松下VSジャストシステム 考察

もう少し松下がジャストシステムに訴訟を起こし、勝訴した件について考察を。

マイクロソフトを訴えられなかった理由

まず、多くの人が疑問に思っていることは、「なぜ、松下はジャストシステムを訴えたか」ということでしょう。昨日の件でもふれましたが、今回争点となっている特許について、既存のWindowsにある「?ボタン」も同様の機能を持っています。そして、Microsoftはこのポップアップヘルプを使用する方法すら、MSNで公開しています。
状況依存のヘルプ付きのアプリケーションの作成
ジャストシステムを訴える前に、まずマイクロソフトを訴えろよ!」という批判も至極もっともなように感じます。
もちろん、マイクロソフトがやっているからと言って、ジャストシステムが特許侵害をしても許されると言えば、全然そんなことはありません。高速道路でスピード違反をしていて、「前の車の方がスピード出していたじゃん」と言っても無罪にならないのと同様です。
では、なぜ松下はマイクロソフトを訴えなかったのでしょう。自分は、「訴えたくても訴えられなかった」のだと思います。

すでに気づいている人も多いと思いますが、それはマイクロソフトWindowsOEM提供するときに結んでいた「NAP(the non-assertion of patents provision)」、いわゆる特許非係争条項です。これについては、いかの記事に詳しく書かれています。
 MicrosoftのNAP契約が引き起こしていた問題点
この契約は、簡単に言えば「Windowsを提供してやる代わりに、一切の特許訴訟を禁止する」というものです。記事では、このNAP制定当時は弱小だったから、と言っていますが、今考えればめちゃくちゃな契約ですよね。実際、既に公正取引委員会独占禁止法違反で排除勧告を行い、マイクロソフトも一応昨年2月にはこの項目を削除してはいますが、「既に締結済みのライセンスについてはNAPは有効」と強く主張し、今現在公正取引委員会と争っているところのようです。
そして、このNAPが、松下の知財戦略にも影響を及ぼしていると考えられます。周知のように、松下はLet'sNoteという軽量モバイルPCを展開しています。それらノートPCには、当然のようにWindowsが搭載されています。NAPを結ばない限りマイクロソフトはOSを提供しない。このことから松下もマイクロソフトとNAPを結んでいると類推できます。これが、「松下がマイクロソフトを訴えられなかった」理由ではないでしょうか?

ジャストシステムを訴えた意図

日本の大企業では、知財戦略のために、特別の知財部署を要して、組織的・戦略的に行動することが多いです。日本では、バブルジェットに関する徹底した特許網を構築しているキヤノンがよく知られています。
こうした、専門の特許部門は、とにかく「社内にある特許を利用していかに金をとるか」が主なモチベーションとなっています。当然、要求できる金額が大きい方が良いわけで、できる限り金を持っていそうなところで、自社の特許侵害が無いかを徹底して調べ、見つかったらそこにライセンス料払えと持ちかけます。そして、ライセンスが結べないようだったら、今回のように訴訟に出て、競合するようだったら販売停止へ、競合しないようだったら和解で多額のライセンス料を払わせるようにし向けるわけです。
今回の件で言えば、GUIに関する特許なので、対象はソフトウェアになります。PCの世界で最大のソフトメーカーはマイクロソフトです。ですが、そこは先に述べたようにNAPにより訴えることができない。そこで、次に大きなソフトメーカーで、ポップアップヘルプを使っているところ…ということでジャストシステムに白羽の矢が立ってしまったのではないかと考えられます。
※ただし、マイクロソフトは既にNAPの項目をライセンスからはずしているわけですので、次回松下がマイクロソフトと契約を更新した後には、今回と同様の訴訟をマイクロソフトに起こす可能性はあるかもしれません。

ジャストシステムを訴え、勝訴した影響

今回、訴訟を起こして勝訴したのですが、その反響はかなり大きいものとなっています。
ジャストシステム一太郎と言えば、DOSの時代には一斉を風靡したワープロソフト。現時点でも、役所や公務員などでは、一太郎を利用している人が数多くいます。また、昔から一太郎を使い続けていた比較的パソコン歴が長い人もいることでしょう。また、一太郎は使っていなくても、ATOKは使っていると言う人も大勢います。自分もその一人です。このATOKも他のFEPと比較して群を抜いた性能を持っているため、信者が多くいるわけです。
しかも、そのジャストシステムは現在赤字経営で非常に苦しい状態にいます。一太郎2005が売れなければやばい、という状態です。
 ジャストシステム、第3四半期も赤字
そんな、死に体に近いような会社を、大企業で業績好調な松下電器産業が訴えたのですから、判官贔屓の日本人としては、感情的に到底受け付けないわけです。
Yahoo!掲示板 6752(松下電器産業)では、松下に対する批判のオンパレードとなっています。本来株主であれば、ライセンス収入が見込めて喜んでも言いところなんですが、それよりも風評被害の方をおそれている模様です。
また実際、既に不買運動を呼びかけるいくつかのページも制作されています。
 松下電器産業製品不買運動《ヘルプアイコン特許》
 生活が、一番面白い【Sampoのダイアリ】 上記の人のブログ
 Boycott Panasonic & National
 トラバるまいか:一太郎 逝っちった?
さらに、松下の子会社が、一太郎用のOCRソフトを販売していて、そのことも「社内で意思統一ができていない」と嘲笑されています。
 一発!OCR Pro3 for 一太郎
たしかに、自分で販売停止を要求しておいて、それ用のソフトを販売しているのですから、行動が矛盾してますよね。まあ、上記で書いたとおり、企業の知財戦略は完全に事業部とは別物で、単独で動いているでしょうから仕方ないのでしょうけど。
思えば、松下としても訴訟を起こし、勝訴してしまうのは不本意であったのではないでしょうか?訴訟前に和解してライセンス提携できていれば、これほど騒動が大きくなることも無かったでしょうし。ただ、ジャストシステム「訴訟の過程のなかで、和解の話もあったが、とても承伏できるものではなかった」と言っているように、おそらく結構な額をふっかけたのでしょうね。そうだとすると、やはり日本人感情的に今回の批判は避けられないように思います。

○まとめ

果たして、この松下不買運動はどの程度の広がりを見せるのでしょうか?ネットの風評は、盛り上がり出すと止まらないところがありますから怖いですね。でも、松下としても今回の特許で多くの企業からライセンス料を得られればおいしいのは確か。論理的な正しさと、感情的な批判、どちらも至極もっともなだけに難しいところです。今後松下がどういった対応を取るのか、注目です。