雑談モードのWiiリモコン秘話〜Wiiインタビュー Vol.2 Wiiリモコン編

毎日更新が続けられている、「社長が訊くWiiプロジェクト」。ここ2日はWiiのキモであるWiiリモコンについてでした。

社長が訊く Wii プロジェクト - Vol.2 Wii リモコン編

開発秘話を聞く限り、WiiリモコンはDSの成功の影響をかなり受けているようですね。まあ、任天堂としては据置は連敗続きですし、逆にDSはファミコン以来の大成功を収めているわけです。DSで獲得している層をなんとか捕まえたい、と考えるのは自然でしょう。(もっとも、PSPが結果的にPS2と食い合ってしまったように、同じ方向を目指すと自社内で食い合うというデメリットもあって危険なんですけどね。)


Wiiリモコン編は、新規に宮本茂氏が加わった影響か、終始和やかなムードになっていますね。その分、雑談っぽい印象もしてしまいますが。たとえば以下の会話なんかもなかなか味があります。

岩田
『いつも、任天堂の新しいコントローラというのは、芦田さんが発泡スチロールを削ったり、粘土をこねたりしながら、宮本さんとゴニョゴニョしているうちにだんだん形になっていくという感じがするんですが(笑)。』

芦田
『はい、そのとおりですね(笑)。』

宮本
『(笑)』

ちなみに宮本氏、この『(笑)』がこのインタビューの第一声(?)だったりします。その後も、工業デザインを学んでいたことで上司になれたのが大きいとか、冗談交じりの話が面白いです。序盤のコメントで興味深かったのは以下のところでしょうか。

宮本
『ぼくは、わりと以前から、IDを学んでいた人というのを開発者として会社が採用することをおすすめしていて。というのは、IDの素養がある人は、モニターの中のものをいじるだけではなくて、実際のモノを触って作っていくのでクリエイティブの部分がしっかりしているんです。
だから、「おすすめですよ」ということで。あと、「ツブしも利きますよ」と(笑)。ぼくはまあ、ID出身ですけど、ツブれたほうなんで。』

先日、スクエニ和田社長のインタビューで『異なる血を入れることが重要』といったコメントをしていましたが(参考:他の成功事例をこじつけた和田氏の「ゲーム産業再活性化論」)、この宮本氏のコメントも似たような感じですよね。ゲーム開発者ばかり雇うのではなく、基本的素養の方を重視した採用をするという。こうした行為は、別に和田氏が言わなくても、他の企業では昔からやっていたってことなんでしょうね。少なくとも任天堂は。

○両手で握るという固定観念からの脱却

Wiiリモコン編 第1回は雑談要素が強かったのですが、第2回はなかなか興味深い内容が書かれています。

第2回 「誰でもが平等に触れるということが前提」 - 社長が訊く Wii プロジェクト - Vol.2 Wii リモコン編

特に興味深いのが、棒状のリモコンに至った経緯ですね。Wiiリモコンは、元々は竹田氏のポインターについての提案を受けて開発されたもののようです。しかし、最初は「両手でコントローラを握る」という常識から逃れられず、一時期はかなりこだわって従来コントローラ+ポインタを検討したようです。これについてのやりとりが非常に秀逸です。

芦田
『はい。じつは、その路線のコントローラはかなりしつこく追求しました(笑)。』

宮本
『なんて呼んでましたかね、あれは……。たしか、相撲の……。』

芦田
『「軍配」ですね。』

宮本
『軍配、軍配。ずいぶん試しましたね。』

竹田
『でも、「どうも違うよね」ということになった。』

宮本
『いま思うとわかるんですけど、発想が逆なんですよね。こうやって両手で持つところから、ちょっとずつ棒状にしていこうとしていたんです。
それではだめだと気づいて言ったんですよ、「何かまちごうてるぞ、『棒ありき』やろ」て。』

一同
『(笑)』

宮本
『で、「棒からちょっとずつコントローラにしていこう」というふうに言ってたら、最終的に「棒」になった。』

一同
『(笑)』

最後の「棒から初めて最後に棒になった」という流れはかなり笑えますねw。元々は、『軍配』と呼ばれる形状を検討していたようです。ちょうど、以前IGNがWii用クラコンを、従来コントローラにリモコンを差したような形状を想定していましたが、ちょうどそんな感じだったんでしょうね。
IGN: Understanding the Revolution Controller
個人的には、クラコンの形状としては、現在の有線でWiiリモコンにつなぐ形式より、上記のIGN想像案の方がいいと思うんですけどね。多少重くはなるし、バランスも悪いかもしれませんが、全くの無線でできるし、Wiiリモコンの振動機能も流用できるので。

しかし、この会話はかなりPS3のコントローラを皮肉った感じにも見えます。PS3の場合、ポインタがないのでこの会話のやりとりとは状況が少し異なりはしますが、別のフィーチャーをつけたのに、過去のコントローラに縛られているのはよくない、ということですからね、この話のポイントは。実際、PS3のコントローラは、わざわざ(形式上は)振動をはずしてまでモーションセンサーをつけたのにもかかわらず、両手で握って利用する形態のままのため、Wiiのような片手で振ったりするジェスチャ入力には使えず、レースゲームやフライトゲームなどへの限定的な応用しかできなそうですし。この会話は、暗にSCEに対して「練り込み不足」という皮肉を言っているようにも感じます。

