次世代機のコスト構造について

ここのところ連続して自らの家庭の特異な「オタク家族」っぷりを存分にカミングアウトしまくっていた後藤弘茂氏。

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後藤氏と言えばハードアーキテクチャ通で、CPUなどについて毎度詳しいうんちくを語っている一方、かなり自身の趣味が偏っている印象はありましたが、上記レビューを見て「なるほど、こういう人だったんだ」とある意味納得できた感じですね。Cellなどを熱く語ったり、ソニーよりな印象が強かったですが、要するに本人の嗜好自身がそう言うものだったと言うところでしょう。最近の一押しはXbox360っぽい雰囲気ですね。PS3の現状についてもずばずばと厳しいコメント(しかし実際にはごく普通の分析)を出していますし。
このあたりが、同じPCWatchの連載でもソニー大好きオーラを出しまくって延々とPS3話を繰り広げる本田雅一氏とレベルが違うところでしょう。そもそもの連載タイトル「週刊モバイル通信」というのが完全に形骸化してしまってますよね。
本田雅一の「週刊モバイル通信」バックナンバー
上記バックナンバーの記事で、第353回:そもそもリチウムイオンバッテリは燃えるものあたりからのソニー関連の記事は、本田氏の人間性が透けて見えて、なかなか面白いです。(もちろん、記事内容自体は一般人では検証しづらい内容が充実して貴重な情報ではあるのですが。)

ハードのコストとソフトのコスト

さて、話を後藤氏に戻すと、今回の後藤氏の記事で次世代機についてのコスト構造について、いろいろ興味深い内容を述べています。

PS3、Wii、Xbox 360のコストを探る - 後藤弘茂のWeekly海外ニュース

とかく、「PS3は本体機能の割に安い」、「Wiiは本体パーツ安いのに割高」という批難を聞くことも多いのですが、それに対して一石投じる内容ですね。とくに、ハードそのものに対するソフト開発費を考慮に入れているところが興味深いです。基本的にハードはハードだけ、OS的なものはソフト側で全てやっていたファミコンなどの時代と比べ、今回の次世代機は明らかにOSなどのシステム部分のソフト負荷が増大しています。
ソフトは確かにそれそのもののコピーはほぼタダ同然ですが、それを開発する費用は相当なものがあり、それがソフトの代金として計上されるわけです。ゲームのソフトなどはまさにそれですよね。メディアであるDVDやケースなどごく安く、基本的に価格は開発にかかった人件費などから算出されるものでしょうし。ソフトの場合、そうした話も素人でもすぐ理解できそうなものですが、ゲーム機本体にまでそういった話が絡んでくるとなると、目から鱗が落ちる人も多いのではないでしょうか?(まあ、そもそもそういったことに全くの無関心な人もおおいでしょうがw。)

Wiiも、とかくリモコンなどのハード的機構に注目されていますが、売りであるWiiチャンネル関連はまるまるソフトな訳です。そのソフト部分が、ロンチに間に合わずドタバタしたり、「3秒起動」の社長チャレンジをクリアできていない状況を見ても、この手のシステム関連ソフト開発にかなり苦戦しているのが見て取れます。「面白いゲームの開発」には非常に高い技術を持っていても、「高レベルなシステム開発」という部分では、さすがにノウハウがまだまだ足りないと言うことでしょう。WiiConnect24関連のライブラリ構築も遅れ、サードへのライブラリ提供も遅れていた感じですしね。結局、こうした部分の人的コストは任天堂側でも相当なものが発生していることでしょう。

PS3は、ソニー自体には比較的システム開発ノウハウをあるのでしょうが、Cellという新しい、しかも癖のあるアーキテクチャを採用したことが足かせになっている感じがしますね。マルチタスク関連も、まだまだこれからという感じですし。とはいえ、USB関連機器への柔軟な対応など見ても、細かいデバイスドライバの整備などは流石家電・PCメーカーという感じですよね。任天堂とは、この手の技術に対する社内リソースに大きな差があるのでしょう。Wiiでも別にドライバとかを整備すればキーボードや他の機器も使えるのでしょうが、任天堂の場合どこかに作ってもらうか自社で新規開発する必要があるわけで、ハードルはちょっと高いでしょうしコストもかかりますので。

この点、なんだかんだ言ってバランスがいいのがXbox360のようですね。こうしたハード側のソフトがリッチな世界になってくると、世界一のソフト会社であるマイクロソフトのソフト技術力がものを言ってくるのでしょう。敵の多い会社ではありますが、MSDNなどソフト関連の技術、経験、知識、思想などは非常に高いレベルの情報が発信されてますしね。

