任天堂、Wii向けユーザー評価付廉価版「みんなのおすすめセレクション」発表

年末年始、例年通りの強さを発揮した任天堂。DSではトモダチコレクションのロングヒットが続き、低調気味だったWiiでも「NewスーパーマリオブラザーズWii」が大ヒットし、話題を集めました。NewマリオWiiは、最大の商戦機年末年始を通じて売れ続け、わずか7週間でトリプルミリオンを達成と、桁違いの売れ行きを見せていますね。

『New スーパーマリオブラザーズ Wii』が最速で300万本突破 - ファミ通.com

一方で、任天堂のソフトラインナップの強さは健在なものの、その他サードのソフトの売れ行きが伸び悩んでいたのも、Wiiの問題点でありました。DSでは、任天堂ヒット後にサードのソフトも売れていき、Wiiもそうなるだろうと楽観的に構えていたのがよくなかったと、以前岩田社長がコメントしていたこともあります。Wiiでのサード不調やPS3の新型以降の伸びを見てか、最近はサードの据え置きゲーム機向けソフトラインナップにおけるWii離れが見られており、任天堂以外のゲームも遊びたいユーザーからの不満も少なからず聞こえていたと思います。

そんなソフト不足な状況を受けてか、今回任天堂から新たなソフト販売がアナウンスされました。その名も「みんなのおすすめセレクション」です。

http://www.nintendo.co.jp/wii/selection/index.html

みんなのおすすめセレクション 428 ~封鎖された渋谷で~ - Wii みんなのおすすめセレクション アークライズ ファンタジア - Wii みんなのおすすめセレクション テイルズ オブ シンフォニア -ラタトスクの騎士- - Wii みんなのおすすめセレクション 朧村正 - Wii みんなのおすすめセレクション ドラゴンボールZ スパーキング! メテオ - Wii みんなのおすすめセレクション ファミリースキー ワールドスキー&スノーボード - Wii みんなのおすすめセレクション ワンピース アンリミテッドクルーズ エピソード1 波に揺れる秘宝 - Wii

任天堂なりのアレンジを加えた「ベスト版」

過去のソフトを低価格で売る、いわゆる「ベスト版」というやつですね。これまで、任天堂ハードではサードが独自にベスト版という扱いでカプコンなど売っていましたが、任天堂自身はあまりこうした販売方法を積極的にはとってきませんでした。GBAの頃に「バリューセレクション」というのはありましたが、それ以来でしょうか?GC
ソフトをWiiの操作性に置き換えた「Wiiであそぶ」シリーズも、ある意味ベスト版に近い売り方ではありますけど。

http://www.nintendo.co.jp/n08/valueselection/index.html
Wiiであそぶセレクション

今回、新しい取り組みとしてあるのが「みんなのニンテンドーチャンネル」で得られた評価を使ってランク付けしているところ。

みんなのニンテンドーチャンネル - Wii

これまで、サードなどが「ファミ通おすすめ」シールとかを貼って売ることはありましたが、任天堂のインフラの中でこうしてランク付けして発売されるのはあまり例を見ない試みですね。しかも、任天堂自身が評価付けをしたわけではなく、あくまで「みんなのニンテンドーチャンネル」で集めたユーザー評価に基づく、というところが面白いところです。

ニンテンドーチャンネルの評価に基づくソフトの提示としては、以下のようなサービスも2月まで試験運用されています。

http://www.nintendo.co.jp/n10/osagashi_guide/index.html

店頭でソフトパッケージをかざすと評価が分かったり、おすすめソフトを検索できるなど、ユーザー評価をゲームの販促および顧客満足度につなげようとする、任天堂の取り組みですね。今回のアレンジされたベスト版も、その流れにある方針のように思われます。

ファミ通レビューなどとの違い〜購入者の実評価を反映

これまでゲームのランク付けとしては、ファミ通レビューが一番強い影響力を持っており、そのことが逆に弊害となっていることもありました。特に最近はショップ側の入荷本数の指標として使われていた分、「売れ行き予想」的な側面で得点がつけられる傾向も強く、作品自体の評価としては疑問符が残るところもありました(人気作の続編は内容かかわらず高得点、良作でもニッチと思われるものは低得点、など)。最近では、ファミ通自身もこうした声を反映してか、先日新しい「みんなのクロスレビュー」なるサービスを発表したところでもあります。

