任天堂岩田社長「来年度1000億円の営業利益」をコミットメント〜不退転の決意表明

昨日発表された任天堂の決算見込み。為替差益で黒字幅は伸びているものの売り上げ台数などを軒並み下方修正しており、先行き不安を反映して案の定株価は大きな落ち込みを見せました。

【編集長の視点】任天堂は続急落、営業利益下方修正・連続赤字で関連株の反応は高安マチマチ | 個別株 - 財経新聞

一方、今朝には経営方針説明会が開催。いつものように詳しいプレゼン資料が公開されています。

2013年1月31日(木)経営方針説明会 / 第3四半期決算説明会 任天堂株式会社 社長 岩田聡

こちらを見ると、海外、とくに北米での苦境が鮮明になっていますね。とくにソフトでのヒットタイトル不足が深刻な感じです。一方で3DSが国内で好調、タイトルも来年度は有力なものがそろっているので、その勢いをどう海外につなげていくか、を3DSの課題に掲げています。WiiUについては、まずは魅力を伝えることやサードとのコラボなどでタイトルを確保してソフトを多く投入することを訴えています。

「営業利益1000億をコミット」〜進退をかけていると受け止められる

この中で特に話題となっているのが「営業利益1000億円のコミットメント」。コミットメントというのはビジネスにおいては非常に重い言葉であり、責任を取るつもりがなければおいそれと使えない、使わない言葉でもあります。スライド資料で経営陣としてコミットメントすると答え、その後の質疑応答で責任について問われてもこの言葉を繰り返したことで、「岩田社長が進退をかけている」ととらえられています。

任天堂・岩田社長、進退かけた来期への覚悟  :日本経済新聞
任天堂・岩田社長、業績不振で辞任も示唆 ゲーム機開発部門を一本化へ (産経新聞) - Yahoo!ニュース

産経は相変わらず大げさだとも感じますが、日経でいつも任天堂よりの記事を書く井上理記者の記事でもこうした見出しになっているとおり、こういった発言をすれば当然トップである岩田社長が進退をかけている、ととらえるのはビジネスとしては普通のことでしょう。

利益コミットの根拠は?〜ハード発売後の利益回収フェーズへ

もちろん、これだけの数字をコミットとまで言うのなら根拠はあるのでしょう。根拠として考えられるのは、まず大赤字の要因になっていた3DSの逆さやが解消されること。そして日本では少なくともソフト販売がミリオンクラスがならんでおり大幅な利益が望めることがあるでしょう。3DSWiiUの双方を発売したことで、研究開発での出費も来年度はかなり抑えられたかたちになると思われます。WiiUは逆さやですがソフト一本売れれば利益と言っていますし、すでに開発していて今年の年末商戦に投入できるタイトルが複数あるとのことですから、ここも基本的には資金回収のフェーズ。つまり、「出費は抑えて、収入を積み重ねていくフェーズ」という意味でこの利益見込みな気がします。また為替レートも90円で計算。海外での売り上げが伸びればその分円換算は大きくなるわけです。

決して楽ではない道のり

もっとも、これにはやはり「海外でのソフト売り上げを伸ばす」ということが大前提となります。3DSはそもそも日本で受けていたタイトル群をどれだけ海外でも売ることができるか。そして、WiiUは年末商戦で売るためにそもそもの本体普及をどこまで伸ばせるか。一応昨年末に大量に売ってはいますが、次の商戦期までに中古で売られてしまっていては元も子もないでしょうし。E3ではライバルハードも次世代機発表を示唆しており、それによりWiiUが話題性的に陳腐化させられる可能性もあります。また本体の売れ行きが滞り生産調整とかもかけるようだと量産効果によるコスト削減もききづらくなって利益構造が悪くなる可能性もありますそして今回再度繰り返した「値下げはしないというコメント。

Wii U値下げを否定 任天堂・岩田社長「3DSの反省を生かす」 - ITmedia ニュース

1000億円という額のコミットを考えれば、値下げのカードを切ることは無理でしょう。値下げをするのは、もうすでに岩田社長が辞任するタイミングになると思われます。コミットメントの責任を果たせないのが明白になるので。

任天堂の岩田社長」が崩れない未来に期待

個人的には岩田社長就任後の任天堂が好きであり、岩田社長も非常に尊敬しています。岩田社長のやめた後の任天堂を考えたくもないところがあります。岩田社長以上の後任者も思い浮かびませんし。ですので、なにも1000億なんて数字をコミットしなくても、という気も。ただ、ここのところ下方修正の連続だっただけに、進退をかけなければ言葉を信用してもらえない、という意図もあったかもしれません。

岩田社長は道徳観も高く、長年社長を続けてきただけに責任をとるときは責任を取るでしょう。しかし、岩田社長がやめてソーシャル参入やスマホでソフト販売などしたからといっても、短期的に利益はあがって投資家はよろこぶかもしれませんが、任天堂が10年20年と続くとは想定できません。ただでさえボリュームのあるゲームなどは死にかけており、ゲーム専業で生きるしかない任天堂がかろうじて守っている感があるので、そうなったらある意味昔から続く「ゲーム」というものが死んでしまう気もします。

掲げられた目標は高く、状況も決して楽なものではありません。日経の井上理記者の最後のところにもあるようにまずは「わかりやすいキャッチコピー」を示せるかどうか。現状かけているのは、WiiSportsやWiiFitnintendogsなどのようなわかりやすい、ムーブメントを起こせるソフトだと思います。定番タイトルをたたみかけるだけでも、なんとか1000億はいけるのかもしれませんが、なんとか3DSWiiUでも「新機軸でキャッチーなソフト」を成功させてほしいですね。退路を断った岩田社長の本気で、我々を大いに喜ばせていただきたいと思います。