PS3における「PS2互換性」の重要性と展望について

「互換性はPSの文化」と公言されていながら、発売日当日になって互換性の問題を公表し、マスコミも含めて一騒動となってしまったPS3(参考:発売日に公表されたPS3の互換性問題)。これに関連して「音が聞こえない程度なら問題ない人もいる」、「寝ずの作業をしてきた」などと余計のコメントを広報がしてしまい、これまた問題になったりもしました(参考:PS3の互換性に対するSCE広報のコメント)。

この互換性についてですが、欧州版ではさらに低下するとの情報が入ってきました。

欧州版PS3は後方互換性の低いローコスト版 - Engadget Japanese

発売時期をずらされた上、互換性も下がるとあって欧州のゲーマーからは大ブーイングを食らっているようですが、個人的にはある意味妥当な判断だと思っています。以下、PS2互換性についてコスト面とユーザー面から見て分析してみたいと思います。

コスト対メリットのバランスの悪いPS2互換性

PS2のときは、PS1との互換性実現用のチップはIO関係などに使っていたようですし、コントローラやメモリカードの互換性があるだけでなく、テクスチャ補完機能などを使ってPS1よりも高画質でゲームを楽しむことをできました。自分も、PS1は持っていなかったので、PS2を買った後でドラクエ7FF9をプレイしたものです。

それに対して、PS3では振動機能が無し、コントローラ互換無し、メモリカードは別途アダプタ必要で書き戻し不可と、根本的な思想からしPS2との互換性がとれていないところがあります。これだけ基本設計で捨てていながら、わざわざソフト互換性を高めるためにPS2の基幹チップGS+EEを搭載していたのは、正直アンバランスな感じがしたんですよね。ただでさえWiiXbox360との競争のために戦略的な価格設定をし、赤字ハードな状態で、中途半端なPS2互換性を得るためだけに高価なチップをのせることは、コスト対メリットがSCE的にはかなり低い状態だと思ったわけです。実際、久夛良木氏は以下のような発言していたわけですし。

ただし,「すぐに取り去る」(久多良木氏)といい,比較的短期間でエミュレータによる互換性確保に全面的に移行する意欲を示した。

初代PS3には,Cellに加えてPS2向けに開発したEEとGSが載っていることが明らかに | 日経 xTECH(クロステック)

今回の欧州版が、果たして本当にGS+EEを取ったものなのか、それにどの程度互換性が低下するのかは分かりません。ただ、PS2本体の売り上げが未だ好調で、PS3がまだコスト高要因を多く抱えている現状では、PS2の互換性よりもコスト関連を考えた方がいいというのは、理にかなった判断だとは思いますね。

それに、Engadgetさんのところに書いてあるように「PS2との後方互換性に注力するよりも、今後当社のリソースはPS3限定の新しいゲームやエンタテインメント機能に集中してゆくことになります」というのも、SCE側の限られたリソースをどこに振り分けるかを考えた場合、PS3ならではの魅力を高めることに使うのか、PS2ソフトを遊べることに使えるのか、どちらかに振り分けろと言われたら前者であることも、これまた理にはかなっている考えだと思います。

それ以外にも、ソフトでのPS2互換性の実現は、高解像度化などのメリットが生まれる可能性もあります。すでに鉄拳5などはPS3レンダリングだけ高解像度にして実現できているわけで、ソフトによる個別対応であれば、こうした高解像度化を通常のPS2ソフトでも可能になるかもしれません。ディスク読み込みの高速化などの効果もあるようですし、こうした「PS2よりも優れた部分」が増えてくれば、それを魅力に感じてPS3を購入するという動機も新たに生まれるかもしれないわけですから。最初はどうしても互換性は低くなると思いますが、長期的にSCEがやる気を持って対応ソフトを増やせば、ユーザにもメリットがあるわけです。

過去の発言・行動が足を引っ張る展開

とまあ、ここまでは基本的に、SCE側の視点から見た考えです。こっちはこっちで理にかなってはいると自分でも思ってはいるのですが、問題はSCE側(というか主に久夛良木氏)が過去にしてきた発言・行動ですよね。この辺を知っていると、消費者側としてはいろいろ納得がいかない点があるとは思います。

例えば久夛良木氏の以下の発言。

久夛良木氏】 ハードウェアとソフトウェアのコンビネーションで取る。(ソフトウェアだけで)やろうと思えばどうにでもなるが、どれだけ完璧に近い互換性に追い込むかが大事。

(中略)

久夛良木氏】 Xboxは、新世代が今年の11月に来ると、現行のXboxは旧世代になる。そうすると、Xboxは自分で自分を殺してしまうことになる。それを救う唯一の方法は100%の互換性を初日から取ること。でも(Microsoftは)それをコミットできないだろう、技術的にも苦しい。

後藤弘茂のWeekly海外ニュース

今にして見れば、アーキテクチャーが変われば互換性を取ることが難しいことは、久夛良木氏もよく分かっていたことが見て取れる発言なのですが、その一方で「何とかなる」と思いこんでいた節も見受けられる発言ですよね。当時この発言を見た人の中に、「PS3ではXbox360と違って互換性は万全!」と思った人がいても無理はないでしょう。


