DS版DQ9が据置市場に与える影響についての考察

今回のDS版のDQ9の市場に与える影響ですが、一般マスコミでもかなり大きく取り上げられたようですね。ゲーマーホリックさんの「ゲーム情報諸々 12/13」で色々各種マスコミの記事が紹介されていたうちのいくつかを、以下に記します。

asahi.com:次のドラクエはDS向け 開発者「携帯ゲーム、魅力的」 - ビジネス
PS3思わぬ痛手…ドラクエ、任天堂に逃げたワケ-エンタメニュース:イザ!
ドラクエ9:「移籍は当然」業界は冷静 ゲーム機多様化時代を象徴−ゲーム:MSN毎日インタラクティブ
J-CAST ニュース : SCEから任天堂に鞍替え 「ドラクエ」以外も続々?


今回の件で象徴的なことには、日本国内における「据置→携帯」へのシフトが、一般レベルで決定的な意識づけとなったと言うことでしょうね。このあたりは、発熱地帯さんのところで詳しく述べられていますね。

発熱地帯: 正しすぎる決断

国内で携帯ゲームであるDSが主戦場になる以上、据置市場はとりあえず日本では「ニッチな市場」となるでしょう。ニッチな中で一定数いるコアゲーマーを奪い合うのか、また新たに違うユーザー層を掘り起こすのか、どちらにしてもかなり骨の折れる作業であることは確かでしょうね。

以下、今回の件を受けて、そうしたニッチな据置市場に挑む各据置機の展望について、主に日本国内市場の視点でざっと考察してみたいと思います。

DSと絡めて販促しやすいWii

据置でも、国内市場では比較的有利なのはWiiでしょう。DQがDSに行くということで、据置機として政治的に大きなタイトルを抱えられない、という点はWiiも同じ、むしろFF13もない分従来の思考で行けば不利な立場ではあるのですが、「勝者である任天堂が提供するハード」という影響は大きいでしょう。抱き合わせ販売ではないですが、現状の店舗でのDS&Wiiの圧倒的な売り場などを見ても、DSで築いた市場への影響力はかなりのものがあります。価格も他の据置機と比べても安い分、本筋がDSである中でも「ついで」で販売戦略を打てるのは有利な要素でしょう。

無線機能を持ち、DSとの連動も比較的容易に打てるのも大きいですね。もっとも、DQ9に関しては「Wiiとの連動はないと和田氏が断言していますが。

『ドラクエIX』について任天堂の岩田聡社長も「感慨深い」と発言! / ファミ通.com

それでも、任天堂自身は積極的に連動機能を取り込んでいくでしょう。いわばDSソフトをWiiの販促にも使える分けで、有利な要素ではあります。

とはいえGCGBAとの関係も同じ構図でしたが、圧倒的勝者であったPS2には歯が立ちませんでした。また、「勝者であるSCE」提供したPSPはDSに圧倒的差をつけられています。そう考えると、今回のWiiの構図でも失敗した前例はすでにあるだけに、これだけで成功する、と判断するわけには当然いきません。GCの時はPS2と販売時点で圧倒的な台数差があり、価格差も無かったこと、PSPはPS1の焼き直しのようなソフトが多く、独自要素が無かったという敗因があったとはいえ、Wiiだけ特別視するのは早計でしょう。

最初に述べたように、DQ9がDSに出ると言うことは、WiiDQ本編が出ないと言うことでもあります。PSPPS2が食い合ってしまったように、単に同じ客層を狙っていてはWiiもDSに食いつぶされてしまうというのは、十分あり得る話です。自分みたいなゲーマー層はハードをある程度何台も買ってくれますが、DSユーザの中にどれほど据置も買おうと思うユーザがいるか。小遣いの少ない子どもなどでは、3万円という値段はなかなかぽんと出せる金額でもないですしね。もっとも、そのあたりは任天堂の岩田社長も重々承知しており、さんざん発言しています。さらに新しいユーザを獲得していけるか、DSだけでなくWiiも欲しいと思わせられることができるのか、全てはソフト、サービス次第というところでしょう。

