消費者の心に響いてこない、スクエニ和田社長の言葉

スクエニの社長、CESA会長という重要なポジションにいながら、様々な問題発言を発し続けている和田氏。その和田氏に対して、度々鋭い分析をされている野安ゆきお氏が自信の日経コラム欄でインタビューされています。
スクエニ和田社長に聞く、ネットの未来予想図 (デジタルエンタメ天気予報):NBonline(日経ビジネス オンライン)

テーマはオンラインゲームについてで、前後編のうちの前編ということですが、今回もいろいろ頓珍漢なコメントが出ているようです。

基本的に、全般にわたって語っていることは、「オンライン時代のビジネスモデルのあり方」というもの。特定のビジネスモデルというモノは存在せず、ゲームごとに様々な形態が今後もあり得る、というのが和田氏の見解のようです。で、最終的な資金の集め方はハリウッド型のファンドなどを利用したモノとのこと。まあ、このあたりは、消費者から見れば「頑張ってください」という感じの話ですね。

問題は、その後のネットでの著作権がらみの発言からでしょうか。話の中身自体は、著作権や法整備などの不備がある中で、サービス提供者側、参加者側が双方向にエンターテイメントを生み出している状態に対する分析、危惧な訳ですが、どうもその分析の仕方が筋違いというか、変なところが見受けられます。

○顧客の「感情」が見えていないビジネス論

一番わかりやすい勘違い発言は以下のものでしょうか。

たとえば「電車男」(*2)がそうです。ただ「電車男」は「いい話」だと大ヒットしたけれど、「のまネコ」(*3)はユーザーから袋だたきに遭いました。
 でもあれ、やっていることは一緒なんですよ。
ユーザーが自発的に参加して作った。供給側は一切タッチしていない。でも一方は称賛され、一方は袋だたき。すごくセンチメントだけで動いていて、法的なバックグラウンドは何もなしで議論している。じつは議論にもなってなくて、好き嫌いだけで物事が決まっている。

和田氏自身は、どちらも『著作権があいまいなものを商業展開したという意味で本質は一緒だ』と言いたいようですが、正直どっちのネタにもリアルタイムで参加して盛り上がっていた人から見れば「はぁ?」と言いたくなる発言ですよね。一方が賞賛され、一方が叩かれたことについて、詳しく分析し切れていなく、単にファンの好き嫌いで明暗が分かれただけ、という非常に浅い分析をしています。

実際、これについてはインタビューワーの野安氏の方がよく分かっていて、注釈で解説していたりします。

(*2)「電車男」……2ちゃんねるに書き込まれたテキストを再編集して出版された書籍。映画化、テレビドラマ化、コミック化が行われ、大きな人気を得た。

(*3)「のまネコ」……Flashで人気を得たネコのキャラクター。その商品化が企画されたが、2ちゃんねるに登場するアスキーアートである「モナー」と酷似しているにもかかわらず、独自のものだと強調したことにより、大きな反感を買った。

野安氏が書いているように、各々のネタには、それぞれ感情的に好かれる要因、好かれない要因がはっきりと存在していた訳です。そもそも娯楽である以上、こうした消費者の「感情」の部分もネットの世界では非常に大きな位置を占めているのにもかかわらず、和田氏はそれがアンコントローラブルなもののように感じて「危険だ」と警鐘をならすだけ。そうした感情が連鎖的に起こる裏にあるモノを分析したり理解することもなく、すぐに法律とか仕組みとかそちらの話に頭が行ってしまっています。著作権とかMODとかの法律論などを語る前に、その裏側になるユーザのモチベーションが何なのかを分析する方がよっぽど重要だと思うのですけどね。

○企業側の「エゴ」ばかり目立つ発言

和田氏が消費者によく非難されているのは、こういうところだと思うんですよね。自分たちの顧客である人々の「感情」を直視せず、よく理解していないこと。あくまで、ビジネスモデルにおける一つの構成要素としか見えてないような発言が多いのです。
FFやDQについて「ファンが張り付いている」と称して、いかにこいつらに金を出させるかばかり目立つ発言をしたり、PS3にHDDついているから「デバグ費用が減らせる(=ユーザにデバグさせられる)」と発言したりと、とにかく「いかに自分たちが金を稼ぐか」という、経営者としてのエゴばかりが目立つ形となっています。だから、この「のまネコ」や「電車男」の例でも浅い分析しか出来ないんでしょうね。消費者の「感情」を低俗なモノと見なしている。だから、結局スクエニは、既存のすでに獲得しているファンにすがりつくことでしか収入を上げられず、色々挑戦している新分野では成功できていないのでしょう。

たしかに、この和田氏は現在のゲーム業界に潜む問題に対する感度、問題意識については優れている方だとは思います。だからこそ、他のサードメーカーの人にも一目置かれ、CESAの会長に推薦されたりもしたのでしょう。元々ゲーム畑の人でなく東大卒の証券マン。FF映画失敗後のスクウェアを立て直した、という経歴も持っていますし。
和田洋一 (スクウェア・エニックス) - Wikipedia

こうした別分野から来たインテリの意見というのは、たしかに周りも影響を受けやすいものです。ただ、単なるスクウェアの社長という立場だけだったらそんなに目立たなかったんですけど、スクエニ社長、CESA会長となったことで発言の立場も増え、その分、顧客感情軽視の思考がばれてきてしまった感じがします。社長なんですから、会社のことを考えるのは当然なんですけど、それは消費者から見れば単なるエゴ。そんな、ぺらぺら調子に乗って公の場で話す発言でもないように思うんですよね。だって、こうして多くの消費者が見ているわけですから。和田氏の発言が、そのままスクエニに対する悪いイメージにつながってしまっているわけです。オンラインについて偉そうに語っていながら、そうした自分自身の話題性、影響力が見えていない感じがしますね。おそらくこの和田氏、自分がネットで多数のゲーマーに非難されていることについても、理由がよく理解できていないんじゃないかと思いますね。

○企業も消費者も喜べることを目指して

SCEスクエニは、どうも「ゲーマーからいかにして金を搾り取るか」ばかり考えているように見えます。PS3はゲームをトリガーにして、いわばコアゲーマーを出汁に使ってホームコンピュータで覇権を握ろうという欲が見えますし、スクエニは今抱えている顧客を増やそうとせず、限られた顧客に以下に繰り返し金を出してもらうかを重視しているように見えます。どちらも、正直業界が発展するようには見えないですよね。

一方、任天堂の場合、ゲーマーに新しいゲームを提供して買ってもらう、ゲーマーでない人でもプレイできるゲームを出して購入層を広げることで、収入をあげようとしています。どっちが健全で発展が望める戦略か、一目瞭然ですよね。もっとも、任天堂の路線だけでは、現在確保されているコアゲーマーが離れていってしまう危険があるのも事実。市場の拡大と維持の両面を手を抜かず行うことが必要でしょう。企業側も消費者側も、共に喜べることが一番理想的だと思いますね。

今回の和田氏のインタビューも、まだ8/4に後編の記事があるようです。一体どんなコメントが出てくるのか、いろいろな意味で期待して待ちたいと思います。