ビジョンの違いで明暗を分けるカプコンとバンダイナムコ
任天堂の好調が目立つゲーム業界ですが、大手サードでもこの不安定な情勢の中、トップのビジョンの違いで明暗が分かれているきらいがあります。特に激しいのは、カプコンとバンナムでしょうかね。
ちょうど現在、日経のサイトで様々なメーカーの上層部へのインタビューが出ています。
キーマンが語るゲームの今! 進化するゲーム・ビジネス / デジタルARENA
この中で、カプコンとバンナムのインタビュー内容がなかなか好対照で面白かったため紹介してみたいと思います。
積極的に次世代に投資して成功したカプコン
カプコンのインタビューは副社長の辻本氏。
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Xbox360での海外ミリオン、PSPでのモンスターハンターのミリオンと、好調が続くだけにそれを反映したかのような自信あふれるインタビューになっていますね。
カプコンの場合、次世代に対して投資する場合でも、動きが一歩速かった感じがしますね。他の国内サードがPS3を見越してHD化をすすめていたところで、カプコンは海外でのHDゲームの立ち上がりに早めに目を向け、Xbox360の段階から本格的に参入する道を選びました。この辺は、昔から様々なプラットホームに積極的に主力を投入していくカプコンらしい姿勢だとも言えますね。(まあ、国内ではバイオやテイルズ本格投入→撤退で任天堂ファンからかなり恨みを買っている印象はありますがw。)
こうした次世代機、そして海外市場への積極的展開は、このインタビューの辻本氏よりも、稲船氏の力による物が大きいでしょう。これについては、先日のGDCでの講演でいろいろ理解することができます。
経営陣という抵抗勢力に屈せず、自らのポリシーを貫いた稲船氏はかっこいいですね。次世代機では続編よりも新作、という意気込みもすばらしいです。他のサードは5以上の数字がついた続編ばかりですしね。
また、単に自分よがりではなく、いかにして売るのか、と言う部分に目を向けているところも優秀な証でしょう。このあたりは、クローバースタジオ解散に関わるところのコメントからうかがい知ることができます。
稲船氏は「ゲームはあくまで作品ではなく商品だ」と指摘した。芸術作品ならば売れなくてもいいが、商品である以上、プロデューサーが売ることを考えなくてはいけない。ディレクターまでが素晴らしい仕事をしたとしても、そこから先、いかに売ることができるかはプロデューサーの仕事だ。「クローバースタジオにはプロデューサーが不在だった、と僕は思っています」と稲船氏は語った。
「大神」などの作品を好むファンからしたらカチンとくる発言なのかもしれませんが、やはりゲームは顧客を意識してこそ受け入れられるものです。宮本茂氏もGDCでのインタビューで常にユーザーを意識することを強調していましたが、そうした視点のあるゲーム作りが常に大事だと言うことなんでしょうね。
結果的に、カプコンはXbox360からゲームエンジンを作り、それをPS3にも応用するという道を選びました。このことが、現状PS3が立ち上げ苦戦している状態でも比較的影響少なくいられている要因ともなっているわけです。一部では以下のような噂も流れていますしね(まあ大前研一氏はいい加減な発言する人なので信頼性はかなり低いですが)。
国内コアゲーマー市場が減少する中、海外+Xbox360というアプローチでカプコンはうまくいっている印象です。DSでも逆転裁判4がありますし、なかなか隙がない状態。あとはどうやってPS3などにつなげるか、そしてWiiへも参入していくか、というところですね。Wii向けは「宝島Z」なるタイトルを出すようなので、これがどの程度の出来になっているか、楽しみなところです。
「PS3勝利」を描きすぎてもがくバンダイナムコ
一方でバンナムの鵜ノ澤氏のインタビュー。
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鵜ノ沢氏と言えば、ガンダム一年戦争のときに「ミリオン!ミリオン!ミリオン!」を連発して赤っ恥をかいたり、「任天堂ハードの場合は任天堂が最大のライバル(笑)」と笑って言っていて反感を買ったりと、いろいろ問題発言が多い人ですね。そのあたりは、以下のエントリで自分も不満をいろいろ述べています。
わぱのつれづれ日記 - 「任天堂ハードの場合、任天堂が最大のライバル(笑)」 by バンダイナムコ鵜之澤氏
そんな鵜ノ澤氏の今回のインタビュー内容は、全体としてめちゃめちゃ大きな問題があるという訳ではないのですが、節々にこの人、果てはバンナムの抱えている「ズレ」を感じるところがあります。
まず1つは「キャラビジネスで考えすぎ」ということ。元々この鵜ノ澤氏がバンダイ側の人なので当然と言えば当然なのかも知れませんが、ナムコ部分の要素までキャラビジネスの1つとして考えている感じがするのが、微妙な感じです。特に以前「任天堂が最大のライバル」と言っていた発言に対して、今回は前向きなコメントをしているのですが、その内容が激しく微妙です。
例えば、『マリオカート』があると、単なるレーシングものだと競合してしまうため、通常だと任天堂ハード向けには出しにくい。でも、バンダイレーベルならばキャラクターを使って“たまごっちレーシング”や“デジモンレーシング”という具合に味付けすることで、うちならではのキャラものレーシングゲームができる。
このように、任天堂のキャラクターと競合しないバンダイのラインと、任天堂的なテイストのタイトルが作れるナムコのラインが我々にはあるわけです。 従って、DSやWiiといったプラットフォームでも、任天堂さんの次の位置を確保する自信は大いにありますね。
http://arena.nikkeibp.co.jp/tokushu/gen/20070207/120802/index36.shtml
