マルチ展開も視野?!〜 FF13はクロスプラットホーム対応エンジン上で開発

PS3Xbox360Wiiと出そろって9ヶ月ほど経過した今世代のゲーム機戦争。現在のところ、WiiPS2に匹敵する売上スピードで世界最大数の売上を上げ、続いて1年のアドバンテージを生かして海外で特にソフト売上に置いて大きなシェアを持つXbox360、そして最後に日本では2番手につけながら世界的には苦戦しているPS3と続く状況となっています。

独自なインタフェースと任天堂という巨大ファーストのいるWiiと違い、性能やサード陣営で似たような立ち位置のPS3Xbox360。海外では、ロンチの段階からPSとXbox360のマルチだらけだったわけですが、国内サードも、徐々に似たような展開を見せています。当初はPS2で成功したサードの定番タイトルの多数がPS3独占となっていたのにもかかわらず、次々とマルチ化していますよね。当初からXbox360に乗り気だったカプコンデビルメイクライ4を、SCEべったりだった光栄も真三國無双5をマルチ展開にし、セガもすでにPS3で発売中のバーチャファイター5スマッシュコート3をオンライン対戦可能な状態でXbox360への移植を行うなどしていますし。

そんな中、PS3独占の有力タイトルとして大きな存在価値を示していたのが「メタルギアソリッド4」と「FFXIII」。MGS4についてはマルチ化の噂が絶えずされながらも、先日の発表会ではPS3用と公言されました。それに対して、FFXIIIについては次世代ゲーム機戦争の様子見をする意味でも、一旦開発と止めて今年度はリメイク中心で行くことがスクエニからアナウンスされていました。そのFFXIIIについて、一つ興味深い発言がされたようです。

スクエニ製「White Engine」をクロスプラットホーム化、FFXIIIもこの上で開発

発言がなされたのは、アメリカのオースティンで開催中の「AGDC2007」というイベント。この特別講演でスクエニ田中弘道氏がいろいろな話をされた模様です。4Gamerで速報記事が来ていますね。

4Gamer.net ― [AGDC 2007]スクウェア・エニックスの田中弘道氏とSage Sundi氏が語る,「ファイナルファンタジーXI」の国際化と現状(ファイナルファンタジーXI)

上記記事の最後で、若干触れられていますが、どうやら前々からFFXIII向けに開発されていた自社製ゲームエンジン「White Engine」がクロスプラットホーム対応に修正され、FFXIIIや次世代MMOをこの上で開発する、という発言内容だったようです。

Final Fantasy XIII Running on 'Cross-Platform' Engine - Game | Life - Wired Blogs

田中氏は元々FFXIでの中心人物だけに、主眼はスクエニの次世代MMOのマルチプラットホームだとは思います。ただ、FFXIIIもクロスプラットホームエンジンで開発していることが言及されたのであれば、なかなか影響力ありそうですね。詳細は、近いうちに発表という話なので、どの程度明言されていたのかはわかりませんが、以前に元スクエニ坂口博信氏もFF13用White Engineがクロスプラットホーム化することを聞いたと言ってますし、ある程度信憑性は高そうです。(まあこの手のは、体裁的に即時訂正コメント出ることも多いですけどね。)

坂口博信氏が語るXbox 360、ブルードラゴン、ロストオデッセイ - GameSpot Japan

ロスプラットホームエンジンで開発されることの意味

今回の発表が、別にFFXIIIをすぐにマルチ展開するということにはつながりません。ただ、スクエニがその気になれば、比較的少ないコストでマルチ展開することができる、ということなんですよね。
それに、前作のFFXIIも、北米だけで150万本の出荷を記録しているタイトル。和製RPGとしては、海外でもかなり通用する強力なタイトルなわけなんですよね。

スクウェア・エニックス、「ファイナルファンタジーXII」。北米で150万本出荷、日米合計で390万本達成

こうした状況を考えると、とりあえず和田氏的には状況がどう転んでもいいように、自社ソフトはクロスプラットホーム対応のエンジンでの開発にし、日和見ながら販売を行うという選択をしていそうですよね。もっとも、クロスプラットホームとは言っても、性能的な点から考えれば、基本はXbox360PS3、そしてMMOも考えるとPCを加えたマルチ対応というところでしょう。Wiiは、多少移植はしやすいよう作ってはいるかもしれませんが、完全に互換があるレベルでの対応はさすがに無理だとは思いますね。もっとも、FFXIなどはPS2とPC、Xbox360で対応しているぐらいなので、グラフィックが全てでないゲームなどではWiiも含めたクロスプラットホーム戦略もありうるかもしれませんが。

