ゲーム業界の展望を語る『ゲーム評論家』達について

次世代機が一通り出そろって半年。現状Wiiが世界的に高い人気を誇り、Xbox360は1年のアドバンテージを生かして海外では高い人気を持つも日本では爆死状態、PS3は日本ではXbox360よりもましなものの、世界的にいまいちな状態で総合最下位な形で状況は推移してます。ほんの1,2年前まではPS2がもう独占状態というぐらい圧倒的なシェアを誇っていたことを考えると、信じられないような事態ですよね。

こうしたゲーム業界について、自分も注目しているゲーム評論家、野安ゆきお氏が2007年後半の展望を日経ビジネスでの連載で述べています。

今年のゲームビジネスは「凪」状態 (デジタルエンタメ天気予報):NBonline(日経ビジネス オンライン)

WiiPS3Xbox360と大きく世代交代が生じたここ数年、特にこうしたゲーム業界分析をする人のコメントが世間で大きく注目を集めていた印象があります。以下では、自分が知る何人かの人物についての紹介と、野安氏のコメントについて触れてみたいと思います。

影響力No.1だが発言内容に疑問の残るエンターブレイン浜村弘一

一番有名なのはエンターブレイン社長の浜村弘一氏でしょうか。実際は単なる一ゲームマスコミの人間に過ぎないわけですが、ゲーム雑誌としてもPS2独裁と併せて圧倒的なシェアを誇っていただけに、いつの間にか業界を代表する人物課のような扱いになってしまった人物です。

多くの一般マスコミが意見を参考にする、非常に影響力の強い立場となっているわけですが、その割には発言に主観が入り交じり、適当でいい加減な発言をファミ通浜村通信でしたり、過去の人間関係などにとらわれて偏った意見を述べたりと、とても一般マスコミが参考にするにはふさわしくない発言を繰り返したりしていました。

もっとも、全部が全部変な発言というわけではなく、特定のゲーム紹介とか、主観がある程度まざってもいい記事だと、いい内容もあるんですけどね。ただ、業界全体を語り出すと自身のゲーム感からの嗜好の偏り、そしてエンターブレイン社長としての損得勘定に基づく発言が目に付いてしまう感じです。

ついでなので、ここ2年ほどの浜村氏のセミナー記事を紹介しておきます。

2006年:浜村弘一氏セミナー、"ゲーム産業の現状と展望"詳細リポート! / ファミ通.com

2007年:エンターブレイン、浜村弘一社長が"ゲーム産業の現状と展望"を語る! / ファミ通.com

豊富な情報量とタイムリーな発言の新清士

その他では、日経のIT-PLUSで連載を持っている新清士氏なんかが結構有名ですかね。

デジタル家電&エンタメ-新清士のゲームスクランブル:IT-PLUS

とにかく、ゲーム業界に関するネタを広く、タイムリーに取り扱うことがこの人の特徴かと思います。ただ、この人もなまじゲームに深く触れてきたためか、スペック志向が強い印象はありますね。前からXbox360について強くプッシュしており、PS3もそれなりに押すもさすがに状況分析を詳しくしているだけに苦境を装う、任天堂の路線については基本的には市場が認めるようになってから積極的に評価しだした、という感じです。それでも、やはりスペック志向のためにWiiの低い処理性能なのについては度々辛口なコメントを出している感じはします。

以下、いくつか新清士氏の記事を上げておきます。
「PS3」の半値以下でも消えない「Wii」の弱点と課題 デジタル家電&エンタメ-新清士のゲームスクランブル:IT-PLUS
「PS3」のパワー実感できず・SCEのプレス説明会、私はこう見た【新清士】 デジタル家電&エンタメ-新清士のゲームスクランブル:IT-PLUS
Xbox360「Gears of War」が見せた先進の開発力 デジタル家電&エンタメ-新清士のゲームスクランブル:IT-PLUS

刹那的な分析の多い証券アナリスト

次は、証券アナリストブルームバーグの記事なんかでは各種証券会社のアナリストの発言が出ますよね。しかし、こうした人たちは少々「浅い」発言をすることが多い印象です。判断基準はベタに過去のゲーム機の状況をそのまま現在に置き換えただけで現状の状況の違いを考慮しない予想とか、逆に現状の瞬間風速的な状況から極端な先行きを示すものなど、刹那的な予想コメントが多いように思います。

