インタビューから見るPS Vitaの戦略
昨日のソニーカンファレンスで詳細の明らかになったPS Vita。サプライズらしいサプライズが無く、3G通信関連の複雑さやプランのいまいちさから、ネットでの反応ははいまいちなところがあるようです。
さて、そんなVitaですが、いくつか注目される項目について、ソニー関係者のインタビューが掲載されています。
ソニーの「ヴィータ」は「3DS」と競合せず=SCE幹部 | Reuters
【西田宗千佳のRandomTracking】開発責任者に聞く「PlayStation Vita/Suite」の正体 -AV Watch
以下、こちらのインタビューから何点か興味深いところをピックアップしてみてみようかと思います。
主体は3Gモデル〜スタートダッシュ狙う
まずは、ロイターのSCEJ河野プレジデントのインタビューから。先日のソニーカンファレンスの司会を務めていた方ですね。ネットだと、PSN情報漏洩問題公表前日にゲーム関連ブロガーとSCEとの飲み会に顔を出していて、いろいろ話題になった人でもあります。
SCE飲み会問題 - jinとはちまとガジェット通信ファミリーまとめwiki
さてそんな河野氏のインタビューですが、ロイターの抽出方法が意図的なのかどうなのか、結構気になる発言もしています。
まずは以下の3G関連の発言。
――年末商戦でヴイータを国内発売する予定だが、今期はどのくらい販売する計画か。
「目標は公表していないが、初回出荷の50万台の3Gモデルには100時間分の通信料を無料でつけるので、この50万台を早期に売り切るつもりだ。とにかくスタートダッシュが大事」
――ヴィータは、3GモデルとWiFiモデルの販売の比率はどのくらいになりそうか。
「価格差は5000円だが、3G搭載モデルはいつでもどこでも接続できる環境を提供することで、ゲームの楽しみが広がって新しいゲームができる可能性がある。成長戦略のための新しいチャンスを広げるためにも3Gモデルをメインに売っていきたい」
この発言を見ると、メインは3Gモデル、ということのようですね。50万台に100h分のSIMを付けることで、3G版を爆発的に普及させ、3Gを使ったサービスを定着させる土台を作りたい、ということでしょうか。
個人的にも、3G回線を積んだゲーム機というのはVitaが初ですし、GPSもWi-Fiモデルには付きませんから3G版に関心があります。Wi-Fi版はPS3で言えば初期の20GBモデルのようなものですからね。将来的に各種ゲームでGPSを利用したゲーム要素入れてきても、WiFi版では遊べない、ということもあるでしょうし。SCE側としても、WiFi比率が圧倒的に高くなってしまうと、そうした3G+GPS特有のサービスや要素が広まりにくくなることを懸念しているのでしょう。むしろ、Vitaは3Gモデルのみにするぐらいの潔さが必要だったかもしれません。3Gでのサービスを重視するなら。(実際は今のところ、3Gサービスの魅力がまだ見えず、プリペイドプランがいまいちだったことから、WiFiモデルの方が人気ありそうですけど。)
モンハン新作がPSに出る予定は「今のところなし」
続いて、3DSで出ることが電撃的に発表されたモンハン3Gと4。MHP3rdが400万を突破した、PSPの牽引役となったキラータイトルだったわけで、この3DS版の影響でPSP、Vitaへのモンハンがどうなるか、皆関心を持っていたところです。これについてもコメントしています。
――カプコンが「モンハン4」を3DSで開発中ということだが、モンハンの最新作はソニーから出ないのか。
「今のところ、プレステにモンハンの新作が来るという話はない」
MHP3のVita版、もしくはMHP3rdGがPSPとVitaぐらいに開発してそうな気はするんですが、やはり年末に3DSで出るということだけに、少なくともソニーが「モンハンが出る」と現時点で発言できる立場には無いようです。カプコンとしても、年末の3G、次の4と3DSで売らないといけませんから、MHP3rdGやMHP4があるとしても発表時期はまだ先になりそうですしね。とはいえ、こう断言してしまうと、やはりPS陣営にとってはマイナスな感はあります。河野氏が何を思って発言したかは不明ですが、「他社のことなので、コメントさせていただく立場にはない」ぐらいで濁しておけばよかったと思うんですけどね。
