「任天堂ハードの場合、任天堂が最大のライバル(笑)」 by バンダイナムコ鵜之澤氏

同じく、CESA主催記者懇談会の記事から、続いてはバンナムの鵜之澤氏。昨年は『機動戦士ガンダム 一年戦争』発表会での「ミリオン! ミリオン! ミリオン!」発言で大いに盛り上げてくださった方ですが、今年もなかなかすごい発言をしています。


まずは任天堂Wiiについて。最初はおきまりのほめ文句でWiiを賞賛しているのですが、その後の苦言の部分がすごい。

ただし、いまのメインユーザーである中高生への訴求力はどうかな、と思う部分もある。あとは、サードパーティー任天堂に匹敵するソフトを作れるかが問題。任天堂さんのハードの場合、最大のライバルは任天堂さんですから(笑)。

いやー、サードメーカーとしての志の低さ、底が知れる発言ですねぇ。中高生への訴求力というのは、ハードそのもので決まるのでしょうか?単に任天堂のゲームで中高生向けのものが弱いと言うだけでは?むしろ、サードはその任天堂の弱いところが一番の攻めどころであり、それにより中高生への市場を広げればいいだけの話です。事実、FCやSFCにはサードはそうしていたわけですし。それなのに、任天堂は最大ライバルであり、サードじゃ任天堂みたいなソフト作れないから無理、とはなから諦めた発言。そりゃ、DSでもろくにサードのソフトが売れないわけです。笑い事じゃありません。

そして、PS3についてはこんなコメント。

それとは別に、個人で楽しむゲーム機の需要がある。携帯ゲーム機やプレイステーション3がそれですね。プレイステーション3も、間違いなく売れるでしょう。

個人で楽しむゲーム=PS3や携帯ゲームという認識からして偏見丸出しですが、それを根拠にしてPS3も売れると結論づけるところもなかなか素敵です。個人でゲームをすることが主体のPS2PSPのソフトの売り上げがどんどん縮小している昨今の現象を一体この人はどう思っているんでしょうか?Wiiには個人で楽しむ需要を満たせないとでも?単に、もうPS3開発に多額の投資をしてしまっているから、立場上PS3が失敗しそうなんてことを発言できないだけのようにも見えます。


しかし、こうした他人事のように任天堂市場を批判するサードの姿勢は、なにもこの鵜之澤氏に限ったことではないようです。
実際、PSPどうぶつの森そっくりなゲーム「福福の島」を作った森川氏も、最新のコラム#1064で以下のようなことを書いています。

#1064 脳ドリルの副作用 - Dr.森川の人間風車

どのゲーム会社のDS市場に対する見解もだいたい同じで、こういうことのようだ。

  • 今はツール系(右脳系とも言う)のソフトが売れている
  • 逆に、従来からのゲームゲームしたゲームは売れない
  • とはいっても、N社のソフトばかりが売れている

そして、こうした「現象」は、上層部の人たちにはこう見えるようだ。

  • (安いコストでつくる)ツール系のソフトを作るべきだ
  • 高いコストをかけて従来型のゲームを作るのはリスクが高い
  • DSのソフトを作ってももうからない

まさに、今回のバンナム鵜之澤氏の発言と一緒ですよね。たしかに、今DSでは知育ゲームがあふれていますが、それはサードがどこも似たような知育ゲームばかり出してきた結果です。これについては、岩田社長も苦笑いしてましたし。サード自らが冒険せず、ただ任天堂が切り開いた成功例の後追いばかりするから、そういった偏った市場ができあがるのです。それに、後追いじゃオリジナルである任天堂より売れないのは当然。
そもそも、最近よく耳にする「ゲームらしいゲーム」ってなんなんですかね。この言葉を使う人は、決まって具体的なタイトルは出さず文句言っているんですよね。ムービー垂れ流しでやり込み要素が最初から大量に用意されているゲームが「ゲームらしいゲーム」というなら、それはすでにマンネリ化しており、特定の層しか買わないから売れないというだけだと思うのですが。現状、そういうマンネリゲームを買うユーザー層は、DSには少ないのは確かでしょうし。でも、そういうゲームを買う層も、年を取るにつれて仕事や家庭の関係で時間がとれなくなり、どんどん減少しています。それが彼らの言う「ゲームらしいゲーム」の売れない実態だと思うのですけど。