まあ、逆にこうした短期的な情報、身近な情報から比較して実感しやすい予想の方が、その業界にあまり詳しくない、純粋にマネーゲームの材料としてゲーム業界を見ている投資家などには、実感を得やすく信用しやすい情報なのかもしれませんね。証券会社的にはそうした短期的な加速度となりうる予測の方が売買加速につながってお得なのかもしれません。ただ、そうしたアナリストの一貫しない発言を聞いていると、証券会社に任せて資金運用とかあまりする気が起こりませんね。

以下、いくつかアナリストの分析を紹介しておきます。

「Wiiは4000万台、PS3は7100万台」―野村證券・桜井氏 - iNSIDE
任天堂Wii、販売台数でライバルを圧倒――フィナンシャル・タイムズ(フィナンシャル・タイムズ) - goo ニュース

一歩引いた客観的な分析を見せる野安ゆきお

さて、いよいよ最初にあげた野安ゆきお氏です。上記で紹介した人たちは、基本的に現状に流されるというか、「ゲーム業界」という言葉で定義化されてしまったものの中で物事をとらえてしまう人がほとんどでした。それに対し、野安氏はゲーム評論家でありながら既存のゲームの枠にはとらわれず、他の娯楽と比較しながら比較的客観的な立場で分析し、するどい指摘のできる人だと思います。そうした、ゲームという娯楽に対してロジカルに状況分析して理論構築していく感じは、何か任天堂の岩田社長のロジックに近い印象も受けます。

あと、この人は結構冒険的な予測を思い切って発言していくところがおもしろいところです。今回冒頭で上げた記事も「Wii圧勝、Xbox360共存、PS3苦戦」と、日経でありながら結構大胆に発言しています。何より自分がこの人のすごさを感じたのは、以下のエントリの時ですね。

わぱのつれづれ日記 - E3速報--価格発表で拍手消えたPS3 (デジタルエンタメ天気予報):NBonline(日経ビジネス オンライン)

このエントリの最後で紹介していますが、Wii発売の5年前に自身サイト上で、Wiiの方向性をそのものずばり予想しているのを見て、ゾクゾクとしたのを覚えています。

最後の手(2001年12月30日更新)- 野安の電子遊戯工房

それ以外でも、自身のブログなどで度々面白い視点でゲーム業界を分析したり、将来を予測したりして読む側を楽しませてくれています。

野安の電子遊戯博物館

上記ブログはゲーム販売チェーンの「桃太郎王国」がスポンサーとなっている、いわゆるお金をもらって書いているものなのですが、世の中に無数の提灯記事があふれている中、わざわざ度々エントリ中で「お金もらって書いてます」と公言している姿勢は好感が持てますね。

傾向としては任天堂びいきに見えるところはありますけど、思考の傾向が岩田社長に似ているだけに、その展望も任天堂とあったものになっている、という感じもします。また無茶な論理での擁護や他の機種の批判はないですからね。今回の日経ビジネスの記事も、基本的には論理的な分析に基づいた素直な内容ですし。ただ「PS3が食い込むことは不可能に近い」とまで、堂々と日経という大手メディアで言える人が少ないだけに目立つ感じでしょうか。

今後のゲーム業界分析の行方は?

以上、自分の知るゲーム業界関連でコメントする人物の紹介と、自分の印象を説明してきましたが、果たして今後こうしたゲーム業界分析はどうなっていくんでしょうね?特に一般マスコミは、「とりあえず最大手のエンターブレインの意見で」という感じで浜村氏の意見ばかり記事に掲載する印象があります。ただ、浜村氏自身が別に純粋な調査会社であるとかアナリストなわけではありませんし、内容に偏りがあることがあるので、いつまでも各社浜村氏のコメントばかり引用というのはどうかな、と思うんですよね。

できれば、ゲーム業界のしがらみ・利害関係に縛られた人だけでなく、野安氏のようなちょっと引いた視点で物事を述べられる人がもっと出てきて、先入観や主観にとらわれない分析が一般マスコミを通じて一般消費者にも届くようになるといいですね。