とはいえ、DSが軌道に乗った分、DSのことはサードにある程度まかせ、任天堂は自社のソフト開発力をWiiにかけることができます。これは+要素となるでしょう。任天堂はこれまで積み上げた実績がありますからね。さらに、そういった自社のWii開発ノウハウを積極的にサードに開示する、と言っているので、これがうまく循環していけば、自然とWiiの魅力を引き出すソフトがそろってくるわけです。

任天堂 岩田聡社長インタビュー(4) Wiiでは門外不出のノウハウをどんどん出す - 後藤弘茂のWeekly海外ニュース

リモコンすっぽ抜け問題や健康被害など、訴訟リスクが色々あるのは不安要素ではありますが、この手の問題には一番敏感な会社なのも任天堂な訳です。キャッシュリッチですし、DSである程度基盤がしっかりしている分、こうしたリスクに対しても、ある程度大局を見ながら対処していけるのではないでしょうか。まだまだ未知数なところは多いWiiだとは思いますが、ニッチな据置機市場では相対的には有利な立場にいると思われます。

強みである「安心感」が揺らぐPS3

一方、今のところ厳しい展開となっているPS3PS3の有利な要素としては、やはり圧倒的勝者であったPS2の後継という、絶対的な安心感でした。PS2で出ていた各種有名タイトルの続編が出ることも期待されており、「一番たくさん面白いソフトが出そう」という期待感が、ユーザの購入動機で大きな要素を締めていたことでしょう。実際、自分も「携帯ではDS、据置はそのうちPS3」と思っていましたしね。現在も、まだPS3を全く買わないという判断をしているわけではないのですが、Wiiがかなり面白いこと、PS3のソフトが十分にそろっていないことなどから、様子見を決め込んでいます。HDTVユーザなので、そりゃグラフィック綺麗な実際、価格が5万で入手も困難と言うことで、同様に様子見をしている、けど将来的には買うつもり、と言う消費者も多数いるかと思います。

その中で、このDS版のDQ9の話は、「DSでDQ9が出る」ということよりも、「PS3では当分ドラクエナンバリングは出ない」ということの意味の方が大きいと思います。FF13PS3で出ますが、そもそもFF13自体が1つの神話を軸とするマルチタイトル路線であり、従来のFFとは毛色が異なっています。この状態でドラクエも欠けてしまうと、PS3の強みであった「安心感」というのが、やはり弱くなってしまうように思います。


PS2ではスクエニナムコを中心に「ライト向け美麗グラフィックRPG or ACG」というのが継続的に出ていたわけですが、これらは日本でしかあまり売れない路線です。PS2ではすでに圧倒的なプラットホームの力があったわけですが、PS3ではなかなか普及のペースにのってくれません。この状態でサードがライトなRPGを出しても、PS3の開発からしてみるとかなり損益分岐点は厳しいものとなると予想されます。スクエニのように大きなブランド力と開発体制を持っているところはいいですが、それ以外のサードが、日本ではメジャーでも世界的にニッチとなる市場にどの程度資金を投入できるか、疑問が残るところです。

日本市場を捨てて海外を狙う、もしくはPS2Wiiで同じようなゲームを作り続ける、という選択肢を取るか、それともDQ9と同様にDSに主力をつっこむか。PS3が成功できない場合は、こうした「ライト美麗RPG or ACG」というジャンル自体が非常に厳しい立場に追い込まれるかもしれませんね。


とにかく、PS3は「サードに逃げられないこと」が至上命題でしょう。PS3のロンチは海外重視でタイトル数も多くそろえられましたが、その分日本がXbox360ロンチ並の状況になってしまっています。日本の多くのゲーマーが望むPS的ゲームを出せる土壌を保障できない限り、なかなか5万もするハードを積極的に買おうとは思ってくれないでしょう。従来の予想通り、PS2の続編であってもいいので大量にサードのソフトが出て、本体価格も順当に値下げしていく、これを前倒しするぐらいの勢いでやっていく必要があるのではないでしょうか。とりあえず、協力的なバンナム、そしてSCE自身が率先してそうした「安心感」を訴えていくことが重要だと思います。ゲーム機としてのビジネスモデルとした以上、ゲーム機以外の機能の充実よりも、何よりもまずゲーム機としての普及が必須ですので。