勝つこと前提のPS3のモデル、負けることを危惧したWiiのモデル

ビジネスモデルについての考察もいろいろ面白いですね。後藤氏の考察では、最終的には正確には読みづらい、というものでしたが、印象としてはPS3は「次世代戦争に一人勝ちすることを前提としたモデル」を、Wiiは「たとえ途中で風向きが悪くなっても採算がとれるモデル」をとっている印象です。ようするに、まんまPS2GCの関係を引き継いだ感じなんですよね。


ハードのコストダウン幅としてはPS3Xbox360に大いに余地はあると後藤氏は言ってますが、これは現時点での価格が大きく違うのですから、上記のビジネスモデルの話を考えると微妙な感じがします。いくらこの先PS3がコストダウンできても、それまでに圧倒的な差をWiiなどにつけられてしまったら、一人勝ち前提のモデルにたどり着けないわけですし。消費者的には、そもそも現時点で高すぎる訳ですし。

ですので、PS3はこのロンチの立ち上げ失敗気味な風潮がどう影響するかですね。この状況でサードにまでびびられて逃げられてしまうと、ハードコストダウンをしても意味が無くなってしまいますから。性能だけならXbox360というライバルもいるわけで、こっちはHDDなしも可能、BDもなしでコスト競争では勝てないでしょうし。前門の虎、後門の狼という感じですかね。打開するには、SCE自らがキラーソフトを提供する必要があるのですが、頼みのGTがぐだぐだしていますからね。もっと別の、SCEならではというキラーコンテンツを用意する必要があるのではないでしょうか。


一方、Wiiはコストダウンの幅が無くても、そもそもハード自体は現実的な価格設定をしているわけで、苦戦でもある程度大丈夫なわけです。ハード向けソフト開発の費用を、自社のゲームソフト自体で回収することも任天堂なら可能でしょうし。他の機種が値下げしてきて厳しくなったら、その利益を崩して価格を下げることも可能でしょう。
そのまま圧勝したならば、その分他のソフト開発費などに回せるでしょう。Wiiの他の機種と比較して低い映像能力などが、致命的にハードの魅力の差になる状況にならない限り、比較的柔軟に対応できる印象はあります。そのためには、映像勝負の世界に巻き込まれないよう、常に消費者へ斬新な驚きを提供し続ける必要があるので、それはそれで計算しづらい大変なミッションだとは思いますけど。


Xbox360は、モデル構造的には悪くないと思うんですけど、根本的に「PS2の延長」すぎるのがネックなんですよね。後藤氏も、基本的にそうした既存ゲーマーなのでなかなかそうした視点を持ててないようですが、根本的にXbox360にはこれといった目新しさを感じられないところが、PS2で長年ゲームしてきたユーザ、そして非ゲーマーなどには訴求力が弱い印象。結局、「ゲームビジネスがそのままの状態で今後も拡大し続ける」という前提のモデルで、そうした想定であれば勝者になれるハードだと思うのですが、現在日本で起こっているような転換が世界中で起こってくると、今のゲーム作りではXbox360も厳しいでしょう。Xbox360Xbox360で、単なるPS2ゲームの延長でない、独自のユーザー層を拡大できるようなコンテンツ提供が必要なように思います。Obvilionなどが評価が高いようなので、もっとライト向けでありながらも高性能さを駆使したゲームができるといいでしょうね。

各社が利点をアピールする形での競争を希望

価格競争では現時点で有利な点にいるWii。ライバルであるPS3Xbox360といい勝負をしていれば、ソフトの値下げ、本体の値下げにもそうした利益は回されることでしょう。逆に言えば、任天堂の圧勝があまりに続くと、そうした値下げなどは普通に考えれば起こらないでしょうから、消費者としては競争が続いてくれることを期待したいですね。もちろん、任天堂圧勝であってもゲーム人口が減少してしまうようなら、値下げせざるを得ないでしょうけど、そうした後ろ向きな値下げはゲーム好きとしてはあまり歓迎できないものがありますし。

特に、忍さんのところの記事にあるよう、この年末商戦は任天堂の歴史的圧勝の模様。何とか他のメーカーにも頑張って欲しいところです。

クリスマス商戦の覇者はやはり任天堂、DSは50万台、Wiiは30万台|忍之閻魔帳

ただ、政治力合戦ばかりで、結局消費者が複数のゲーム機を買わされることになる、というのはあまりうれしくないですけどね。相手を批判するだけとか、特定タイトルを意味もなくどこかのプラットホームが独占とか、そういった不毛な競争ではなく、WiiならWiiの、PS3ならPS3の、Xbox360Xbox360の良さ・メリットを最大限に引き出したコンテンツを提供し合い、レベルの高いレベルでの競争を期待します。低レベルな争いされても、それは単に消費者にそっぽ向かれていって衰退してしまうだけでしょうから。各陣営が危機感を持って、お互いを高めあえるような展開を望みたいものです。