文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞作「メタルギアソリッド4」、その受賞理由が公開

年末商戦に突入し、先週はWiiに週販3倍差をつけられる形となったPS3。期待のGT5Pは初日5万本の発売(参考:忍之閻魔帳)と、ネットでの評判の割には売れている印象ながらもキラーというまでの売上にはなっておらず、なかなか厳しい戦いが続いています。

本来年末商戦の目玉だったはずのソフトといえば、メタルギアソリッド4。しかし、早々に2008年冬に延期され、その後さらに2008年第一四半期にまで延期されてしまい、PS3の弾不足の一因にもなっている印象があります。

そんな発売延期を重ねたMGS4ですが、先日発売前にもかかわらず文化庁メディア芸術祭のエンターテイメント部門において優秀賞を受賞してしまい、ネットで大きな議論を呼びました。

メタルギアソリッド4、発売前に文化庁メディア芸術祭で優秀賞受賞 - わぱのつれづれ日記
スラッシュドット ジャパン | "発売前"の「MGS4」が文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞

上記の時点では、詳細な贈賞理由が公開されておらず、一体どうやって皆が納得できるような理由説明がされるのかと興味を持たれていましたが、先日贈賞理由が公開された模様です。

抽象的な贈賞理由

今回公開された贈賞理由は以下の通りです。

贈賞理由
ビデオゲームの進化のひとつの方向に、キネマティックな表現の追及がある。現在発表されている作品の中で、その最前線に立っているのが、この『METAL GEAR SOLID』である。ハードの進歩を越えて、映像表現の深化を追及し続ける小島氏入魂の作品である。一方でMSX以来の『METAL GEAR SOLID』シリーズとしての遊びの追求も怠りない。リアル3Dのゲームは殺伐とした雰囲気の物が多いなか、ゲームとしての遊び心を忘れないのも小島氏の作品の特徴である。大賞となっても遜色のない大作。
2007年 文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門 優秀賞 METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS | 文化庁メディア芸術プラザ

抽象的な表現が多く、どちらかというと贈賞理由と言うよりは作品紹介のような印象。結局未発売作品に賞を与えてしまった件については一切触れられていない感じですね。
評価のポイントとしては「キネマティックな表現の代表」という点でしょうか?ゲーム的なところとしては「遊び心を忘れてない」というぐらい?たしかに、この程度の理由で賞を与えるなら、東京ゲームショウの体験版レベルでも大丈夫そうですね。特に深くゲームをプレイしなくても評価できそうですし。

これに対する、小島氏のコメントも結構形式的です。

受賞コメント
文化庁メディア芸術祭発足の翌年、『METAL GEAR SOLID』(MGS) が優秀賞を受賞。あれから10年、『MGS4』が再び受賞したことに大きな喜びと運命のようなものを感じます。"潜入諜報アクション"というジャンルを築いた第1作から、2007年で20周年を迎え、シリーズ完結編となる『MGS4』では、すべての謎が解き明かされます。いつの日か、ゲームも芸術といわれるようこれからもがんばります。

完成作が募集要項にある賞でありながら、予告的な表現な入っているのが若干違和感を感じますね。募集したのはおそらく小島監督ではなく、コナミ側が箔をつける意図だと思うのですが、結果的になんとも微妙な感じになってしまったということでしょうか。

あいまいだった「完成」に対しての認識

今回の文化庁メディア芸術祭、これは文化庁側で勝手に作品を選定して贈賞する形式ではなく、グッドデザイン賞のように募集をかけて応募されたもののみ評価する形式を取っていました。その募集要項には、以下のような記載があります。

平成18年10月21日から平成19年10月5日までの間に完成または、完成作品として発表された作品が対象です。

第11回 文化庁メディア芸術祭 作品募集

この「完成または、完成作品として発表された作品」という表記をどうとらえるかが問題となっていた形ですね。2chで実際に文化庁でメールにより問い合わせたという人の話によると「応募されたものが審査出来る状態のものであるならば完成している作品として審査を実施」とのこと。つまり、基本的に応募側に完成の判断はまかせるということですね。

今回応募したのはコナミ側な訳なので、コナミ自身がこの応募作品を「完成作」扱いで応募し、文化庁はそれを信用しただけということ。発売前に応募しちゃうコナミコナミですが、それについて何も疑問を抱かず「大賞となっても遜色のない大作」とコメントしてしまう文化庁側も文化庁側。なんか、どっちもどっちな感じがします。

今回公開されたMGS4の贈賞理由を見ても曖昧ですし、もやっとした感覚は残ります。「エンターテイメント部門」としての評価なので、厳密にゲームとして完成されている必要も無いのかもしれませんが、審査委員に水口氏や河津氏といった著名ゲームクリエーターがいるのにこうした判断というのは、逆にこの人達の「完成作品の基準」がそんなものなのか、という感じにもなります。

今回公開された贈賞理由に関する文化庁メディア芸術祭のブログエントリでは、以下のような文章が書かれていました。

文化庁メディア芸術祭では、「なぜその作品が選ばれてたのか?」「ジャンルごとの傾向はどうであったのか?」についても公開しています。このことは評価基準を明らかにするとともに、賞としての積み重ねのためにも非常に重要なことであると考えています。
第11回文化庁メディア芸術祭特設ブログ: 「第11回文化庁メディア芸術祭」なぜその作品が選ばれたのか?

ただ、残念ながら今回の贈賞理由発表では、上記に書かれている「賞としての積み重ね」の手助けにはならなかったのではないでしょうか?せめてネットでどういった議論が起きていて、それに対してどういった説明が求められているのかをふまえた対応をすべきだったと思います。実際にメールで問い合わせた人がいるようなのに、こうした形式的な理由発表にとどまったことは非常に残念ですね。

業界側の自己満足で終わらないものに期待

今回の件は、うやむやなままこれで終わりとなるのでしょうが、こうしたゲームに対する賞の贈呈は今後も続きます。ちょうどファミ通でも「ファミ通アワード2007」の投票も始められています。

ファミ通AWARDS(アワード) 2007 開催!! / ファミ通.com

昨年は「リアレンジ賞」やら「マルチプレイアクション賞」など明らかに後付の賞タイトルばかりで失笑をかった本賞ですが、こうして一般からの投票も受け付けているわけですから、具体的にどういった得票が集まり、最終的にどういった評価を何に基づいて行ったのかを明確にして頂きたいですね。

ゲームの社会的地位を高めるという目標もあるはずのタイトルな訳ですから、単なる業界の身内盛り上がり・販売時の箔付け用に見えないような、オープンな贈賞に期待したいところです。