世界トップになったWii 〜 挑むべきさらなる課題

現行世代の据置ゲーム機としてしのぎを削るWiiPS3Xbox360。現時点ではWiiが世界的に好調な形ですね。Video Game Chartzによれば、だいぶ前に任天堂Xbox360を抜いて世界トップに浮上していたことが伝えられ、N-Stylesさんのところで大きく特集エントリが公開されていました。

[NS] Xbox360を抜いた!Wiiの世界累計販売台数が1,000万台を突破!

もっとも、VG Chartzは世界的な販売台数を把握するには素人には手軽に使えるいいソースな訳ですが、集計方法やソースなどが明確に示されているわけではなく、時々変な数字を見せることもあり、高い信頼性を持つソースとは言い難いところがあります。

そんなわけで大きく取り扱うことにちょっと躊躇していたわけですが、本日日経から信頼できるソースからの集計で任天堂Wiiがトップに躍り出たことが報道されました。

任天堂「Wii」世界首位に・据え置き型ゲーム機、日米欧販売 - NIKKEI NET

上記記事では、ソースとして日本ではエンターブレイン、北米はNPD、欧州は独Gfkを用いているようです。集計期間はエンターブレインが8月末まで、残り2つが7月末までとなっており、Wii:902万台・Xbox360:880万台・PS3:370万台となっています。VGChartzの数字だと、Xbox360なんかはかなり前から1000万台を越えていたのですが、思った以上に開きがある感じですね。このずれが、集計地域の差などによるのか、それともそもそもVGChartzがいい加減なのか、ちょっと気になるところではあります。

任天堂が挑むべき課題」についての現状把握

先日は「プレステ3はなぜ失敗したのか?」という本が出版されて注目され、本日は「ソニーがCell事業を売却検討」という大きなニュースが各種流れたこともあり、元々一部でしか存在感のなかったXbox360を置いておくと、どうも一般には「Wii勝利」という印象が持たれている感じがします。

でも、本当にそうなのかな?

自分は昨年のE3の後の2006年6月、以下のようなエントリを公開しました。

わぱのつれづれ日記 - 「任天堂が挑むべき課題」について

  • PS2の圧倒的なシェア
  • 移ろいやすい浮動層
  • 既存ゲーム開発者の抵抗感
  • 愚鈍なサードソフト経営陣
  • 任天堂の寡占状態
  • 困難なジェスチャ認識
  • Wiiリモコンの人体に及ぼす影響
  • Wiiリモコンの物的危険性
  • かさばるリモコンの拡張
  • 常時電力を使うことへの抵抗感

今回は、上記上げた課題について、現状どういう状態になっているのか、そして今後どうしていく必要があるかなどを考察してみたいと思います。

PS2の圧倒的なシェア】について

まずは「PS2の圧倒的シェア」について。前のエントリでは、「すでにPS2を持っているライトなゲーム層は、よっぽどのことがないとWiiに乗り換えない」という趣旨でしたが、これは思ったよりはPS2Wiiを達成できているものの、今一歩という感じですね。

実際、未だにPS2は毎週PS3を上回るほどの量で一万台以上売れていますし、先日のAC3のように、PS2販売のソフトが週販一位となることもちょくちょく起きています。PS2にとどまり、現世代ゲーム機の行方を見定めているライトゲーマーはまだまだ結構な量がいそうです。Wiiの場合、後述する任天堂寡占状態というのがあり、これまで64、GCに見向きもしなかったようなPS世代には、正直任天堂据置ゲームについて「問題外」「興味なし」と思っている食わず嫌いも結構いそうな印象があります。こうしたPS2にとどまるユーザーを引き込むには、体験台などでPSユーザーにも触りやすい形にすること、PSで有力だったサードタイトルをWiiに持ってくるなどの施策が必要なように感じます。

もっとも、上記のようなゲーマーの絶対数の減少が思った以上の速度で起きており、DSやWiiで獲得した新規ユーザーの影響力が相当大きくなっているため、相対的にはこのPS2層の取り込みに苦戦していることは、あまり大きな問題としては顕在化していない感じはしますが。

【移ろいやすい浮動層】について

いわゆる、DSで入ってきた新規ユーザーは飽きやすい、という論調ですね。ただ、思った以上に根強い印象がします。ゲーム売り場行っても、女性の方を多く見かけますし、そういった方も単なる実用ソフトばかりでなく、ちょっとしたパズルゲームとか、ライトなゲームを手に取っているのを見かけます。いわば、携帯電話のゲームに近い感覚で、すぐにDSから飽きて離れてしまうよりも、自分のプレイできるレベルで「次」のソフトを買い求めているという感じです。NewマリオやゼルダDSなんかは、そうした人をより従来ゲームに近づける意味でよい役割を果たしていると思います。

