MHP3rd HDで、PSP版セーブデータを上書きで誤削除する問題発生

昨今、日本のゲーム業界の縮小と共にソフトコンテンツ不足も起こっており、複数機種にまたがって同一コンテンツを使いまわしていく商法がいろいろと見られます。バンナムの完全版商法などが一番えぐい例として有名ですが、スマホに移植したり、ソーシャルへ移植したり、そうしたコンテンツ使い回しは昔からよく見られるところです。

そんな中、現役の携帯機コンテンツを据え置きに流用、さらにどちらでもプレイ出来るようにするという、新しい流れも作られようとしています。その取組の第一弾として登場したのが、PSP Remaster。ソニーが中心に開発を進めたPSPエミュレータベースのシステムで、第一弾がカプコンのMHP3rd HDバージョンとなっています。

モンスターハンターポータブル 3rd HD Ver. - PS3

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400万本越えの記録的ヒットをたたき出したMHP3rdのPS3対応ということで、非常に注目されていたソフト。PSP版と同一の内容ながら、さすがの売れ行きを見せているようですね。一方で、すでにネットでは仕様についての不満もいくつか出てきています。一番不満の声が大きいのはアドホックパーティによる通信プレイの仕様のようですが、個人的に事態が深刻に思われるのは、「ユーザーが誤ってPSPセーブデータをPS3データで上書きし、削除してしまう」というものです。モンハンのような長時間プレイが前提、セーブデータが何よりも重要なソフトでなぜこういった事態が起きてしまっているのか、自分なりの見解を述べてみたいと思います。

ユーザーが手動でデータをコピー、上書き必須

PSPで使っていたデータをPS3で使うときの手順は、SCEのページに方法が説明されています。

PSP®(PlayStation® Portable) Remaster対応タイトルのセーブデータを"PS3"と"PSP"で共有するには? | PlayStation.com(Japan)

このページ、「PSPPS3」と「PS3PSP」の両方のパターンが書かれているのですが、この二つの違いがぱっと見て分かるでしょうか?PSPPS3という名称自体がそもそも似通っていますし、手順も最初の行っては共にPS3XMBメニューにおける[セーブデータ管理(PSP Remaster/PSP)]の項目から始まります。違うのはその後で、その中にPSPがつながっていればPSPのアイコンが表示、PS3側のセーブデータはアイコン無しに直に表示されています。PSP版の方のセーブデータはPSPアイコンのさらに下で、一回層低くなっている形ですね。セーブデータ自体は、名称もアイコンもPS3版とPSP版で同一。ようするに、セーブデータのバイナリ的には同一のものということなんですよね。それが、ほぼ同じような場所に2つ置かれるわけです。これはまぎわらしい。

せめて、PS3のデータもPSP同様アイコンの下に入っていれば、もうちょっと紛らわしさが無くなるように思います。しかし、実際にはそうなっていません。また、たちが悪いことにこのXMBメニューは単純にこれまでのPSPセーブデータのPS3バックアップとも一緒の作業になっているため、そもそもこの手順を間違えるようではPS3側へのバックアップもうまく出来ていないということなんですよね。

フールプルーフの不足&システム機能利用の弊害

今回の件については、正直「仕様設計のミス」という感じです。まず、PSP RemasterのかなめとなるPSPPS3のセーブデータ連携の部分を、PS3XMB機能に一任させてしまっていることに問題があると思われます。VitaでのPS3連携ではPS+でのオンラインセーブデータ管理を使うので、今回のような問題は起きないと思いますし、てっきりPSP Remasterでも似たような機構を用意しているかと思ったのですが、システムメニューでの手動コピーというのは正直びっくりしました。

