ドコモのプリペイド契約者数、大幅10万減〜裏にPS Vita 3G版での大量解約有り

ドコモ、ソフトバンクauがしのぎを削る携帯契約数争い。6月分の販売が本日発表となりました。

事業者別契約数(2012年06月末現在)|社団法人 電気通信事業者協会(TCA)

ここで、大きな話題となったのがドコモの数字。昨月まで10万台はコンスタントに純増を誇っていたのに、6月は1桁少ない1万台。5年ぶりの低水準だとマスコミでも報じられました。

携帯純増数、ドコモ5年ぶり低水準 ソフトバンク首位  :日本経済新聞
6月携帯純増数、ドコモが5年ぶり低水準 | Reuters
ニュース - 6月も携帯電話純増数はソフトバンク首位、ドコモはプリペイド解約響く:ITpro

ここで要因としてあげられたのが、PS Vitaの存在。プリペイド契約がドコモ曰く「10万台前半」解約になったというのです。6月はVitaは8万ほど売れたので、大体3割程度は3G版として2万台ぐらいとすると、実際は解約12万件ぐらいですかね?この件について、PS Vitaの3Gに関するこれまでの件を振り返りながらコメントしてみたいと思います。

初の3G対応携帯ゲーム機PS Vita〜特殊なプリペイド契約

PS Vitaの注目の機能の一つであった3G通信機能。携帯ゲーム機がいつでもどこでもネットにつながるという画期的な機能でしたが、一方で通信費の問題がどうしてもつきまとい、これまで実現されていなかった機能です。スマホとかでは、データ通信として月4000円以上での使い放題とかがありましたが、学生も多いゲーム産業ではあまりに高価。3G機能搭載と発表された時から一体どういった料金体制にするのか注目されていましたが、その中でソニーが提示してきたのは「Vita専用プリペイドプラン」という、特殊なものでした。

報道発表資料 : データ通信専用プリペイドプランを提供開始 | お知らせ | NTTドコモ

これは、通常利用データ量で課金されることの多い通信料に対して、100h 4980円、20h 980円という、利用時間で課金されるといういわばアナログモデム的料金体系。また、転送速度も128kbpsと遅く、その代わりに割安という位置づけのものでした。

この料金プランですが、初回限定版としてソニーは50万台の3Gに100hプランを付属していました。
PlayStation®Vita クリスタル・ブラック 3G/Wi-Fiモデル 初回限定版(50万台数量限定) | プレイステーション® オフィシャルサイト

この100hプランですが、3G版Vitaに最初からSIMが刺さっており、起動すると複雑な契約も必要なくそのまま使用開始になる形。これを避けるには初回起動時にSIMを抜いておくという、マニアックな処置をする必要があります。(ちなみに自分はイオンSIMを持っており、このことを事前にCEATECでドコモ説明員から聞いていたため、いまだプリペイドSIMは使わず取ってあります。当時の質疑応答は以下のとおり。)

CEATECでPS Vita体験〜3Gサービスに対する一問一答 - わぱのつれづれ日記

以上のことから、3G版をロンチで購入した多くの人が、買ったその日からプレイペイドカード使用開始となっていたわけです。そして、このことが今回の大量解約への布石となっています。

180日の利用期間+14日の猶予期間を過ぎると自動解約

上記に示したドコモのプリペイドプランの説明。この中で重要なのが、「利用期間の制限」と「契約更新猶予期間」、そして「自動解約」に関しての決まりです。

100hプランの場合、利用開始からの利用期間の制限が180日となっています。いくら利用時間が余っていようと、180日を超えると無効になってしまうわけですね。12/17から180日というと6/24。この日、ツイッター上でも多くの方が「全然使わなかった」「余ってしまった」という報告をされていました。

そして次に大きく効いてくるのが、猶予期間後は自動解約になるというもの。これは、最初に本体を買った際にプリペイドしている扱いになっており、特にドコモと個人情報レベルでの契約を交わしていないことも影響しているでしょう。どこの誰が使っているか分からないプリペイドカードのため、契約が更新されなければそのままSIMカードごとごみとなってしまうのです。一応、180日の後に2週間の猶予があるのですが、これを過ぎると契約が自動解除。再度3Gが使いたければドコモと個別に再契約して2100円の事務手数料を払う必要があるというのです。(※ちなみに、3G版は実は事務手数料2100円が初回上乗せという内訳となっており、本体価格は27880円だったりします。)

ドコモおよびソニーとしては、事務手数料のかからないこの2週間の間に契約更新してくれる腹積もりだったのでしょうが、この契約更新にはクレジットカード、もしくはドコモ契約者のみまとめて払いという形。プリペイドなのにコンビニなどでの支払いもできないという形で、クレカを持たない学生や非ドコモユーザーにはハードルが高いものとなっていました。さらにのしかかるのが先に述べた「たくさん時間が余った」という事実。このことから、多くの人が契約を更新せず、猶予期間すら過ぎて自動解約したため、今回の大量解約でドコモに大影響という事態となったわけです。(根本的に、切れていたのに気付かなかった、レベルの人もいそうですが。)

順調で無い3G版の売れ行き〜大量に売れ残る初回限定版

ソニーとしては、初回限定の3G 50万台は「早期に売り切るつもり」と、ロンチ時は猛プッシュしていました。
ソニーの「ヴィータ」は「3DS」と競合せず=SCE幹部 | Reuters
実際の初回出荷でも3G版が多かった印象ですね。予約でもWiFi版の予約があっという間になくなっていましたから。ソニーがVitaビジネスにおいて3G版を軸に考えていたのは事実でしょう。

