Apple、ジョブズ自らFlash非採用のコメントを発表

iPhoneiPad等で好調ながら、Flashからの変換禁止やネット通販の制限などの剛腕で批判も大きいApple。そのFlashの件について、スティーブ・ジョブズ自らがコメントを発表しています。

公式のものはこちらになります。

Thoughts on Flash

和訳や要約は以下のところで行われています。

ジョブズからの手紙:Flash について
なぜ iPhone に Flash が搭載されないのか(Appleの弁) - てっく煮ブログ

長々と述べられていますが、具体的な大項目に絞ると以下のような感じでしょうか。

  1. オープンでない。
  2. Flash無しでもほぼ"フルWeb"は実現可能
  3. セキュリティとパフォーマンスがいまいち
  4. バッテリーの持ちが悪くなる
  5. タッチ操作に最適化されていない
  6. ロスプラットホーム前提だと機能が最小化されてしまう

全体的に、1〜5で「現在Flashができてないこと」を揚げ足的に理由としながら、結局は最後の「クロスプラットホームに機能を縛られたくない」というところを言っている感じです。

オープン性については、Flashも現状オープン化を目指しているところ。開発環境もオープンにしてきていますし、GoogleChromeFlashが標準搭載される動きも出ています。Flash無くてもフルWebと言っていますが、現状はそうでもありません。他のクレームが「現在Flashが出来ていない事」を理由としているのに、ここは未来的展望も込みで話しているのはちょっとずるい感じです。セキュリティとパフォーマンスの件は、モバイル向け最適化を大々的に打ち出して対応しているところ。その対応がしきりに延期されているのは事実ですが、長期的な目線でFlashを切る理由としてはどうかな、という気もします。タッチ操作に最適化されていないと言う点も、別にiPhone向けにFlashで作る際はマウスオーバーを使わなければいい話。PC版のFlashを見ればそうかもしれませんが、コンバート等を全否定する理由としては弱いと思いますね。

Flash拒否を明確化した影響

上記のような点は、当然Adobeも分かっているわけで即座に反論コメントを出しています。

「Flashの方こそクローズドだ」――AppleのジョブズCEOが反論 - ITmedia News

とはいえ、明確にジョブズFlashを蹴る意志をはっきりしたことは、影響力は大きいとは思います。モバイル環境で圧倒的な普及率を見せるiPhoneiPad、この両方で今後もFlashは見えないわけです。そう考えれば、モバイル向けコンテンツを提供しているサイト側は、少なくともFlashを抜きにしたHP製作を考えざるを得ないでしょう。また、これまでPCからだけのアクセスを想定していたサイトも、iPadの影響でこちらからのアクセスも増えてきます。消費者がFlashが見えなくてもiPhoneiPadを選択してしまう以上、サービス提供側もFlash以外での展開を考えざるを得ないでしょう。HTML5に対応しても現状まだ互換性が十分でなくこれはこれで問題なので、コンテンツ制作側は頭を悩ませることになりそうです。

Appleの将来的展開への影響も懸念

今回のAppleの試作は、世の中がサービスやソフト中心で周りはじめようとしている中、力づくでハード依存、プラットホーム依存の旧態然とした世界に止めようとする施策のように思えます。Appleがハードも売っている以上、ハード部分での差別化を効果的に打ち出すのは、たしかに重要なことでしょうしね。

ただ、あまりに強引なやり口は敵を作ります。以前にも、iPhone向けFacebook公式アプリを開発していたメインプログラマが、Appleの姿勢に頭に来て開発を降りてしまった経緯もあります。

Appleの横暴に抗議してFacebookのiPhone向けメインデベロッパがプロジェクトを放棄

現状、Appleが強みとしている多数のソフトも、ほとんどがApple以外が作ったものです。Appleだけでできることは限られていますし、実際Appleで開発している人がみなスーパープログラマーということでもないでしょう。ゲームの世界では、任天堂が強い影響力とシェアを誇っていますが、同様に任天堂だけではソフトの開発、インフラの整備に限界があり、セカンドを使ったりサードを勧誘したりとしたことを必要としています。Flashを排除することで、たしかにFlash開発者達を強引にObjectiveC開発者に転向させることもできるかもしれません。現状大きな市場である以上、そうせざるを得ないでしょう。ただ、そこで生まれた軋轢が、果たしてこの先どうなるか。ずっとiPhoneが王者であり続けるのであればいいですが、何かちょっとつまづいた際に、ガタガタと崩れる危険もあるように思います。特に、基本的にエンターテイメント分野で受けており、「ビジネス上無くてはならないもの」という固定需要があるわけでもありませんからね。任天堂と同様、「常に新しい驚きを提供する」と言うことができないと、飽きて別の娯楽に移ってしまう、ということもありえますので。

MSが、Windowsの支配力を背景に各種強引な施策を進めていた頃、数多くの敵を作り今もその印象は引きずられています。Appleは昔から多数の信者を抱え、今も魅力的商品で信者を増やしていますが、一方でこうした施策は強い反発も生んでいます。第2のMSにならなければいいんですけどね。