ソフトウェアや工業製品における重要な考え方として、「ユーザーが誤操作した時も不具合が出ないようにする」、いわゆるフールプルーフというのがあります。

フールプルーフとは【fool proof】 - 意味/解説/説明/定義 : IT用語辞典

素人にファイルを直接触らせる怖さというのは、PC詳しい人が初心者と触れていればよく分かることだと思いますが、根本的に「ファイル」とか「データ」というOS的概念そのものがよくわかっていないため、玄人からは思いもよらぬことをしたりします。システムファイルを平気で削除しようとしたりしますしね。そうした事態を避けるため、最近のOSでは極力生のファイル構造は隠してしまいますし、ユーザーが作ったデータも別の場所で管理、データコピー時もリネームコピーとかを用意しているわけです。それですら基本的にはまだまだ素人には甘く、データコピー関連であれば誤操作をしないよう、専用のメニューやツールを用意し、それを使った安全なデータ移行を提供するのが、一般的なサービスとなっています。

ゲームの場合でも通常、据え置き型と携帯機でセーブデータ連動などをする際には、ゲーム中において専用メニューをもうけるのが一般的です。ユーザーの手作業に頼っては、何が怒る変わらりませんし、単純にユーザーも面倒くさいですからね。同じPS3でのHD版を予定しているコナミメタルギアソリッドピースメーカーHDでは、以下のようなメニューを用意しています。

4Gamer.net ― スクリーンショット(「メタルギアソリッドHD」「メタルギアソリッドピースウォーカーHD」の画像が公開に。HD化されたそのクオリティを確認しよう)

こちらはいわゆる「チェックイン、チェックアウト方式」という奴ですね。一方にデータをチェックアウトしている間は、もう一方のデータはロックがかかるという機構が設けられています。ソフトウェアの共同開発などではよく見られるシステムです。セーブデータも、PS3版とPSP版の双方が異なるアイコン、名前で並べて表示されており、プレイ時間などのステータスも出ているので、どういったデータを上書きすることになるのかが分かりやすい形にはなっていますね。

このように、よく分かっていない客が扱っても重大事故を引き起こさないような配慮が、ある程度のレベルの製品なら当然のようになされます。今回のセーブデータ上書き事故は、それがかけていたという印象です。

抜け落ちた「顧客」の目線

MHP3rd HDでは、カプコンはセーブデータ移行用の専用ツールやメニューを用意していません。マニュアルにもSCEのページと同様の記述があるのみのようです。まずこの時点でカプコンの不備だと思います。モンハンにおけるセーブデータの重さは誰よりも分かっていて然るべき立場なのに、ユーザーが誤った操作をしかねない、システムメニュー経由の直接セーブデータコピーを利用する時点で判断がおかしいです。PCとかですら、「〇〇フォルダのデータをコピーし、××フォルダに上書きコピーしてください」とかやらせるソフトがあったら、不親切なソフトだと思われます。ましては、MHP3rdなんて400万本以上売った怪物ソフト。ユーザーの知識レベルが千差万別であることは自明であったでしょうから。

そもそもXMBのセーブデータ管理だって、実際には相当な数の人が「触ったこともない」ということも多いのではないでしょうか?普通にゲーム買ってプレイするだけなら特に触らなくてもすんでしまいますからね。特にPS3ではHDD搭載でセーブデータがあふれる心配も無いですし。慎重な方は念のためのバックアップを取るために触れているでしょうが、よく分からない人は全く触っていなくても不思議ではありません。XMB自体、かなりそっけない平坦としたシステムメニューで、選択事項の重要性が分かりづらいところがあります。「ファイル」「データ」という概念事態かなりデジタルなもので、ある程度の馴染みのある人でないと通じない概念だったりもします。その辺が結構直に見えてしまうXMBで、マニュアルも読まない人が多いゲームユーザーに対して重要な操作を一任するのは、非常に危険な賭けだったように思います。

今回のPSP Remaseter自体、SCE側で準備を進めてカプコンに提案、カプコンがのっかったという経緯があります。このあたりは開発者インタビューを見ると分かります。

開発者の声 | PSP® (PlayStation®Portable) Remaster | プレイステーション® オフィシャルサイト

これらを見ても、SCE側はあくまでPSPエミュレータの質を高めることに重視する技術屋の目線。そしてカプコンの辻本氏も「動いているから」という理由で乗り気になったという感じのコメントです。形としてはSCE側が環境を用意して、カプコンはそれに乗っかるだけ、みたいですね。不評のアドホックパーティーでの通信プレイについても、PS3側の仕様に引っ張られているところが多く、カプコン側に自力で何とかしようとする意志が感じられません。これでは「手抜き」と称されても致し方ないかもしれません。SCEも、「低コストでPSPのソフトをPS3でも売れる」といったことを売りにしたいのであれば、システムメニューでの配置をもうちょっと考慮するとか、別途汎用のPSPPS3データ移行ツールを配布するとか、そういった対処をすべきだったんじゃないでしょうか?

