ここまでこだわればアリ?!「世界樹の迷宮」
任天堂フォロワーの知育ゲームばかりが目立つサードのニンテンドーDS向けソフトですが、ここに来てものすごくコアでディープなソフトが発表され、一部で非常に評判になっています。
それは、アトラスの「世界樹の迷宮」というゲームです。
= 世界樹の迷宮 =
すでに、Wikiまで出来ていたりします。
世界樹の迷宮Wiki - トップページ
このゲームの第一報が出たのは、先週のファミ通。
世界樹の迷宮 - 渋くハマれ! 本格派ダンジョンRPG!! / ファミ通.com *1
また、実際の雑誌記事にも載っていたディレクターへのインタビュー記事の内容を、さらに詳細にしたものが以下に公開されています。
『世界樹の迷宮』のディレクター新納一哉氏にインタビュー! / ファミ通.com
ここでは、このインタビューにもとづいてこの「世界樹の迷宮」に対してコメントしてみたいと思います。(ちなみにかなりマニアックかつ長文ですのでご了承ください。)
ディープで実力派ぞろいなスタッフ陣
まず、特徴的なのはそのスタッフ陣。非常にコアで、実力派がそろっています。
メインのディレクターはカドゥケウスを作った人。国内でもコアなゲーマーからの評価は高いゲームで、海外では任天堂のTouchGenerationの中に組み入れられるほど、ニンテンドーDSにおける代表的なソフトとなっています。(個人的には体験版をやって確かにおもしろいとは思ったのですが、あまりにアクション要素が高くてちょっと難しすぎなのと絵柄が好きじゃなかったので購入はしてませんが。)
キャラデザの日向氏は、ちょうど最近アニメ化された「吉永さん家のガーゴイル」で知名度が上がった人なだけに、ライトな層には受けそうですよね。最近はすっかりアニメ原作になってしまったライトノベル業界ですが、そもそも富士見ファンタジア文庫や角川スニーカー文庫は、ライトなRPGファンを増やす原動力となった媒体です。ロードス島戦記とか、ルナルサーガとか、スレイヤーズなど、有名なシリーズもいろいろ出ていますしね。同じライトな絵柄を選ぶのでも、ライトノベルの挿絵を描いている人から選ぶのはなかなかいい人選でしょう。ユグドラユニオンと似たような感じですよね。(もっとも、徹底的にディープなゲーム性から、このかわいい絵柄は似合わないと批難するゲーマーはいるようですが…。)
そしてなんと言ってもサウンド担当の古代祐三氏。ゲームミュージックシーンで一大センセーションを巻き起こした人物ですね。今のファルコムの土台を作り上げた一人と言ってもいいでしょう。彼については、後でさらに詳しくコメントします。
ストーリーの小森氏も、PSPでリメイクされたプリクラで高評価の人ですし、モンスターデザインの長澤氏についても、FFIXであれば結構なクオリティが期待できます。
以下、自分的にピンポイントにヒットする要素について、もう少し掘り下げてみたいと思います。
懐かしきRPGを思わせる雰囲気
ゲームのデザインとしては、基本的にはWizardryっぽいですよね。でも、それ以外にも「ゲームブック」や「テーブルトークRPG」の要素も含んでいる感じがするのが、オールドRPGファンにはたまりません。
<ゲームブックについて>
ゲームブックについては、今では知っている人が少ないかもしれませんね。詳しくは以下のWikipediaの項目を参照ください。
ゲームブック - Wikipedia
ようは、本の形でTVゲームのようなRPG、AVGが楽しめる、というものでした。サイコロや手書きマップ、チェックシートでアイテムやフラグの管理をユーザ自身が行う感じですね。当時はまだファミコンが出だした頃だったので、まだファミコンの表現力もボリュームも少なかった分、ゲームブックはゲームブックで独特なおもしろさがありました。本を読みながら、読者自身がシーンを想像してプレイするだけに、どんなTVゲームよりもリアリティを感じられたものです。
自分自身も、スティーブ・ジャクソンのファイティングファンタジーシリーズはやっていましたね。『サソリ沼の迷路』は持っていたような。
ファイティング・ファンタジー - Wikipedia
あと、鈴木直人著の「ドルアーガの塔」3部作も、その原作をもしのぐ圧倒的な世界観に感動したものです。
これをDS電撃文庫のような形式で、ゲームブックの形式のまま、完全にDS上で再現しても十分に面白いと思うのですが、どこかやらないですかね?下手にグラフィックだけのゲームよりも、こうした本形式のゲームの方が、細かい描写文章も増える分想像力がかき立てられていいようにも思うのですけど。
