宮本茂 時雨殿でWiiを語る。〜ニンドリ2号連続インタビュー前編

ニンドリの10周年企画の特集1として、時雨殿で行われた宮本茂氏へのインタビューが掲載されています。今月号が8ページ、次号でも後編掲載と、かなりのボリュームとなっています。今月号の記事ではWii隠し球についてなど、いろいろ気になる情報も掲載されているので、こちらもいくつか印象的なコメントをピックアップして紹介してみたいと思います。

Wiiヌンチャクについて

まずはWiiヌンチャクについての話。これまでのユーザも、フリースタイルコントローラ初体験で不安に感じるんじゃ、という質問に対しての返答が面白いです。

今のユーザが友達にゲームを進めたときに、ちょっと触らしてみたら、混乱して上手に動かせなかった。それを見ていて「違う、違う、こうやるんだよ!!」って言ってたときの相手の気持ちと同じ気持ちにあなたが戻るだけ何で、何も怖がることをは無いんだよと(笑)。だって、ゲームを誰かに勧めているとき、怖がらなくても大丈夫だよって思っているでしょ(笑)?

うわー、これは自分も耳が痛いw。たしかに、親に通常のゲームをやらせようとしたとき、なかなかうまくいかないのを見て、いらいらして実演したりしましたねぇ。そして、親も「そんな一度にいろいろ言われても分からん!」ってふてくされたりして。でも、ゲーマーからしてみれば「面白い!」と思っているからこそ、そうしたゲームに詳しくない人に勧めようとしたんですよね。
それなのに、今度はゲーマー側が新規に提案されたものを「怖い」と不安がって拒絶するようでは、矛盾している、ということでしょう。単に立場が逆になっただけなのだから、と。自分の価値観を他人に押しつけるばかりで、自身は保守的なゲーマーが実際にはいるわけですが、そうした人たちへの皮肉にもなっているんでしょう。


また、他にもWiiリモコンとヌンチャクを左右逆にしてプレイすることにも触れられてます。

最近、再チャレンジしていることがあって、ヌンチャクを左右逆に持って遊んでるんですよ。(左利きでも)…ものすごく難しいです。30年間同じスタイルで遊んでいると、逆っていうのはなかなかできない。でも、これまでのコントローラって逆には持てなかったけど、今度は持てるんで自由に使ってみてください。

これも面白い話ですよね。左利きの宮本さんからしても、もうすでに左で方向キーを操ることに慣れている分、逆にして遊ぶのは大変だと言うこと。逆に言えば、これから初めてWiiを触る人が、右にヌンチャクを持てばそれがデフォルトになるかもしれないということです。スポーツなどでも、ゴルフなんかは右利きで無いといろいろ不便があり、左利きでもあえて右利き用の道具を使って練習する人がいたりします。このように、左利きの人は道具や環境の為に不利を強いられている面がいろいろあるんでしょうね。そう言った意味では、Wiiリモコン+ヌンチャクというスタイルはユニバーサルデザインと言えるのかもしれません。

○ゲーム業界についての分析

冒頭でDSの好調を振り返って、「こつこつと正しいと思うことをやっていたことが、結果的に報われた」とコメントしていますね。また、その任天堂停滞時期に行った宮本氏のゲーム業界分析についてのコメントがなかなか面白いです。

ゲーム産業を例えると、「大きな村」なんです。しかも、その村の中心、ゲーム産業の一番元気のあるところにいたら、外の世界がなかなか見えなくなってしまう。中心にいたらチヤホヤされたりするし、すぐ周りには熱狂的な人もいるし。
でも、数年前から任天堂が「中心から少しはずれましたよね」って世間から言われるようになって…。でも、そのことは逆にゲームマーケットそのものが、実は世の中からずれてきているということに、早く気づくチャンスにもなったわけです。

負けたからこそ、PS2の市場がどんどんオタク化、コア化して特異な市場になっていっていることに気づけたということのようです。PS2陣営も、GCがもうちょっといい勝負していたのなら、気づけたのかもしれませんが、圧勝しちゃいましたからね。それがどんどん偏重が進んだ要因でもある気がします。

もう一つの指摘も面白い。

かつてのゲーム機は、“そこにあった方がいいモノ”という地位を獲得していたんですよ。それがいつのまにか、“なくてもいいモノ”にどんどんなっていって…。そういった問題についての議論をせずに、業界では「RPGの次にはシミュレーションがはやるのか?」とか、「誰が作ったのか?」と言うことばかりが話題になって、本来の娯楽としての根本を見失いつつあるんじゃないかと。

なんか、この『業界』という言葉から、ファミ通とかサードの経営者の顔が思い浮かんじゃうんですけど、深読みしすぎですかね(笑)?

