任天堂株主総会質疑応答が公開〜ネガキャン、FE同梱版販売トラブルなどについても言及

6月末はいろいろな企業で株主総会が開催されました。自分は特に株はやっていませんが、ソフトバンク株主総会は一般観覧が可能だったので試しに応募、当選したので行ってきました。特に、質疑応答がカオスでしたね。原発絡みで熱くなる人とか、自分の最強のビジネスプランを延々としゃべり続ける人とか。

さて、そんな株主ではありながら実質一般人も参加してくる株主総会任天堂の総会でもいくつか興味深い話が出ていたようです。すでに一部ネットで株主の報告が出ていましたが、「任天堂関係の発言は、自社出し以外あまり信用ならない」というところが多々あるので、公式公開を待っていたところです。

その質疑応答が公式で公開されました。

2012年6月28日(木)第72期 定時株主総会 質疑応答

いろいろ面白い発言が見て取れますが、その中からいくつか個人的に興味を引いたものをピックアップして紹介してみたいと思います。

ネガキャン、悪意あるいたずらにたいして〜集合知の可能性に期待

Q4はネガティブな情報について。これはいくつか話題になっていましたがいろいろつっこんだ発言をしていますね。特に、いたずら目的での悪意ある発言について、任天堂も問題視しているのが分かります。

必ず、実際に行儀の悪い行動をとられる方というのは一定割合で出ますので、その方たちの発言を削除したり、あるいは、お子さんたちがそういうものに触れないように、何らかの形で守る仕組みを作ったりと、いくつかの方法を考えております。あまりにも早く、具体的に「こうします」ということを申しあげますと、「それをどうやってかいくぐって任天堂を困らせてやろうか」という方も出かねないのが現実でございますので、ここで今具体的に詳細は申しあげませんが、相当のパワーと、場合によってはコストもかけて、そこについてはしっかりやっていきたいと思います。

上記の「いかにかいくぐって困らせてやろうか」という表現にイラッと来た人はかなり危ないですね、思考的に。能動的な悪意というのは、特にネットでは目立ちますからね。

その後の、ネガキャンの考え方も結構はっきりと意志発表をしています。「一定以上の母数がちゃんとアクティブになるようにすると、圧倒的多数の感想の前には、少数のそういう人たちの意見というのはだんだん見えなくなる」、「「集合知の可能性」、人の知恵がたくさん集まったときに非常に面白い、そして魅力的な世界が作れるという可能性は信じたい」というのは、任天堂らしいという感じですかね。たとえばニンテンドーダイレクトのニコ生なんかは、それが任天堂側も感じられているところな気がします。一部不快なコメントがあっても、多くの参加者がポジティブならそっちが主流になりますしね。ライブでない映像だと一人でいろいろ工作ネガキャンもできてしまいますが、ライブなら結構「集合知」が生きてくる感じです。「しるしをつける」のくだりは、MiiverseでニコニコのNG共有みたいなシステムを導入するって示唆ですかね。あれも、露骨な悪意を省けるという点ではいいと思います。

FE覚醒同梱パック販売トラブルについて〜途中で販売法変更検討も、景表法違反を考慮して断念

次は、Q7のFE覚醒同梱版発売時のトラブルについて。
2012年6月28日(木)第72期 定時株主総会 質疑応答

自分は購入はしなかったですが当日ネットで掲示板やTwitterでの阿鼻叫喚を追っており、まずいなぁと思っていたところです。販売開始時間の告知をせず長時間待たせる、購入しようとしてもサーバーがダウンして買えない、などなど。購入者が時間を拘束されて徒労に終わるという、非常にストレスのたまる展開だったように思います。このあたりは以下の記事で触れています。
「ファイアーエムブレム覚醒スペシャルパック」販売狂想曲〜4月14日の聖戦 - わぱのつれづれ日記

これについて、岩田社長も素直に謝罪していますね。数量の見込み違いであったと。また、販売方法については、地方民のことも考えてオンライン販売にしたとあります。報告は後から岩田社長に上がったようで、その後予約や抽選販売に切り替えることも検討したようです。これは自分の上記記事でも触れたところですね。ただ、これについては以下のような発言が。

実は、期日や数量をいったん限定して発売を開始した商品を、後から販売方法を変更できるのかという検討をいたしました。しかし、これは社外の弁護士の先生に相談した結果なのですが、期日や数量を限定していったん発売を開始した商品を後から追加で予約販売や抽選販売に変えてしまいますと、今度は最初に買われた方が、「期日や数量が限定だから私は買ったのに」というご不満を持たれる可能性も含めまして、景品表示法という法律に触れる可能性がございました。「販売方法を変更すると(法律に)触れる可能性が高いです」というコメントをいただきました。