<テーブルトークRPGについて>
こちらも、最近では下火になっている形式のゲームです。
テーブルトークRPG - Wikipedia
このテーブルトークRPGは、上記のゲームブックと非常に深い関係にあります。ゲームブックの方は、あくまで本と読者の1対1の関係で、読者が実際のプレイをすると言うものだったのですが、テーブルトークRPGの場合には、一人が1キャラクターをまさしくロールプレイ(役割を演じる)形。ゲームブック自体にあたるのは、ゲームマスターという、これまた人間が対応する訳です。古くは、ダンジョン&ドラゴンズ(D&D)、日本でブレークしたのはやはり、ロードス島戦記からでしょうか。当時コンプティーク上で連載されていた、D&Dルールを用いたロードス島戦記のリプレイ形式が非常にコミカルかつ独特で面白く、その後の小説版で一気にブレイクしたように思います。
自分もD&Dやロードス島RPGとかは実際に友人とプレイしていました。自分でキャラの名前や容姿、性格を考え、自分自身でサイコロを振ってプレイする。ゲームマスター(GM)の時は、自分でダンジョンのマップやトラップ、モンスターなどを考え、パラメータも決め、ストーリーも作ってプレイする。非常にクリエイティブでリアリティの高い遊びだったように思います。その分、ゲームのおもしろさ自体もそうしたプレーヤやゲームマスターのスキルに左右されてしまうため、なかなかおもしろいキャンペーンにならないこともしばしばありましたが。テレビゲームなら受け身でおもしろいゲームを手軽に楽しめただけに、TVゲームの進化と共に廃れていった印象はありますね。また、各自がキャラになりきってプレイする、という意味では、オンラインMMOがそれに取って代わった感じもします。
今回のこの世界樹の迷宮は、とくに「手書きマッピング機能」があるところが、上記のゲームブックやテーブルトークRPGを彷彿させるものがあり、レトロコアRPGゲーマーにはたまらないものがありますよね。プレーヤキャラの職業や性別などを自由に選択してパーティを組み、プレイするというのも、そういったRPGの起源に通じるものがあって懐かしいものがあります。
また、世界観についても、下記の公式ページでの「小森さんにスティーブ・ジャクソン風でと言った」と言うコメントを見ても、本当に心揺さぶられちゃいますね。今になって、新作ゲームで「スティーブ・ジャクソン」という言葉を聞くとは思いませんでしたので。
コラム#1 RPG好きの自分が欲しいもの - = 世界樹の迷宮 =
ちなみに、今回気づいたのですが、スティーブ・ジャクソンには米と英の2人がいるようですね。今まで混乱していました。ウィキペディアを読んでもまだややこやしいですが。同時期に同姓同名の人物が世界に2人、同じ分野で活躍するというのは珍しいことですね。
スティーブ・ジャクソン (英) - Wikipedia
スティーブ・ジャクソン (米) - Wikipedia
以上、分からない人にはさっぱりわからない世界なのかもしれませんが、分かる人には非常に分かるコアな懐かしいRPGの雰囲気・世界観を持っているのがが、この「世界樹の迷宮」の大きな魅力の一つだと思います。
ゲームミュージックブームを意識した古代サウンド
そして、もう一点はなんと言っても古代祐三氏のサウンド。自分は彼の非常に大ファンで、イース、イース2、ソーサリアンなど、初期のファルコムで制作したゲームミュージックの数々は子供の頃なんどもなんども繰り返し聞いたものです。ファルコムを離れてからも、ザ・スーパー忍などで優れた曲を作っていましたし、スーファミの「アクトレイザー」ぐらいだと、知っている人もそこそこいそうな気がしますね。現在はエインシャントという会社を経営しており、カルドセプトなどを世に送り出しています。詳細はまたウィキペディアをご覧ください。
古代祐三 - Wikipedia
また、古代祐三の初期の名曲の数々が以下のサイトでアレンジされて公開されています。
レトロゲームサントラ推進協会
こちらのページでは「イース」や「ソーサリアン」など有名な曲の他にも、「ザ・スキーム」というイースと同時期の曲も公開されています。こちらも名曲揃いなので、興味ある方は是非聞いてみてください。ちなみに、自分のお薦めの曲は以下の曲でしょうか。
で、なぜここまで古代氏の初期の作品をプッシュするかというと、今回のファミ通インタビュー記事で以下のようなコメントがあったからです。
――古代さんにやっていただけるのは、なかなか豪華ですよね。