ゲーマー市場を引き継げるかがカギのXbox360

そして、日本では壊滅的に売れていなかったXbox360。ただ、ここのところのPS3の微妙さ、ブルードラゴンなどそれなりに日本人受けするタイトルも出てきたことで、徐々に伸びる兆しも見え始めています。特に、海外市場ではコアゲーマーをXbox360が制止そうな気配があるだけに、国内サードメーカーとしても、無視はできないプラットホームと言えるでしょう。

そもそもXbox360自体が、非常にオーソドックスに「PS2の次」を実現して来たハードです。それに加え、ネットワーク要素の充実、世界一のソフトウェア開発会社であるマイクロソフトのサポートによる進んだソフト開発環境と、そのバランスはかなり優れていますよね。もっとも、逆にあまりに無難に「PS2の次」だったせいで、これまでは「ならPS2でいいじゃん」となっていたわけですけど。

Xbox360としては、もともとブルードラゴン自体がDQの代わりであり、そもそもDQが来ることは想定に入れていなかったわけで、DSにDQが行くことはそれほど大きな影響ではないでしょう。むしろ、WiiPS3の大きな球が減ったという位置づけかもしれません。

あとは、PS2ユーザのうちHDゲームを望むユーザを、ガチにかぶるところが多いPS3から、いかに引き継いでいけるか、それが国内では勝負になるでしょう。やはり、Wiiの画質では満足できないというゲーマーもかなりの数はいるでしょうし。PS3の「安心できる態勢」が構築される前に、いかに日本人好みのラインナップをそろえられるか。PS3のところで述べた「ライト美麗ゲーム」をうまくサードから引き継げるようであれば、国内でのユーザ数の増加がはかれるでしょう。逆に、それらゲームが来ない、Wiiに行ってしまうと、なかなか現状の挽回はむずかしいかと思います。テクモミストウォーカーだけでは、いかんせん球不足でしょうし。

現状では圧倒的な負け組の印象がついてしまっているXbox360。状況をひっくり返すには上記サードの充実の他、本体の小型&静音化といった抜本的改革も必要なように思います。ファン付きACアダプタ、あまり評判のよくない騒音などの問題をクリアした新型Xbox360をHDD付きで3万ぐらいでPS3より先に提供できれば、結構面白い展開になるように思います。

据置ゲーム機市場で生き残るのはどこか?

上記視点では、海外市場はのぞいています。市場的には海外が大きいことは分かってはいますし、洋ゲーで優れたゲームが多数あるであろうことも分かります。そうした視点に立って、「日本はニッチ、海外の覇権を握るところが勝つ」と述べる専門家などが多いことも確かですけど、やはりファミコンからゲームに触れてきた自分としては、そうした展開はあまり面白くありません。日本が一大産業に築き上げたゲーム業界は、できれば今後も国内市場が海外市場のトレンドを先取りする展開であって欲しいと思っています。DSなんかは結構そういう流れになっているわけですしね。あと、海外市場はデータが少なくて日本人では語りづらい、というのもありますしw。

いずれにしろ、どの据置ゲーム機もまだまだ厳しい闘いが続くことでしょう。サードも含め、財務的に脱落していく会社も出てくるかもしれません。「据置全滅説」というのもだいぶ前からありましたが、下手すると長い目でみればあり得なくもないとは思います。ただ、据置がニッチとは言っても、PS2で数十万本売るソフトがちょくちょく出ることから見ても、かなりの数のユーザが継続して存在するのもまた確かな訳です。もっとも、従来ゲームの先細り傾向は今後も進むとは思いますので、新規客を獲得できない限りは、据置勝者となってもビジネス的にはそれほどうまみのある市場にはならないかもしれませんが。
個人的には、PS3Xbox360が「安価でタイトル豊富なHDゲーム機」に早期になってくれることを期待してます。せめて、WiiのHD版が出るぐらいまでの間(5年ぐらい?)、据置市場が持続して欲しいものです。