ただ、肝心のWiiの方はどうかというと、正直うまくできてませんよね。せっかくWiiSports、はじめてのWiiの方向性で多くの客をつかんだ割には、その後に出すソフトがマリオだったり、ドンキーコングだったりと従来の任天堂キャラゲーばかり。フォーエバーブルーはいい感じでしたが不具合回収で機会損失しましたし、マリオパーティ8ぐらいですかね、うまく新規層に売り込めたのは。ただ、マリオパーティも結局パーティゲームというジャンルが似通っていて、WiiSportsを買った人が次に買うという感じで、あまり新規Wii層拡大にはつながっていない印象もあります。

ですので、まだ浮動層のつなぎとめをWiiで出来ているとは言い切れないと思います。このあたりについての岩田社長の考え方は、ほぼ日で連載されていた以下の記事で書かれていますね。

王様と奴隷 - HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN - 1101.com

この記事にあるように、新しい提案を続けていき「気づいたら遊び続けていた」とすることが必要でしょう。現在、そうしたタイトルに欠けているのは、クオリティを高めるための延期で、本当はWiiを軌道に乗せる意味ではこの時期にいくつか出したかったとコメントしていました。とりあえず年末商戦はスマブラマリギャラという従来ゲームでの勝負になっているので、いつになったら新規ゲーマー向けのタイトルを出せるか、時期的なものも含め頑張る必要がありそうです。(本当はマリオよりWiiMusicとかWiiFitみたいなタイトルを先に出した方がいい気もするんですよね。まあ、マリギャラはNewマリオ組を取り込める可能性が大いにありますけど。)

【既存ゲーム開発者の抵抗感】【愚鈍なサードソフト経営陣】【任天堂の寡占状態】について

このあたりは、「任天堂とサード」という関係からすると似たような話なので、まとめて考察したいと思います。

まず、Wiiのリモコンによるモーションセンサー、ポインティングによるゲーム性の変化に、保守的な開発者が乗り気でないというところですが、これはなんだかんだ言って、サードのソフトが集まらないことの一つにはつながっていると思います。特に、後で述べるような「モーションセンサーで出来ること」を任天堂自身がまだWiiSports以降示せていないのも痛いでしょうね。

とはいえ、これまでのやり方で開発チームの上に上がってきた人、そして技術力に自信を持っている開発者の発言力が強い会社は別ですが、スクエニの和田社長のように他の業種からやってきた人間が采配を取っている会社だと、あまりこうした開発者の声だけでは会社は動いていない感じです。最近ではDSに主力タイトルを多数投入するようになってきていますが、なんだかんだ言ってこうした経営者は「売れること」が正義なんですよね。任天堂が、サードでもWiiで多数売れることをうまくアピールできれば、ソフトはそろってくるでしょう。ただ、気を付けないとすぐにフォロワーばかりの、マンネリゲームばかりになってしまいますけどね。現状のWiiは、コナミカプコンの一部タイトルぐらいしか、あまり冒険している感じはしませんので。このあたりも、岩田社長がコメントしているので、任天堂開発者も含めてよく読んで考えてもらいたいところです。

易きに流されないために - HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN - 1101.com

あと、任天堂寡占状態についても、やはりジャンルやキャラが偏ることから、あまりよい状態とは言えません。サードソフトがなかなか売れないのはサードのせい、と言う意見ももっともではありますが、元々任天堂色の強いゲームを出して、それに付いてきた客層ですから、それなりに客層にも癖があるわけです。他のサードのやり方とは違う客層をつかんでいる訳ですので、そうした任天堂ゲーム機の客層へ売る方法を分かってないサードには、任天堂から教えてあげるしかないところもあるでしょう。

これについても、岩田社長が別途インタビューで答えています。

“Wiiソフトは任天堂独り勝ち?”の懸念に岩田社長がコメント:欧米ゲーム事情/ゲーム情報ポータル:ジーパラドットコム

「現状、任天堂のシェアが大きいことについては懸念しているが、ハード立ち上げ時期は仕方がなかった。今後はサードも増えてくるし、その支援もする」という内容ですね。実際、PS3Wiiとのスタートダッシュの差は、明確にファーストのゲームソフト開発能力に起因するところもありましたから、この発言は一理あることでしょう。あとは、本当に岩田社長の言うようにサードが付いてくるか、ですね。サードのこれまでのゲーム開発・販売の仕方を曲げてまで付いて越させるには、DSのときのような圧倒的な勢いと台数が必要になるように思いますので。

