ついに「出荷台数」も発表〜PS3生産出荷550万台、出荷360万台

ソニーが特にPS関連の製品の売れ行きを示すときに繰り返し用いてきた『生産出荷台数』。農家以外ではソニーぐらいしか使わず、出荷という名前が付いていながら実質的には生産台数と変わらない(つまり売った数じゃない)ため、非常に紛らわしい、ハッタリめいた数字です。実際、各種メディアでは勝手に(狙い通り?)に誤解されて出荷台数(問屋などに売った数)として報道されることも多く、そうした状態にゲームに詳しい人からは何かと苦言を呈される数値でもあります。

自分も、過去に生産出荷台数に惑わされた経験があるだけに、そのからくりが分かってからは度々エントリで指摘してきました。

わぱのつれづれ日記 - 「プレイステーション・ポータブル」全世界生産出荷累計1,000万台を達成
わぱのつれづれ日記 - 『PS3 国内生産出荷100万台達成』プレスリリースについての分析
わぱのつれづれ日記 - 決算報告で晒された「生産出荷台数」の歪み

それでも、ソニーはかたくなにこの「生産出荷台数」の発表をやめません。最近では前回の決算報告の際、この生産出荷を「正確に把握できるアキュレートな数」と、その正当性を主張していました。

ITmedia News:ソニーのゲーム分野苦戦 「生産出荷」は「正確に台数を把握できる」


そうした中、本日ソニーの決算報告が行われました。その中で、相変わらず生産出荷台数にて報告を行ったソニーでしたが、今回はとうとう圧力に負けたのか、質疑応答で出荷台数について公式にコメントを出したようです。

ITmedia News:ソニー、ゲーム事業は今期も赤字に PS3出荷は倍増へ
プレイステーション3、生産出荷550万台。出荷は360万台 - Engadget Japanese


逆転裁判合同ブログ1号店におけるカイザー鈴木さんのエントリでもいろいろと分析をされていますが、以下自分でも今回の発表についていくつかコメントしてみたいと思います。

公式に「生産出荷台数」と「出荷台数」が同時に比較可能に

まず、ソニーの報告において同時に生産出荷台数と出荷台数の数字が出てきたのは興味深いですね。まあ一方は能動的にソニーから出した台数、もう一方は質疑応答で仕方なく出した受動的数字ではありますが、同時に出てきたことで、いかに「生産出荷台数」と「出荷台数」に開きがあるのか、誰もが分かる形で示されたわけですから。

具体的に出てきた数字は、生産出荷台数は550万台。出荷台数は360万台。その差は実に190万台で、生産出荷台数は出荷台数の約1.5倍もの数字になっているわけです。これだけ差の大きい数字を、これまで各種マスコミは何気なく「出荷台数」として誤報を続けていたわけですから驚きですよね。単なるミスなら報道機関としてお粗末ではすまないレベルですし、確信犯なら言語道断といった感じです。今だったら「捏造報道」扱いされかねないですよね。まあその辺もあってか、最近はマスコミも「生産出荷」という言葉を明示的に使うところがほとんどだとは思いますけどね。

とりあえず、今回出荷台数を出してくれたおかげで、ようやく各種マスコミで一般の人でも差分があることを確認できるようになりました。これまでは自分のような一部マニアにしかよく分かったいなかったですしね。すでに、以下のような報道があるのも、情報のクリアという点ではよい方向と言えるでしょう。

時事ドットコム:ソニー、前期のPS3販売台数360万台にとどまる=大根田CFO

ただ、まだ「販売台数」まではコメントしていないですよね。今回も「分からない」という返答でした。任天堂メディアクリエイトやNPDなどの第三者機関の販売数集計を使って発表しているのとは好対照です。まあ、2006年度末の時点では、販売台数だと360万台よりさらに低い数字が出てくるわけで、より印象が悪くなるのでやりたくないのは分かりますが、ライバルがやってきているだけに苦しいところですよね。

「在庫で寝かした方が被害が抑えられる」逆ざや構造

今回の質疑応答では、PS3の製造価格が販売価格を上回ってしまう逆ざや構造についても、興味深いコメントがされています。

――どうしてまだ今期も赤字が残るのか。値下げするのか?

