Wiiインタビュー裏側に見る岩田社長の理念と才能

WiiPreviewの1週間前に始まり、いまだちょくちょくとWiiについての興味深い内容を発信し続けているWiiインタビュー企画。今回はチャンネル編が終わったタイミングで、番外編としてこのインタビュー記事の裏側が語られています。
社長が訊く Wii プロジェクト - 番外編

やはり「ほぼ日」だったWiiインタビュー

前に「ほぼ日風・Wii開発秘話インタビュー開始」というエントリーで予測はしていましたが、やはり多くの人がそう感じていたとおり、ほぼ日の人が関わっていました。
記事を起こしていたのは永田泰大氏。元ファミ通編集委員で、当時は「風のように永田」と名乗っていたようです。個人的には、一時期大河ドラマ新選組!」に大ハマリしていたときに毎週楽しみに読んでいた、以下の座談会の一人、という印象が強いですね。
ほぼ日刊イトイ新聞 - 『新選組!』with ほぼ日テレビガイド
文章の感じからして、おそらくこの座談会も永田氏が起こしていたんじゃないかな、と思います。糸井氏の独特な感想とか、それに対するつっこみとか、非常に生き生きと、しかしやわらく表現されているのが、いかにも「ほぼ日」っぽいんですよね。

岩田社長の卓越したプレゼンセンス

まあ、ほぼ日が関わっているということは、多くの人が予想していたことではありましたが、永田氏に文章を託した岩田社長の言葉が何ともかっこいいですね。

岩田 ただ、いちばん大きなハードルは、取材のやり取りの中から重要なエッセンスをきちんと取り出して、わかりやすく、よみやすい形の文章にするということでした。
これは、きちんと説明しておきたいので、完成原稿に残してほしいところなんですけど(笑)。
私は、スピーチや講演のときには、原稿を全部自分で書いて、プレゼン資料まで自分で作らないと気が済まないタイプなのですが、今回の一連のインタビュー企画を進めるうえで、私自身には、自分で文章を構成する時間は絶対にとれない。
でも、私を含めてインタビューを受けた人たち全員がつねにお客さんにとってわかりやすい表現で的確な順序と言葉で話し続けるということは不可能ですから、やはり一定の構成力のある人が手伝ってくれないとこの企画は成り立たないなと思ったんです。
で、最初に私の頭に浮かんだのが、ゲーム雑誌にお勤めのころからおつき合いがあっていまも「ほぼ日」でやり取りが続いている永田さんだったんです。

岩田社長、プレゼンがうまいなぁとは思っていましたが、スライドも自分で作っていたんですね。普通、社長クラスだと(というか部長クラスでも)周辺の人がスライドを作ってしまい、社長はそれを見て話すだけということがほとんどだと思うんですが、任天堂ほどの大きな会社の社長が自前でスライド作っているとは。それだけでも驚きですね。

ちなみに、岩田社長のスライドは任天堂のページでいろいろ見ることができます。
ニンテンドーDS Conference! 2005.秋
ニンテンドーDS Conference(カンファレンス)! 2006.春

特徴はグラフや絵を効果的に止め絵で見せていること、それに大きな文字でアピールしているところですね。この文字の使い方は、かなり「高橋メソッド」の影響を受けていると思われます。
高橋メソッド
高橋メソッドは文字のみでインパクトあるプレゼンを可能とするものですが、これをそのままやってしまうと、高橋メソッドを見たことがない人からみるとちょっとイロモノに見えてしまうでしょう。岩田社長は、これをうまく自然な形に落とし込んでいる感じですよね。言葉だけでなく、その見せ方、デザインにまでセンスがある社長って、日本の大きな会社じゃまずいなんじゃないかと思います。ベンチャーとかならともかく。

