任天堂、ソフトのDL販売へ〜パッケージ販売も両立、店頭でDL用コード購入・小売値付けも可

昨日、上場以来初の累積赤字を出した任天堂。1月の赤字予測よりは円安進行で改善はしたものの、海外での落ち込みが大きく432億という大きな赤字の数字となっており、本日の株価も大きくさがっていましたね。

昨日の段階で、いくつか断片的に任天堂のコメントが出ていたのですが、本日社長説明のスライドが公開されました。

2012年4月27日(金)決算説明会 任天堂株式会社 社長 岩田聡

昨年度の状況について、いろいろ貴重な情報が載っていますね。米での360好調、欧でのPS3好調などが改めて示されています。360もわざわざ(Kinectだけの要因じゃない)とまで書いてありますし。

パッケージソフトのデジタル配信について言及

ただ、この資料の中でなんといっても大きな話題になったのは「パッケージソフトのオンライン販売」についてのところです。4,5ページ目ですね。

2012年4月27日(金)決算説明会 任天堂株式会社 社長 岩田聡 P4
2012年4月27日(金)決算説明会 任天堂株式会社 社長 岩田聡 P5

ソフトのDL販売はVitaでは標準で、Xbox360でもオンデマンドとしてやっています。ただ任天堂のアプローチで違うのは「店頭売り」。デジタル販売だと、どうしても知名度が上げづらい、それは店頭に並んでないから、という一つの理屈ですね。海外では、DLコンテンツについてはプリペイドカードをゲームショップなどで売っていたりします。あんな感じで、任天堂の場合はソフトもDL版を店頭売りさせてしまおう、ということです。

さらに面白いのは値段の付け方。通常DL販売だと、メーカー側がコンテンツの値段を決めてしまい小売取り分もないため、小売で扱えたとしてもあまり扱いません。ところが、任天堂の場合だとあくまで任天堂は卸すだけであり、小売側で取り分も加味して値段設定できるとのこと。これにより、小売は在庫のリスクもなくDL版を自分の儲けありで売ることができる、というわけで、これが任天堂なりの小売側への提案ということのようです。

店頭での販売形態は?〜カード式?コードだけ印字?

具体的なところは、まだ疑問点もいろいろあります。まずは小売での販売形態。使用するシステムはPOSAというもののようです。調べてみたら、すでにiTunes CardやPSNニンテンドーポイントなどのプリペイドカードで広く使われている技術のようですね。

セブンイレブン、iTunes CardなどPOSA採用のプリペイドカードを販売開始 | 経営 | マイナビニュース
“POSA”技術を採用したプレイステーション ネットワーク カードが発売開始 - ファミ通.com

いずれもインコムの技術を使っているようです。このPOSAのメリットは、レジのPOS端末を使ってカードをアクティベートするまで、そのコードに書かれたコードが有効にならないということ。レジを打って初めてカードに価値が生まれるわけですね。ですので、店舗側も単に陳列しているカードは資産的価値無し。万引きとかされてもPOSを通してないので使えません。商品を陳列しながらも在庫による損失リスクなどがないという点が受けているようです。

今回のソフト販売の場合、果たしてどんなシステムになるか。分かりやすいのでいればこのプリペイドカードのように、ソフトごとに専用のカードが用意されることですね。これであれば「手元にソフトがないと嫌」という人でも、ゲーム柄のカードが残るのでよさそうな気がします。ただ、これだど結局「カード自体が無くなる」という在庫切れの問題が起こりえてしまいます。そうなると、次に考えられるのが「コードの書かれた紙を印刷して渡す」というもの。コンビニでのライブチケットとかはそんな感じですよね。もしくはレシートに印字するとか。ただ、これだとなんか味気ないですし、安っぽすぎると買った後使う前に紛失しかねない気も。個人的には「ゲーム毎にカード」というのを希望します。

どちらにしても、小売としては「品切れ」と「在庫過剰」のリスクを回避できる形ですね。パッケージ販売は抑えめにして、足りなかったらDL版を販売、とか考える小売も出てきそうです。

いろいろなバリエーションも想像〜店頭でのダウンロードサービス、特典付きなど

またこれ以外にも、新しい試みということでネットではいろいろな小売でのビジネスの仕方が想像されていますね。

一つは、「店頭でソフトDLのサポート」。DL販売により、ソフトの入れ替えの手間が減るのでDL版が欲しいという消費者もいるでしょう。ただ、一方で家に無線ネット環境がなかったり、手続きがよく分からないという人もいるはず。そういった人に、小売側で店頭でのDL版販売からコードの入力、ダウンロードまでサポートしてあげる、みたいな感じです。たとえば「街の電気屋さん」なんかだと、価格は量販店より全然高かったりしますが、地元密着でコネがあり、家電の設定や交換といった雑用や難しいところをサービスとして引き受けることで、その価格でも買ってくれる客を掴んでいます。そんな形で、小さなゲームショップでもサービスでこういったことを対応すれば、価格で量販店に負けても贔屓にしてくれる客が出てくるかもしれません。

あとは、「特典付きDL版販売」とかですね。今だとオタク系ゲームでは初回特典がついてくるのが当たり前なのですが、DL版だとこれまでそれがもらえないということが多かったです。それに対して、今回のPOSA方式であれば店頭に赴くので特典をもらうことができます。メーカー側も特典で初日売上伸ばすこともできそうですよね。

消費者のメリットは?

