「PSP=負け組」という認識の広がり

昨年末のニンテンドーDSの爆発により、すっかり印象の薄くなったPSPソニーの決算報告でも「DSに苦戦」と事実上の敗北宣言をしてしまったために、最近では「負け組」としての印象が一般人にも広がってきてしまった印象があります。

それを示すいい例が、以下のITmediaブログの記事でしょうか?
Love the Life*: 表参道での意外な出会い [ITmedia +D Blog]
ITmediaの記者が行きつけの美容室に言ったら、PSPが専用スタンドと共におかれていて驚いた、というもののようです。
こうした、PSPのオサレ路線は何も今に始まったものではなく、PSP販売当時も変なマネキン使った戦略や喫茶店での展示など、似たような企画が打たれてはいました。

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しかし、こうしたオサレ路線のCMがうまくいっている印象はありません。以下の記者と美容室の担当者との会話が、それを端的に物語っているのではないでしょうか。

帰り際に会計を済ませながら、担当の美容師さんに「これどうしたんですか?」と聞いてみたところ、メーカー側からぜひとも置かせて欲しいと打診があり、どうも表参道・青山・外苑前の美容院には軒並み設置されているんだとか。そのあと担当さんは笑顔でこんなことを口にしてくれました。「いやーなんだかね、DSに負けてPSPがすっごい苦戦してるから販促らしいですよ、これ。持ち込みにきたメーカーの人が言ってました」


へ、へぇ……。

PSPが発売した当時ならいざ知らず、こうした一般層にもすでに「PSPがDSに負けた」という印象がついてしまっているんですね。とくに、DSLiteの発売により、オサレ路線でもPSPといい勝負できるようになったため、ぱっと見の印象でもDSLitePSPでは差がなくなってきています。それだけに、あとは周辺の人の所有率、DS好調の報道などの方が印象が強くなっているということでしょう。

こうした状況においても、SCEは相変わらずこの美容師の例といい、ロコロコの例といい、イメージ的なオサレ感ばかりを前面に押し出してライト層への宣伝をしているわけですが、正直逆効果な気もするんですよね。いくらPSPのことを「おしゃれで綺麗でしょ?」と訴えても、それを見る一般ライト層が「ふーん、でもDSの方が売れているんだよね?」と切り替えされておしまいな気がするからです。結局、ただでさえ日和見傾向の強いライト層に対して、大勢が決してから売り込みをかけても効果が薄いと言うことでしょう。

○ライト層への浮気でぐらついたマルチメディア要素

上記のように、最近はDSに押されたためにライト路線へのシフトが激しいPSPですが、当初はマルチメディアプレーヤとしての色合いの法が強くありました。しかし、その方面でも次第に存在意義が失われつつあるようです。

ソニー「PSP」を在庫の山にした意外なライバル - ゲンダイネット

スポーツ新聞的なゲンダイネットですが、言っている内容はまずまずまともかと。PSPのマルチメディアプレーヤとしての価値も、、他の携帯、動画対応音楽プレーヤなどの競合が増えてきて失われつつあるというもの。
PSPは、高度なマルチメディア機能を、ゲーム機で大量生産することによる低コスト化により安価に提供できるというメリットがありました。しかし、一方で大量に「生産出荷」をする関係で、基本的に数年間は同じスペックで戦いつづけなければならないというデメリットも発生したわけです。
携帯電話やデジタルプレーヤー業界は1年で画質・機能・性能があがっていくのはあたりまえの世界。PSPの売りである液晶も、今ではより高輝度で綺麗なディスプレイの携帯がいろいろありますし、ネット機能も、W-ZERO3なら無線LANだけでなく、PHS回線でも利用でき利便性が高いです。たしかに、まだPSPの方が安価であるというメリットは存在しますが、結局本体以外にもPCでの動画生成環境やそれを格納するメモリカードなどいろいろな周辺機器が必要になるわけで、本体だけが安くても、使い勝手がよくないのなら、消費者は別のものを選ぶこともあるわけです。
DSの圧倒的なのびにあせり、ライト層にシフトしたため、本来売りであったマルチメディア機能も時代遅れになってきている、というのは皮肉なものです。

PS2ユーザ層の取り込みの成功

しかし、そうした世間のイメージに反して、最近のPSP本体の売行きは比較的好調です。しばらく3万台の販売を維持し、先週は5万台に迫る状態。DSLiteが毎週15万ぐらい売れてしまうため印象は薄いですが、着実に伸びてきてはいるんですよね。

この傾向の裏には、「PS2コアユーザ層の取り込み」があるんじゃないか、と思っています。とくに、最近のPSPでは、爆死傾向にあるとはいえ、鉄拳、極魔界村ダビスタPなどゲーマー向けタイトルの新作が出ていますし、今回久しぶりに週間売上1位をとったGジェネレーションは、本体売上に大いに貢献した印象。また、年末にかけては「月刊テイルズ」とも言わんばかりのテイルズラッシュが続きます。逆に、PS2の方が新作ペースがにぶり、爆死の傾向も続いています。こうしてみると、PS2コアゲーマーが、PSPに着実に流れてきているのでは、と予測できるわけです。

こうした状況を見ると、ある程度「PSP生存の道は見えた」状態ではあると思うんですよね。要するに、PS2新作タイトルをPSPにもってくるということです。真剣地獄スレなどでは初期から語られていた案ではありますが、結局それしかPSPが生き残る道はないということでしょうし、最近はそれが結構うまい方向へ進んでいた感じです。

○サードの見切りの早さ

しかし、上記の案の欠点は「サードにとってメリットが少ないこと」です。これも当初から言われていたことで、結局既存のPS2ユーザがPSPで出す新作を買ってくれるといっても、全部のPS2ユーザがPSPを買うとも限りません。そうなると、「PS2で出した方がまだまし」という状態になってしまうわけです。鉄拳などの爆死状態を見ると、その感覚も仕方ないとはいえます。

こうした状況の中、結局のところどうなるかと言えば、サードのPSP中心だった体制の方向変換が起こりつつあるわけです。実際、MMVなどはPS2とDSおよびWiiを中心にすると説明していますし、実際そうした展開を見せています。
牧場物語シリーズ、最新作発表!! - 牧場物語公式ホームページ
ルミナスアーク - そして僕は君を断罪する!! 『ルミナスアーク』 / ファミ通.com

そのほか、EAなどもPSPへの比重を見直してDSにも注力していくことを発言しているようです。
EAがPSPとSCEの不甲斐無さに失望 - ゲームニュース


こうしてみると、サードの見切りが思いのほか早かったな、という印象です。最近はPSPに各社の主力ソフトが出ていましたが、これはDSがブレイクする前に開発を開始していたソフトたちでしょう。そう考えると、ある程度開発中のPSPソフトが出てしまうと、そのあとこれといった有力ソフトがPSPでは出なくなる可能性も考えられます。SCEと違って、サードは売れる市場を選んで出す権利がありますし。本来、赤字覚悟でもPSPを支えるためにソフト制作に力を入れなければいけないのはSCEのはずですが、そもそもタイトル数自体がコマ不足、プッシュするタイトルも爆発する要素があまり感じられないものが多いです。
この状態でサードにまで離れてしまったら、まじめにPSPの生き残るすべはありません。果たしてSCEにサードをつなぎとめておく秘策はあるのか?それともSCEがキラーソフトを隠しているのか?ドライな環境の中、いかに今後生き抜いていくか、SCEの手腕が問われますね。