「在庫の逆ザヤ部分の評価減をしており、かなりの戻し益が入るとは思うが、まだ赤字が残る。評価減はその時期の生産コストとの差になる。今期も完全に逆ザヤが解消するわけではなく、全体的にはPS3のハードウェアは赤字になる。価格をどうするかはビジネス戦略上大事なことで、コメントを差し控えたい」
「PS3の逆ザヤ、07年度も解消せず」・ソニー決算会見 デジタル家電&エンタメ-最新ニュース:IT-PLUS

なにやら複雑ですが、つまり売れば売るほど逆ざやの幅がすぐに赤字として確定されてしまうが、在庫としてとっておき、生産コストが安くなった時に売ることができれば、その安くなった生産コストで製造価格を算出出来る分、逆ざや分が減るということのようですね。

ざっくり言ってしまえば「在庫で寝かせれば寝かすほど赤字幅が減る」ということのようです。生産出荷と出荷の数を出したのも、実はこうしたことを言いたかったからかも知れませんね。「売れば売るほど赤字になる構造だが、実際には在庫で寝かしているので赤字幅は狭くなる」と。正直、ぱっと聞いたら「何言っているんだ?」と言われそうな内容ですけどね。

売らなきゃいけないけど、製造コストが下がるまではあまり多くは売れない、という状態な訳で、こういうのを見れば見るほど、ゆがんだビジネスモデルだなぁ、と感じてしまいますね。


P.S.
上記の解釈ですが、どうも自分の誤解が入っているようです。「戻り益」、「戻し入れ」という表現の理解がちょっと曖昧で。とりあえず、コメント欄でして頂いたNALさんの解釈を紹介しておきます。

「(前期に)在庫の逆ザヤ部分の評価減(≒赤字計上)をしており、(今期にそれを売れば)かなりの戻し益が入るとは思うが、まだ赤字が残る。(一般に)評価減はその時期の生産コスト(と在庫品の資産としての価値)との差になる。今期も完全に逆ザヤが解消するわけではなく(そのため評価減を行う)、(前述の戻し益と合わせて)全体的にはPS3のハードウェアは赤字になる」

また、nintendodsさんのブログでは、評価額と原価の関係を元にコメントされています。

季節報 Nintendo DS ブログ : 先生!PS3がエライことになってます(ソニー2006年度業績説明会より)

いずれにしろ、自分はちょっと経済用語の知識が乏しいようなので、この節の文章は話半分で聞いておいてください。

明暗の分かれた「年度内600万台出荷」目標

「年度内に600万台出荷」、これはPS3だけでなくWiiも掲げた目標でした。Wiiの場合非常に好調な売れ行きでしたが、最後の最後で出荷が間に合わず、わずかに目標に未達。Wii絶好調と思われていただけにこの未達に対して各種報道でも「目標に届かなかった」とコメントされていました。岩田社長も実際、素直にそうコメントしていましたしね。

一方、同じ目標を掲げていたのがソニー側。Wiiと比べて明らかに売れておらず、達成はまず無理だろうと言われていながら、この600万台の予想はかたくなに変更せず。あげくの果てには中鉢社長が「600万台出荷を達成できたと思う」とコメントまで出してしまいました。

祝:プレイステーション3、世界600万台出荷を達成できたと思う - Engadget Japanese

それなのに、上記の根拠となっていたはずの「アキュレート」な数字である生産出荷数でさえ、結果的に550万台と届いていません。それどころか、実際の出荷台数は目標のわずか6割に過ぎません。一体、何を持って「達成できた」とコメントしたんでしょうね。

上記の通り、同じ目標を掲げた両企業がその目標に対する結果だけでなく、企業としての振る舞い方から消費者に与える印象についても、はっきりと明暗が分かれてしまった感じがしますね。

週間販売台数も4桁に突入、今後も苦しい戦いに

ソニーの発表では出荷台数まででしたが、販売台数でも引き続き苦しい戦いが続いています。Videogame Chartsによれば現在のPS3の販売台数は330万台。まだまだ2006年度末の出荷台数360万台も捌けていない状態です。
そして、日本では先週ついに、週間販売台数が4桁に突入してしまった模様です。
PS3の週間販売台数、ついに4桁突入、他|忍之閻魔帳
もともと、GW需要の前の段階でギリギリ5桁だっただけに、GW明けの週で4桁突入だろうと予想はされていましたが、その通りの結果だった感じですね。ソフトもろくなソフトが出ていないのですから、これでもまだよく売れている方かもしれません。

コスト構造、プラットホーム、実際の販売と、様々な問題を抱えるPS3。一時は不調のソニーを支えたゲーム部門が、現状は好調なソニーのお荷物となってしまっています。ビジネスの世界は非常ですので、ゲーム部門に残されている猶予はそれほど多くないでしょう。今年一年が、本当に正念場でしょうね。せめて、ゲーム業界全体がマイナスとなるような結果にならないよう、頑張って欲しいものです。