PS3Xbox360、もしくはPS2での従来ゲーム作りにサードがこだわっている内に、任天堂自身のゲームが飽きられて終息、というのが一番任天堂としては怖いシナリオでしょう。なんとか、サードも集めて客層の幅を出す必要があるでしょうね。

【困難なジェスチャ認識】について

ヒューマンインタフェースに興味のある自分としては、Wiiによるモーション認識を面白いとは感じながら、一方でその難しさも強く感じていました。実際、研究レベルでは相当高度な理論、技術を使って解釈していたりしますからね。個人的には任天堂が早くから紹介していたLiveMoveに可能性を感じていたのですが(参考記事)、未だこれが可能としているようなモーションのパーソナライズ機能などを備えた製品は出てきていません。WiiSportsも、チューニングがすごいだけで、実際の認識はかなりヒューリスティックなレベルで実現しているっぽいですしね。

むしろ、Wiiの持つモーションセンシングの可能性について、あまり暖かい目で見ておらず、ドラゴンクエストソードが出たときにハードごと購入した、というようなライトゲーマー、ドラクエ好きには、そのDQSだけを見て「Wiiのモーションセンシングはしょぼい」「むしろ邪魔」という評価をされているところもあるように思います。

PS3でさえ、SIXAXISを使った直感操作にこだわったLairが、その操作性について酷評されていたりしますよね。これに対して、SCE側が「それはレビューワが単にモーション操作が嫌いなだけじゃ」といった反論をして笑いものにされていましたが、正直Wiiも人ごとではないと思います。

Game*Spark - : モーションコントロールに理解を…『Lair』異例のレビュアーズガイドを配布 by Kako

ネットを見ても、相変わらず「モーション操作」というもの自体に大きな抵抗を感じてる人を見かけます。また、ゲーム的思考が強すぎて、単純にボタン操作を動きに置き換えただけだと、それを簡単に見抜いて冷めてしまう人もいます。Wiiリモコン自体、結局一つの加速度センサが付いているに過ぎず、どんな動きでもトレースできるほどの魔法の道具ではないことが次第に一般にも認知されてきています。そもそも、絶対的な位置をとる手段がないですからね。せいぜい、ポインティング用のカメラぐらいで。

任天堂は、次の一手としてWiiFitとバランスボードを出してきましたが、個人的にはこの方向性もあまり好ましくないと考えています。たしかに、モーション操作の斬新性を継続するため、新しいデバイスを出すというのも一つの手ではありますが、これは消費者にさらなる出費を促します。というか、新しいデバイスを出す前に、もっとWiiリモコンによる斬新で快適な操作を、任天堂が示してくれないと、と思ってしまいますよね。ですから、WiiMusicを後回ししてでもマリオギャラクシーを完成させることを宮本茂氏が判断したのは、正直微妙に感じました。まあ、マリオギャラクシーWiiリモコン+ヌンチャクに特化したゲームなので、この中で斬新な可能性を示してくれることに期待したいところです。

Wiiリモコンの人体に及ぼす影響】【Wiiリモコンの物的危険性】について

この2点については、Wiiにおいて一番はじめに顕在化した問題ですよね。リモコンすっぽ抜けでテレビなどを破壊、人をうっかり殴って怪我させてしまう、Wiiのやりすぎで手首を痛める等々。自分も、すっぽ抜けは未だにないですが、手を机にぶつけて痛めたり、手首を使いすぎて腱鞘炎になりかけたりと、危ないところはありました。とくにこれらが起こるのがWiiSportsが一番可能性が高いというのも、Wiiにとっては皮肉だった感じです。

前から自分が主張しているように、これらは任天堂Wiiを発売したことに起因して新たに生じた危険性な訳ですので、すべてを「プレイヤーの自己責任」とするのは厳しいものがあります。そのため、任天堂もしきりに安全を呼びかける提案や表示をしていますが、これが逆にうざく感じてWiiの魅力を引き下げる一つにもなっているのが、つらいところです。WiiSportsのように大きく身体を動かすゲームも、なかなか作りにくくなってしまったんではないでしょうか。