最近コンプガチャ騒動でひときわ注目を集めた景品表示法ですが、この「限定販売を後から販売方法変えること」について、どうやら景表法に触れるという弁護士コメントがあったようです。これは言われてみればなるほど、とは思うのですが、失念していました。たまに、会場限定発売グッズを「余ったから」と別のイベントとかで売ることがあるのですが、もしかしたらこれも触れてしまうんですかね?余ったものならいいのかな?業界関係者の方も、一度このあたりチェックしておいた方がいいかもしれません。

いずれにせよ、FE覚醒同梱パックでは改善はむずかしかったとのこと。結果的には複数回の販売をすることで対処しましたが、それでも混乱していましたからね。「二度と感じていただかないよう努力」と言っていますので、次の販売では改善を期待しましょう。

株価対策について〜結果で評価、ソーシャルは国内のみ

そして、株主総会かつ損害部分でも一番大きい株価について。Q9でつっこんだ話をしていますね。この中で一つ面白いデータが「魅力的なゲーム機」というところ。
http://www.nintendo.co.jp/ir/stock/meeting/120628qa/img/slide02_l.jpg

Wiiが実際のソフト売れ行きと比較して高い魅力を示しており、これを「次のWiiUを買ってくれる潜在性」の根拠として示しています。面白いデータの示し方ですが、そのまま直結するかどうかというと疑問が残るところも。

あと、ソーシャルゲームの下りも面白いですね。

実は国内ではソーシャルゲームの影響を心配される方が非常に多くて、私は国内のマスコミの記者の方の取材を受けると、たいていソーシャルゲームとの競争について質問を受けるわけですけれども、一方で海外に行きますと、誰もそれを聞きません。みなさん聞かれるのは、「スマートフォンがこんなに普及したらゲーム機は買わなくていいし、ゲームは安く買えるので、任天堂はこれからどうするのか」という質問はされますけれども、ソーシャルゲームは実は国内独自の現象でもあるんですね。今年のE3でも、私はソーシャルゲームとの競争について誰からも聞かれませんでした。ですから、それくらい日本と海外の認識は違うんだということも、あわせてお知らせしておきたいと思います。

これは、自分も前から感じていたことです。日本では、ガラケーのころからの流れでモバゲー、グリーが大きな存在感を見せていますが、海外で騒がれていたのはどっちかというとiOSでのアプリ、スマホでのゲームなんですよね。モバグリのような、ソーシャルのプラットフォームの中の無料・課金ゲームではなく、AppStore系のもの。Facebookという存在で映画などもあって「ソーシャル」という言葉が持ち上げられ、iPhoneの影響で「スマホアプリ」が持ち上げられ、その二つのイメージにガラケーから乗っかってきたのがモバグリという印象です。だから、当然現時点ではまだ国内のガラパゴス的なもので、そもそも分けて考えるべきというコメントはとても納得できます。もっとも、「国内で海外に打って出られるコンテンツをなんてこと言うんだ!」「こんなこと言っているから任天堂は古いんだ」とアナリストやソーシャルゲー関係者の方々が喜んで叩く未来図も用意に想像できますけどね。海外でいくつかの日本製アプリが上位に来ただけで、まるで日本のソーシャルゲームが世界を制したかのように大騒ぎして報道している昨今ですから。

あとは、E3で価格発表などをしなかった点について報道でネガティブにされたのもコメントしてますね。

それから、大変残念な報道の中に、「発売日や価格の発表を見送った」という報道もありました。もともと、「E3では発売日も価格も言いませんよ」と言っていましたし、かつてWiiを発売したときも、ニンテンドーDSを発売したときも、ニンテンドー3DSを発売したときも、E3で発売日や価格を言ったことは一度もないんです。そうであるのに、何か自信がないから発売日や価格の発表を見送った、みたいなトーンで記事が出てしまいまして、それがお客様に何となく心理的な影響を与えて、結果的に株価の形成に影響してしまうということがございます。

「あれだけ前に説明してあってもだめなのかよ」という、溜息が聞こえてきそうな発言です。ゲーム関連で経済紙のニュースなどもよく読むようになりましたが、いかに杓子定規というか、筋書きを作ったニュースというのが多いのか最近特に感じています。自分が詳しくない業界のニュースも、こうした例になぞられてちょっと疑問を持って捉えるようにしたいなと思います。

その他の株価についても、結局、結果が全てというのが、現状の任天堂の認識みたいです。分かりにくいから最初は伝わらない、ということで、今回もそれは結果的には覆せるのか。WiiUには自分も懐疑的な目で見ているだけに、ぜひその不安を払拭するようなアピールをしてぎゃふんとさせてほしいものです。

マルチ展開から外される懸念について

あと、個人的にWiiUで気にしていた、「PS3や360の次世代機と性能差がついて、マルチからまた外されないか」ということについても質問され、答えていました。質問者もこれは結構分かっている人ですねぇ。

