モンスターハンター3 Wiiで発売 〜 PS3版は開発中止へ

東京ゲームショウに参加せず、個別に各社マスコミやゲーム会社の重役を招いて開催された、任天堂カンファレンス2007。WiiFitを中心として、サプライズ発表も期待されたカンファレンスでしたが、実際かなりインパクトある発表がなされたようです。

ITmedia +D Games:「Wii Fit」など今冬期待のタイトル発売日発表――隠し球もあります
任天堂カンファレンス2007.秋、開催! / ファミ通.com

この中でまずは、特にゲーマーに対して大きなインパクトを与えた「モンスターハンター3」のWiiでの発売の件から触れていきたいと思います。

Wiiモンスターハンター正式続編登場、PS3版は開発中止に

発表されたのは、実は岩田社長の講演の一番最後のようですね。これは、ゲーマガの速報ブログから見て取ることが出来ます。

ゲーマガblog: 任天堂カンファレンス2007秋・実況

10/10 14:28、これがWiiモンスターハンター3が発売された日時のようです。そして、講演は14:30に終わっていますので、まさに最後のサプライズ発表だったというわけです。これは、さぞ会場もざわめいたでしょうし、実際ネットでも即時祭り状態になっていましたね。

それというのも、元々モンスターハンター3は、PS3での発売が予定されていたタイトルだったからです。ただ、その割にはFF13MGS4などと違ってタイトルロゴのみで、画面などは一切発表されておらず、本当に開発されているのかどうかは疑問視されていたところはあります。

カプコン、「モンスターハンター」シリーズ最新作はPS3で。「モンスターハンター3 (仮称)」オンライン機能を活用

とはいえ、元々PS2でヒットしたタイトルで、現在PSPを支える看板タイトル。今やPSの顔とも言えるシリーズなわけで、あってもDMC4やバイオ5と同様、Xbox360のマルチぐらいかと思われていた訳ですが、なんと発売はWii。しかも、驚くべきことに、PS3版のモンスターハンター3は開発中止になるということで、要するに完全にWiiへと移籍してしまった感じなんですよね。

カプコン:「モンスターハンター3」Wiiへ“移籍” PS3版は開発中止(まんたんウェブ) - 毎日jp(毎日新聞)

マルチ展開ではなく、完全にWiiオンリータイトルとなる形で、これは相当インパクトのある出来事のように思います。HDでの発売でなくSDのWiiでの発売というのは、やはりミリオン出しているポータブル版への移植も考慮に入れた戦略なんでしょうかね?

バイオハザードシリーズを思い起こさせる「裏切り劇」

カプコンが主力シリーズをライバルハードに移籍」という事案を見ると、どうしても思い出すのが「バイオハザード」シリーズでの騒動です。このときは、まずPSシリーズで育ったバイオハザードについて、実質バイオハザード3にあたる「コードベロニカ」をドリームキャストに発売。しかし、結局その後「完全版」ということでPS2でも発売されることになりました。

その後もバイオハザードはPSワールドでの落ち着きを見せず、今度は任天堂ハードに完全移籍する動きを見せます。バイオ4をGCで発売し、1も完全リメイク、0も新作として作成し、残りのシリーズも移植という形で全てGCで発売しています。しかし、結局のところGCでは販売本数は伸びず、GC自体もPS2に完敗を喫する形となって、バイオ4はハード性能の劣るPS2へ逆移植されるという羽目に陥りました。この辺の流れは、Wikipediaの以下のページにおける「供給媒体に関する経緯」の項を見てもらうとよく分かると思います。

バイオハザードシリーズ - Wikipedia

この件は、PSでのバイオファン、そしてバイオに期待して受け入れたGCファンの双方を激怒させた出来事だったように思います。PSでのバイオファンからしてみれば、自分たちが支えていたゲームなのに、自分の持っているハード以外で新作を出すというのですから、そりゃむかつきますよね。それでも、熱心なバイオファンの中にはバイオのためだけにGCを買った人もいるでしょう。それなのに、最終的には公約を破棄してPS2に出戻り状態ですからね。それは無理があるというものです。この辺の怒りについては、以下のコラムがよく心情が現れているように思います。

GAMERS EDEN ほみやのひとりごと ちょっと最近ゴーマンなんじゃないの?