巧みな人材掌握術

その岩田社長にしても、さすがに多忙でインタビュー企画までは体裁を整えていられない、その中で白羽の矢が立ったのがほぼ日の永田氏だったわけですね。いわば、自らの思いの代弁者を選んだ形です。
センスのある人が、センスのある人を見抜いて採用する、広報活動にまでこんな人選を行える社長というのもすごいですよね。広報企画部長とか立場ないんじゃないでしょうかw。

それ以外のコメントもいろいろ興味深いところが多いですね。とくに、やはり『社員』というものをよく見ているな、と。社員に自ら語らせる機会を増やそう、という姿勢も、社員の実力を上げて行くには重要なことでしょうね。社員の意識をそろえていくことで、社員一人一人の力はあまり変化しなくても、社外的に発せられる力が強くなっていく、というのは、何もゲームに限ったことでなく、純粋に会社経営の上で非常に有効な手段です。これら、社員に対する打ち向けの取り組みは、以前にほぼ日で行われた社長インタビューでも多く語られていることですが、いつ聞いても岩田社長の言葉はためになりますね。
ほぼ日刊イトイ新聞 - 「社長に学べ!おとなの勉強は、終わらない。任天堂社長/岩田聡 編」

久夛良木氏とも共通する「変革し続けること」への意欲

このインタビューでは、永田氏も結構するどい質問をしています。一つは「もしトップシェアを取っていたら今回のような舵取りができたか」という質問。よくマスコミからも、今回のWiiの戦略は「負け組」だからこそ取らざる得なかったとか言われたりするのを、直接つきつけた感じですね。これについての岩田社長の返答。

岩田 そうですね…………
シェアがトップのときの舵取りの仕方は、いまとまったく同じには、ならないと思います。
ただし、まったく同じにならないだけで、危機感を持ったら、それに向けて走らないと、時間の過ぎるスピードはものすごく速いですから、のろのろしていると手遅れになるとは思うので、もしこのままいくと未来はないと感じたら、トップシェアを取っていても、相当乱暴なことを、「トップなのに、そんなことしなくても、いまを守ればいいじゃないですか」ってたくさんの人から止められようと、きっと舵を切ると思いますね。
ただ、やり方は同じではないでしょうけど。

違った方法にはなるかも知れないけど、守りには入らないとの返答。これって、実は久夛良木氏の発言にも似ているんですよね。PS3も、多くの人にPS2.5で安いのがよかったと非難されてますが、それに対して久夛良木氏は「リスクなくしてイノベーションなし」とはねつけていましたから。守りに入らず変化を求める、ということ自体は同じなんですよね。ただ、久夛良木氏と岩田氏の思い描く未来像が決定的に違っているとは思いますが。

「ゲーマーの不安」に対しての岩田社長の返答

もう一つ永田氏がした鋭い質問が、「今一人でゲームをやっている人が置いてけぼりになるんじゃないか?」という不安について。これは、自分が先日のエントリ(吉と出るか凶と出るか?!健全なイメージを目指す「Wii伝言板」)で挙げた内容ずばりですね。永田氏GJという感じです。

これについての岩田社長の返答は、以下のようなものです。全部引用すると長いので、部分的に取り上げます。

岩田 ときには、誤解も生まれているようで、そこがちょっと心配ではあるんですけどね。
任天堂は、ゲームをしない人にアプローチをしてはいますが、ゲームをする人のことを無視しているわけではなくて、ゲームをしない人がゲームを理解するようにならないと、ゲームというものの社会的な位置がよくならないだろうというふうに考えているんです。
ゲームばかりやっているとだめになるとか、脳が壊れるとかいういい加減な話まで含めて、ゲームに社会的な悪いイメージばかりが先行してしまう。
そうすると、ゲームが好きな人でさえ、遊ぶことに妙な罪悪感を感じはじめてしまう。
それはゲームをやっていなかった人がゲームをやり、ゲームのおもしろさを理解することによって、ものすごく変わる可能性があるわけです。
ゲームをやる人の社会での居心地がもっとよくなれば、ゲームらしいゲームだって、もっと作りやすくなる。
岩田 同じなんですよ。
脳の中で快感が出るポイントはほとんど同じだと思う。
ですから、「Touch! Generations」のソフトにしても、根幹の部分は、ゲーム本来のおもしろさにあるわけです。
永田 それの、間口を広げたというだけなんですね。というか、DS以降の一連の動きは、けっきょくのところ
遊びのダイナミックレンジを広げるということにつきるというか、これまでのゲームを上書きして否定するものじゃないという。