今後WiiSportsのフォロワーとしてデカスポルタやWiiLoveGolfなどが出てきますが、これらでも同様の問題が生じると、ますますWiiでのモーション操作の活用が難しくなってくるかもしれませんね。

【かさばるリモコンの拡張】【常時電力を使うことへの抵抗感】について

この二つについては、課題としては残っていますが、そこまで強く悪影響とはなっていない感じですかね。

ただ、クラシックコントローラとリモコンをつなげることについては、未だ従来ゲーマーからの抵抗はありますし、最近ではWii用のGC互換ワイヤレスコントローラが発売されたりもしていますので、やはりなんとかして欲しいところはありますね。

Game*Spark - : Thrustmaster、Wii用ワイヤレスクラシックコントローラ発表 by RIKUSYO

上記は結局Wii本体のGCポートを利用してあまりスマートではないので、個人的にはリモコンと違和感なく一体化させてプレイできるクラコンをずっと期待しているしているんですけどね。どっかだしてくれませんかね。

電力については、電気代自体に文句を言う人はそこまでいませんが、WiiConnect24をあまり活用できていないことには不満は多いですよね。ニュースやお天気を事前にダウンロードしておく、程度で24時間つけておくことは、いくら電気代少なくてもなんかいまいちですしね。できれば、マリオギャラクシースマブラXといったキラータイトルで、Wi-FiだけでなくWiiConnect24をガンガン活用して欲しいところなんですけど。現状、正直WiiConnect24の可能性はあまりアピールできていないと思います。


まとめ〜好調ながらあまり課題は解決されておらず、今後の飛躍に期待

以上、過去に自分が上げた「任天堂の挑むべき課題」と照らし合わせて現状を見てきましたが、正直各項目とも「解決した」と言えるレベルのものはまだなさそうですね。DSによるユーザー層の広がり、WiiSportsによる強烈なインパクトで、ファミリー層で受け入れやすくよく売れてはいますが、その中には複数の課題点を抱えている状態だと思います。

これに加え、後藤弘茂氏が上げた「Wiiの死角はソフトウェア開発リソース」というのも、最近のソフトの空白を見ると感じられますし、今年の夏に連発したお粗末な不具合連発による任天堂の品質管理に対する信頼低下も、任天堂が解決しなければ課題でしょう。

とにかく、現状はいい風が吹いていますし、年末も「マリオギャラクシー」「スマブラX」という計算できるタイトルが整っています。また、PS3東京ゲームショウで結構いいソフトが集まってきましたが、まだ「全てのサードが集まる」という状態にはなっていませんし、海外でのXbox360の強さから、サードにはマルチ化や様子見といった態度が目立ち、こうした点も比較的Wiiには有利にはなっていると思います。

ただ、問題は年始以降ですね。任天堂も開発能力には限界がありますし、Wiiも性能が比較的低いとはいえGC以上。DSの脳トレみたいに極短期間、少人数で開発できるほど易しいソフト開発ではないんですよね。そうなると任天堂一社だけでリズムよくソフトを出し続けるのも大変でしょうし、サードが集まってくることは必要でしょう。また、新規ゲーマーは驚きがなくなってしまえば簡単に飽きてしまいますし、それをつなぎ止めるような「サプライズ」を今後も提案していくことが必要だと思います。

DSの場合も、今のWii同様序盤はソフト販売で苦しみ、一時はPSPの方が本体販売が抜かれている時期が続きました。それを、nintendogs脳トレという新機軸で一気に挽回、年末のマリカ&ぶつ森で突き放したという経緯があります。現状のWiiは、nintendogsに当たるのがWiiSportsで、これをロンチで出したきりという感じ。マリカに当たる弾がスマブラXマリオギャラクシーになると思いますが、まだぶつ森に相当するタイトルが出せていない感じですよね。DSと同じ戦略をとっていても、岩田社長が言っているように王様は飽きてしまうので、もっと斬新なネタの提供が必要でしょう。DSの時にもいった覚えがありますが、任天堂が獲得したユーザー層を持続させて行くには、「消費者を夢から覚めさせない努力」が必要だと思うんですよね。

時価総額においてはすでに日本を代表する一大企業となった任天堂。幸い、岩田社長の現状分析やビジョンはしっかりしているようなので、現在の好調に甘んじることなく、岩田社長の指示の元さらなる「驚き」を消費者に絶えず提供してくれるよう、挑戦し続けてくれることを期待しています。