高性能追求の必然性とその実現時期について

CESA会長、スクエニ社長としてさまざまな媒体において発言を続ける和田氏。そんな和田氏が今度はZAKZAKにコメントを寄せています。

高性能の追求諦めない…スクウェア・エニックス社長 - ZAKZAK

発言的には、以前IntelのCore2発表会でコメントした内容といっしょですね。なぜ同じ発言を繰り返し発言しているのか、その意図が謎ですが。PS3の前評判がよくないことのフォローなんでしょうかね。

この高性能必要・不要の論議ですが、自分の感覚としては以下のようなものです。

「将来的に必然ではあるが、現時点では必須ではない」

「高性能」について語るのに、その必要時期を抜きには語れないと思うんですよね。以下に、その現時点で必須でない理由と、将来的に必須となった場合において必要なことについて、自分なりの考えを述べてみたいと思います。

○「ここ数年」では必須でない「高性能」

高性能と言うと、フィーチャーとしては「HD」と「演算能力」があがると思うのですが、まずはHDについて。一番わかりやすいタイミングは2011年、テレビが全部地デジに変わるタイミングですよね。ただ、この場合でもすべてのTVがHD対応になるかは難しいところです。単に1万円ぐらいの安価な地デジチューナーが出て、既存のテレビにこれを接続するだけ、となる可能性も十分あります。特に、家の中に複数台のテレビを持っているような人の場合、そのすべてをHDTVに買い換えるとも思えませんし。
また、もう一つ問題のは「テレビ画面の大きさ」です。このHD議論の際にとかく忘れられがちなのですが、画面の解像度を語る際に、その画面自体の大きさを抜きにしては語れません。いくら地デジ対応のHDTVだからといって、画面が20型程度ではSDとの画質差はそれほど大きくなりません。HD解像度が本当に必然的に必要になるのは37型以上ぐらいなわけです。そうなると、いかに家の中のテレビがすべてHDTVに置き換えられたと言っても、そんな大きなHDTVがおかれているのはリビングぐらいでしょう。もし、ゲーム機が子供部屋に置かれるのであれば、そのゲーム機がHDでなければならない必然性は、さらに後ろにずれることになるわけです。


もう一方の演算能力について。これも、主に必要となる性能は物理演算などでしょう。リアルな映像を再現しているのに、登場するキャラや物体の動きがロボットみたいなのでは、興ざめです。そうした、不自然さを感じさせないためにも、物理演算に対する処理能力は必要でしょう。
しかし、この物理演算というのは、やりだすときりがないところでもあります。そもそも、この物理演算処理自体が成熟しきっているとはいえないと思います。いまだにハリウッド映画やドキュメンタリー番組でのCGシーンを見ても、動きに不自然なところを感じてしまいますし。しかも、それらのCGですら膨大な演算を行ってプリレンダリングで処理している状態。これをすべてリアルタイムで処理しようとしたら、PS3Xbox360の演算能力程度では全然足らないわけです。リアルを追求すればするほど、ほんのちょっとした不自然さが気になってしまうもの。そうしたものをすべてゲームでリアルタイム処理するには、まだまだCPUの処理能力が追いついていないのが現状ではないでしょうか。


さらにいえることは、この「HD」も「物理演算」も、それだけでは売り文句にならないということです。FC→SFCSFC→PS・SSといった、劇的な変化があるわけではないので。あくまで技術革新の流れからの必然性にすぎず、それだけを売りにして新たに爆発的にソフトが売れるようになるわけではなく、それらを生かして、これまでにない要素を作りこみ、新たな価値を生み出してこそ価値があるわけです。だからこそ、HD+物理演算でのキラー要素が見出せないことには、これらの高性能は必須ではないと思います。

○「高性能化の道を閉ざしてはならない」のは真実

ただ、HDも物理演算も、HW側の技術革新とテレビなどのライフサイクルの関係から、和田氏の言うとおり将来的には必ず必要となるもので、「高性能はゲームに不要」という意見が業界で出ているというのは自分も反対です。そうした意味で、以前コナミ小島氏が言っていたように、「高性能の道を閉ざしたらいけない」というのは、真理をついているとは思います(参考:「Wiiはテレビ、PS3は映画」 by 小島秀夫氏)。

現状では、国内ではWiiが有力とはなっていますが、たとえWiiが勝者となったとしても、ソフトメーカーの方にはHD化、物理エンジンの活用などの方向性の追求、研究開発の手を抜くことは絶対に止めて欲しいですね。目先の利益だけに走り、そういった道を追求しないことは、いざ演算処理、表示ディスプレイなどの環境が整ったときに、提供するコンテンツの方が質が低いと言う寒いことになってしまいますから。
Wiiが勝ったために、グラフィックの向上、動きのリアルさなどの道が閉ざされてしまった」と後世言われないよう、高性能路線を方向転換させる任天堂はしっかりと基礎研究を続けていただきたいものです。(もちろん、サードも。)