FFXIIIがマルチ化された場合の影響

しかし、もし仮にFFXIIIがマルチ化されてしまうと、PS3に与える影響は相当大きいでしょうね。元々現時点ではPS3にはソフトがあまりそろっておらず、値段も他機種より高いため、基本的にPS2からの信頼感、今後ゲームが集まることの期待感が一番の購入動機につながっていると思われます。

SCEFFXIIIPS3独占とするためには、MSの「Only on Xbox360」戦略のように、金銭も含めた契約でSCEスクエニを縛る必要がありそうです。ただ、スクエニの和田社長は徹底したビジネスライクな思想の持ち主で、CESA会長でもあることで「ソフトメーカー主導」を強く意識した人物です。あれだけPS2で稼いでおり、ソニーが株主として加わっているのにもかかわらずDSに本格参入、利益拡大と株価上昇とかしている経営者ですからね。そんなくせ者和田氏を、現在のような微妙な立場のPS3で契約で縛れるかどうか。結構難しいようには感じます。

揺らぐPS3の立ち位置

実際和田氏はSCEに対して、以下の記事にあるように、かなり厳しいコメントも出しています。

「ソニーには揺るぎないPS3戦略が必要」、スクエニ和田社長 - ITmedia News

PS3は、圧倒的勝者だったPS2の後継として多大な期待を受けて発売されましたが、CellとBDという新しいテクノロジー、そして久夛良木氏のスーパーコンピュータによるコンピュータエンタテイメントの進化という高い理想を詰め込みすぎた印象があります。ゲーム機として圧勝することが前提のシナリオで、それ以降のソニーの利益につながる技術を載せた感じですよね。

しかし、そのためにコストが上昇、発売や生産の遅れなども生じ、完勝前提だったゲーム分野での立ち位置がすっかり怪しくなってしまいました。ゲームにおける性能競争ではXbox360と、和製ゲームや斬新さではWiiと、両面からの強い攻勢をうけて、当初あった「ゲームでの圧倒的影響力を生かした高性能汎用コンピュータの普及」という大目標以前の問題になってしまった感じなんですよね。

ソニーもE3での価格発表の段階から苦戦の空気を感じ取っていたため、発売前に異例の値下げ、その後も久夛良木氏からソフト重視の平井氏に社長交代と、一気にゲーム機よりの戦略にシフトさせました。しかし、元々が高度なコンピュータエンターテイメントを目指してとがった製品設計だったため、汎用的グラフィック性能や開発しやすさではXbox360に苦戦、価格面ではWiiに完敗という、なんとも中途半端な状態になっているんですよね。

和田社長も、「コンピュータとして作ったものをゲーム機として従来の売り方で売ること」について、いろいろと引っかかるものを持っているのでしょう。ソフト会社としてはゲーム機にシフトすることは歓迎なのだとは思いますが、結局のところビジネスの問題ですからね。和田氏的には、結局どの程度自社のソフトが多数売れるか、そして開発コストを抑えて高い利益をあげるか、というところにかかってくるわけです。そうした視点から見て、まだまだPS3は不満が残っているということなのでしょう。

「価格に見合った魅力」をいかに発揮していくか

結局のところ、PS3はその価格に見合った魅力をいかにして発揮していくか、ということなんでしょう。ゲーム機としてなら、他の機種との価格差に見合うだけのソフトの質、ラインナップが必要になります。他のサードがマルチで様子見をする以上、とにかく自社で強力なソフトを作る、もしくはサードの有力タイトルを金銭などで囲い込むということが必要でしょうね。CellやBDの特徴を生かし、他のゲーム機で真似できない、それでいてぱっと見て面白さを感じられるものを提供していかなければいけません。まずは近日行われる東京ゲームショウでどの程度のラインナップを集めてアピールできるか、ですね。

一方、AV機器としてはすでにかなり高い魅力を発揮できていますよね。アプコンやデジタル再生性能など。あとは、PlayTVのような製品をどの程度すっきりした形で連携させていくか。HDDやチューナーをごてごてつなげたのでは、AV機器を購入する層にはマイナスな感じもしてしまいますからね。BD再生機器としても、すでに再生専用プレーヤは200〜300ドルレベルでの戦いに入ろうとしているので、その面での突き抜けた魅力というのは、そこまで無いと思います。今後も、汎用性あるCellを生かした、高級AV機器でもできないような高性能・高付加価値を今後もソフトで比較的低開発コストで追加していくことが重要でしょうね。

とはいえ、上記のような項目を、理にかなったコストで開発するのはかなり大変でしょう。いかに効率よく人材を活用し、なおかつ創造的な仕事をさせられるか。経営者には相当な手腕が求められそうです。(とりあえず、現在連載中のこちらの記事なんかは大いに参考になりそうな気はしますが→HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN - 1101.com