「PSの父」SCE名誉会長・久夛良木氏、角川HD社外取締役に就任

任天堂ファミコン以来圧倒的存在感を誇っていた中、その状況を覆してPS1・PS2と大成功に導き、天下を取ったSCE。その最大の功労者として、強烈な個性とビジョナリーとしてのカリスマを誇った久夛良木健氏の存在があります。

個人的には「ゲームはトリガーに過ぎない」といった発言やハッタリ気味の発言などから、正直あまり好きな人物ではありませんが、任天堂の岩田氏が出てくるまでは彼ほど強くビジョンを語れた人物はいなかったと思いますね。PS3も、ネットでの協調コンピューティングなど、とがった部分では世界一の性能を発揮するなど、テクノロジー的には非常に面白いハードになっていると思います。

ただ、「ゲームの次のエンターテイメント」を目指したそのビジョンのために、肝心のゲーム部分で任天堂やMSに世界的に足元を救われている感はあり、結果的にPS3の伸びが計画通り進まなかった責任をとる形でSCE社長を退き、会長となった後もすぐに名誉会長となって実質的にSCEの経営から退くことになっていました。

一時代の終焉〜SCE久夛良木健氏退陣 - わぱのつれづれ日記

その後、具体的に久夛良木氏の活躍が聞こえてくることはなかったのですが、今回意外なところで次の久夛良木氏の活動の場が明らかになったようです。

久夛良木氏が角川HDの社外取締役

今回明らかになった久夛良木氏の活動の場は「角川グループホールディングス社外取締役」。

角川グループホールディングス、社外取締役に久多良木SCE名誉会長 - NIKKEI NET

これはちょっとびっくりしましたね。久夛良木氏は技術者的側面が強い方だと思っていたので、てっきりテクノロジー関連のベンチャーなどを立ち上げるか、大学などの教授とかになるとか、そっち系での活動を想定したのですが、まさか出版関連の社外取締役になるとは思いませんでしたね。

もっとも、社外取締役が経営にどこまで影響を及ぼすのかは分からないですけどね。ただ、久夛良木氏はかなりバイタリティのある方なので、就任した以上は何らかのアクションはとってくると思いますけど。

グループ傘下のファミ通・電撃に与える影響は?

気になるのは、角川グループにはファミ通を発行している「エンターブレイン」、電撃を発行している「アスキー・メディアワークス」の双方が含まれていると言うこと。

角川グループホールディングス - Wikipedia
角川書店 - Wikipedia

ゲーム雑誌としては一応別に毎日のニンドリがあったりはしますが、ファミ通と電撃と言えばゲーム雑誌の両巨頭と言ってもいい存在。この二つの属するグループトップに、特定のゲームプラットホームの関係者が就任すると言うのは、あまり好ましいことではないように思うんですけどね。

電撃プレイステーションなんかは元々専門誌なのでいいですが、ファミ通の場合一応総合誌。元よりPSびいきな報道は多かったのですが、今回久夛良木氏が社外取締役に就任してしまったことで、よりいっそう周りから「PSよりの総合誌」という目で見られそうな気がしますね。らきすた騒動のときも、角川に直接皮肉言われたことで後の紙面での対応が非常に低姿勢になっていましたし、今後はより紙面での記事や浜村氏の発言も、上を配慮したものになってしまうかもしれません。

PS2「らき☆すた」についてファミ通が誤報 〜 公式サイトで直接つっこみ - わぱのつれづれ日記

浜村氏なんかは、結構PS3について「値段を下げるべき」などとコメントしていたのですが、今度からはそうした発言も気軽に出来なくなるかもしれませんね。

長期的な「ゲーム業界の発展」に向けた報道ができるか

ただでさえ正負の両面を語るメディアが少ない日本のゲーム業界ですが、今後はさらに毒のない、ゲームカタログ的報道ばかりになってしまうとすると、厳しい目にさらされた中での作品のブラッシュアップというものが少なくなってしまうのではないかと言う危惧もあります。もっとも、最近はネットも普及したことで、さまざまな人のレビューは見えますし、最終的には売上と言う形で市場が評価を下すとは思うのですが、発売日にゲームを買うような人は、どうしてもマスコミ評価に頼らざるを得ないところもありますからね。

雑誌の提灯レビュー・好評価で初動勝負を繰り広げるだけでは、だんだんと消費者が失望をきたしてゲームを卒業してしまいます。PS2時代ですでにその傾向は見られていたのではないでしょうか?DSやWiiで新しい層が入って来てはいますが、こうした人たちに同様の戦略をとって完成度の低い作品を売りつけたとしたら、PS2時以上に早く客は逃げてしまうように感じます。

できれば、ゲームマスコミの方々は、自社の広告でのビジネスの短期的視点だけでなく、この先何十年とゲーム業界で食っていくために、業界全体が成長し、盛り上がる方向に報道を行って欲しいところです。ファミ通と電撃の記者の方も、今回の久夛良木氏の就任はあまり気にせず、ゲーム業界を伸ばすというポリシーに基づいて記事を書いてもらえるとありがたいですね。