Apple、iPhone向けアプリをFlash等から変換することを禁止

昨日、iPhoneOS4.0について大々的に発表したApple。その開発者向けプレビュー、SDKがすでに配布が始まっています。その中で、開発者規約のところで追加されたものが、物議を醸しています。

iPhone アプリ開発の制限強化、Flash他から変換を締め出し

こちらによると、iPhone向けのアプリを開発する際、AppleAPIにダイレクトにリンクする形でコードを記述しなければならないとのこと。階層を設け、コンバータやトランスレータで別言語で記述したコードから間接的にアクセスするような事を禁じているようです。

これは、実質的にはAdobeがFlash5CSの目玉機能の一つとしていた、FlashiPhone向け書き出しの禁止のためと目されています。

Adobe Labs - Adobe Flash Professional CS5: Applications for iPhone

先日の発表会での質疑応答でも、Flash搭載に対して「No」と即答していましたが、変換ツールでの対応まで明確に拒絶してくるとは正直意外でした。

Flash向け開発衰退が狙い?

そもそも、FlashiPhoneに載せない理由はApple的にはパフォーマンスや安定性を建前にしていました。また裏の理由としては、Flashを搭載してそこで自由にゲームやアプリを提供されてしまうと、AppStore経由の旨みがなくなるから、というのが大方の予想となっています。

しかし、この変換ツールの禁止まで行くと、単にFlashを載せない、AppStoreの流通支配という話だけにとどまらなくなってきます。「コンテンツ提供側が、どのようにソフトを作るか」まで踏み込んできた形になるからです。これでは、まるでFlash向け開発者そのものを減らそうとしているようにも見えます。先日の発表でも、ToyStoryの例でHTML5を使えばFlashで出来ていることと同様のことができるとアピールしていましたが、本格的にコンテンツ開発者に「脱Flash」を促していきたいという狙いがあるのかもしれません。

(あとは、中間に変換ツールが入って動作させられてしまうと、AppStoreの審査の方で違反行為がないかどうかチェックしきれなくなる、という実務的理由もあるのかもしれませんが。)

マルチプラットホーム対応への障害

ただ、今回の変換ツールや階層を介したアクセスの禁止については、マルチプラットホームでソフトを提供しようとしている人にとって影響が出てくるかもしれません。

昨今、ゲーム業界でも複数のハードがシェア争いをしており、どこかひとつのハードでだけ開発しておけばいいということも少なくなりました。そのため、外部、もしくは内部で制作したミドルウェアを通じ、マルチプラットホーム対応させることはある意味自然な流れになってきています。(カプコンのMTフレームワークとかスクエニのクリスタルツールズとかもマルチプラットホーム向けの枠組みですよね。)

一方、モバイル向けの場合、これまでFlashでのアプリが盛んに開発されていたこともあり、Flashでの物的、人的資産を生かしたコンテンツ流用を考えている会社も多かったでしょう。ソフト開発の人的コストは馬鹿になりませんからね。実際、Twitterで少し会話させていただいた岩崎啓眞さんのところでも、ダイレクトに今回の規約変更の影響を受けてしまうようです。

Twitter / 岩崎啓眞: @wapa2 いやー…携帯で制限つきクライアントを提 ...

また、今回の問題は単なるFlashだけにとどまらず、.NET Framework向けに開発したソフトの変換とかもだめになります。それどころか、内部向けに独自に共通スクリプト言語を開発し、それを各プラットホーム向けの変換エンジンに載せる形でマルチプラットホーム対応、ということすら制限されることになります。会社によっては、大幅な方針変更に迫られるところも出てくるでしょう。

市場支配力を利用した行為

そもそも、こうしたソフトの内部開発プロセスにまで、プラットホーム側が口出ししてくると言うのは、ちょっとやりすぎな感じもします。せっかくAPIという界面を切っているわけですから、その上の部分の裁量はソフトウェアメーカー側に任されてもいいように感じます。

たしかに、現状AppleのAppStoreは非常に大きな市場を持っています。自分もiPhoneiPadを持っており、その完成度や使い勝手のすばらしさには惚れ込んでいるのですが、Appleのこうした市場支配力を利用した押し付け行為は、正直あまり感心しません。ソフト開発側に負担を強いる行為でもありますし。あまりこうしたことを露骨にやって独占力強化を図ってくるようだと、そのうち連邦政府が口を挟んでくるような気もするんですけどね。Googleでもそうなってきているわけですし。

iPhoneiPadなど十分に素晴らしい製品・サービスなわけですから、あまりえげつない施策でそのイメージを汚さないようにしてほしいところです。