ファミ通.comの新サービス、“みんなのクロスレビュー”を公開 - ファミ通.com

上記は、週刊ファミ通レビューに加えて、ファミ通.com上での投稿者レビュー、さらにAmazonのレビューの得点を加えて、正規化して平均したものになります。発売前の少数のファミ通レビューワ以外の指標も加えた得点となるため、客観性は増すサービスとなりますが、Amazon評価や投稿レビューの場合だと、購入していなくても採点できるところもあり、これはこれで故意に低得点・高得点をつけたりする悪影響が懸念されるところでもあります。

それに対して、「みんなのニンテンドーチャンネル」でのおすすめ機能は、Wii本体で起動されたゲームに限って、プレイヤーが評価を加えることができるところがユニークなところになります。

みんなのニンテンドーチャンネル - Wikipedia

投稿も一度限りで、評価指標もいくつか存在しているものなので、似た傾向を持つ人であれば適したソフトを探しやすいですね。もっとも、こちらも任天堂が最終的に管理しており、第3者機関でないだけに一層情報操作などの危惧も無いとはいえませんが、そのあたりの信頼性はこれまでの積み重ねやオープンとの口コミとのずれなどで図る形でしょうか。

任天堂・岩田社長のポリシーとの比較

上記のように、ユーザーの意見を元にランク付けをした上で、過去の高評価作品を低価格で売るというのは、任天堂によるベスト版の一つの解と言えるでしょう。元々、任天堂は「価値は変わらないはずなのに、高い値段で買ってくれた人が損した気分になる」ということを懸念してあまりベスト版商法をしていませんでした。以下の2008年の任天堂経営方針説明会のQ&A18のところで、岩田社長の考え方が述べられています。

 ちょっと例が違いすぎますけど、マンションを先に買われた方が、同じマンションの別の部屋が売れ残ったんで、すごい安い値段で売っているということを聞くと、ものすごく心情を害されます。一生に滅多にない回数の買い物と、ゲームソフトやゲーム機を同列に語るのは間違っているかもしれませんが、本来同じ価値のものを買っているはずなのに、どうして先に応援した人ほどたくさん負担するのがこれほど常識になっているんでしょうか。しかもそれがずっと続いてきましたから、お客様はどんどん学習するわけです。で、いまやゲームソフトが出て、特にピーキーな売れ方をするタイプのゲームソフトで、発売後何カ月後か経ってからちょっとそのソフトに興味を持っても、「もうちょっと待ったら安くなるかもしれない」と思うと、もう買えないわけですね、気持ち的に。これは何か間違っているんじゃないかということをずっと考えていまして、そうでないあり方は追求できないだろうかというようなことを、私は波多野とも宮本ともさんざん相談をしまして、なるべく最初の値段を維持するモデルでチャレンジしたいと思っています。
 もちろんそんなことを言っていられない状況に追い込まれれば、あるいは環境が大きく変われば、値段を改定せざるを得ないこともありえますので、未来永劫そういうことはしませんということは申しあげられないんですが、どうも「段階をもって値下げをしながら需要を喚起するというモデルは、お客様にどんどん見透かされてしまって、いまは以前のように効かないんじゃないか」ということを感じていて、逆に任天堂は、この間ずっと自社ソフトの廉価版というのをほとんどやらずに来ています。
 ごく一部例外としてゲームボーイアドバンスの末期、あるいは最近ですとゲームキューブ用につくったソフトをWiiでつくりかえた「Wiiであそぶセレクション」で、ある種廉価版的な位置づけのものがありますが、出してからそういうものが出るまでの期間が非常に長いですから、通常の、ほとんどのものが中古でグルグル回ってしまうから、それを止めるために廉価版を発売するというのとは違う構造で動いておりますので、逆に任天堂のものはいつ買っても、先に買って損をしたということが少ないという信頼をお客様と任天堂の間につくることができたら、それは長期的に見て大きなメリットがあるんじゃないだろうかということを考えています。
2008年10月31日(金)経営方針説明会/第2四半期(中間)決算説明会 質疑応答

