「Wiiはテレビ、PS3は映画」 by 小島秀夫氏

マスコミのPS擁護論だけでなく、ゲーム開発者側からも、現在の任天堂一辺倒の流れに不満を言う人が出てきています。特に、今月のゲーマガに書かれているMGSの小島秀夫氏、スクエニ野村哲也氏のインタビュー内容は、海外のニュースサイトでもいろいろと議論を呼んでいます。

PS3|| 小島氏、野村氏はPS3に好意的 G-Captures
insideさんのところでは、別にOfficial PlayStation Magazineでの小島氏のコメントが紹介されています。
コナミ小島氏「Wiiはテレビ、Xbox360はDVD、PS3は映画館」 - Nintendo iNSIDE

ゲーマガのインタビューを見る限り、上記Official PlayStation Magazineの方が先で、その後に対談したようです。また、その対談記事のベースとなったものは小島氏のブログで音声が公開されています。
HIDECHAN! ラジオ 第77回 (06.06.23) - KOJIMA PRODUCTIONS - HIDEOBLOG
HIDECHAN! ラジオ 第78回 (06.06.26) - KOJIMA PRODUCTIONS - HIDEOBLOG
こちらの音声の方だと、メインは野村氏の発言となっています。ゲーマガの記事では、小島氏の次世代機論評がいくつか記されていましたので、記憶を頼りにリストアップしてみたいと思います。

  • PS3は映画館、Xbox360はDVD、WiiはTV。
  • PS3は未来。Wiiは機能的には過去の発想のマシン。
  • Wiiは非常に面白いが、家族でTVの前でわいわいっていうのは、自分としては昔にもどった印象で古い。今は一人で部屋にこもってゲームをやる時代。
  • DSやWiiのゲームは今のTVのよう。人気があるからと言ってバラエティ番組ばっかりでいいのか。もっと映画的なものを目指さないと。
  • PS3バッシングがあるが、それでみんな本当にいいのかと。PS3みたいな道を切ってしまうと、もう伸びない。
  • 映画業界でも、昔お金をかけた大作が売れない時代があった。そんな状況でポセイドン・アドベンチャーは大作として作ろうとして反対されたが、自ら資金をかき集めて作り、大成功した。そういう例もある。
  • 業界全体、クリエーターの未来のことを考えるとPS3がいい。PSには無名だった自分を育ててもらった恩もある。できれば日本のハードに勝ってほしい。
  • ただし、現時点ではPS3は高い。アンケートの反応を見ても厳しそう。
  • PS3に振動機能がないのは残念。うちの振動職人の仕事がなくなる。ハリウッドなら絶対こんなことしない。ジャイロと切り替えスイッチで切り替えればいいのでは。
  • Wiiみたいな操作系もあるPS3が理想。

なかなか刺激的な内容が並んでいますが、上記で箇条書きしたのはそういったものをピックアップしているだけで、インタビュー自体はもっと長いものです。細かいニュアンスは実際に記事を読んでみてください。全体としては、そんな強烈なWii批判をしていると言うよりは、「自分がやりたいことをやるためにPS3に頑張ってほしい」、という雰囲気が伝わってきました。そもそも、このインタビュー自体がPS3の特集記事の一環と言うこともありますし。(個人的には、振動機能がなくなったことについて、ハリウッドを例に出しているところが面白かったですね。向こうは職人の立場・労働組合の力が強いですからね。)


ただ、やはり海外のニュースサイトではそこまで微妙なニュアンスは伝わっておらず、上記のような刺激的な項目が直訳されて、かなりの物議を醸し出しています。

Kojima on Wii: Interesting controller, dated graphics - Nintendo Wii Fanboy
Kojima wants a "PS3 with controls like the Wii" - Joystiq
Go Nintendo ? Blog Archive ? Kojima: Wii is the past- What are you waiting for?

いずれの記事でも、コメント欄でかなり熱い反論がされています。前のマスコミの記事や自分のこの記事でもそうですが、人の発言の一部だけを引用するというのはなかなか難しいものです。本当はすべての文章を引用すべきなんですが、なかなかそんなことはできませんしね。第三者の編集を介すと、どうしても編集者の主観が入ってしまいますから、論旨が曲がってしまうことがありますよね。このあたりはブログも含めた情報伝達の欠点というか。先日の任天堂経営方針説明会の質疑応答全文公開みたいに、情報発信側がすべての論旨を公開し、つねにそれを参照してもらうのが理想的なんですが、手間もありますし、なかなか全員がそれをするのはむずかしいですよね。


閑話休題。この小島氏のようなコメント自体は、別に彼に限ったことではないように思います。先日も、いくつかの開発者から同様の主張が出ていましたし。これについては、当時発熱地帯さんがうまくまとめてられてます。
発熱地帯: ゲーム業界は10年のループを抜け出せるのか?

小島氏は、PS3のような映画的進化こそが次世代の道だ、という答え方ですが、どちらかと言えば上記の発熱地帯さんの例をみれば「停滞」です。PS1時代に大量に獲得したはずのライトなユーザーをPS2ですっかり手放してしまったことの繰り返しになってしまいます。
脳トレで獲得したライト層も、いまちょうど「他のゲームはどうなんだろう?」と言う感じで一つ二つと、ライトなゲームに手を出しているところ。中には、コアなゲームに手を出して、そのおもしろさを理解する人も出てきています。いわば、DSはそうした新しいゲーム層と共に、一緒になって歩いているところなのです。そういった新たにのびようとしている市場を、開発者の嗜好と合わないからと言って見放してしまうのは、あまりに悲しいことです。

小島氏のように、グラフィック路線を追求することも、別に悪いことではありません。ただ、それは現状ではかなりニッチになってきています。その辺は、小島氏もわきまえているようですけどね。だからこそ、現状のPS3の圧倒的なバッシングに困っているのでしょう。自分の出すゲームはニッチなコアなところをねらっているだけに、それを出す土壌となるPS3が普及してくれていないと居場所がなくなる、となってしまいますから。

ゲーム市場の過渡期にさしかかり、売り上げ、自らのポリシー、顧客の嗜好、開発ノウハウなど、様々なところで矛盾やズレが発生してきているところ。開発の方々も非常に困惑しているところでしょう。こうした変化の中、どれだけ高い適応力と創造性を発揮できるのか。開発者の人たちの実力が問われるところです。