○秒間200回以上のポインタ認識精度

もう一つの注目要素は、ポインター技術に関する会話ですね。竹田氏の以下のコメントが興味深いです。

竹田
ポインティングというものについても、以前から興味は持っていたんですけど、1秒間に60回の信号をやり取りするだけでは思ったように動かないというか、追従性が不足するだろうと思っていたんです。
そういうときに、センサーのほうの技術で1秒間に200、300回の信号をとらえることができるというので「じゃあ、これに賭けてみようよ」と。

これまで、ポインターの認識精度についてはほとんど出ていませんでしたが、とりあえずトラッキング周波数としては200Hz以上あるということが、このコメントで分かりました。
この秒間200回という数字は、光学マウスなどに比べるとまだ少ない回数です。マウスは毎秒2000〜6000回ぐらいスキャンしてますからね。この200回という数字が、どれほどの意味を持つのかは、やはり実際に触ってみなければ分からないと言えるでしょう。
ただ、それでもゲームの入力タイミングとしては毎秒60回程度。これは、ちょうどテレビの画面更新周波数が60Hzであることも関係していると思います。それ以上の精度でスキャンしているわけですから、結構な精度が期待できると思います。
このことは、次のような例を使うとイメージしやすいと思います。たとえば、PCでマウスをぐるぐると回したとき、カーソルの移動はなめらかだとは思いますが、カーソル自体は飛び飛びに表示されているように見えると思います。これは入力は2000回以上のスキャンでなめらかな動きを認識している一方で、画面の更新は毎秒60秒ごとにしか更新しないからなんですよね。つまり、Wiiのポインタの場合でも、最終的には画面上のポインタカーソル自体は毎秒60回程度しか更新されないわけですけど、それより高精度でスキャンしておくことで、なめらかなカーソル動作を実現できる可能性があるわけです。DSでタッチペンを使った文字入力などもありますし、Wiiでもこうした精度の高いスキャンが功を奏する場面も色々出てくるように思いますね。絵を描いたりするときなんかは特に。

○周辺機器ワイヤレス化の恩恵

それから、すでに過去に触れられていた事項ではありますが、Wiiリモコンをワイヤレス通信のコアとして使うことで、今後出る周辺機器を手軽にワイヤレス化できることも大きいでしょうね。Xbox360PS3も本体に無線通信の仕組みを備えていますが、当然本体だけではだめで、コントローラ側にも通信装置が必要になるわけです。これは、どうしてもコスト増加につながってしまうので、価格上昇を招くでしょう。Wiiリモコンをコアとして使えば、周辺機器側は簡単なボタンとその信号を伝える配線を組み込めばいいだけ。材質さえこだわらなければ、ほとんど安いプラスチック製のおもちゃ程度のコストでコントローラを作れる訳です。これは、サードの自由性を増す意味でも面白いですよね。他機種ではどうしてもワイヤードが多くなるでしょうし、差別化要素でしょう。スターウォーズ専用のライトサーベルアタッチメントは100%出てきそうです(参考:Wii初のサードパーティ周辺機器は「レーシングハンドル」 - Engadget Japanese)。
もっとも、あんまり拡張ばっかだされると、しまいどころに困る、というのはありますけどね。せっかくWiiが邪魔にならない、嫌われないことを狙っていても、コントローラがごちゃごちゃとしてしまうのは、マイナス要素かなと思っています。ヌンチャクも、せっかくのワイヤレスのリモコンなのに、長い接続線が邪魔そうですしね。

ちなみに、このリモコンをコアユニットとして使うことについて、名称自体そのように呼ばれていたのを、岩田社長が「リモコンがいい!」と主張した、というエピソードも興味深いです。「コアユニット」と「リモコン」のどっちが消費者にとって受け入れやすいのか、消費者の立場から見た考えですよね(中二病な人は、「かっこ悪い」と感じちゃうかもしれませんが)。トップガンとかサーバーセントリックとかやたら特殊な横文字使いたがるどこぞの人たちにも見習って欲しいところです。

和製英語の冗談話

あと、冗談話として以下の話がされています。

岩田
『 だから「絶対、これはリモコンです!」と言い張りました。』

竹田
『なにせ岩田さんは、アメリカで売るときもこれを「リモコン」と呼ばせようとしていたくらいですからね。』

一同
『(笑)』

これのどこが面白いのか、皆さん分かってらっしゃいますかね?そういう自分も最初ピンとこなかった口です。
分からない方もいるかもしれないので、無粋ながら補足しておきますと、要するに「リモコン」というのが、完全に「日本語」、いわゆる和製英語なわけです。英語じゃリモコンのことを「Remote control」もしくは単に「Remote」と表現しますので。つまり、この話は「リモコン」という、日本人が外国で間違って使いやすい和製英語を正式に使おうとしたから、おかしいと言うわけなんです。
リモコン - Wikipedia
リモコン - 英語表現事典 カタカナ表現集:スペースアルク

ちなみに、アメリカではWiiリモコンは正式名称はWii Remoteと言い、ファンサイトなどでは「Wiimote」という、WiiとRemoteを掛け合わせた造語がよく使われているようです。
Nintendo Wii - Controllers
Wii controller - Wiimote



さて、次回はいよいよセンサーバー編。14日の発表会前の最後になるかと思われます。センサーバーについては、認識方法など未だに謎が多いところで、どんな話がされるのか興味があります。また、個人的にはテレビ側に設置しなければならず、消費者に一番抵抗感を抱かせ、設置やキャリブレーションなどの手間がかかる心配もある、Wiiのウィークポイントともなりうる点打と思っていますので、それについてどういった考えを持ち、あの形式を決断したのか、その理由について非常に興味があるところです。不安が解消されるようなないようであるといいなと思います。