プレイステーション3の目指すもの

今日は、奇しくもソニー任天堂両陣営から今後の展望についての重要な発言がされるという日になりました。まずは、先に出たSCE久夛良木氏のインタビューに基づき、PS3の、久夛良木氏の目指すものについて、自分なりの解釈を述べていきたいと思います。

コンフィギュレーションが可能なPLAYSTATION 3 〜SCEI 久夛良木健氏インタビュー(1) - 後藤弘茂のWeekly海外ニュース

この記事全体の内容としては「PS3は複数の構成が考えられる」という趣旨であり、先日の平井氏、川西氏らが語っていた内容と方向性は特に変わっていません。あたらしく、「コンフィギュレーション」という横文字が使われていますけど。これまでの幹部の話では、どうにも上っ面だけというか、おまえら本心では違うこと思っているけど、立場上強がってない?という雰囲気が伝わってきていましたが、流石今回は久夛良木氏。技術畑出身でPSワールドの中核をなす人物の発言だけに、その信念は確かに伝わってくるものがありました(納得できるかどうかは全く別として)。以下に、今回のインタビューから自分が想像するPS3像を述べます。


PS3は「ゲームをコアにしたリビング向けコンピュータ」
要するに、本当にPS3は「コンピュータ」ということでしょう。ゲーム機ではない、純然たるコンピュータ。ただ、誤解されやすいですがただ単に従来あるPCの置き換えをねらったものではありません。「ハイエンドゲーム機能をコアとしたリビング向けコンピュータ」なんだと、自分は考えます。


今回の久夛良木氏の発言を聞くと、多数のコンフィギュレーションが予定されているということで、どうしても現在のPC、それもゲーマー向けハイエンドPCを想像してしまいます。実際「PCならイラネ」みたいな声が聞こえることはしばしば。しかし、PCとPS3とでは、まずコアとなっている思想が異なると思うのです。

ハイエンドゲーム向けといえど、PCの根幹にあるものはやはり「汎用性」です。PC/AT互換機という汎用性のあるアーキテクチャ構成において、Windowsという汎用性のあるOS、プラットホームに基づき、その上で初めてGPUやCPUパワーをゲームに特化させて生まれた構成なわけです。このため、ゲーム向けハイエンドPCは、他の構成部品に比べてCPUとGPUだけが極端にハイスペックで高価な、PCとしては非常にバランスの悪い構成となってしまいます。さらに、なまじ汎用性が大きいため、ゲームによってはGPUなどの性能によってプレイ速度や解像度まで変化して、スペックがゲーム性をも変化させてしまうと言う、非常に不安定で定まった形の無い世界となっているわけです。FPSなどですと、高く高性能なGPUを積んでいる方がゲーム自体に有利になる、とかいうこともあるようですし、これは正直いびつな状態であると言えるでしょう。


これに対して、PS3の場合は、まずコアとしては「ゲーム機能」があります。CPUであるCell、GPUであるRSX。この二つはPS3という世界ではまずがっちりと固まっています。ゲームに冠する機能は、初めから明確にスペックが固定されることで、PS3のゲーム性自体は大きくぶれることはありません。ゲーム機能を固めた上で、それ以外の様々な点について汎用性を持たせるいます。これにより、構成の違いによりゲーム性そのものまで変化してしまうような事態をさけ、なおかつCellやRSXの持つ高い処理性能を汎用的に活用できるというわけです。いわば、「汎用性」→「ゲーム」という流れのためにいびつになってしまったゲーム向けハイエンドPCを、「ゲーム」→「汎用性」のようにゲームを核にして再構成し直したのが、PS3と言えるのではないでしょうか。


PS3が挑む様々な課題
上記に述べたように、PS3はコンピュータではありますが、PCではありません。映像出力端子としてAVマルチ端子やHDMIしかなく、DVIやD-Subを持たないことから見ても、明らかに表示媒体は「TV」であり、使用する場所はリビングです。当然、大型TVで操作する以上、家族から見られることもあるでしょうからパーソナルでもありません。以上のような理由から、自分はPS3を「リビング向けコンピュータ」とよんでいるわけです。

しかし、リビング向けコンピュータというものは、これまでにほとんど存在していません。HDD・DVDレコーダなどのデジタル家電と呼ばれるものが一応それに当たるのかも知れませんが、どれも基本は単機能にしぼったもの、汎用性があるものはごくわずかです。最近はシャープがAVPCなるものを出していますが、PS3はそれにゲーム機能をつけたものと言えるでしょうか。

PS3は、いわば現在市場がない「リビング向けコンピュータ」というものを、新たに作り出そうとしているわけです。しかし、このまだ無い市場をねらっているのはなにもソニーだけではありません。MSやIntelも、ViivXbox360、WindowsMediaCenterなどでこの市場をねらっています。また、他の電機メーカーもデジタル家電の発展として様々な拡張をねらっています。
ようするに、様々な肥大しきったメーカー・IT企業群が、それこそ酸素を求めるようにまだ見ぬリビング市場をねらっているわけです。Wiiだって、OperaWiiConnect24などを見る限りこの市場は視野に入れているはずです。そんな、まだ確固たる市場もないのに競合多数な世界でPS3は勝負しなければいけないのですから、これは相当厳しい戦いが待っているといえるでしょう。


また、先に述べた「ゲーム部分を固定した」というところも、そんなに簡単な話ではありません。いくらアーキテクチャをPC的にして、ゲームとハードをつなぐところに中間層をもうけることで、機器構成の違いによる互換性を吸収しやすくしたからといって、そう簡単にすべて互換が保たれるものでもありません。先日の西田氏やこの記事で後藤氏が言っているように、中間層側でのパッチにあたる互換対策は必須でしょう。その互換性を以下に低コストで完全に取っていくのかも大きな課題です。サード任せにするようではサードの負担が大きく、ものによっては互換性が保てなくなるでしょうし、結局はSCE側が大部分の互換性問題を保証するようになるでしょう。このあたりをどの程度簡単にできるようPS3が設計されているかが、非常に重要です。

個人的には、「PS」というブランド名さえはずしてしまった方がよかったようにも思いますけどね。これだけ位置づけが異なってしまうと。PSという名前が付く限り、ゲーム機である呪縛から離れることは出来ないわけで。PSという名前をつけることで、たしかにゲームにつられて高くても買うゲーマーは多数いるのは確かですが、そういった顧客は、PS3が目指すリビング向けコンピュータを必要とする層とはあまりかぶっていないと思うんですよね。いわば押し売りというか、足下見ている印象。PSのブランド名をはずしてしまった方が、売れ行きは落ちるかも知れませんがソニーとしてはビジョンを持って動きやすかったようにも思えます。


○まとめ
以上のように、「ゲーム機であること」を捨てた以上、PS3が挑むべき山はたくさんあります。久夛良木氏はたしかにこれらに対して、上記で述べたようハードウェア的な思想としては一つのビジョンを示しています。あとはソフトウェア、サービス面ですね。Wii以上に新規に挑む領域であり、チャレンジャーであるPS3。果たしてどの程度の明確な消費者へのメリットを示せることができるかが、PS3そしてソニーが成長していくための至上命題だと言えるでしょう。