触れなくても「面白そう」なDSのゲーム

好調を持続しているニンテンドーDS市場。任天堂のソフトも、ポケモンを控えて7、8月は比較的手薄な感じでしたが、お料理ナビがすでに30万越え、小粒と思われたプロジェクトハッカーも7万で7憶広告のロコロコと同程度の売れ行きを見せています。
こうした、DSの好調な中で見逃せないのが、CMの存在です。それまでノーマークだったタイトルでも、Touch-DS!のサイトやTVでCMが流れ出すと、とたんに2chなどでも反応がよくなってきます。
そんな中、今度は9/2にDS Lite新色ジェットブラックと同日に発売する「超操縦メカMG」のCMもサイトで公開されました。

超操縦メカ MG

超操縦メカ MG

TV/CM −超操縦メカ MG篇− - Touch-DS.jp - Media Gallery

DSを使った特徴的な操作を、スーパーロボットで有名な水木一郎の歌にのせて紹介するCMで、実にゲーム内容もわかりやすく、楽しげです。ちょうど子どもの頃、スーパーロボットの超合金のおもちゃを買ってもらい、それを手に戦闘のまねごとをした、あの感覚に近い印象で、懐かしい感じもしますよね。


このCMに見られるように、最近のニンテンドーDSのCMは、DSを使ったゲーム中の操作、ゲーム画面を積極的に前面に押し出しています。実際、現在公開されているTouch-DS!のCM群を見ても、実際の操作、利用シーンを使ったCMが過半数を占めています。

Touch-DS.jp - Media Gallery

プロジェクトハッカーマリオバスケ3on3も、正直最初は全然興味がなかったのですが、CMを見ると「面白そう」と思ってしまいましたからね。お料理ナビも、対象であるお父さんや独身一人暮らしなどを例に、非常に分かりやすいCMだったように思います。

実際、マリオバスケ、お料理ナビのCMは、今月のCM好感度ランキングでも上位に入っているようです。

2006年8月度前期 “商品ひかれた”要因の高かった銘柄別CM好感度TOP10 - CMDB DATA-TOP

○ゲームのコンセプトをそのままCMにできるDS

こうしたDSのCMを見ていると、おもしろい傾向が見えてくるように思います。それは、「ゲームコンセプトをそのままCMにしている」ということです。いくつか例を挙げてみると、以下のような感じです。

  • 超操縦メカMG
    • タッチペンでいろいろ操作
    • 超合金ロボを使ったおもちゃ遊びのイメージ
  • マリオバスケ3on3
    • タッチペンでドリブルしてプレイするバスケ
  • お料理ナビ
  • 脳トレ
    • 手書きの数字、文字、音声入力で簡単操作

いずれも、それぞれのゲームコンセプト、ゲームの想定利用シーンに非常に沿った形でCMが作られています。これまでだと、むしろゲーム画面をCMで使わないことの方が多かったので、逆にストレートすぎて新鮮な感じもしますよね。

○「触らないとおもしろさが伝わらない」という誤解

これらのCMを見て、自分がこれまで繰り返し聞いていたある言葉に、ふと違和感を覚えました。それは以下の言葉です。

「DSのゲームは、触ってみなければおもしろさが分からない」

このことは、DS発売前から任天堂側から繰り返し発言されていた言葉で、自分も確かにそうした認識を持っていました。しかし、昨年末のもっと脳トレのCMから続くDSのCMを見ていると、必ずしもそうではない印象がするのです。
つまり、「見るだけで面白そうに思える」というということです。別に触らずとも、消費者には十分「面白そう」という感覚は伝わっている訳です。

これは、結局DSの大きな特徴として「直感的である」ということがあるからだと思います。たしかに、タッチペンを使った操作はこれまでのボタンを押す動作とは違い、従来のテレビゲームの感覚からは想像しにくいものです。しかし、一方で直感的な分、その直感的な要素を何らかの形で伝えることができれば、誰でも面白そうに思えるというメリットもあるわけです。

このことは、Wiiの前人気が高いことからも読み取れるように思います。Wiiのグラフィックは正直PS2と大差を感じないレベル。それにもかかわらず、大勢の人が「面白そう」と感じています。それは、ひとえにE3での人気ぶり、楽しそうにプレイする人の姿、感想など、様々な情報媒体を通じて、「直感的な楽しさ」を消費者に伝え、イメージさせることができているからのように思います。