これについては、他社の次世代機のスペックが発表されてないので明言は出来ないが、Wiiの時程の差は生じないのではというコメントですね。

少なくともWiiのときにあった、「他社の機械はいわゆるHDTV対応、高解像度の画像が生成できて、グラフィックスの能力がまったく違う」というようなことは、Wii Uと他社さんの機械についてはありません。もちろん他社さんがより新しい世代の機械を出されたときに性能は上がるかもしれませんが、一方で、Wiiのときに他社さんの機械との比較で感じられたほど、Wii Uと他社さんの機械が劇的な差を生むとは、必ずしも思っていません。

それ以降は、WiiUがバランスを考えたハードであること、それからE3から繰り返している、いまいち我々にはまだ実感が得られない「ソーシャルウィンドウ」の説明をされています。

たしかに、現状でもアンチャーテッドやスカイリムなど、グラフィックは今やPCの低スペックにも劣るようなPS3や360で、高いレベルのものが出ていますからね。そういう意味で、解像度的には当分1080pが上限でしょうし、細かい描写や影、オブジェクトなどで差があっても、WiiのSDのような差にはならない、という印象なんでしょう。

ただ、個人的には、開発側の視点として一機種だけ性能が劣っている状況があると、結構負担が大きくなるような気もしています。現状でも、PS3のメモリが少ない点やメインCPUだけだと処理性能がいまいちなせいでマルチ開発に支障をきたしていることがあります。このため、PCである意味リファレンス的に作りコンシューマに落としていく中で、いろいろ制約としてスペック差が開発の調整コストに響くんじゃないか、というのは懸念しています。結果的に、コストと売上の観点からマルチから除外、とならなければいいんですけど。洋ゲーは昔からマルチ当たり前だったのであまり心配してませんが、和ゲーはコストぎりぎりでマルチのノウハウ&予算がどれだけかけれるか微妙ですし。

オンラインサービス、DL販売について〜月額制は無し、DL販売も特典は別検討

それ以外ではオンライン関連。Q2、オンラインサービス月額制について。これは現状やるつもりがないと発言されていますね。あくまでMiiverseなどの口コミを通じて、一人当たりの購入本数を増やしてもらうことで利益をあげると。XboxLivePSN+では月額有料制にして利益を追求していますが、そういうビジネスモデルにはしないとの返答。アナリスト受けは悪いかもしれません。

後、Q16のダウンロード版の店頭発売について、特典をどうするのかということ。
2012年6月28日(木)第72期 定時株主総会 質疑応答
これは非常に自分も気になっていたことなんですが、「今のところ予定は無い」という状況のようですね。POSAを用いた店頭でのダウンロード販売は、「在庫を持たないこと」がメリットとなっているため、特典のように在庫になりうるものとの相性は良くないという考えのようです。とはいえ、まずは最初のNewマリ2、鬼トレの販売状況を見て、それを元にいろいろ検討してほしい、ということのようですが。

お客様がどのように行動されるかということを見極めてから動きたいと考えておられる関係者の方が多いので、私たちとしては、まず『New スーパーマリオブラザーズ 2』や、先ほどの『東北大学加齢医学研究所 川島隆太教授監修 ものすごく脳を鍛える5分間の鬼トレーニング』といったソフトをデジタル販売したら、全体の販売量の中のどれぐらいがデジタルで売れましたということを、まず世の中にお示しして、そのことでみなさんがイメージする市場のボリュームというのが分かり、じゃあそれに例えば「ある程度在庫リスクをとってでも、初回特典型のダウンロードの販売というのも考えてみよう」と考えていただけるような流れを作りたいと思います。

後、「後から特典が送られてくる」という販売のやり方もありと言っていますね。このあたり、特典商法を売りとしているアニメイトとかその手のショップとの相性はどうなのかが気になります。オタク系のゲームでは特典ありが当たり前で、予約購入するのが当たり前なところもあるため、PSのダウンロード版などは魅力減なところがあったのですが、任天堂のやり方なら特典商法いけるのかも、と期待してたんですよね。なので、幾分消極的とも思える発言にちょっと残念なところも。まあ、在庫を持たないうんぬんは、理詰めの岩田社長らしいなぁ、とは思うのですが、オタク心的にはここはもっと重視すべき点だと思うんですけどね。アイマスSFなんかも、「VitaでやるにはDL版が欲しいが、それだと店舗特典がもらえない」というジレンマがありますし。任天堂には、特典も含めてパッケージ版とDL版が同等になる仕組みを目指して欲しいと思います。

まとめ〜公式ならではの細かなニュアンス、今後の情報発信に期待

以上、いくつか自分の気になったところをピックアップして紹介してみました。やはり、マスコミとかに切り取られた発言だけでは分からないところもいろいろ見れて面白いですね。一方で、やっぱり色々説明に苦労しているところは、それは分かりづらくても当然なのかな、と思うところも。

ともあれ、結果が全て、というアピールをした任天堂。7、8月は3DSをプッシュ、9月以降にWiiUを購入する気になってもらうアピールをするということですので、これからの情報発信に期待したいと思います。