また、日本と米国の初期型PS3にGS+EEを積んでしまったのも、長い目で見るとそもそもこれ自体がマイナスだったのかもしれません。ソフトでの互換性維持が十分行え、GS+EEを積んでいるときとほぼ同等の互換性が維持できるのであればともかく、もし今後大幅に低下してしまうようだと、「初期型からスペックダウンした」ととらえられかねないわけです。特に、欧州では初期型が出ていないわけですから、それについてなんか損した気になるユーザーの気持ちは分からないでもありません。

それに、ソフトで互換性を取るとした場合も、SCEヨーロッパの「互換性より他にリソースを注ぐ」という発言がある以上、どの程度長期的に互換性が向上していくのか、心配なところもあるでしょう。世の中、苦境の中全方向にわたって充実したサービスをできるほど甘いものではないでしょうし、PS3への移行が進めばPS2との互換性自体がそこまで重要でなくなるとも言えますので。


正直、久夛良木氏の強気の発言が無く、最初からPS3PS2との互換性をソフトのみの一部対応と、Xbox360同様のアプローチを取っていたのなら、さほど問題なかったと思うんですよね。PS2はかなりのユーザがすでに持っているわけですし。PS3PS2の代替として買えるほど安くなっていれば話は別かもしれませんが、現状では60GB版が薄型PS2の4倍ぐらいの価格する訳ですし。

結局、PS2でPS1との互換性を維持して成功した過去の体験と、その時の王者の誇りから発した発言・行動に縛られて、負の連鎖に陥ってしまっている感じです。本来は、そうした根本的なところでのズレは発売前に何とかしなければならなかったんでしょうが、次世代DVD戦争などの影響もあってか、そのあたりの練り直しまで含めてごたごたしたまま販売を決行した結果、そのつじつま合わせをかなり苦労して行っている印象を受けます。

理論的なコストカットか、消費者の感情・印象重視か

個人的な考えとしては、すでに多くの人がPS2を持っているわけですし、PS3PS2の互換性を重視する必要性よりも、コストダウンやサービスの充実に掛けた方がPS3としての魅力は高まると思っています。コストを考えた経営判断なら、早期のソフトエミュ移行は有りな戦略だと思います。互換性を高めたとしてもそれは過去の補完にすぎず、PS3の魅力が大幅に高まる、というものではないと思いますので。

ただ、PS2ユーザの中には、PS1からPS2のときのように、PS3を買ったらPS2はしまってしまうor売るなどしてしまいたいユーザも大勢いることでしょう。PS2でPS1ソフトを遊んでいたような人は当然のようにPS3PS2との互換性を期待するわけですし、SCEの「互換性を重視する」という発言を信じている人もいるでしょう。「PS2がそのまま遊べる」というのも安心感につながるわけです。一部マスコミじゃPS2互換性問題を「不具合」扱いされちゃうぐらいで、そうした感情的な反応とも、SCEは向かい合っていかなければならないわけです。

結局のところ、こうした互換性を重視するユーザに、こうしたコスト削減の方向性をどう納得してもらい、PS3を買ってもらうかがSCEの大きなミッションであると言えるでしょう。そのためには、とにかく「PS3ならでは」の魅力をどんどん高め、アピールしていくしかないと思いますね。PS2ソフトに頼らずともPS3そのものが魅力的であれば、そこまで互換性は問題にされないでしょうし。どうしてもPS2をやりたい人は、PS2本体でやるわけですから。


今回は欧州版に限った話で、そもそもGS+EEがはずされるかどうかもはっきりしない話ですが、日本や米国でも将来的には、こうしたソフトエミュ化の話が出てくることでしょう。その移行時期などは全くもって未定ですが、やはり今よりも互換性が落ちてしまうようなことがあると、一騒動起きそうな印象はありますね。PSはいつでも初期型に変な意味でのメリットがあることがありましたが、PS3でも同様にその文化が継承されてしまうのかもしれませんね。

マイナス要因をつぶすのか、それともプラス要因をのばすのか。なかなか厳しい判断だと思いますが、こうした苦境の中自ら人柱覚悟で協力してくれるサードはそれほどいないでしょう。ファーストであるSCEがどうやってこの苦難を克服していくのか、はたまたどれだけサードを取り込んで行動していけるのか、その手腕に注目したいと思います。


P.S.
詳細が各種マスコミでも報道されましたね。

SCEE、欧州版PS3でPS2ソフトの互換性低下の可能性を示唆。“EE”をソフトウェア処理。日本版の仕様変更は未定
SCE,欧州版のプレイステーション 3からEE+GSを外す - デジタル家電 - Tech-On!

結局、EE+GSをはずすことは確かなものの、代わりにGSについては特別に設計した新チップをのせるとのこと。つまり、EE部分だけが外された形ですね。グラフィックの部分はハード依存性が高かったり、帯域などの問題でソフトエミュレートが難しいところがあるのかもしれませんね。このため、コメント欄でも指摘頂いたとおり、高解像度化などのメリットは特になく、互換性はそこそこ維持できる、という感じで落ち着きそうです。
互換性については発売日当日にファームアップし、互換性も公表するとしていますが、互換性を購買の判断基準にしている人からしてみたら、買ってから分かっても遅く、かといって発売当初は品薄が予想されるわけで並んだりして買うとなると互換性を確認する暇はありません。こうした点で日本で相当批難を受けたにもかかわらず、海外でも同じ事を繰り返すつもりでしょうか?発売日当日まで寝ずに頑張る、ということなのかもしれませんが。