「PSPがバーチャルPS3になる」〜SCE川西氏インタビュー

日本ではDSに完全に敗北してしまった印象のあるPSP。それどころか、先日のDSがランキングTOP10独占などをみると、PS陣営そのものがDSに完敗しているような印象。そんな中、日経ITpro関連のページで、「それは全くないですね(笑)。」で一躍有名になった、SCEの川西氏がインタビューに答えられています。

スペシャルインタビュー PSPが“仮想PS3”になる

広告企画色が強いらしく、メチャクチャ顔写真がでかいですね。内容的にそれほど新規な内容はありません。基本的にはこれまで言った内容の繰り返し。この時期になってそれはそれで問題も気はしますが、読んでいて気になった部分をいくつかつっこんでみたいと思います。

○出荷台数

まず、冒頭から出荷台数の話。全世界で2000万台とのことですが、もちろん生産出荷台数ですので非常にうさんくさいです。国内だけ見ても、この記事では7月末まででPSPは生産出荷520万台とありますが、実際の販売台数を見ると、以下のデータ集計サイトによれば、374万台に過ぎません。

週間ハード販売台数 - データで見ミる DSとPSP

生産出荷台数と実売数で、実に150万台近い差があるわけです。今回はとくに7月末の時点と言うことで、年末商戦の為に過剰に在庫を作りだめしている、という言い訳も通じません。こうなると、本当に倉庫が在庫の山なのか、中国など別の国に結果的に輸出されている台数などもカウントしているんじゃないかと思えてしまいますね*1。どちらにしろ、国内の販売台数との開きがあまりに大きいのですから、SCEには紛らわしい生産出荷台数など使わず、調査会社の出した販売台数を元に話をしてほしいと思います。せめて出荷台数で。

○PS1データの配信

続いて、E3でSCEA平井氏の「リィィィジレイサァァ」で有名になったPSPのPS1エミュレータについて。

プレイステーションミーティングの直前に,PSP上でPS1のエミュレーション(*4)が技術的にいけそうだと分かりました。エミュレーションの技術はオリジナルのものです。今,内部的に検証していますが,結構ちゃんと動いています。
 もっとも,PS1のすべてのゲームをエミュレーションするのは難しいと思っています。PS1はアナログ・スティックが左右に付いていたり,コントローラのボタンの数も多いです。一方,PSPはアナログ・スティックが片方だけですし,ボタンの数も違います。エミュレーションはパワー的には問題ありませんが,こういうユーザー・インタフェースの制約があります。

E3の直前に決めたんですね。3週間前に依頼されたというGTHDといい、今年のE3はずいぶんとドタバタした準備だったみたいですね。インタフェースの問題も、そんなの初めから分かっているでしょうに。どうやって解決するかの案はないんですかね?単に、ボタン数が足りないゲームを無視するだけでしょうか?PS3の振動機能なしといい、互換性などをうたいながら、問答無用で無視する要素がいくつかあるところが、唖然とさせられるところです。

ダウンロード量は簡単に言うとCD一枚分,最大600Mバイトになります。PS1のゲームはプログラム自体は小さいのですが,音楽データがCDトラックに記録されています。音楽データが入っていると容量としてはかなり大きい。
 ただ,今のインターネット経由の配信状況を見ていると400Mから500Mバイトくらいのファイルをダウンロードしても,それほど時間はかからない。それくらいの容量は許容範囲かなと考えました。

これは、複数枚のゲームの場合でも600MBと言うことなんですかね?それとも本当に1枚分だけ?そうなると音声まで無圧縮で配信すると言うことでしょうか。数年後にはこの程度でも問題ないのかもしれませんが、正直今年末の段階ではファイルサイズでか過ぎる気もするんですが。PCでダウンロードしてメモリスティックにコピーし、PSPに持って行くにしても、600Mのデータコピーとかそこそこ時間がかかりますし、なんだか面倒くさい印象もします。無線LANだとさらに通信速度が遅いので時間もかかるでしょうし。どの程度こういった作業を消費者に受け入れてもらえるのかが鍵ですね。

