony eCatalog]

上記のように、最初に出したときは録画用のみだったわけです。そりゃそうですよね、音質にこだわったメディアなんですから。それなのに、今回はその「音匠」ブランドに、以下のようなデータ用をわざわざ追加した訳です。

音にこだわりぬいた Premium Grade 音匠(おんしょう)「データ用DVD-R」 - ソニーeカタログサイト[Sony eCatalog]

好意的に見れば、DVD-Rのラインナップとして、単に録画用とデータ用という通常のラインナップをそろえただけ、と見ることもできます。実際、ソニーとしてはその程度の軽い認識だったのかもしれません。しかし、現にこうして業界識者の小寺氏にブログで指摘されてしまっています。私的録音補償金制度を推進していく立場であるソニーとしては、あまりに軽率な行動のように思えますね。


今回の件を見ていると、以前ファミ通浜村通信の欄で、「モンスターハンターの年齢制限はおかしい!」とか言って、浜村氏がエンターブレイン社長というゲームマスコミトップの立場でありながら、CEROの決めたレーティングを自ら破って子どもにプレイさせるという暴挙を犯していたのを思います。業界のトップとして、問題意識を持つことはいっこうにかまいません。ただ、だからといって一般消費者が文句を言いながらも守らされているものを、業界側から破ってどうするのかと。問題があるなら、もっと別の方法があるでしょうに。きちんと議論の場を設け、制度を変えていけばいいわけです。お互いの主張がかみ合わず、そうはうまくいかないことはよく分かりますが、だからといって関係者の実力行使はさらに秩序を乱して状況を悪化させるだけでしょう。


今回のソニーの件もそう。本人達は、深く意識していなかったり、データ記録に利用する人向けに安く提供する、という意識なのかもしれませんが、だったら「音匠」ブランドなんて使う必要はありません。わざわざ、制度を脅かすような商品を出す必要はないわけです。もしデータ用にも音楽や動画を記録させたいのなら、そのようにちゃんと権利団体と交渉すべきでしょう。メーカーとしてのソニーから見ればこの制度はコスト上昇要因となるやっかいなものなのかもしれませんが、やり方が美しくありませんよね。

業界内の独自ルールというのは、どの分野でも歪みがちですし、消費者の反論をうけることはたしかです。しかし、だからといって、そのルールを強いる側が破っていては、お話になりません。ユーザーが気持ち安く製品を購入できるよう、業界の方々はクリーンに努力して頂きたいものです。