後藤弘茂氏『Wiiの死角』について語る

インプレスの名物ライターである後藤弘茂氏。非常にマニアックでディープな会話を繰り広げる方で、ゲーム関係もCell関係で何度か取り上げており、先日のWiiFitに関する記事も以下のエントリで取り上げました。

わぱのつれづれ日記 - 後藤弘茂氏 『WiiFit』について語る

その後藤氏、なにやらノリノリな感じで今日も2件の記事をアップ。そのうち一つは『Wiiの死角』を取り上げた、なかなか刺激的なタイトルになっていますね。

Wiiの死角はソフトウェア開発リソース - 後藤弘茂のWeekly海外ニュース

若干説得力に欠ける論理展開

ただ、内容としてはいつものハード関係で書かれる記事に比べると、若干抽象的な話が多い感じです。妙に「推測についての強調表現」が多いんですよね。例えば以下のような感じ。

Wii改革の重要な要であるWiiチャンネルの充実のペースが、どう見ても遅いからだ。」
「今のWiiチャンネルのラインナップは、充実しているとはとても言えない。」
任天堂自身も、Wiiチャンネルの仕掛けをもっと充実させる必要を感じているに違いない。」
任天堂の中ではゲーム、チャンネル、開発サポートで、開発リソースをどうアロケートするかで、かなり苦しんでいると推定される。」

これは、自分もやりがちではあるのですが、推測にすぎないことに説得力を持たせようとするとよく起こる事象ですよね。悪く言ってしまえば「詭弁のガイドライン」に相当しそうな表現なわけです。大学生が論文とか書く際、「こうした書き方をしてはいけない」とよく教授などに怒られるような事項ですよね。ハード、とくに半導体関係にはめっぽう強い後藤氏でも、システム関係やソフト関係の話ではこういった表現を使ってしまうということなんでしょうか。

Wiiにおける任天堂の開発の遅れについて

とはいえ、確かに自分も度々発言していますが、任天堂の「ゲーム以外」の部分の開発力はちょっとライバル会社に劣る感じはしますね。WiiのDVD搭載機能見送り、Wi-Fi開発キットの遅れ、インターネットチャンネル開発の遅れ、DSのワンセグチューナーの遅れなど、とかく「テクノロジー」関連のものでは遅れが目立つ感じです。

まあ、その分野の専門家ではないので当たり前と言えば当たり前ではあるのですが。任天堂の場合、基本的にゲーム以外の技術は外部の優秀な企業と組んでやるのが一般的ですしね。自社での高度な開発はあまりノウハウがないのかもしれません。とはいっても、サテラビューとかランドネットとか、実サービス化した経験はあるとは思うんですけどね。

そうなると、後藤氏が推測するように純粋に人手が足りないという可能性もあります。特にWiiチャンネルなどは、任天堂HPのインタビューを見ていてもどうぶつの森開発チームなどがかなりチャンネル開発にも携わっています。また、新人など若手が開発の中心なのも結構ありますよね。実際、任天堂時価総額ソニー全体を追い越すような状態ながら、社員数は圧倒的に少なかったりしますからね。

「自社で開発・提供すること」の意義

ただ、後藤氏の言う「開発リソースの少なさ」を責める向きは、一方では賛成できない面もあります。というのも、「全部社内でやってしまう」という話は、昨今ではあまり流行らないからです。たしかに、ソニーマイクロソフトのような会社では自社で多数の技術を持っているだけに、なんでも自分でやりがちで、それが差別化にもつながっていました。ただ、最近のデジタル機器関連では、とにかく関連する技術が盛りだくさん。いくらソニーマイクロソフトでも、自社だけで全ての技術を世界トップクラスでそろえるのは相当困難なわけです。実際、PS3Xbox360でもGPUなどいろいろな点で他社の手を借りていますからね。自社が技術を持っているからといってただそれを使うだけでなく、よりいいものが早く手にはいるのであれば、他社から提供を受けるということも間違っていないと思うわけです。

とは言っても、やはりロンチ時期は独力で頑張らないといけないところがあるのも確かでしょう。ライバル社に漏らしたくないような内容なんかは、迂闊に他の会社と共同で開発していると情報が漏洩する心配もありますしね。また、社員の方が何かと苦しい開発でも融通を利かせ安いというところもあるでしょうし。WiiもWiiSportsで大成功しているものの、次の可能性がなかなか見せられていませんしね。期待されていたWiiFitも、リモコンを活用するのではなく、新たなデバイスを追加するというもので、Wiiリモコンのさらなる活用を期待していた自分はちょっと残念に思ったものですし。エレビッツやバイオ4Wiiなど、サードが可能性を見せてくれる例はありますけど、もう少し任天堂にも気合いの入ったリモコンの使い方を見せて欲しいところです。

少ないメモリ容量と世代交代について

後藤氏の後半の記事は、本領発揮というかんじのハードよりの記事ですね。こちらは非常にうんちくばっちりの具体的な話になっています。まあ、とはいってもネタ自体は「いまさらメモリ容量が少ない+直づけの話?」という感じではありますが。そして最終的に後藤氏は「Wiiの製品サイクルは短い」と判断しています。まあ、これは自分も同意するところはありますね。

ただ後藤氏が「もちろん、Wii戦略がこのまま成功すればの話」としていますが、これは自分はむしろ逆じゃないかと思います。Wii戦略がうまくいってしまったら、PS2のときと同様、いくら性能が低いままでも世代交代は遅くなるでしょう。DSが大成功して携帯機のグラフィック性能が当分発展しないのが目に見えてるのと同様、Wiiが圧倒的な支配力を持つほど市場で存在感を持ってしまえば、あえて代替わりさせる必要もないですからね。

後藤氏の発想は、やはり「技術が先にありき」の論調のように感じます。「技術が急速に発達するから必然的に短期間で代替わりする」という理屈は、たしかに技術ベースでの話ならそうですが、「サービス」ベースだとそうでも無いように思うんですよね。特に、昨今はいくら技術が進歩しても、その前までの技術との差が一般消費者に感じづらくなってきています。そうした状態では、いくら基本性能・技術が発展したからと言って、それを導入しただけでは消費者は驚いてくれないんですよね。PS3Xbox360がはまっている落とし穴がまさにそれです。

最終的な「サービス」がものをいう時代

これは、別にゲーム機に限ったことではないでしょう。他のデジタル製品でもそうです。生活必需品ならともかく、娯楽物はやはり、消費者にとってそれを購入することで得られるメリットを、明確に伝えられる商品でないとダメなんですよね。いくらハード技術がすぐれていても、それが消費者にとっての斬新さ、インパクトにつながらない技術では意味が無いわけですし。

この辺のセンスが優れているのが、Apple任天堂ですよね。単なる技術の差だけでインパクトがないなら、あとは見せ方で勝負するしか無いわけです。そうした意味で現在は「インタフェースの革新」がメイントピックな訳ですが、これもある程度標準操作が固まってくれば、目新しさはなくなります。そうしたときに、さらに斬新な面白さを提供できる会社が、これからのデジタル娯楽製品の販売における勝者になっていくと思います。それは果たして、どの企業なんでしょうね。