今回の方法では、「価値が変わらない」という点についてはユーザーランクをつけることでクリアしている、ということなんでしょうか。任天堂ソフトが含まれていないのも、継続して売れているという点や上記考えを反映したいという意地も感じられます。一方、値下げについては、「損した気分」というところは改善できていませんが、やはり過去の安くしないと売れないという、正直なところを反映した形なのではないでしょうか。ランク付けにより「いいものを早くからプレイしていた」という自負心につなげたいのかもしれません。

Wii本体も値下げしましたし、Wiiのラインナップ不足も事実。上記の言葉にもある「そんなことを言っていられない状況」といったところを、精一杯取り繕った対応のようにも見て取れます。良作のはずが任天堂ソフトの中に埋もれてしまっていたサードの救済策の一つ、ともいえるかもしれません。


P.S.
実際、今回のリストにあるマーベラスの2タイトルでは、このベスト版に合わせてすばやくHPを更新。アークライズファンタジアの方では、クリエイターの喜びの声などを公開しています。

マーベラス公式ウェブサイト - MARVELOUS!
マーベラス公式ウェブサイト - MARVELOUS!

こうした反応に加え、任天堂から小売に販促用のポスターや飾り等を提供すれば、これまでファミ通がやっていた「ファミ通おすすめ」+「レビュー店頭版」と似たような売り方も出来ますね。おすすめどころがファミ通から任天堂に変わる形でしょうか。ファミ通の影響力は、普段あまりゲーム雑誌を読まないWiiの層にはあまり利いていないように思われるので、Wiiのサードゲームの売り方に苦しんでいる小売にとっても、一つの販促材料になるかもしれません。(逆に、ファミ通的にはビジネスモデルの一環を脅かされる形となり、面白くないでしょうけど。)

Wiiの購入者層は、基本情報受け身な人が多いと思われます。CMや口コミなどではやっているものを買うという形で。その結果購入したものの満足度が高ければ、その先の信頼感につながるわけで、任天堂が強いのは広告+満足度の積み重ねが利いているところもあるでしょう。そうした正の連鎖をサードにも生むことができれば、Wiiで獲得した新規層をさらに広いジャンルに拡散することもでき、DSのようにおいしい市場になるんですけどね。

あとは、こうしたアプローチが、上記コメントにある「客に見見透かされる」ことへの対策として、本当に成功するかどうか。やはり、ベスト版はベスト版ですしね。新品で値崩れしているものを再度仕入れることへの抵抗、中古で高値安定していたものの相場を崩される不快感など、そういった中古も扱う小売への負の面もあるでしょうから。

今後の新作ラインナップ充実にも期待

とりあえず、任天堂的には「禁断の果実」に手を出した感もある今回の対策。一方で、428などは自分も大好きなソフトなだけに、これを機にプレイヤーが増えてくれるのも期待したいところはあります。あまり関心が無くて評価が高いことに気がつかなかったもの、時期を逸して手を出せなかったものなどに消費者が手を出すチャンスではあります。

後は、ベスト版ではない新作ソフトをどれだけ充実させていけるか、それが今後のWiiの行く末を左右することでしょう。今後のそちら方面の発表にも期待したいところです。


P.S.
ちなみに、Xbox360でもユーザーのおすすめ度をつけたり、検索したりするサービスが8月のアップデートにより搭載されています。

「おすすめ度 (User Ratings)」 : 「ゲーム マーケットプレース」のすべてのコンテンツを簡単に評価することができる、5 つ星の評価システムを導入します。お気に入りのゲームや追加コンテンツに自分のおすすめ度をつけたり、コンテンツを他のユーザーがつけたおすすめ度の高い順に並べて、気になるコンテンツを簡単に見つけ出したりできます。これは皆様から最もご要望の高かった機能のひとつであり、今夏に導入予定です。
http://www.xbox.com/ja-JP/press/release/20090602-1.htm

任天堂の取り組みがうまくいくようなら、今後なんらかの形で応用してくるかもしれませんね。PS3でもレーティング機能をつけてインフラ構築を始めたりするかもしれません。