PS3からPSPへの配信

そして、題目にあった「PSPがバーチャルPS3になる」という言葉に関連する、PS3からPSPへの配信。この項目ではとにかく横文字が多いですよね。

サーバー・セントリックな形態
ピア・ツー・ピア
PS3レンダリング
リアルタイムでエンコーディング

まあ、日経の記事なので、これを読むような人なら全部理解できるとは思うのですが、ネットではブログやブックマーク経由で様々な人が記事を目にします。技術に詳しくない人ではちんぷんかんぷんになるんじゃないでしょうか。特に、「セントリック」なんて、いかにも技術者用語ですよね。普通に「サーバー中心型」と言えばいいのに。この手のIT用語はとかくカタカナにしてかっこよく見せようという傾向がありますし、それで日常的に会話しているのでしょうがないのかもしれませんが、少なくとも川西氏からは、多くの一般消費者に分かりやすく説明する、という意図はあまり感じられません。

で、肝心の内容ですが、PS3の画面をPSPにとばすこと自体はそれほど難しくないとは思います。すでに、ロケーションフリーLF-PK1経由でPSPPS2の画面をとばしてPS2をプレイ、とかやっている人がいますしね。

mitei : ロケーションフリーを使用してPSPでPS2のゲームをしてみる

ただ、こうした映像配信型はどうしても「ラグ」が問題になります。LF-PK1はMPEG-4で配信しているわけですが、エンコードはハードウェアでリアルタイムにやっています。ただ、ネットでデータを送信し、PSPでデコード開始するまでの遅延が大きくなっているため、ADVぐらいしかプレイできないわけです。これには、MPEG-4という符号化形式が低遅延配信にそれほど向いていないということも言えるでしょう。

もしPS3からPSPへの低遅延データ配信をするのであれば、低遅延向きの形式を用いる必要があります。ただ、そうした低遅延の形式は圧縮率があまりよくないこともしばしば。PSPの11bという無線では、2Mbpsぐらいまでがそこそこ安定して使えるスピードでしょうから、そのレベルまで圧縮をする必要があるでしょうし、なかなか技術的な課題がありそうです。また、そこまで頑張っても30fpsでPS3とやりとりするなんてことができるわけもないので、結局はできるジャンルは限られてくると思うんですけどね。

ただ、現在のPCネットワークゲームのように、あらかじめPSP側にゲーム表示用のデータをメモリスティック経由でロードさせておき、PS3とやりとりするのはユーザの操作データだけ、とか言うのであればリアルタイムに近いプレイはできるかもしれません。ただ、その場合は当然グラフィックレベルはPSPに依存したものになってしまうでしょうけど。

いろいろ夢があって面白いな、という使い道ではありますが、やはり実現性が問題。東京ゲームショーでどの程度のものを見せてくれるのか、興味がありますね。

○コンセプトについての考え方

そして、最後のページ。ここでは、以下のコメントが注目ですね。

ただ,コンセプトがぼけないことが大事です。「これは何ですか」と聞かれて,何だか分からない機械になってしまっては困ります。

すでにぼけまくりな気がするのは気のせいでしょうかw?川西氏的には、現状のPSPのコンセプトはぼけておらず、PDA的な使い方やHDD付きとかの方がぼけているように感じるようです。そうなると、現状のDSなんかは「ぼけまくり」ということになるんでしょうね。
久夛良木氏といい、川西氏といい、ゲーム以外の提案で「エンターテイメント」という言葉をよく使うのですが、いつも非常に抽象的。首尾一貫したものもあまりありません。こうしてインタビューで発言したからには、一刻も早く「ぼけてないコンセプト」やらを見せてほしいものですね。


以上、いくつかつっこませていただきました。とにかく、まだまだ具体性が足りなく、夢を語っている状態ですね。あとは、実行あるのみ。消費者はシビアですから、夢だけでは納得してくれません。実際に目で見て、使って、実感しないとなかなか受け入れてもらえないものです。技術者としては大変かとは思いますが、ぜひとも頑張って実現していってほしいものです。

*1:健康第一さんの指摘で、実際にアジア向けも含むと公式ページには書いてあることが判明。だったら最初から日本なんて言わずアジアと言っておけよ… Sony Computer Entertainment Inc.