そして、GCのユーザにしても、バイオ4の件は苦い思い出でしょう。PS2と比べて劣勢だったGCの、強力なキラーとしてGCファンの期待を集めたバイオシリーズ。実際、バイオ4はその期待を裏切らない名作だったわけですが、その後は結局GCハードの不調に併せて、死人にむち打つ形でPS2に戻っていった訳ですから。期待させられた分、再度の裏切りで見捨てられた形になったときの無念は相当なものだったと思います。

今回のモンスターハンター3の移籍は、このケースによく似ているですよね。SCE据置から任天堂据置への移籍ですからね。ただし、バイオ4がNo.1ハードからNo.2ハードへの移籍という形だったのに対して、今度は苦境に立たされているPS3からNo.1ハードWiiへの移籍。つまり、こっちはGCからPS2に出戻りしたときのシチュエーションとかぶるわけです。過去にバイオ4でPS2ファンとGCファンの双方が被った裏切り劇を、まとめた形で今回PS3ファンは食らったわけで、そりゃ腹が立つでしょうね。特にMH3のためにPS3を購入したようなファンにしてみれば、本当にシャレにならない状態なんじゃないでしょうか。

こうした行為を平気で繰り返しちゃうところが、カプコンの社風なんですかねぇ。なんか、ゲーム業界の呂布って感じです。

モンハンを猛プッシュしていたファミ通の今後の立場は?

さて、このモンスターハンター3の移籍騒動で、注目なのはファミ通ですね。ファミ通はこれまで過剰なまでにモンハンをプッシュし、最近では特別インタビュー連載をするなど、第2のポケモンを自らの力で育てるような意気込みで取り上げていました。その中には、広告主などの関係でPS陣営びいきなファミ通の立ち位置もおそらく影響していたように思います。

その中での、突然のモンスターハンター3移籍。これは、どうやらファミ通側にも寝耳に水だったようで、その動揺が報道の流れからも見て取れます。

まず第一報は以下の記事。

【画像追加】シリーズ最新作『モンスターハンター3(トライ)』がWii向けに発売決定! / ファミ通.com

こちらでは、カプコンのプレスリリースを引用し、「PS3版の動向は不明」とマルチ展開を匂わせる内容となっていました。しかし、実際にはこの記事が出たときと同じくしてジーパラでは広報に追加取材してPS3版開発停止について報じていました。

みんなで痩せろ!『Wii Fit』発売日決定『MH3』はWiiで!/ゲーム情報ポータル:ジーパラドットコム

このあたり、事前に情報を聞いていなかったことが分かりますよね。そして、その後ファミ通でもPS3開発停止の報道が出ましたが、そのタイトルも以下のように非常に未練たっぷりな書き方になっています。

『モンスターハンター3(トライ)』続報!プレイステーション3版は…… / ファミ通.com

というか、肝心の「開発停止」という事項を「…」で濁し、記事タイトルだけでは意味不明な見出しにするのは、ニュース記事としてはいかがなものか、と思うんですけどね。

また、「でもそれが、プレイステーション3なんだよね」という久夛良木氏の名台詞を世に示したことでも有名なファミ通副編集長・大塚角満氏のブログでも、なんとも歯に物が挟まったようなエントリが公開されています。

『モンスターハンター3(トライ)』、Wiiに登場! そして…… - 大塚角満の ゲームを“読む!”

はっきりとした不満は一言も書いていない当たりは流石だとは思いますが、なんとも微妙なニュアンスは感じられますよね。

個人的に興味があるのは、このモンスターハンター3ファミ通のプッシュの仕方。モンハン宣伝の第一番手としては名実共にファミ通が一番だったわけですが、これまではお得意先であるPS陣営での発売でした。しかし、今回のモンハン3は任天堂陣営。これまでのように猛プッシュすると、任天堂陣営の後押しをすることになります。

果たして、ファミ通SCEとの関係を選ぶのか、カプコンとの関係を選ぶのか。ここでモンハン3へのプッシュが少なくなれば、ファミ通はモンハンを純粋にゲームの楽しさとして押していたというより、PS陣営を引っ張る看板タイトルとしてヨイショしていたことになります。一方、モンハン3もこれまでのように猛プッシュするのなら、ファミ通はファーストの陣営ではなく、純粋にサードのソフト、ファミ通が面白いと思うソフトをプッシュしているということになります。果たして、どっちの姿勢を見せてくれるのか、楽しみですね。

Wiiユーザの受けは?新規顧客獲得は?

