Wii対抗?SCEが棒状入力装置の特許出願

昨年9月の東京ゲームショーでの発表以降、注目を集めているWiiリモコン。E3でのPS3衝撃価格以降は、すっかりWiiが話題を奪ってしまっている状態ですが、このほどSCEWiiリモコンに似たような特許出願が特許公報にて公開されたようで、2chで話題になっています。

Wii対抗か,SCEが特許出願した画像認識使う棒状入力装置が公開 - デジタル家電 - Tech-On!
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○出願特許の参照先

まずは、今回話題となっている特許のネット上での参照先を明らかにしておきます。
この記事で取り上げられている発明は、特許電子図書館のページを通じて見ることが出来ます。

以下の検索ページの「文献番号索引照会」というボタンを押し、開かれる新規ウィンドウで「公開」を選択、2006-178948で照会すれば、該当の公開特許が出てきます。その後「リスト」ボタンを押せば実際の文章等を確認できます。
特許・実用新案を検索する

こちらの情報を見ると、国内で2001/7/19に出願した、出願2001-220048を分割して再度出願したもののようです。また、この2001年の特許自体、米国の特許出願が元となっており、それを日本でも出願したというもののようです。こちらの特許も、アメリカの特許データベース(Patent Full-Text and Full-Page Image Databases)を通じて見ることができます。

United States Patent: 6795068

○発明の内容

実際に、日経のニュースで照会されている出願の詳細な説明や図を中心に、内容をざっと見てみましたが、基本的にはeyeToyの応用技術、という感じですね。
従来のeyeToyが、単に1つのカメラで撮影した人物を大まかに認識してゲームに反映するのに対して、この特許では特別な棒状のコントローラを追加することで、より高精度で3次元的入力ができる、というもののようです。
発明としておもしろいのは、この棒状のコントローラの部分でしょうか。カメラで画像処理により物体認識をしようとすると、照明条件などがまちまちであるため、まず対象物体を抽出することが難しいのですが、それを棒状コントローラの色そのものを適応的に変化させることで、安定して物体抽出出来るようにしているようです。また、この抽出した棒の傾きなどを画像処理で認識し、3次元的な位置、傾きを取得するようですが、この時に棒の色に2色使用し、この2色の間で段階的な色変化を発生させることで、傾きなどをより精度高く取得できるようにしているみたいです。

とまあ、ここまでの文章を見て、なんのこっちゃと思われた人も多いとは思いますが、要するにこの発明を使うと、「カメラ+棒状コントローラでWiiリモコン単独での操作に近いことが出来る」、かもしれないということです。

○この出願の意味は?

日経のニュースは、あたかも「SCEWiiリモコンに対抗!」という感じに見えますが、上記のような内容を見ていると、どっちかというとeyeToyを研究していった延長線上に、今回の出願があるような気がします。とくに、元々の発明は2000年ですしね。ただ、再度出願し直した時期が2005年12月ということを見ると、Wii対策としてSCEとしても対抗特許を持っておこうと、意識的に出願した可能性はありますね。

ですので、この技術がそのまますぐに、PS3で利用できるようになると考えることはできません。そもそも、いろいろ工夫しているとはいえ、やはりカメラでの画像処理ではWiiリモコンのようなシンプルな仕組みと比べれば精度、入力速度の点ではかなわない気がしますし。

とはいえ、一応この技術とモーションセンサーなどを組み合わせれば、Wiiリモコンでの操作に近いことは可能になります。とくに、ヌンチャクを使わない操作は似たような操作性は実現できるでしょう。もっとも、本当にゲームになるレベルの精度が出せるかどうかは未知数ですけど、展示会などのデモで用意して、「Wiiで出来ることはPS3でも出来る」という主張をするだけなら出来るのではないでしょうか。
また、画像認識処理がきついとは思いますが、PS2でもこの技術を使えないこともありません。これが実現できれば、「Wiiは、PS2+棒状コントローラで出来ることと大差ない」と、Wiiの価値を落とすこともできるかもしれません。

