競馬業界とゲーム業界の比較

今日は年に一度の競馬の祭典、有馬記念。競馬を始めて以降、毎年参加しているので今年も行って参りました。去年はディープインパクト三冠馬となった直後だっただけにすごい人でしたが、今年もそれには負けるもののディープインパクトの引退レースと言うことですごい人でした。

個人的には、ディープの凱旋門賞まではかなり注目してみていたものの、あまりにJRAがディープべったりな様子、それに凱旋門賞でのゴタゴタでちょっと冷めてしまった感じです。そのため、メインのレースもディープからはダイワメジャーに少し流した程度で、あとはダイワメジャーデルタブルースなどからワイドでいろいろ遊んでみました。

結果的にはディープの見事なまでの圧勝。2着のポップロックが非常に余計でしたw。このあたりは、さすがはペリエという感じですかね。

引退式も非常に多くのファンが残っており、なかなか感動的でした。

似たような展開をしている競馬業界とゲーム業界

ところで、最近のJRAの馬券展開とディープへの入れ込みようを見ていて、ゲーム業界とも通じたところもあるな、と思って少し考察してみたいと思います。

競馬業界は一時は完全にマニアのものであり、社会的イメージが悪いというところがありました。しかし、オグリキャップなどのスター馬登場から一気にライトユーザが増加し、JRAもワイド馬券導入やPOPなCMなどを展開してライト路線を推進。一定の成果を収めたのですが、その後は馬が主体のためJRAの思惑通りにはスター馬はなかなか現れず、最近は徐々に下火になっていました。
その状態で、あるレベルでJRAも割り切りをはかり、これまでずっとコアなファンに求められながらも禁じ手として封印していた「ギャンブル性の向上」に着手。3連複、3連単などの非常に難しいが倍率の大きい馬券を多数取り入れてきました。その弊害で、とにかく買い方が非常に複雑に。マークシートの種類も昔は2種類程度とシンプルだったのですが、最近のマークシートは1枚で複数の買い方ができたり、マークの仕方が独特だったりと、初心者ではちんぷんかんぷんな世界になってしまいました。要するに、ライトな層を拡大する余裕がないので、コアな層を重視したあまり、より一層ライト層離れを起こしてしまっている感じですね。


このあたりは、DS登場までのゲーム業界と非常によく似ています。ゲーム業界も、ある時期までは何もしなくても市場が広がっていたのですが、徐々に後退。PS1の頃はライト向け施策を打ってさらに新しい層を獲得したのですが、また時間がたつにつれコアなユーザしか残らない世界になってしまいました。その状態で肥大化した業界が生き残るためには、とにかく金を出してくれる「張り付いた」コア層に向け、彼らの望むものを提供せざるを得なくなったわけです。ただ、そうした路線では基本的に縮小していくばかり。ゲームだと特に社会に出たところでやめてしまったりとアクティブな期間が少なかった分、それが非常に数年で深刻になってしまい、それを危惧した任天堂がライト向け拡大戦略を打ったわけです。


競馬の場合、非常に都市を召した方まで遊ばれる分、コア層だけを相手にしていても、そこまで急激な減少は少ないでしょう。地方競馬など、もともとギリギリでやっていたところは厳しいでしょうが。JRAもおそらくそうした危惧は長年持っていたはずで、誰もが熱中できるスター馬を待ちわびていたことでしょう。ただ、馬は人間がそう簡単にコントロールできるものでもないですからね。なかなかそうしたスター馬は出てこずに手をこまねいていたわけです。そんな中、競馬史上に残るような圧倒的な強さを持つディープインパクトが表れました。その実力はまさに圧巻で、素人でも強さが分かる。まさしくスター馬中のスター馬で、JRAが待ち望んだ存在だったでしょう。


ただいかんせん、あまりにスター馬すぎて、JRAはその魅力におぼれたというか、すがりついてしまった印象もあります。どうにも競馬全体が「ディープインパクトとその他」的な扱いになってしまったんですよね。たしかに、ディープの人気はすごいですし、ライト層もかなり増えたのですが、途中からあまりにJRAのディープびいきが露骨になってしまったため、だんだんとアンチが増え始めました。あまりに一極に物事が流れると、それにあらがいたくなる人が出るのは世の常ですからね。そんな中、凱旋門賞のトラブルがあってゴタゴタ感がさらにたかまってしまった感じもします。


結果的に、有馬記念ではディープはそうした周りの喧噪をものともせず、素晴らしい歴史に残るレースをしてくれ、その偉大さをしめしてくれました。本当にお疲れ様と言いたいです。ただ、JRAとしたはこの先が大変でしょうね。ライト向けの展開に苦しんでいたときに、パット出てきたディープインパクトにあまりにおんぶにだっこになりすぎました。「ディープとその他」というアピールになってしまったために、ディープが抜けてしまうと「その他」になってしまって、ここから新たにライトにも分かりやすいイメージ展開を作り出さなければいけないわけです。すぐに次の注目馬が出てくればいいですけど、馬相手ではなかなかうまくいかないでしょうしね。ディープの強いとき、併せてもっとライト向けに強力な施策を打てていればよかったんでしょうけど、もしかすると来年からはまた1からのスタートになる可能性があります。今回獲得した新規客層を単なる「ディープファン」で終わらせず「競馬ファン」とするためには、並ならぬ努力が必要となることでしょう。

ゲーム業界も「次の一手」が非常に重要

上記のようなリスクは、ゲーム業界も抱えているでしょう。たしかにDSは今大ヒットを記録していますが、脳トレの大ヒット以降、一時期「知育ハード」と呼ばれたように、DS自体も今回のディープインパクトのように「久々に出た救世主に皆がおんぶにだっこ」という状態が起こったわけです。幸い、任天堂自身が脳トレを連発せず、それを微妙にひねって料理や常識力と方向性を広げていったことで、「脳トレだらけ」になる展開は避けられましたが、それでもちょっと気を抜くとすぐにみな人気ジャンルに集中し、レッドオーシャン化してしまうでしょう。
一方で、常に全力でゲームに情熱を注いでくれるコアユーザというのも無視できない存在ではあります。理想的には、獲得したライト層を、そうした「常連客」にして囲い込んでいけるかが、どんな商売・業界でも重要だと言えるでしょう。

ゲーム業界では、やっと再スタートを切った段階。そうした課題は今後クリアしていかなければいけないわけです。まずは任天堂自身が問題意識を持って取り組んではいますが、それだけでは手が届かないところもあるでしょう。大量に発生したライトゲーマーを引きつけ、さらにコア化できるぐらい、つねに新鮮味のある、驚きのある遊びを、サードも含めた業界全体で盛り上げていく必要があるように思います。ソフトメーカーの経営者の方には、単に目先の利益にこだわってジャンルなどを選択するのではなく、そうした業界の将来を見越したゲーム制作を進めていって頂きたいものですね。