3DSとは直接競合せず
続いては、3DSとの競合関係について。
――任天堂の3DSとの勝負をどうみるか。
「社内ではヴィータと3DSは直接競合しないと思っている。商品コンセプトも違うし、見た目も違うし、(3DSの値下げで)価格も違う。ヴィータと3DSのどちらも持つという人はいるかもしれないが、どちらかを買いたいと比べる人はあまりいないと思う。かなり商品性が違う」
これも結構微妙な発言ですね。「Vitaの方が3DSより高価で、よりコアなゲームが出るからかぶらない」ということでしょうか?値段の点がまず不明。最初にVitaの価格を発表した際はほぼ3DSと同額だったはず。相手が値下げして、自分たちはそのままだと、それがプラスの意味で差異になると考える発想が不明です。あと、競合しないといいますが、今回の3DSではミクといいモンハンといい、露骨にPSで流行ったコンテンツを狙ってきており、非常に競合していると思うんですけどね。
専用メモカなのはセキュリティのため
続いてはAVWatchの方の記事へ。返答してるのは、SCEの事業部長、松本氏。まずは専用メモカの理由について。
SCE広報:色々検討を進めてはいました。汎用のものを利用することもできましたが、一番最適なものを考えると、セキュリティの面も含め、我々の独自のものを作った方がいいのではないか、ということになりました。
松本:その辺は議論はあるのですけれど、将来のことまで考えると、自分達のコントロールができるメディアにしておこう、という結論になった、ということです。
名目的には、独自企画での囲い込み、利益独占を狙ったのではなく、セキュリティということのようです。データのコピーの際も、Vita側で操作する、みたいなデモもやっていましたね。今までのように、PCでマスストレージデバイスとして認識させて、という使い方ではない模様。動画とかのデータ転送も、専用ソフトを使うんでしょうね。手軽に、安定して使えればいいんですが。あと、自分はMacも使っているので、Mac用ソフトも用意して欲しいところです。米とかじゃ、Macのみの消費者も最近じゃ結構いるわけですし。
PSSuiteとPSアーカイブで、PSソフトの共通化無し
その他で気になったところというと、PSSuiteによる仮想環境。今までもVMを通じた複数プラットホームはありましたし、それこそFlashなんかがその位置にいたのですが、PSSuiteはゲームとAndroidでの共用を狙っています。
松本:それは別です。Vita上では、別途PS1のエミュレータが動きます。PSSとPlayStation Storeで現在販売されているPS1タイトルについては、現在、別のものとして扱われます。
ビジネス的に将来、PSSで買ったお客様にはPS1のタイトルがそのまま使える、ということがあるかもしれませんが、今は別々になっていて、同じコンテンツを使いたい場合には、申し訳ありませんがもう一度お買い上げいただく、ということになってしまいます。
どうもPSSuiteにおけるPS1ソフトと、これまでPSStoreで買っていたPSアーカイブのPS1ソフト、こちらに共通性はなく、たとえPSアーカイブ版のソフトを持っていても、PSSuite用には別途買わないといけない模様。この辺、アーキテクチャの違いで支払いが変わることなど、素人には理解不能なところでしょうね。UMDを持っている人にDL版を優先価格で購入、みたいな話も出ていますが、レガシーなものから抽象化された形のものへの移行が、あまりスムーズに出来ていない印象です。
まとめ〜節々で見つかる、気になる点
以上、ざっと見てきましたが、個々の項目で、ちょくちょく「それってどうなの?」みたいに引っかかるところがありますね。Vitaのハード自体は、素直なソフトの作りやすそうでいいハードだと思うんですが、大企業特有のちぐはぐさというか、利権が絡んだ泥臭さというか、その辺でバランスが悪いというか、顧客第一に成りきれていないというか、そういったところが見えてしまっているようにも思います。
OS面やネットサービス面では、任天堂を凌駕しているところがあった領域でもあります。据え置きだとMSの洗練さに及びませんでしたが、携帯にはMSが参入してきてないだけに、任天堂には質のレベルで負けることは出来ないでしょう。あとは、政治的、経済的なところで足を引っ張らないよう、頑張って欲しいところですね。