上記では、「小売でDL版ソフトをアピールしてもらえる」というメーカー側のメリット、在庫関連の小売のメリットを述べてきました。一方で、消費者にとってのメリットはどうか、というところですね。これは、一つは上でも触れた「ソフトの入れ替えの手間が減る」というところ。特に「毎日ちょっとずつ遊ぶ」系のソフトは相性がいいと思います。自分はどうぶつの森は2年ぐらい毎日ちょっとだけ起動ということをやっており、その時はゲームの差し替えが本当に面倒でした。WiiでもWiiFitの本体にインストールできる体重計はちょくちょく利用するのですが、CD入れ替えとかは面倒ですよね。ですので、どうぶつの森とかラブプラスとか、この手のコンテンツはDL版の相性がいいかと思います。

後は単純に「家にいたまま購入できる」、「パッケージの箱でかさばることが無くなる」といった辺りでしょうか。

再ダウンロードは可能?〜怖い紛失時のリスク

個人的に危惧しているのは、「本体とヒモ付されてると紛失時のリスクがでかい」ということ。WiiUはアカウントが導入されるようですが、3DSは今のところ本体とソフトが紐付けされて別のハードでプレイとかできません。これは、すなわち本体を紛失してしまうと買ったソフトは一切なくなってしまうということです。

アカウントと対応づいていれば再ダウンロード可能でしょう。PSNとかはそうですよね。iPhoneとかのAppもそう。また、本体故障でも任天堂に送ればハードのシリアルとソフトの関連情報は任天堂にあるので、修理後にソフトを移行などはやってくれるかもしれません。ただ、紛失は「本当に無くしたことの証明」が難しいのが問題です。消費者が嘘をついた場合、複数のハードでソフトが動いてしまうことになりかねませんから。ソフト起動時にネットにつなげてアクティベーションという方法も無くはないですが、据置と違ってネット環境なしで遊ぶ人も多いことを考えるとそれも難しいでしょうし。

できれば、クラブニンテンドーの情報とソフトの関連付けをして、紛失時でも再ダウンロード可能な仕組みを用意して欲しいですね。

デメリットは?〜中古、貸し借り、売り逃げなど

メリットばかりあげてもなんなのでデメリット面を。まず消費者にとってですが「中古に売れなくなる」。クソゲーをつかんだ時に即うりで損切りするとかの手段がとれなくなりますね。あとは初日クリアしてすぐ売って次のソフト買うみたいなコアな人とかは都合が悪いかと。あとは「ワゴンでの激安販売が減ってしまう」というのも買う側だけから見たらデメリットでしょうか。秋葉ソフマップとか、いつもスゴイ量のワゴン激安品売ってますしね。他には手元にパッケージの箱が残らないのも人によってはデメリット。友達との貸し借りが出来ないのもデメリットですかね。

小売としては、「中古で扱うパッケージがそもそも減る」。小さなゲームショップなんかは中古の方が利幅がいいため中古中心だったりするのですが、その絶対量が減ってしまう可能性があります。あとは「どこかが極端に値引きしたときの対応」。小売側に利幅があるのはパッケージソフトでも一緒ですが、在庫時の負担が無いとするとどこかのショップが客寄せのために「利益0の底値販売」とかやらかしてもおかしくありません。そういった行為がそもそも認められるのかどうか不明ですが、大手にそういった格安販売やられると小さなショップはきついでしょうね。

あとはメーカーとしても「前評判やブランドで小売に大量に押し付けて売り逃げ」がやりづらくなるのは、そういった商法をしてきたメーカーにとってはデメリットかも。それから取り分次第ですが「パッケージ版とさほど儲けが変わらない」ということもあるかもしれません。結局は卸価格が決まっていて、メーカーが関係するのはその価格だけですからね。

まとめ〜DL販売の新たな可能性。後は流行るかどうか

以上、いろいろ分析してきましたが、個人的にはおもしろい提案だと思います。各々メリットもありますし。ただ、デメリットに上げたような、今のゲーム業界の負の部分がどう影響するか。理想はないほうがいいものでも、実際問題これで食っている人たちもいたりするわけで、そういった人の抵抗が強ければ軌道に乗らないおそれもあります。中間問屋なども、この仕組からはぶられる可能性もありますからね。

消費者側も、中古に売れないとか本体が限定されるとかを気にして手を出さない怖れもあります。そもそもDL版がどの程度値引きされるかも気になるところですね。

導入は8月のNewマリオ2からとのこと。任天堂は基本的にパッケージとデジタル販売を両立させていくようです。マリオなら別にどっちでもいいかなという感じですが、まずはこれでどの程度DL版が売れるのか楽しみですね。店頭販売はPOSを通すので、メディクリランキングとかにも出てくるので。任天堂が成功し、ソニーやMSも追従といったことになるかどうか。DLC販売じゃすでにPOSA先行しているわけですしね。サードがどの程度DL販売するのかも気になります。

WiiUでも採用されるこの商法。業界としてどう動くのか興味津々というところです。