つまり、DSでもWiiでも、ゲームの各々の主要要素が直感的なものであるならば、それをそのまま宣伝することが一番効果的な手段という訳です。非常にシンプルな流れですが、まさにゲームと宣伝との間で好循環が生まれていると言えるのではないでしょうか。
任天堂も、自ら「触れなければ分からない」と繰り返していますが、CMは実に効果的に行っています。こうした状態を見ると、「なんだよ、実は任天堂はすでに気づいていたんじゃん。」と、なんだか『してやられた感』を感じてしまいますね。

○グラフィックの宣伝効果の行き詰まり

こうしたインタフェースの進化による生まれた正のスパイラルの裏には、グラフィック偏重の宣伝活動の行き詰まりがあるようにも思えます。

これまでのゲーム機は、基本的にはグラフィック性能を向上するだけでした。8色から多色、2Dから3D、さらに高画質へと。たしかに、それはそれでインパクトがあったことは確かなのですが、一方でリアルタイム3D性能以上に、CGムービーの質の向上も激しかったように思います。そのため、ゲーム自体の売りがグラフィックであり、CMや宣伝ではさらにそれを豪華なムービーを使って誇張する、といった行為が繰り返し取られてきたように思います。

このように、グラフィックを売りにした宣伝活動は、素人でも見た目で分かりやすく、ファミ通など雑誌での掲載時にも目を惹くということで、これまで効果的な方法だととらえられてきましたし、PSの時代は特にそうだったでしょう。つまり、体験してもらわなくても、見た目で売れる、ということです。しかし、現在ではどこの会社も一定水準以上のグラフィックを誇っており、ぱっと見た目の差は大きくありません。このため、「見ただけでは他のゲームと違って何が面白いのか分からない」状態になっているのだと思います。
じゃあ、どこで差をつけるか?と言ったときに頼るのが、どうしても「○○の続編」とか「人気アニメ○○が登場するゲーム」ということになってしまうわけです。この辺が、続編、キャラもの連発の要因になっている気もしますね。結局、グラフィック表示能力、作成技術が向上したために、かえって見た目での差が出にくくなり今までの売り方では差別化しにくくなるという、皮肉な結果になっているわけです。

○正負両面を持つインタフェース進化

一方、DSで見せたインターフェイスの変化は、ぱっと見た目でこれまでとの違いが分かります。ゲーマーからは当初子どもだましのように写っていたところもあるでしょうが、これまでのPS2のムービーゲーに飽きてゲームから離れていった層には、新鮮に思えたのではないでしょうか。実際、DSは自分のように一時ゲームから離れていたのに戻ってきたユーザが多いようですし。また、タッチペンや音声はより日常の行動に近い操作だけに、これまでゲームを敬遠していた層の目を引きつけました。このように、目新しさ、関心という意味で、インタフェースの進化というのは非常に直接的で効果的な方法だったわけです。

ただし、インタフェースの進化も、いい面ばかりではありません。単に直感的な操作を導入しただけで練り込みが甘く、駄目駄目な操作になってしまうゲームも多数生まれてしまっています。目新しさがある分、開発者側もまだ使いこなせていないというデメリットもあるわけで、そう言う意味では諸刃の剣なところがあります。
とくに自分が強く思うのは、『「直感的」=「適した操作」でもない』ということです。直感的な操作と、そのゲームに適した操作は、一緒のように見えて違うものだと思います。この辺を勘違いしてしまうと、結果的にクソゲーになってしまうのでしょう。とはいえ、宣伝的なことを考えれば、直感的でなければ売り文句にはなりませんし、かといって適した操作でなければ購入者の満足度、評価があがりません。DSといえど、ゲーム制作が依然として難しく、ノウハウが必要なことには代わりありませんね。

○「面白そう」で「面白い」ゲームを目指して

以上述べてきたように、DSでのインタフェースの進化は、直感的なだけに実際に触れてみなくても「面白そう」に見え、従来のグラフィックだけのゲームとの差別化でき、宣伝活動も効果的に行いやすいといったメリットがありました。一方で、新しいインタフェースなだけに、本当に「面白い」ソフトを作るには、これまでにない産みの苦しみを味わう必要もあります。これは、Wiiについても同様のことが言えるでしょう。
しかし、本来こうした細かな配慮・工夫は日本人が得意とするところではないでしょうか?正直、グラフィックやリアル路線では、PCゲームがいち早く普及していた欧米に、日本メーカーは大きく負けているところがあるように思います。しかし、DSが空前のヒットをインタフェースの進化を世界より早く受け入れている日本だからこそ、インタフェースを生かした斬新で独創的なゲームをいち早く作ることができるのではないでしょうか?日本人はとかく自国を過小評価しがちですが、ゲームの世界ではまだまだ世界から羨望を集めている状態です。今こそ、そのクリエイティブな才能を発揮し、「面白そう」で「面白い」ゲームをガンガン作っていってほしいものです。