今回のケースは、カプコンSCE双方が各々の仕事領域を決めてしまい、「機能的に満たされていればOK」という感じで仕様が決まってしまったように感じます。SCEエミュレータつくるだけ、カプコンPSP版をテクスチャだけ変えてあとはそのまま載せるだけ、と。アドホックの件といい、ユーザーがどう使うか、どう感じるかといった根本的な顧客視点、ユースケースの洗い出しが足りていない、という感じですね。

早急な注意喚起、仕様改善を

いろいろと、仕様設計の観点から述べてきましたが、今回のケース、実際にTwitterなどではぼつぼつとセーブデータが飛んで嘆いている人の声がリアルタイムで聞こえてきています。それも数百時間単位のプレイ時間を。もちろん、今回のケースはユーザーの誤操作が原因で、ユーザーが注意深くマニュアルを読んで操作したり、事前にPCなどでバックアップをとっていれば回避できる自体です。ただ、上でも述べたように根本的にフールプルーフの設計に不備があります。単なる事故責任で片付けてしまうのは、メーカー側としてはあまりに不誠実な行為だと言えるでしょう。

まずは、土日の販売にあわせて一刻も早い注意喚起を行うべきだと思います。「PS3のデータでPSPデータを上書きして消してしまう事例が発生している。必ず事前にバックアップを取ってください。」といったアナウンス、そして間違えやすい事例についての購入者への喚起を行うべきでしょう。ゲームショップでも、販売時に簡単な説明ビラをつける、口頭で注意を促す、ぐらいやってもいいと思います。Wiiのリモコンにおけるストラップじゃないですが、こうしたことは「やりすぎ」というぐらいでないと、分かっていない人には伝わらないものです。

また、どれだけやってもわからない人はわからないですし、不注意な人は不注意です。大多数に売る製品である以上、フールプルーフは非常に重要。できることであれば、今からでもPS3XMBメニューの見直しなどを進めるべきではないでしょうか?上書きコピーの時のメッセージをもっと派手にする、何を何で上書きしようとしているのか明確に分かるようにするなど、改善すべき項目はいろいろあります。「XMBの仕様として難しい」というのなら、そもそもXMBでやろうというのが間違い、ということなので専用のセーブデータ移行メニューなどを提供すべきでしょう。

せめてPSP Remaster第一弾をもうちょっとマイナーなタイトルでやっていれば、被害ももうちょっと少ないうちに改善に取り組めたのかもしれないんですけどね。MHP3rdという化物規模の、しかもセーブデータ最重要なタイトルでやらかしただけに、頭が痛いところです。アルファ、ベータテスト無しにいきなり大型ネットゲームの正式サービス開始しちゃっているような印象ですね。

ともかく、セーブデータが消えることで一番大きなショックを受けてしまうのはユーザー。あくまで誤操作での上書き削除なので、避けようと思えば避けられる問題ではあります。まずは少しでも被害者を減らすための取り組みを、メーカー、販売店が連携して積極的に行って欲しいものです。また、これからプレイされるプレイヤーの方も、必ずバックアップなどを取ってからプレイされることをおすすめします。


P.S.
カプコンのページで、この件に関して注意を促す記載が設けられています。
CAPCOM:モンスターハンターポータブル 3rd HD Ver. 公式サイト
ただ、結局は上でもあげたソニーの手順紹介へ飛ぶだけですね。現時点で即できることとしてはこれが精一杯なのかもしれませんが、上記の問題が解決されるわけではありません。覆水盆に返らずとはいいますが、今後もリマスターの展開も考え、ソニーもそれを利用するメーカーも、もう一度フールプルーフを意識した仕様見直し、もしくは専用ツールorメニューの導入を検討した方がよいのでは、と思います。