根本的に「ゲーム性」というものを軽視しまくった発言ですよね。マリオカートは、マリオというキャラゲーだから成功した訳ではなく、ストイックだったレースゲームにアイテムによる駆け引きやポップな要素など、様々な高いゲーム性があったからヒットしたわけです。これに対して、「うちはいろいろなキャラがいるから、ゲーム性はパクってゲームを出せる!だから任天堂の次は狙える!」と発言している訳ですから、情けないと言うしかありませんね。相変わらず、任天堂向けのアプローチはお茶を濁すことしか考えてないように見えてしまいます。
また「ハイビジョンでのゲーム開発は必要」というのも、自分自身HD化は必然的に生じるものだと思っており、大きな反対意見はないのですが、鵜ノ澤氏の場合、どうも極端なんですよね。まず、HDゲームの必然性を語るときの以下の発言。
これはWii向けでゲームらしいゲームが売れないことにも関係しますが、日本だけの現象としてコアファン向けゲーム市場の動きが鈍いことから、業界でXbox360やPS3向けのビジネスの戦略に迷いが出てきている点です。
http://arena.nikkeibp.co.jp/tokushu/gen/20070207/120802/index34.shtml
全体を読めば、「ゲームらしいゲームが日本で売れていない」という前提があって「国内好調なWiiをもってしても売れない」という意図だとは分かるのですが、なーんか引っかかる表現ですよね。その後の、ハイビジョンゲーム作らないと未来はない、という熱い論調も、ちょっと極端すぎる気がします。
普及台数を考えると、任天堂ハード向けの開発ラインが増えるのは当然です。しかし、その一方で世の中は間違いなくハイビジョンの世界に行くわけです。
(中略)
ですから、ハイエンドのゲームに否定的な人には、日本のゲーム会社がHDのゲーム開発をやめちゃって、産業としての将来は本当にあるんですかって、改めて問いたいですね。
自分も、前々からHD化は必然的な流れだとは思っているのですが、そこまで急激に起こるものだとは思っていません。ゲームのメインターゲットである子どもの部屋にHDテレビが普及するのはまだ時間がかかるでしょうしね。リビングのテレビがHDTVになっても、むしろそうしたリビングでのTVゲームは親から敬遠されてしまうでしょう(WiiSportsとかならともかく)。自分もすでにHDテレビは持っているので画面は綺麗にこしたことはないのですが、そのあたりはユーザの嗜好に基づきます。次世代DVDがいまいちのびないのを見ても、結局解像度というものに対してのユーザの優先度はかなり低い位置なんですよね。現状HD対応のためにジャギだらけになったりフレームが十分でないなど苦労しているところを見れば、しばらく解像度を落としてゲームとしてのクオリティを高める努力をしてもいいと思うんですよね。
しかし、鵜ノ澤氏の言い方だとまるで今すぐHDゲームを作らないといけない、SDゲームはつなぎにすぎないと言っているように受け取れます。ようするに、WiiやPS2に本腰入れても次につながらない、って感じている訳ですよね。次世代に対してのノウハウを蓄積する、ということは別にグラフィックだけではないでしょうに。Wiiでモーションセンサやポインティングを使ったゲーム作りを確立していくことも、十分ノウハウ確立の1つだと思います。そうした視点が無いんですかね?正直、Wii向けに本腰を入れてチューニングする姿勢は見受けられませんので、今後Wiiで出るバンナムのソフトも警戒してしまいそうです。
それに、これだけハイビジョンゲームを主張するなら、もっとXbox360に注力すればいいではないですか。現状アイドルマスターは確かに頑張っていますが、それ以外これといったタイトルはなし。カルドセプトサーガなんかは、まともなデバグもできていない状態で発売するという、やってはいけないレベルの経営判断をしてしまっていますし、とても本腰を入れているようには見えません。
結局、バンナムはあまりに「PS3勝利」のシナリオを早くから描きすぎたのでしょう。海外で本気で戦う勇気もなく、国内でPS2の延長で考えてしまった。結果、PS3のスタートダッシュ失敗を目の当たりにして当惑している、という印象です。それでいてもなお、「PS3勝利」を前提においているため、DSで金をかせぐだの、PS2やWiiでつなぐだの、そういったやる気のない発言が出てしまっているように思います。
これで本当にPS3が立ち上がってくればいいですけど、そうでないとPS2やWiiでもバンナムは他社の後塵を拝す結果になりそうな気もします。カプコンの成果(MHPの売り上げ、Xbox360でのデッドライジングなど)を、自分の主張が正しいことを証明するのに使っているのも、本当かっこ悪いですよね。「自分がやりたかったのは、こういうことなんだよ」と、他社の例をあげて得意気に話すより、自社ソフトでそうしたタイトルを出せていない自らの手腕を恥じるということはないんでしょうかね?上がこれでは、下で働く人たちも大変でしょうね。
とにかく、PS3で今年はバンナムから多数のソフトが出るようですから、ここで結果を出し、PS3市場を牽引していくことが至上命題でしょうね。
ゲーム業界で生き残れる国内サードは?
以上、カプコン側には賞賛を、バンナム側には苦言を述べてきましたが、まだまだゲーム業界はどうなるか分かりません。任天堂がDS、Wiiとこれまでの単純な高性能化路線を乱し、そして成功してしまっただけに、ゲーム業界は拡大しつつも混乱も起きている状態だと思います。各サード経営者は当然この先5年、10年と見て戦略を練らなければいけないわけで、これだけ業界が揺れている状態だと、会社ごとの判断に差が出てくることも十分考えられます。5年後サードソフトが会社がどうなっているか。生き残っているサードはどこか、興味深いところですね。
とりあえず、固定ファンを食い物にして、あくどくその場しのぎの金稼ぎだけに走るようなことは避け、業界全体が発展する方向に進んで頂きたい物です。