また、エンターブレインの浜村氏も、当時は以下のような絶賛をしていました。

出荷予定数の50万台は「かなり足早くなくなるはず」(同)と予想し、プリペイド方式の採用についても、「パッケージを開けてすぐに3Gを使った遊びを体験できる。ゲームファンの特性をよく研究したことの成果で、よくここまで調整できたものだと驚かされた」と脱帽の様子だった。
エンターブレインの浜村弘一氏が講演“ゲーム産業の現状と展望 (2011年秋季)”を開催 - ファミ通.com

ただし、その後の売れ行きはこれまで散々結果として示されている通り。3G版は半年を経過して30万台程度、まだ初回限定版が20万台ほど残る始末。ソニーは順調との主張を崩しませんし、浜村氏も自身の予想が外れたことに対する明確な説明もせずスルーしていますが、予定通りでないのはその後も繰り返し打たれている3G版限定の割引キャンペーンが物語っていると言えるでしょう。

3G契約を更新した人に特典キャンペーン〜ユーザーに不公平さも

こうした事態に、ドコモもサードと連携していろいろなキャンペーンを打ち出しています。
話題の人気タイトル『シェルノサージュ〜失われた星へ捧ぐ詩〜』その人気の理由を探る!
上記のシェルノサージュでは、プリペイドプランの更新で「ここでしか手に入らない」とされる限定データを配信。それ以外でも、3G関連でアイテムやゲーム内通貨を配布するなど、いろいろキャンペーンを打っています。
PlayStation®Vita “楽しもう3G”プレゼント企画|PS Vitaと3Gでつながるドコモ

ただ、このキャンペーンもやり過ぎはどうか。特にシェルノサージュの「更新した人限定データ」はやり過ぎと感じます。ゲームでは、ファン心理としてコンプリートを目指すことが多いです。有料DLCであっても、全部揃えようとしう人はいます。しかし、この「3Gプラン更新」というのは、コンプリートを目指す人にとってはあまりに条件がひどい。まず、WiFi版では入手不可。3G版であっても、ここ数ヶ月のうちに3G版を買った人、たとえばこのシェルノと同時にVita 3Gを買った人ではまだまだ数ヶ月プリペイドプランが残っているわけです。募集開始が8月からで、期間がいつまであるのか分かりませんが、果たして期限がきれるころにキャンペーンがやっているかどうか。更新予約といっても、まだ数ヶ月残っている状態で予約というのもきついものがありますよね。

まとめ〜3Gならではのキラーコンテンツを生み出せるか

以上、今回のドコモ大量解約とそれに関連するPS Vitaについて説明してきました。この騒動、今回はまだ始まりにすぎません。というのも6月分の自動解約は、12/17,18,19の3日間で利用開始した人に限るからです。PS Vitaは初週32万、次週8万と、12月だけで40万販売し、内プリペイド純増が約19万となっています。12/19-31はまだ初週の4分の1ほど売れていたと考えれば、まだ3万程度の解約が7月分で出てくることも考えられます。また、今回「とりあえず解約で再契約時に2100円払うの嫌だから20h更新して様子見よう」という人も更新した人の中にはいるはず。そうした人が「やっぱり使わなかったから解約でいいや」となった場合、さらに解約が増えるおそれがあります。

12月分以降は皮肉にもVitaの売れ行きがぴたっと止まったので影響は少ないでしょうが、上記のように来月発表分ではまだドコモの数字に影響しそうです。結果的に、昨年12月に久しぶりにソフトバンクを純増で上回ったというニュースを出せただけで、そのツケを払うことになっているような感じですね。

ドコモ、21カ月ぶり純増トップ、「Xi」好調、PS Vita向けプリペイドも伸びる - bizmash!:@nifty

こうした状況を改善するには、とにかく「3G版をもっと売ること」そして「3G契約を更新してもらうこと」。しかし、中身もなく単にキャンペーンを打つだけでは効果も限定的ですし、乱発すればさらに効果は落ちてきます。やはり根本的に「3Gでなければできないこと」「3Gをぜひ使いたいと思えるキラーコンテンツ」を打ち出していくことが重要ではないでしょうか?

PS Vitaはドコモの独自プラットホームに載っていないため、ドコモ自体のコンテンツはなかなか望めません。現状、シェルノサージュとかnear、モンスターレーダーあたりで3G活用をしていますが、「キラー」と呼べるほどのものかどうか。128kという速度も、正直フルブラウザなどを見るには不足です。スマホならUAを見てスマホサイトに切り替えてくれますが、Vitaはマイナーなためそういった自動切換えもされないがネック。単なる情報端末なら、はっきり言ってスマホで十分ですからね。これからドンドン消費者の携帯はスマホにシフトしていくわけですし、一般アプリでのキラーはVitaでは望めないでしょう。そうなると、Vitaならではのゲーム、オンラインサービスなどで3G機能を活用、さらに「欲しい」と思わせるものを、なによりもソニーが提供する必要があるかと思います。

自分も3G版持ちですが、イオンSIMでさえ特に3G通信を必要と感じる場面は少ないです。3G版はVitaのフル機能版で、キャンペーンなどもある現在あえてWiFi版を買う必要性は無いといまだに感じてはいますが、3G版が宝の持ち腐れになる、下手するとハードが増える分トラブル要因になりかねないというのは、がっかりするところ。自分にとっては「3G版でよかった」と思える、新規の人には「これなら3G契約するわぁ」と思える画期的かつ魅力的なコンテンツ、ソフト、サービスを提示してほしいな、と思います。キャンペーン濫発ではなく。