カプコン稲船氏が辞めて独立へ

停滞と閉塞感が漂うゲーム業界。任天堂がライトな新規顧客層への拡大を図る一方、サードは続編とブランド力に頼った固定客層向け商売が多く、ハードもソフトも分散傾向を見せています。各社、自社のIPをどう活かしていくか、その判断に問われている中、衝撃的なニュースが飛び込んできました。それは、カプコン稲船氏の退社のニュースです。以下、本人のブログ。

社長のblog : さようなら

また以下の4gamerのインタビューで、詳細に語られています。

4Gamer.net ― 稲船敬二氏は,何を思い,何を考え,何を目指してカプコンを辞めていくのか。渦中の氏に直撃インタビュー(デッドライジング2)

このインタビューが、実に興味深い内容となっています。ゲーム業界の中でトップ企業カプコンの開発統括という、業界に対して非常に大きな影響力と経験を持っている稲船氏が、現状の課題点や今回の退社の背景を語ると共に、日本産業に共通して存在する問題点なども含めて語られています。はてなブックマークTwitterでも、非常に大きな反響を呼んでいるようですね。

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自分は、特にゲーム業界のビジネス的側面に興味を持っていて、これまでいろいろ話題に取り上げたりコメントしたりしていました。それだけに、元々そうしたビジネス的な現実論、思い切りと割り切りを巧みに行なっていた稲船氏は、個人的にリスペクトしていた人でもあります。特に、カプコンという大きな組織の中でうまく舵をとりながらもいろいろ新しい戦略を実現していたところに感心していただけに、そのカプコンを辞めてしまうというのは非常に衝撃的でしたね。

今回の話には、「日本企業の中にいると成功も失敗もない」といった、なるほどと思わされるエピソードも満載です。HDゲームでの利益分岐点が高いといったことも、ある程度予想通りのところもありますが、具体的に金額を添えて語られると非常に分かりやすいですね。日本の内製で開発するとコストが問題外に高くなること、海外に委託する必然性があることなど、ゲーム業界に限らず他の産業でも共通する話題で、共感する方々も多いのではないでしょうか。こういったコスト計算を踏まえていろいろ冒険をできる稲船氏みたいな人物は、そんなにいないと思うんですよね。

一方で、個人的には稲船氏の才能は、大企業で多数の人を動かす中でこそ発揮されるもののようにも感じます。強烈な個性とカリスマで、少人数で外側から切り崩していけるタイプにはあまり感じ無いんですよね。それに、やはり物事を変えようとするにはそれなりに「力」が必要になります。外に出てその力を失った状態でどこまでのことができるのか。政治の世界で言うと、小泉純一郎自民党ながら非常に改革派で、自民党という大きな権力を用いた上で中からいろいろ物事の変革を図るという手段をとりました。稲船氏も、そういった形で、カプコンにとどまったまま、その権力を利用してゲーム業界の内側からいろいろ変革を起こして欲しかったところなんですけどね。

色々と夢やビジョンを語っておられますが、やはりこれまでに大企業をやめて独立したクリエーター達が皆厳しい状況にいることを考えると、稲船氏も独立して成功することは非常に難しいとは思います。どうしても、資金繰りに苦労してしまいますからね。坂口氏などの時のように、MSや任天堂ソニーといったファーストが囲い込む意味もあって支援する形になれば別ですけど。カプコン側に、今やりかけのラインをひきうける準備はあると持ちかけ、蹴られたというエピソードを語っていますが、稲船氏としてもこれからはこうした仕事を取ってきたり、お金を取ってくることにこれまで以上に大変になってきそうな気がします。

とはいえ、ゲーム業界の今後の発展を考える上で、こうしたビジネスもゲーム作りも分かっているバランス感覚のある人物は非常に貴重なのは間違いないと思います。独立を契機に埋もれてしまうことがないよう、なんとか頑張って行ってほしいですね。