デュアルショック時との状況の違い

とはいえ、振動機能やアナログスティックをデュアルショックパクった前回と今回とでは、だいぶ状況は異なっているように思います。ウィキペディアによれば、PSのデュアルショックが出たのは1997年11月で、SCPH-7000以降で標準搭載となっています。
プレイステーション - Wikipedia
また、デュアルショックの前に、1996年4月に、振動機能が一つのコントローラも出していたようです。
振動機能を考える

一方、Nintendo64の発売は1996年6月23日、振動パックは1997年4月27日の発売と言うことで、PSのデュアルショックよりは早い発売ではありますが、時期的にそれほど劇的な差はないと言えるでしょう。

ここで問題となるのは、「ゲーム機の価格」です。PS1も、発売当初の価格こそ39800円と、Nintendo64の25000円よりも高価格でしたが、64が出る前日(1996年6月22日)に19800円に値下げされており、実売価格では64の方が高価という状況でした。
ハードウェア情報(PlayStation 本体) 〜noihjp's Game Site〜
64も、1997年3月14日に値下げをしていますが、SCEデュアルショックを搭載するSCPH-7000で18000円に値下げしています。
任天堂、64ビットゲーム専用機「NINTENDO64」を3月14日から16,800円に値下げ

このように、PS1とNintendo64のときは、両方が同じような価格であり、その普及率は圧倒的にPS1が勝っていました。この状態でアナログスティック、振動機能をパクり、しかも標準搭載にまで持って行ったことで、「同じことができるならPS1」という判断を多くの消費者にさせることが成功したわけです。


しかし、今回は違います。販売時期がほぼ同時、そして価格はPS3Wiiの3倍弱。PS3にはPS2の互換機能という武器はありますが、振動機能に対応しなかったり、周辺機器が流用できなかったりと、不完全な互換性となっています。要するに、両方ともほぼ1から市場を作っていく必要があるわけです。むしろ、Wiiの方がGCとの互換性があり、過去の作品をベスト版的に展開するだけでソフト数が稼げるような状態。このように、PS1とNintendo64のときとは価格、普及率の面で大きく状況が異なるわけです。

PS3ですでにモーションセンサーが搭載されたように、未だにSCEは「任天堂と同じ機能があればこちらが勝つ」という考えを持っていそうですが、それは価格が同じぐらいで、普及率に差があった場合での話です。今回、単にPS3Wiiと同様のインタフェースを持っただけでは、「同じことができるならば、安価なWiiでいいや」という判断を下す人がほとんどでしょう。
逆に言えば、安易にインタフェースを真似てしまうことで、「Wiiで出来ることと大差ないものを、PS3は3倍の価格がかかる」という認識すら持たれてしまうわけです。しかも完全に後出しの状態では、パクリという批難もさけられませんし、「そこまでなりふり構わずまねしないといけないほど、Wiiの操作性は革新的ですばらしいものなんだ」と、SCE自身が証明している形になってしまうわけです。

○「ミー・トゥー」でない、独自性での勝負を

各種業界において、他社が売りとしている機能を、特許を交わしながら実装して「うちの商品でも出来る!」と主張することはなにも珍しいことではありません。相手の売りをつぶした上で、自社の独自機能を売るのは常套手段でしょう。また、最近の韓国なんかだと、『「ミー・トゥー」戦略』なる言葉が使われて、もっと露骨なパクリ合戦が繰り広げられてたりします。
韓国家電業界でも「ミー・トゥー」戦略が浸透 - 朝鮮日報

ただ、こうした独自性に欠けた、真似の試合は、結局は業界全体の新鮮さの欠如、価格のみでの不毛な闘いなりがちです。今回はPS3Wiiの価格差も大きいだけに、正直この真似戦略のメリットはかなり乏しいと言えるでしょう。今回話題になった特許も、単に特許公報に出たと言うだけだと思うので、実際の周辺機器として発売することは無いと、自分は思います。せいぜい、展示会デモ程度でしょう。(もっとも、前が前だけに、否定できないところは苦しいところですが。)

PS3もコストが高くなってしまったのはもはやどうにもならないかもしれませんが、せめて「PS3でしか出来ない、独自の魅力的な機能」を示すことで、その3倍近い価格差に説得力を持たせてほしいものです。