『PS3 国内生産出荷100万台達成』プレスリリースについての分析

発売から年末商戦にかけ供給が需要に追いつかず、逆に最近はすっかり供給が需要を上回ってしまって在庫があふれているPS3。販売台数もWiiの半分という報道が出ていたPS3ですが、このほどSCEよりPS3の国内『生産出荷』台数についてプレスリリースがありました。

PlayStation.com(Japan) | お知らせ | 「プレイステーション 3」日本国内生産出荷累計100万台達成

…なんだかなぁ。最近、SIXAXISエミー賞受賞の件で『ただしソースはソニー』という名文句が生まれたばかりだというのに、よく厚顔無恥でこういうことができますね。むしろここまで徹底していると感心してしまうところもあります。
そもそも、プレスリリースのページのつくりからしてひどい。タイトルバーの表示が『PlayStation.com(Japan) | お知らせ | PSP?「プレイステーション・ポータブルシャンパンゴールド』になってます(1/16現在)。こんなところで誤植しているところからしてプレスリリースとしてはダメダメなのですが、その内容もまたすごいですね。

以下、様々な問題をはらむプレスリリース内の各数値について詳しく見ていきたいと思います。

国内でも販売台数との開きの大きい 『国内生産出荷台数100万台』

数字は毎度おなじみの「生産出荷」。小売りに販売すらしておらず、実質生産数と変わらない数字です。農家とソニーしか使わないと言われ、さんざんネットなどでも批難を受けているのにかかわらず、一向にやめる気配がありませんね。

この生産出荷台数について、各種マスコミでも報道されています。
SCEJ、「プレイステーション 3」日本国内出荷累計100万台を突破 - GAME Watch
プレイステーション3の出荷台数が日本国内で100万台に到達 / ファミ通.com
PS3:国内出荷数100万台突破 世界累計でPS2上回るペース (まんたんウェブ)

ものの見事に、タイトルでは生産出荷が出荷に見事に置き換わっていますね。そりゃ、普通に記事タイトルとして使うときに、ソニー独自用語の生産出荷なんてあまり使わないでしょうしね。SCE自体、こうした変換が起こることを当然想定して『生産出荷』という言葉を使っているのでしょう。


そして生産出荷台数にしても、この「100万台」という数字もなかなか豪快です。現在の日本でのPS3の販売台数は、メディアクリエイト発表の週間セールスを1/7までの分集計したもので約53万。ここ数週間は約7〜8万台の販売数で推移していたことを考えると現時点では大体60万台強、多く見積もっても70万台程度でしょう。その差30万台以上と、相当な開きになります。

もし本当にこれだけものが余っているのだとすれば、ヨドバシなどで山積みされていたのも分かるような気がしますね。しかし、本当に小売りに30万台も出荷していたら、あれだけの大きさのPS3では倉庫の圧迫量が相当なものになりそうな気がしますが。


また、『2ヶ月で全世界で200万台はSCEプラットホームで過去最速』といううたい文句も、すごい表現というか、ものは言いようですよね。だって、PS1もPS2も、日本先行発売で2ヶ月時点では日本のみの販売だったわけですから。PS2なんて、発売週で70万、PS.comの予約も含めて約90万台とか自慢していたのに、今回は北米と日本併せて2ヶ月でこの数値。よく『過去最速』とか言えたものです。何か、据置完全勝者であるPS2の過去の栄光にさえ泥を塗っている印象がします。

桁違いな在庫量をアピールする 『全世界ソフト生産出荷数500万本』

さらにすごいのが、ソフトの生産出荷量。日米通算で500万本も生産出荷されたそうです。本体生産出荷量の、実に2.5倍です。日本では、先日忍さんの記事で、以下のようなコメントがありました。

発売元のSCEはと言うと、流通関係者向けに
「昨年度の年末商戦は一昨年の実績を上回った」
PS3タイレシオは1.2まで回復している」など
今ひとつ説得力に欠ける発表をして関係者を苦笑させていたらしい。
PSPの発売以降、現場の実感とメーカー発表の溝は深まる一方だ。
PS2「幽遊白書 死闘!暗黒武術会 120%」前作比1/10の急降下、他|忍之閻魔帳

