久多良木の失脚とその後のソニー

朝一の情報では、久多良木氏の処遇がよく分かっていませんでしたが、副社長から単なるグループ役員に降格、ゲーム部門だけという処遇となったようです。
「ソニーも変わらねばならない」大幅な経営刷新を発表 - asahi.com : 経済
ZAKZAKでは、かなり露骨にたたかれていますね。
“プレステ”久多良木副社長「降格」に衝撃

久多良木失脚の理由

久多良木失脚の理由は、このZAKZAKで述べられている以下の項目につきるのでしょう。

 ゲーム機とDVDレコーダーを融合した「PSX」の不振や、「社内に敵も少なくなく、やや人望に欠ける面もある」(関係者)などのネガティブな評価はあったが、本命の地位は揺るがないとみられていた。

PS、PS2が成功していたときは、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだったので、多少言動に問題があっても、とんがってリーダーシップをとれる天才がもてはやされた訳です。だが、PS2で広げた大風呂敷をしまいきれず、PSXでは無謀な低価格路線+発売前スペックダウンという大ごけをかましてしまい、ソニーだけでなく現在の家電業界の苦境を招く引き金ともなってしまいました。
こうして、一度でも大きく負けてしまうと、久多良木のようなビッグマウスの人物はもろいものです。これは、格闘技の世界ともよく似ています。ボブサップは未知の強さを秘め、いくらでも強くなりそうであり、実際負けませんでした。そこに、人々は「夢」を見たわけです。勝ち続ける限りは、見ている側は夢を見ていられるわけです。しかし、ボブサップの場合も、藤田にぼろ負けして以降一気に群衆の関心は引いていってしまいました。サップの例に限らず、勝負の世界でビッグマウスな人間は、得てしてそうした傾向があります。久多良木も、同じような流れに乗ってしまったように見えます。PS2の頃は「久多良木の言うことはいつか実現するのでは」と思っていた物が、いまや「また吹いているよこの親父」という見なされ方をされてしまっている訳ですし。
PSPを絡むゴタゴタも、久多良木の影響力をおとしめる一因であったことは間違いないでしょう。「それは仕様だ」発言が、社内でも問題になったのは事実のように思われます。それは、出井氏の以下のコメントでも分かります。

質疑応答の冒頭で出た「久多良木氏になくて,中鉢氏にあるものは何か」との質問には,「中鉢さんは,グッド・リスナー(良い聞き手)であるということ。いろんな人の意見を聞いて正しい判断を正しい時期にできるとみている」(出井氏)と回答。

このコメントからも、いかに久多良木の人柄が問題だったか分かります。PSXPSP、両方とも社運をかけるほどの商品でありながら、話題性だけでどうにも商品企画にぶれがあり、明確なビジョンにかけていたのも、もちろん問題だったでしょう。ようするに、久多良木の失脚はある意味、妥当な結論であるわけです。勝ち続けられなかったら、失脚しかない人物なのです。

久多良木失脚後のソニー

2chやブログでは、この久多良木失脚に喜び、あざけりのコメントが渦巻いてますね。発熱地帯さんのところでも、「乾杯!」とまで言っていますし。
発熱地帯: さあっ、この勝利に乾杯だっ! 無数のブロガーの勝利 久多良木氏、ソニー副社長を退任
ただ、何についての乾杯なのかは、個人的にはちょっと微妙ですけどね。これはそれぞれのスタンスによるものだと思うのですが。ゲーム業界の健全な育成だとか、PSPの数々の誠意無い対応に怒っていた人たちにとっては、確かに朗報でしょう。また、ライトなアンチソニーも、「ざまーみろ!」という感じでしょう。要するに、久多良木を「ゲーム帝国の悪の総統」という位置づけで見ている人にとっては、乾杯すべき項目なように感じます。
しかし、任天堂ファンなど、ソニーという存在そのものに脅威を抱いている者達にとっては、今回の人事は正直、ソニーの後退ではなく、前進のように思われます。とくに、今度会長になったストレンガー氏は、CNETのインタビューで語っているように、メディア戦略についてはかなり明確なビジョンを持っています。
ソニーはふたたび「クール」になれるか - CNET Japan
この中で、ストリンガー氏は、かなりPSPを押しています。ただし、携帯メディアプレーヤとしてですが。しかし、そのビジョンには、久多良木のようにぶれはありません。久多良木は、結局PSPをゲーム機として売ることにこだわりすぎたために、メディア機能とのバランスが中途半端になってしまいました。一方、ストリンガー氏はメディアをかなり前面に押し出します。そして、まだまだ市場が拡大している米国に明確にターゲットを絞っています。UMD同梱発売もその意識の表れでしょう。つまり、米国に向けての戦略にぶれはなく分かりやすいのです。それに加えてソニーの米国ブランドは高い。こうした点から見ると、アメリカでのPSPの成功は大いにあり得ると思われます。
そして、今回の人事でストリンガーで、国内戦略にも彼の意向が強く表れるでしょう。それにより、国内のPSPについてもてこ入れがあると思われます。また、PS3についても、ストリンガー氏はMGM買収の中心人物だったわけで、こちらも力を入れてくることが想像できます。
また、久多良木氏もSCE社長は維持され、いわば現場に戻る形。すでにSCEに行った時点で一度挫折を味わっている人間ですから、また現場に立つことでぐんぐん実力を発揮する可能性もあります。
まだストリンガー氏の手腕も分かりませんし、ことがうまく運ぶかどうかはわかりません。メディア中心の戦略も、3DOなどでこけた例もあるわけですし。ただ、今回の人事はマイナスの要素よりもプラスの要素が多いと思います。もし、任天堂信者が、単に「やった、久多良木が倒れた」と喜んでいるとしたら、大間違い。ソニーが、PSPが怖いのはこれからでは無いでしょうか。