Wiiリモコンのスピーカ

Wiiリモコンのスピーカーについての秘話もいくつかされてます。マイクとスピーカーが追加候補に挙がったものの、コストの問題があってつけるかどうか悩んだ、ということのようです。スピーカーについては、一時リモコンからスピーカーをはずしていた時に、外部のクリエイターさんから「つけないんですか?」と言われたのが直接の要因らしい。これまで、スピーカーの情報は外部のクリエーターはE3まで全然知らなかった、という話がほとんどでしたが、実際にはスピーカー付きのWiiリモコンの存在を知っていた外部クリエーターもいたようですね(任天堂セカンドなのかもしれませんが)。


また、このスピーカーの話で、宮本氏がぽろっとWiiのゲームのネタをこぼしてしまっています。

1つのWiiリモコンを4人で回して遊ぶものも作ったりしていて…(しまったという顔をして)これ言っちゃってよかったのかな?
(「言っちゃいましょう!」という煽りをうけて) (笑)。Wiiリモコンが「サオさんの番です」とか言うわけですよ。これがけっこうおもろかったりして。ほかにも、4人で遊んでいるときに、こっそり「あなただけに○○の情報を教えてあげる」とか言うわけです。そんなんをやるときにも、簡単なスピーカーだけでも付いていると面白い。

なるほど、パーティゲームとの組み合わせなんかもあるんですね。やってみたいとこれが面白いかどうか分かりませんが、これまでのゲームではない感覚で新鮮ですよね。
ただ、このスピーカー、任天堂社内でも、最初にスピーカー搭載が決まったと案内してもそれを使おうという人はいなかったとのこと。任天堂開発陣でも、簡単にアイデアが浮かんでくるモノでは内容です。E3のピンポンデモは、本当はこのWiiリモコンのスピーカー機能のデモらしかったのですが、他の大音響であんまり聞こえず失敗したとか。そう言った意味では、スピーカー機能は、展示会場ではなく、実際に購入して家で試してはじめて分かる機能なのかもしれませんね。

Wiiソフトについて

Wiiソフトについて、どの程度宮本氏が関連しているか、ということについて、興味深いコメントをされていました。

直接関わっているソフトは、多いですよ。発表している大半のWiiタイトルはかかわっているんじゃないかな。
これまでは、経営の仕事も含めて、海外のタイトルを見るとか、契約をどうするかとか、そういう仕事がとても多かったんですね。でも、それらの仕事を全部、岩田がとりまとめて別のセクションでやってもらえるようになったんで、僕は情報開発本部内部のモノに関してはかなり見られるようになったんです。

どうやら、いったんマネージメント側にまで行っていた宮本氏を、あえて岩田社長が現場監督に戻したという感じですね。たしかに、いくら偉くなったとはいえ宮本氏のゲームデザインセンスは唯一無二のモノであり、任天堂の最大の強みでもあります。そうした人に、他の人でもできるようなマネージメント業をさせるのではなく、あえてゲーム作りに全般の面倒を見させるというのは、岩田社長の人事もたいしたものです。また、そうした厳しい仕事を楽しんでやっている宮本氏もすごいですね。


そのほか、Wiiの隠しタイトルについても意味深なコメントが。

任天堂らしい、サプライズのあるWiiソフトを見てみたかったという話を受けて)E3で言われていたソフトは本気で作ってます!内容についてはまだお話しできませんけど、まったく新しいものをつくるので、もう少し待ってください(笑)。

(人を言えに呼び込むソフトとして)「テニス」も、その気配が少しあるとは思うんですけど、もっと意外な発明っていうのが、1年後くらいに出てくると思いますよ。
それをやれないとトップではいられへんってことですから。それをやるのが仕事なんでね。

現状では、WiiのキラーソフトはWiiSports内のテニスがそれに当たるように思います。メディアでの露出も多いし、E3の公演でも実演していましたしね。現状ではWii=テニスぐらいの印象すらあるかもしれません。宮本氏のコメントを見る限り、何かまた、今までのゲームジャンルには収まらないような、それでいて多人数で直感的に楽しむことができる隠し球を用意しているみたいですね。経営方針説明会でも示唆していましたが、詳細が楽しみです。


○まとめ〜来月号で後編も

以上、まだまだ取り上げて紹介したいところですがきりがないのでこのあたりで。全文はニンドリを購入してご確認ください。来月号には後編が掲載される予定で、以下のようなお題目となっているようです。

  • Wiiまでをファミコンから振り返る
    • 宮本さんがつける歴代ハードのキャッチフレーズとは?
  • あのソフトはどうなった?
    • マリオ64-2」、「キャベツ」、「マリオ128」などなど…
  • ニンドリ恒例企画「一問一答」
    • 宮本さんにとって岩田社長とはどんな存在なのか

自分は任天堂ファン歴はそれほど長くないので、キャベツとか言われてもピンときませんが(開発中止になった糸井重里氏関連タイトルという補足は次の記事でありましたが)、任天堂ファンにとっては興味深い内容かもしれません。個人的には、宮本さんから見た岩田社長像が興味深いですね。来月号は発売日に購入して読んでみたいと思います。