最後のは永田氏の言葉ですが、基本的に岩田社長の意志としては「間口を広げる」ということのようです。別に従来のゲーマーを否定したものではなく、それ以外の人でも触りやすくしたと。コアなゲームに対して偏見を持っている人に対して、それをなくす努力をすることで、世間的にゲームをしていても恥ずかしくない、白い目を向けられない世の中にしていて行きたいと。

たしかに、DSではこうした戦略のおかげで、公然とDSでゲームをしていると話しても周りに引かれなくなったのはいいことだと思いますね。それどころか、話のネタになることもありますし。脳トレえいご漬け、お料理ナビなどでそういった市民権を得た状態で、あとはルーンファクトリーのようなオタクっぽいゲームも一人で楽しめるわけです。これは大きな進歩ですよね。
ちょうど、マンガがうまくいっている例だと思うんですよね。子どもがたしかによく読むものではあるのですが、ちゃんと青年向け、大人向けのマンガも用意されており、とくにマンガを読むだけで白い目を向けられることはありません。そりゃオタクマンガを外で読んでいたら別ですが、ビックコミックとかそのあたりを読んでいても普通に見られるでしょうし。


Wiiでは、まず「ゲームを一般人に白い目で見られたくない」という岩田社長の思いが前面に出ているため、どうしてもゲーマー置いてけぼり感がただよっているのでしょう。特に、リモコンの楽しさも、ゲーマーでも十分実感できると信じてはいるのですが、現実にまださわれていない訳ですし、不安のネタになってしまいます。個人的には、両手持ちコントローラでなくてもヌンチャクスタイルで十分従来ゲームもプレイできると考えているのですが、そもそもマンネリゲームを好んでプレーするような人たちにはそういった考えはうかばないでしょうし。

サードとの強固な協力が必須、ユーザも広い視野を

現状は、とにかく任天堂Wiiのコンセプトである「だれからも嫌われないゲーム機」を、まず最大の敵である一般層に対抗するため必死な状態。だからこそ、任天堂ゼルダメトロイド程度でしかカバーできないコアゲーマー層に対しては、サードメーカーの強力が不可欠でしょう。ファミ通グラスホッパーの須田氏が「家族向けみたいなゲームばかりじゃだめ。俺達が違うのやらないと」といった趣旨の発言をしていましたが、まさにその通り。Wiiコントローラの可能性は、何も一般層ばかりに響くものでもないですから、是非ともサードには意欲的な、コアゲーマーも満足できる作品を作って頂きたいですね。幸い、今はDSの大ヒットで比較的任天堂とサードとがいい関係を築きつつあります。岩田社長自体、ゲームノウハウのオープン化など、サードとの連携強化に積極的ですので、サードも単に任天堂が開拓した部分を後追いするだけでなく、任天堂が苦手とする部分を積極的に開拓していってほしいものです。

あとは、ユーザ側ですね。とにかく、現状ではどこが次世代機勝つか混沌としている状態で、なかなか手を出しづらい状況でしょう。そうしたユーザでも、手軽に手を出してもらうためには、低価格ということは非常に重要な要素でしょう。高い金出してすぐ撤退とかソフトでないとかになりそうだと、どうしても冒険できませんから。それでも、ただ自分の現状の欲求と合わないものを否定し続けるだけでは、業界全体にある停滞状態から抜け出すことはないでしょう。ユーザー側も、ある程度自分の殻をやぶり、視野を広げてゲームを見つめる姿勢を持った方が、需給双方にとって幸せな展開になるように感じますね。