新納 そうですね。「やっていただけるとメチャクチャうれしいな」という気持ちでお願いしました(笑)。とくにサウンドに関しては、ゲームミュージックっぽい曲にしてほしいっていうオーダーをしているんです。映画音楽とか、環境音楽っぽい曲ではなく、僕らが子供のころに聴いた、胸ときめくようなゲーム音楽を鳴らしたかった。曲が聴きたいからゲームをやる、なんていうこともありましたよね。一時期、"ゲームミュージックブーム"というのがありましたが、「なんで突然そのブームは消えちゃったんだろう?」と考えると、やっぱり音源が豪華になってきて、ふつうの曲といっしょになってしまうと、ゲーム音楽である必要がないからなのかな、と。ですから、今回PC-8801(※4)のFM音源をサンプリングして使ってもらっているんです。
――へぇ〜(笑)。
新納 もちろん、それだけの音色だとつまらないので、ふつうのいい音源にプラスで、ベースの部分を88の音源にしたり、必ずその音を混ぜて作ってもらって、ゲームミュージックっぽさを強調してもらおうかなと。
いやー、ここまでやりますか。いい、実にいい。この新納さんは実に分かってらっしゃいますね。今の時代、ここまで突き抜けることが出来るのは、ある意味バカでしょう。もちろんほめ言葉ですw。
個人的に、古代氏のサウンドは、PC88時代が一番で、それ以降は音源がリッチになった分、オーケストラ的な曲が増えてきた印象がありました。今回は、実際にFM音源をサンプリングして使ってもらうという、音源の魔術師たる古代氏を挑発するような注文な訳で、非常に興味をそそられます。
もっとも、こうしたFM音源サンプリングを使うという手法は、現在ファルコム自身が、昔のゲームミュージックっぽさを再現するために使っている手法でもあります。それを、今度はいよいよ古代御大自らが手がけるわけです。はたして、長い年月を経て再び原点帰りした中、どういった曲を作ってくれるのか。正直、古代氏自身としては過去に偉大な作品がある分、相当難しいことだとは思います。まさしく、過去の自分との闘いとなるわけで。「それでも、古代祐三なら」と思わずにはいられませんが。
まとめ
以上、自分の思い入れに基づいて長々と書いてきたため、分からない人は引きまくりの文章だったように思いますが、でも、まさしくこの「世界樹の迷宮」は、「分かる人には分かる、分からない人には分からない」ゲームだと思います。その分、当然大きな売り上げが望めないことも容易に想像できます。おそらく、最初から予算の段階で絞っているんじゃないかと思いますけどね。損益分岐点を下げていないと、ビジネスとしては厳しい気もします。
ただ、最近はこうした年齢が上の社会人を対象とした、コアな商品も結構堅実な売り上げを見せていたりします。たとえば、「仮面ライダー変身ベルト」や「ゴールドライタン」などを商品化している以下のページなどです。
魂ウェブ
このように、非常にニッチな市場であったとしても、ここまでこだわりをもって作った商品であれば、ある程度市場は存在するわけ「アリ」なわけです。無駄にムービーや声優にお金を費やしたりしなければ、商売として成り立たせることも可能ではないでしょうか。また、最近はブログなどの口コミの影響も結構あるので、最初はコアなユーザに受け入れられれば、その後口コミでもう少し年齢の若いゲーマーにも広まっていく、という可能性はあり得るかな、と思います。インタビューで「カドゥケウスを主婦でクリアした人もいた」と言っているだけに、そのゲーム性そのものは現在でも通じるものだと思いますし。実際、今でも人気のある風来のシレンシリーズなどは、元になったゲームは「Rouge」というゲーム自体は非常に古い、テキスト表示ベースのゲームだったりする訳ですし。
Rogue-like Games - ゲームのお部屋
個人的な心配な要素としては、あまりに難易度が高すぎることですかね。自分も上記で思い入れを語ってはいるのですが、難しいゲームは当時も全然クリアできてなかったりします。この状態であまりに理不尽な難しさ、トラップなどを出されると、普通に太刀打ちできない可能性があります。その辺の微妙なさじ加減はなんとかして頂きたいな、と思いますね。デビルサマナーですら挫折した人間なので。あとは、なまじ開発者がディープすぎて独りよがり過ぎるゲームになること、逆に一般層も意識しすぎてマニアックさを詰め切れないことなんかですかね。また、コアなファンが多いだけに、ちょっとでも彼らの理想とはずれるとバッシングを受けそうなので、その辺も心配なところはあります。
とはいえ、こだわりの詰まりまくった「世界樹の迷宮」。知育ゲームあふれるDSの中でひときわ個性的な存在だけに、なんとか採算をとれるレベルで頑張って成功して頂きたいものです。