もちろん、現状の知育ゲームばかりというのは明らかに変な状態であり、自分もこんな状況が好ましいとは思いません。だからといって、サードが縮小傾向のPS陣営にこもりきり、マンネリな焼き直しゲームばかり作っていてなんになるというのでしょう?それは、単に緩やかに死を待っているにすぎないのではないでしょうか。サードとしてはPS用ゲームに投資し、続編ばかり作ることが「ローリスク」のつもりなのかもしれませんが、それは10年前で思考がストップしているようにも見えます。


たしかに、バンナムスクエニのような大手サードからしたら、任天堂というソフトメーカーの存在は非常にやっかいなものでしょう。逆に、それほど強大な任天堂でも、任天堂ハードに押し込めてしまい、その任天堂ハードの売れ行きを阻止できてしまえば、戦わずして任天堂を蚊帳の外に押し出すことが出来るわけです。実際、PS1,PS2の時代はそれに大成功し、大手サードは非常に安定した巨大な利益を生むことが出来たのです。その思考から、次世代機でも任天堂を同様の目にあわせようと考え、お金がある分早めにPS3へ投資して開発体制を整えてきたのでしょう。それが、DSが圧倒的に市場を奪ったこと、そしてPS3が想像以上に高価格で批判を受けていることで、そうした先行投資が微妙な感じになって焦っているのだと思います。


ちょうど4ヶ月ほど前、マルガの湖畔でサードの苦境を予想する分析が出されています。
サードパーティ冬の時代
この記事の中で任天堂ハードで売る努力をしてこなかった"ツケ" 」という見出しが使われていますが、まさにこの状態になっていると言えるでしょう。今なおPSPに大量にソフトを供給してしがみついては自爆を繰り返したり、マスコミ主導で任天堂寡占を非難したりしてますが、どれも結局、サードが任天堂を仲間はずれにして閉め出し、任天堂と直接向き合って戦うことをさけてきた結果に過ぎないのです。任天堂だって、RPGなどで弱点を持っているはずなのですし、看板タイトルの続編の中には売り上げを落としているものもあるのですが、そうしたところを攻めることも出来ず単なる任天堂のフォロワーになってしまっているのは、情けない限りです。
任天堂だって別に万能な訳でも、天才ばかりな訳でもありません。ただ、先日のN.O.MでのNewスーパーマリオの記事でも分かるように、顧客の目線で物事を考え、丁寧に分析、調整をしてゲームを仕上げているから、完成度が高いというだけなのです。それなのに、サードが「任天堂にはかなわない」とただ逃げていたのでは、そりゃサードの実力はのびませんよ。任天堂だって、実際にゲームを作っているのは最近はセカンドパーティも増えています。大手サードが、任天堂監修のセカンドに負けている状況を恥ずかしいとは思わないんですかね?そのうち、任天堂の弱点部分もセカンド使ってカバーされるようになると、サードの立場がなくなってしまうようにも思うのですが。


そうは言っても、バンナムスクエニ、光栄などの大手サードの影響力はまだまだ大きいものがあります。次世代機でも、結局これらのサードが任天堂を仲間はずれにし、PS3が勝利するシナリオも十分に考えられます。ただ、それって正直フェアじゃないですよね。そんな後ろ向きな思考で作られた市場では、結局どんどん縮小するだけでしょう。サード経営者、開発者共に、いつまでも過去の成功例やノウハウだけに頼ってだらだらと開発するのではなく、初心に戻って意欲的な作品を多数出してほしいものです。