今回のSCE発表のソフト生産出荷数は12月末の時点のもの。この時点の日本での販売台数はエンターブレイン発表で約46万台ほどです。
昨年末までの国内販売、Wii98万台に対しPS3は46万台=出版社 | テクノロジー | Reuters.co.jp

タイレシオが1.2だとすると、ソフトの販売数は約55万本。全世界ソフト生産出荷数のわずか1割程度です。北米で日本より2倍以上ソフトが売れているとしても、足して200万本に届かないのではないでしょうか?実際、Videogame ChartsというサイトでPS3の北米販売数を検索すると95万本ですし、いくら何でもここから100万本単位でぶれがあるとは考えづらいです。
North American Totals PS3 - Videogame Charts


それなのに、SCE発表の昨年末時点での生産出荷数は500万本。本当だとすれば一体、どんだけ作りだめしているんだ?という感じですね。そりゃ、ソフトはあまりかさばらないので、倉庫にためておいたとしても本体ほどの圧迫はないでしょうが、300万本もソフトを倉庫に入れておいてどうするんでしょうね?逆に、自分たちの生産管理能力のなさを露呈する結果になるのではないでしょうか?

実売ベースでアピールする『登録アカウント数 日米合計50万人』

また、登録アカウント数の数字も注目です。プレスリリースでは日米合計50万人もアカウント登録をしていることを誇らしげに書いていますが、生産出荷数からすると、25%程度。推定実売台数を150万台程度としても、約1/3。この割合は、果たしてそこまで自慢できるものなのでしょうか?50万という絶対数が純粋にすごいというイメージなんですかね。そもそも、実売数が分からなければネット接続率の実態は分からないのに、ネット接続数の絶対数だけ出してもあまり意味内容に思います。本体台数は生産出荷ベース、登録アカウント数は実売ベースなわけで、何か1つのプレスリリースの中でひどくバランスの悪い発表をしているイメージがします。

GTHDダウンロード数が30万というのも、割合にしてみれば登録数の約6割。無料であり、かつPS3の目玉ソフトであるGTHDなら、ネット接続している人はとりあえずほとんど落とすのかなと思っていましたので、自分から見るとこの6割という数字も少なく見えてしまいますね。無料の看板タイトルさえこれでは、有料ソフトのダウンロード販売はますます厳しい印象を与えてしまいます。ダウンロードサイズが大きいことなどが問題になっているんですかね?


(P.S.当初「ネット接続率の低さ」と記述していましたが、実売数が分からず、ゲーム機としてみれば一概に低いとも言えないので、表現を一部修正しました。)

いい加減SCEは実態を反映した発表をすべき

以上、個々の数字が1つ1つ引っかかる、なんともすごいプレスリリースです。上記の自分の分析自体、所詮ネットなどの情報を元にした分析に過ぎないわけですけど、こうした邪推をされたくないのであれば、ちゃんと信頼のおける第3者機関を用い、生産出荷などという実態のよく分からない数字でなく販売数を発表すればいい訳です。正直に見せると都合が悪いデータにしかならないのなら、発表しなければいいだけのこと。それなのに、わざわざこうした消費者が感じている実態とかけ離れた数字を発表するのは、やはり情報操作・印象操作しようとしているようにしか見えません。

むしろこうした「生産数」に関する数字と販売数との剥離から、流通関係者にそのだぶつき具合を危惧させることすらありえます。実際、自分がよく紹介している「ゲームの裏話」さんのブログでは以下のような皮肉混じりの分析が出ているわけですので。

何故こんな発表をしたのかはわかりませんが、
我先に売りぬきたい問屋が明日から特価にするやもしれませんね。
プレイステーション3生産出荷累計100万台達成|ゲームの裏話

ブログレベルだけでなく、最近PS3に厳しいasahi.comでも以下のように在庫過剰に触れています。

asahi.com:プレステ3、半月遅れで目標100万台 店舗在庫ジワリ-ビジネス


日本を代表する有名メーカーなのですから、こうした見え透いた見栄を張るのではなく、誠実な姿勢を常に見せてくれることを切に願います。ネットが広まった現在、必要なのは見栄ではなく誠実さだと思いますので。販売に苦戦しているなら苦戦しているで、見栄を張る以外の方策で頑張って頂きたいものです。