GDC2007 ゼルダ青沼氏講演

連日充実した内容の講演が繰り広げられるGDC2007。大きな注目を集めた宮本茂氏につづいて、ゼルダ関連で有名な青沼英二氏の講演があり、その内容が報道されています。

任天堂青沼氏、「ゼルダ」の内なるパラダイムシフトを語る
ITmedia +D Games:人は痛い思いが身に染みなくては、本質に近づけない――「ゼルダ」シリーズの青沼英二氏講演リポート (1/3)

苦労人の青沼氏

青沼氏は、自分もWii体験会で見かけ、サインもいただいたことがあり、非常に人のいい方だという印象をうけましたね(Wii体験会in東京会場レポート)。その分、開発では上司に宮本氏を持っているだけに相当苦労していることは、方々のインタビューでうかがい知ることができます。最近では以下のインタビューが一番詳しいですかね。(自分はトワプリが序盤で止まっているので中は読んでませんが。)

ニンドリドットコム〜青沼英二さんロングインタビュー〜

今回のGDC2007のエピソードも、これまでいかに試行錯誤してきたかが伝わってくる内容ですね。スケジュールの問題、今までと違う面白さの提供など、過去の「ゼルダ」と現実との板挟みで苦労しているのが分かります。E3後の操作変更なども、青沼氏が開発者側からの視点を述べたところで、宮本氏がプレーヤー側からの視点でやりこめるという構図が、なかなか興味深いところです。普通は責任のある立場の人ほど、納期などを意識して仕事するような気もするのですが、その辺は宮本氏というところですかね。自身の講演でも「プレーヤーの顔をイメージすること」を強調されていましたが、そうした姿勢をトップレベルの判断を下す人が持っているから、任天堂のゲームのクオリティが保たれているのかもしれませんね。

「従来ゲーム」での苦戦について

あと、この講演でちょくちょく目にとまるのが、任天堂上層部が、日本でのゼルダ不振についてかなり意識していること。ある意味、日本でゼルダが世界ほど爆発的ヒットを記録しない状況を、任天堂はかなり問題視していて、DSやWiiなどのアプローチが生み出されていったようにも思えます。

Wiiでも、ゼルダの初週が14万程度、FEが9万程度ということで、その当時アンチ任天堂の人たちが「任天堂ハードはまともなゲームが売れない!」とあおり立てていましたが、別にこれは任天堂ハード起因の問題では無いんですよね。日本国内ではゲームオタクの人口が減ってきており、PS3Xbox360は悲惨な状態、王者のPS2ですら初動のみ10〜20万売って後急速に失速など、固定客層向けビジネスがかなり破綻の様相を見せていたわけです。ですので、こうした従来のゲーマー向けゲームが大ヒットしない状況の打破は、特定のプラットホームだけでなく、全てのゲームメーカーが取り組まなければならない課題だと言えるでしょう。

逆に任天堂は、ゼルダとかの苦戦を見ていたからこそ、DSやWiiという大きな舵取りをし、新規顧客の獲得に成功しているとも言えます。他のプラットホームは、なまじゲーマーを多く取り込んで同じフォーマットでの競争を繰り返していたために、いざ方針変換仕様としてもうまくいっていない印象がありますね。下手すると、続編連発や変わらないゲーム性などで、従来の顧客層すら「ゲームの卒業」ということで手放してしまっている感じもします。従来のゲームでメーカー側が今後も発展していきたいのならば、越えなければならない課題は非常に多くあるのだと思います。

ゼルダを通じたシンプルさ・斬新さの追求へ

そんな中で、ある意味青沼氏は任天堂の中でも「従来のゲームの枠組みで新しい人にも受け入れてもらう」ということを強く意識している人物のように思います。まあ、ゼルダチームのトップとしてWiiSportsみたいなアプローチは取れないというところもあるでしょうけどね。特に岩田社長や宮本氏が大きく一般向けに舵を切る中、ある意味逆風の中で頑張っていたんじゃないかと思います。

そんなゼルダチームが取り組む次なるアプローチが、DS版のゼルダ「Phantom of Hourglass」。

この講演でもいくつか紹介されていますが、かなりいろいろなアイデアが詰め込まれているようです。これについては、以下のレポートが詳しいです。

「GDC 2007 Expo」Part.2 Nintendo of Americaブースで最新タイトルを体験

対戦モードなんかは、かなり独特なゲーム性みたいですね。これはこれで斬新な感じもします。トワプリでも青沼氏は奥さんに興味を持たせられたようなのですから、ゲーム自体は従来のフォーマットでも、やりようによっては一般層へ訴求することも可能ではあるでしょう。

DS版ゼルダの正式な発売日はまだですが、コンセプト自体はトワプリよりも前に固まっていたと言うことですから、結構投入のタイミングを見計らっている時期なのかもしれません。まだトワプリが発売されて間もないだけに、もうちょっと後になりそうな予感はします。ただ、すでに対戦プレイのプレイアブルなどは出展されていたようなので、日本でも何らかのイベントでさわれるといいですね。

ライトもコアも含めた発展をめざして

なまじゼルダはコアなゲームファンを抱えている作品なだけに、新しい要素をあれこれ入れると、どうしても過去のユーザのバッシングはきつくなります。この辺のさじ加減は難しいところがあるでしょう。新規顧客拡大と比べると優先度は落ちるとはいえ、コアなゲーマーは数自体は減少しているものの年間ゲーム購入数は多く、未だ固定客層としてビジネス上重要な位置にいるとは思います。そうしたファンを怒らせることなく、むしろ驚かせるような革新を見せてくれるとおもしろいですね。

保守的な日本人ゲーマー群の食わず嫌いをいかにして克服するか、なかなか難しい課題だとは思いますが、任天堂にはそちら方面も是非頑張って頂きたいと思います。