一方、実際にWiiに発売するとなって、どの程度Wiiユーザに受け入れられるか、ですね。正直、現状のWiiユーザーでは、あまりモンハンユーザーはいないのではないでしょうか?ただ、モンハンでは剣の操作が右アナログスティックを使った直感的操作だったり、肉を焼いたりするなど、Wiiリモコンが生かせそうなところは多いですし、パーティゲームや中身の薄い連発でうんざりしていたWiiユーザは、このモンハン3に飛びつく可能性はありますよね。

また、PS3自体まだ100万台を越えた程度ですし、これまでのモンハンユーザーにはまだPS2PSPにとどまっている人も多いでしょう。そうした人が、これを機にWiiを購入するという可能性も考えられます。Wiiはそうしたゲーマー層への訴求力がかなり弱点ですので、それを埋める意味としてはこのモンハン3の移籍という手段は結構効果的だったでしょうね。

一方で、ゲーマーの中には、Wiiリモコンでの操作に強い拒否感を持っている人がいるのも事実です。中にはWiiリモコンに触れたことが無いのに拒む人もいますし、プレイしてもドラゴンクエストソードだけでWiiリモコンの全てを判断しているような人もいます。そうした人からすれば、Wiiでモンハン本編が出るということ自体が許し難い行為でしょう。モンハンの続版はより高画質の壮大な世界の中で楽しめると、楽しみに待っていたファンも多いでしょうし、そうした人の反発は間違いなく発生するでしょう。

そうしたネガティブな印象に負けず、新規Wiiユーザーを獲得できるのか、これは実際にどの程度モンハン3を魅力的に仕立てられるかにかかっている気がしますね。「これならばWiiにした意味がある」という作品に仕上げられれば、現時点で拒否感を持っているユーザーも引き込めるかもしれませんので。

PS3に与える影響

次はPS3に与える影響について。これは、PS3を支える3大独占タイトル、FF13MGS4MH3の一つが崩れたわけで、かなり衝撃は大きいでしょうね。特にモンハンポータブルは最近のPS陣営でもっとも好調なタイトルだったわけですし。特に、先日のPS2互換を切り捨てた新型の発売で、純粋にPS3ソフトでの魅力のみで勝負することが必要となった矢先に、その核となるソフトに逃げられた形なのは、なんとも印象が悪いです。

あとは、モンハン3以外でも展開されるであるPS3版モンハンを確実に、しかも早く出してもらうよう交渉することでしょうね。「Wiiで出るのはナンバリングタイトルだけど実質外伝」と思わせるほどのタイトルをPS3で出せれば、多少今回の衝撃を和らげることもできるでしょうから。

まとめ 〜 「劇薬」の投入の効果は?

以上、いろいろと見てきましたが、任天堂は苦手ジャンルの補充に、なんとも劇薬を放り込んだ形ですね。もちろん、任天堂主導ではなく、純粋にカプコン首脳陣が判断したのかもしれませんが、結果的には豪快な裏切り劇を生むことになったわけで、一部のユーザーには大きなしこりを残した形です。

しかし、今回のネットでの反応を見ていても、「続編」「ナンバリングタイトル」というものの持つ重みをまじまじと見せられた感じがします。PS2時代はあまりに続編に頼りすぎてブランド自体が死んでしまったタイトルもあるように思うのですが、なんだかんだ言ってユーザーが面白さを想像しやすいという安心感を、続編は生んでくれるのでしょうね。

有名タイトルの続編ナンバリングを持ってきて「開発中」と煽る方法は、まさにPS陣営がよく行っていた方法でもあります。任天堂的に今回のカンファレンスではスマブラXは年末商戦を逃すというデメリットも公表してしまった訳で、はたしてこのモンハン3の開発発表だけでどの程度の影響を及ぼすのか。年末年始のゲーマーの動向に注目ですね。


P.S.
任天堂カンファレンスの講演を以下のサイトで見ることができます。
任天堂カンファレンス2007.秋 - IR Webcasting

モンハン3の映像は41:40から。稲船氏のコメントも併せて出ていますね。Wii実機での映像と言うことです。そのうち綺麗なバージョンが公開されるとは思いますが。